*第3話*日常に溶け込んだ非日常
SSL沖田も登場です。
もちろん、ソウシもいますよ・・・一応。
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いつもと少し違う朝を迎えた千鶴は、いつものごとく向いの家に住んでいる幼馴染の家の玄関で幼馴染の少年が準備を終えてやってくるのを待っているところだった。
奥の方でドタバタとしている音が玄関まで響いていた。
毎朝、同い年の幼馴染と登校することになっているためだ。
実は、”新選組”のメンバーである幼馴染は、家が近いこともあり毎朝の千鶴の護衛という役割を兼ねていた。
だが、たまーに、寝坊をしては千鶴を巻き込んでの遅刻をするのである。
その”たまーに”の方が比較的に多いのだが・・・。
そして今日は、その”たまーに”に当たってしまったようだった。
千鶴には”先に行く”という選択肢はない。
そんなことをしようものなら、まもなく”新選組”の皆からのお小言を頂戴することになるのだ。千鶴の安全を考えてのことなのだが。
皆が自分を心配してくれていることも分かっているため、勝手な行動など基本的には出来ない千鶴だった。
そんなわけで、”先に行く”という選択肢も無い千鶴にはソワソワとしながら腕時計に視線を向ける他できないのである。
そして、時間を確認しては深い溜息をつく。
腕時計の時刻は、そろそろ8時を回ろうとしている。
ここから千鶴たちの通う薄桜学園までは、普通なら歩いて30分ほどかかる。
平助一人ならもっと早く着けるかもしれないが、体力の無い千鶴は走ってもあまり時間短縮につながることはない。
頑張って短縮したとしてもせいぜい5分ほどだろう。
千鶴をソワソワさせ、深い溜息をつかせるもう一つの理由があった。
今日は運悪くも風紀委員の活動日である。
校門の前には風紀委員が待ち構えており、8時30分までに校門を通過しなければ失点を食らう破目に陥るのだ。
そのギリギリの時間といえよう--。
しかも、兄の薫が”風紀委員”なのだ。
今朝のこともあって、確実に機嫌は最悪なはずだ。
今朝の様子を思い出すと、殊更と千鶴の表情は蒼白となった。
どんな事態に陥るのか容易に想像がつくからだ。
「ねぇ、待ってないで先に行っちゃえば?僕がいるんだし、大丈夫じゃない?」
と、薫の機嫌を悪くした根源が千鶴へと声をかけた。
だが周囲には誰の姿もない---。
「しーっ。静かにしててください、ソウシさん!それに”一人”で行くなんてできません。」
制服のポケットから携帯を取り出した千鶴は、それに向かって話しているようだった。
その携帯は、少女らしいほんわかとしたイメージの淡いピンク色をしており、手触りの良さそうな茶毛のネコのストラップが揺れていた。
「”一人”じゃないでしょ。僕がいるんだし」
「他の人には”一人”にしか見えません!!」
「あはは、そうかもね~」
「笑い事じゃありません!」
「まぁ、確かに笑い事じゃないよね。・・・色々と。」
「そうですよ、ソウシさんを元・・・」
奥の方にあった騒音が玄関へとやってくることで、千鶴の言葉は途中で遮られた。
トーストを口にくわえ、後ろ髪に寝グセをつけたままの、まさに”寝坊しました”の姿でやってきたのは、千鶴の待ち人である、幼馴染の藤堂平助だった。
「ぁういぃー、いううー!!(悪いっ、千鶴!!)」
「おはよう、平助くん。急がないと!!」
「ふぉぉおお、ふぁぃんおぉー!!(おぉ、走るぞっ!!)」
平助は立ち止まることもせずに通り過ぎながら千鶴の手を握ると、千鶴を引っ張るように、だが、千鶴が転ばないように気遣いながら走り出したのだった。
「へ、平助くん、また、ゲームやってて夜更かししたんでしょう!!?」
「っっ!!いや、だってセーブがなかなか出来なくてよぉー」
「平助くん・・・?」
「わ、悪いっ!!」
二人が走りながら遅刻時恒例の会話を交わしていると、これまた遅刻時には恒例となるほど遭遇率が高くなる先輩の爽やかな声が背後からかかった。
遅刻スレスレの時間だといのに慌てた様子もなく飄々としている。
「おはよ~。千鶴ちゃん、平助」
「っっ!!お、お早うございます、沖田先輩」
沖田は、千鶴の隣へと来ると、千鶴のペースにあわせた。
平助は、首を少し後ろへと向けて視線で沖田の存在を確認すると、とっさに声がでてしまった。
「げっ、総司っっ!!」
「失礼だよね、平助。先輩に向かって”げっ”ってなにさ?」
「総司に会っちまったつーことは遅刻決定じゃん!!」
「本当に失礼だよ、平助。でもまぁ、遅刻なのはそうかもねぇ~。僕、いつもと同じ時間に出てきたし」
「ぅげーー、マジかっっ!!」
「遅刻は免れないんだしさ・・・その手、離したら?」
