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幕末の世から秘密裏に保管されてきたのは、白色と黒色の二本の糸のようなものだ―――。
その場所に立ち入れる権限を持ち、その糸のようなものが何を意味するのかを知っているのはごく僅かの者たちだけだった。
時代の権力者と、国の発展を目的とした国直属の科学機関上層部である。
だが、この時点では本当の【意味】を知っている者など皆無であり、とある【歴史上の人物】に関するものとしか伝わっていなかったのだ。――――今となっては、永い時間の中で忘れ去られた遺物の【意味】を知っているのは、国が管理する重要書物室という厳重なセキュリティに守られた部屋で眠っている書物だけだろう。

そして科学力が発展した現代。
とある【歴史上の人物】の研究を進めようとするプロジェクトが立ち上がり、科学機関に人間たちは【糸のようなもの】に目をつけた。
最初は、純粋に科学の力をもって歴史の一部を紐解こうとしたプロジェクトだったのだろう。
だが、それの意味合いは途中から大きく変わることとなった。
ある【事実】を目の当たりにしたときから。

――――歴史の【紅き闇】に眠る【残像】を創り出してしまったその時から。

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夜空の天辺では、満月が己の存在を誇るように淡く輝いているいる頃合。
普通なら、人も街も眠る時間である。
つまり、今は深夜と呼んでもいい頃合だ。
シーンと静まりかえったモール街を抜けて、細い裏道へと入り込んで行けば、眠ることを知らないかのように活動的な雰囲気を漂わせている空間が佇んでいる。
店の看板や街頭などの様々なネオンが色とりどりに光輝き、夜を生活の主な時間としている職業の人間や派手な髪色をした若者たちが行き交っている。派手な髪色、ピアス、タトゥー、その服装から見ても、いわゆる”不良”と呼ばれる人種たちだ。
その中に、一人だけ場違いとしか言いようのない少女の姿があった。
艶やか黒髪をサイドで結び、白いブラウスに薄手のカーディガンを羽織り、長めのスカートという、どこから見ても【真面目】と称される人間の格好だ。
少女自身も場違いだと分かっているのだろう、身体を硬くしてビクビクとしているのが傍目にも分かるほどだ。
だというのに、このような時間にこのように場所に居るのかといえば――――手に紙のようなものを持ちながら辺りをキョロキョロと見回している少女の様子を見れば、何かを探しているのだとすぐに分かる。
分厚い眼鏡でその目は隠されているが、瞳もキョロキョロ忙しなく動いている。

「えと、確かこの辺だったと思うんだけどな・・・・タクミちゃん、どこに居るんだろう」

周囲から向けられる奇異なものを見るような視線に心細くなってしまい、つい少女は小さく呟いた。
それでも今は【兄】とも呼べる人物に会いたくてしょうがなかった。
暗い部屋に一人で居るのが、心細くて・・・・怖くて。
夢の内容など覚えていないというのに―――。
【紅い空間】と【白い空間】の二つでしかなかった夢に飛び起きた少女は荒い呼吸を繰り返し、瞳から透明な涙が滴り落ちていた。
自分でも意味の分からない言い知れない不安が抑えきれなくて、【誰か】を求めるように辺りを見回した。
少女はその【誰か】の名を呼ぼうとしたが、その名を口にすることはなかった。
いや、その名を口にしなかったのではなく、できなかった、だ。
誰の名を口にしようとしたのか少女自身にさえも分からないのだから。
自分以外には誰も居ない部屋で、それでも【誰か】を探す様に視線を巡らせてしまう。
だが、どんなに部屋を見回しても誰も居ない。
一人暮らしなのだからそれも当然だというのに。
誰もいない部屋に早鐘のように脈打つ自分の鼓動が響き渡っているように感じて、少女の中に寂しさと恐怖だけが急速に募っていく。
その時、頭の中に浮かんだのは兄のような存在の人物で、少女はタクミを求めて衝動的に夜の街へと飛び出した。
―――――【タクミ】とは、施設で少女を本当の【妹】のように面倒を見てくれた人物だった。
そんな【兄】に里親が見つかり、離れ離れになってしまったのだが。
その日は、タクミにとってもう一人の【妹】と呼んでもいいミカと大泣きしてしまったほどだ。
少女が兄のタクミと再会したのは、今からまだ二ヶ月ほど前である。
高校入学と同時に引っ越してきたばかりで街を探索していて迷って裏路地に入り込んだときだった。
辺りはすでに暗くなっていて、まだ慣れていない街で不安を感じている少女に声をかけたのがタクミだった。
そんなわけで少女は兄の存在をを求めて、兄と最初に再会した場所にやって来ていたのである。
あれ以来、タクミの言いつけどおりこの辺りに立ち入ることのなかった少女にとっては、入り組んだ作りをした路地裏は一種の迷路のようだった。

「あれ、ココ、どこ・・・・？」

いつまでもタクミを見つけることが出来ずに焦って紙と睨めっこしながら歩いていたのがいけなかったのだろうか。
少女はいつの間にか人気のない路地裏の更に奥へと入り込んでしまったようだ。
完全に道が分からなくなってしまた少女は途方にくれて俯いてしまった。
涙が出そうになるのをグッと堪えて再び顔を上げれば、少女が迷い込んだ細い袋小路の奥に人影が見えた。

「あの―――――」

とりあえず道を聞こうとした少女は、確実に夜に活動している人種とは違う一般人だろう。
しかも、少し・・・いや、大いに警戒心が薄く純粋な人物であることがうかがえる。
普通なら一般人でさえ、こんな時間に、こんな人目の付かないところに隠れるように居る怪しい人物に声をかけようとするものはいないだろう。
いるとすれば、ある目的があってに他ならない。
例えば、その人物から【非合法なあるモノ】を買うため、とか―――――。

少女が小さな声ではあったが声をかけたことで、フードをかぶった男と、派手な髪色に染めた若い男の鋭い視線が少女へと向けられた。

「ひっっ！？」

その只ならぬ雰囲気に一気に身体が冷たくなっていくのを感じるのと同時に息を呑み込んでしまう。
男たちから目を離すこともできない少女の目に、ふと紅い色が映った。
フードを被った男の側置かれているガラス瓶に入った【紅い液体】が。
向かいにいる若い男の手にも【紅い液体】が入ったガラス瓶が握られている。

「・・・んでこんな所に女がいるんだ？・・・・まぁ、いいや、コレ試してみんのも面白しれーかもなぁ」

若い男は獲物を狙うように少女から視線を逸らすこともこともなく、卑ひた笑みを浮かべながら少女へ一歩一歩近づいてくる。
逃げなければと思うのに、少女の足は地に縫いとめられてしまったように動かない。
ジワリジワリと少女へと近づきながら、口でガラス瓶の封を開けて【紅い液体】を飲みほす。

「ぐぁっっ！！？？・・・なんっ！！？？？」
「っっ！！？？」

【紅い液体】を飲みほした瞬間、男が苦悶に顔を歪めて地面へと膝をつき、地面に転がり暴れながら苦しみの声をあげている。
少女に先ほどまでとは違う種類の恐怖が身体の底から込み上げてくる。
これから何が起ころうとしているのか少女は自分が何となく理解していた。
そして、それを何故か知っている自分にさえも恐怖する。

「ヒ、ヒャｯヒーャｯーー、血ィ、血ぃーーー！！！！」

男の苦しみの声が止んだかと思うと、すぐに狂ったような笑い声が響き渡り、細い路地の暗闇に紅い二つの狂気の光が浮かんでいる。
狂った男か取りだしたナイフの鈍い光を目にしても少女の身体が動くことはない。
ただ小刻みに震えるばかりだ。

「あ・・・・い、嫌ぁ、た、すけて、タ・・・ソウちゃぁああああんっっ！！！」

少女が助けを求めた相手は、兄と慕うタクミではなかった。
”現在”の少女にとって身に覚えがないはずの人物の名前だった―――――


＜つづく＞


★♪後書き♪★

・・・中途半端なところで＜つづく＞で申し訳ありません。
ちょっと、やってみたかったんです。。。

さて、この話は以前、短編にアップした「紅闇の残像～序章～」の続編でした。
と、いってもこれだけでも話は分かると思います。
なんか、前半は説明みたいな感じになってしまいましたし。。。
（また、指が動くままに思いつきで打つから・・・）
しかも名前がタクミしかまともに出てきてないし（汗）
いや、でも誰のことで何のことかは分かりますよね！！？
（あー、文才と話の構成力が欲しい）

では、相変わらず拙いものをお読みいただき有難うございました！！
 

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