「ま、まだ分かんねーだろ、ギリギリ間に合うかもしれねーじゃん」
「・・・たまに、思うんだけどさ。平助、わざと遅刻しそうになってるわけ?」
「はぁああ!!?」
ある一点に視線が留まり、沖田の翡翠の瞳が細められる。
そこには、千鶴の白い滑らかな手に絡み付けられている平助の日焼けした手--
「幼馴染の特権とやらで、どさくさに紛れて千鶴ちゃんの手を握るため、とか」
「そ、そんなワケねーだろっっ・・・お、俺はっっ!!!」
「あはは、動揺しまくりだよ、平助。・・・とにかく、手を離しなよ」
「こ、怖えーよ、総司っっ!!」
「酷いなぁー。・・・僕が笑ってるうちに離しなよ?」
「それが怖えーつってんだよ!!」
「お、沖田先輩??」
「ん、なに?千鶴ちゃん」
「平助君はそんなつもりではないと思いますけど。私と平助くんは幼馴染ですし・・・」
まだ手を離さないまま走りながらも千鶴は沖田へと視線をチラリと向けると、平助を擁護するような言葉を告げた。
”幼馴染”--
本当にそれだけだと、千鶴が思っているんだろうことが伺える。
平助の態度でバレバレだというのに、幼馴染の言葉を言葉の意味そのままで受け取っているのだろう。
素直すぎる千鶴に、沖田の纏っていた冷気は消え、苦笑が刻まれるのだった。
「本当に君ってお人よしなんだから」
沖田のその様子に、千鶴は軽い既視感を覚える。
昨夜も同じ顔に同じような台詞を言われたような気がする。
いや、言われた。
しかも、纏う雰囲気まで同じときている。
自然と千鶴の視線がある場所へと注がれる。
平助とつないでる手とは反対側の手に持っている携帯へと。
いや、正確には携帯ではなく、携帯につけられているストラップ・・・ネコの縫いぐるみ部分へだ。
千鶴の隣にいた沖田の視線も千鶴の視線を追ってストラップのネコへと注がれる。
「そのストラップ、付けてくれたんだ?」
「・・・は、はい//」
「あげたのはいいけど、気に入らなかったのかなって思ってたから嬉しいよ」
「き、気にいらないなんて、そんなことありません!!その、可愛いからもったいないなぁ、って思って・・・」
実は、千鶴の携帯につけられているネコのストラップは沖田から贈られたものだった。
そして、今朝までは大事に自分の部屋の机の上に飾られていたのも事実だった。
それが何故、急に携帯につける気になったのか--
何か言いた気にしているネコのエメラルドグリーンの瞳と千鶴の飴茶の瞳が交差する。
『ふぅーん。このネコ”沖田先輩”関連だったんだ?』
『ソウシさん、静かにしててください!!』
『どうりで、このネコに引っ張られたワケだ。・・・このネコから出れなくなるほどね』
『ぅぅ・・・ごめんなさい』
『あのね、千鶴ちゃん。君が謝ることじゃないでしょ?』
『ソウシさん・・・』
『まぁ、なんとかなるんじゃない?』
実は、沖田から貰ったネコのぬいぐるみの中にソウシが憑いているのだ。
薫にもソウシが見えたことで他の人間にも見える可能性がある。
すると、ソウシが”幽霊”という存在であることが明らかになる可能性も増大するわけで。
それによって、ソウシの存在を面白可笑しく扱われたり、最悪の場合お祓いされる可能性もある。
千鶴がそうなることを恐れたのだ。
当の本人よりも千鶴がそうなることを望まなかった。
その策として、千鶴が学校に行く間だけ何か他のモノに入って傍に居ようと考えた。
そして、ソウシが入るモノにも条件があった。
千鶴の波長を感じやすいモノ。
つまりは、思い入れがあるものだ。
それが、このネコのストラップだったのだ。
だが、想定外の事態が勃発した。
確かに、ソウシ自身がネコの中に入ろうとしてはいたが、急に何かの引力に引っ張られてネコの中に入ることとなってしまった。
その上、ソウシはネコのぬいぐるみから出れなくなっていた。
今朝の出来事に思いを馳せていると、平助の大声によって現実へと引き戻された。
「あと、もう少しだぜ、千鶴!!ギリギリ間に合うかもしんねーー!!」
「あ、うん!」
走ることに集中しようとした千鶴に沖田が声をかける。
「千鶴ちゃん、そのストラップがどうかしたの?」
「いえ、なんでも・・」
「・・・そう?それ気に入ってくれたのかな?」
「はい・・・」
千鶴は曖昧な笑みでもって答える。
気に入っているのは事実なのだが、問題を抱えていることもまた事実。
校門の前で待ち構えている人物を視界に入れた千鶴は、更なる波紋を予感して小さく溜息をつくのだった。
【第3話・了】
††後書き††
やっとSSL沖田の登場です。
本当に登場だけです。
これから活躍してくれると思います。
(っていうか、してくれ)
そして、ソウシはネコ化です(笑)
次回は、またまた対決予定ですv
・・・さて誰でしょう??