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文久三年　師走－－

「今晩、桜が舞うよ。」

それはどうやら僕に語りかけているようだった。

日が沈み、子供たちと別れた僕は屯所に戻る途中だった。
いつもの僕なら無視するのに、何故かその言葉が気になった。

「今は師走だよ。桜の時期じゃないけど。」

視線の先には、桃色の上衣を頭からかぶっているせいで顔の隠れた男が佇んでいた。
声からして僕とそんなに変わらない若い男だろう。

「はは。まぁ、そうだよね。でも、あの娘が言ったんだ。”まるで、桜が舞っているみたいだった”って・・・」
「それがどうかしたの。見も知らない君のことなんて興味ないんだけど。」
「忠告だよ。」

男の言葉に、僕は笑顔を保ったまま殺気を込め柄に手をかける。
目の前の男も僕と同じ・・・いや、それ以上の殺気を込めている。上衣に邪魔されて男の表情までは分からないけれど。

「今夜、君は桜が舞う中、己の運命に出会うよ。」
「何それ、予言？面白いこと言うね、君。でも残念。そういう何の根拠も無いものは信じないんだよね。」
「・・・知ってるよ。でも言わずにはいられなかっただけだよ、僕が。・・・あの娘を護ることが出来るなら僕は・・・」
「何か言った？」
「後悔したくないなら、”アイツ”を殺すことを迷うな。」
「僕は殺すことに迷いを持ったことないけど。”アイツ”って誰のことを・・・・」

どういうことか問いかけようとしたときだった。
背後によく知る人間の気配を感じた。

「沖田さん！」
「はぁ、どうかしたわけ。山崎君？」

意識は男から外さないまま山崎君へと視線をやると、いつになく慌てた様子の山崎君の姿があった。

「すぐに戻ってください。前川邸に隔離している例の者たちの動きが怪しいので屯所での待機をお願いします。」
「ふぅん。でもちょっと待ってくれるかなぁ。僕、今彼と話して・・・！！」

山崎君と話している隙に急に男の気配が消えるのを感じた僕は、男が居た場所に視線を戻した。
だけど、そこにはすでに男の姿はなかった。

「彼？沖田さん誰と話していたんですか？」
「うーん、話してたはずなんだけど、ね。」
「それより、沖田さん。一刻も早く屯所へ戻ってください。」
「はいはい、分かったよ。」

そして、僕は完全に意識を切り換えて屯所へと足を向けた。

屯所へ戻ると、例の薬を飲んだ数名が勝手に巡察に出てしまったという報告が待っていた。
僕は近藤さんに報告に行くことにし、山崎君には組長達を前川邸の玄関に集めるように指示をした。
そして山崎君の返答を聞く前に、近藤さんへ・・・あとおまけで土方さんに報告へと向かった。
考えるでもなく、例の者達を連れ戻すでは済まず、処分するだろうことは分かりきっていた。

「綺麗な月ですねえ」

今晩は更に冷え込んでいるせいか月の輝きが妖しいほどに瞬いている空の下、僕はわくわくしながら『巡察』をしていた。そして、隣を歩いている土方さんに声をかける。

「僕たちのほうが当たりじゃないですか」

そんな僕に一君が呆れたように視線を寄こす。

「・・・常にも増して饒舌だな」
「こんな綺麗な夜には何か面白いことが起こるんじゃないかって思ってさ。」

－－今晩、桜が舞うよ－－

唐突に、先ほどの男の言葉が頭をよぎった。
その時だった。
僕の思考を遮るように、狂った甲高い笑い声が凍えるような宵のなかに響くソレを耳にしたのは。
自然と、口元が弧を描く。

「やっぱり当たりだ」

狂った笑い声のする方へと向かうと、すでに血まみれになった例の者たちの後ろ姿を捉える。
付近にはすでに絶命している男達の肉塊が転がっていた。
こうなっては、奴らを処分するしかない。

僕が柄に手を掛けたのと同時だっただろうか。
夜空からぱらぱらと雪が舞い始めていた。

当然、僕はそんなことには気にも留めず、奴らを斬り倒していった。
後には、怯えた表情をしながらも僕らを凝視している、男の子の恰好をした女の子が残っていた。

今思えば、その晩、僕は出会ったのだ。
己の運命と－－

何でもっと早くに気付かなかっただろう。
あの言葉の意味に。

僕の腕の中で冷たくなっていく千鶴ちゃんが最後に紡いだ言葉で、やっと僕はあの時のことを思い出し、そして理解した。

「沖田さんに初めて会った、あの晩、桜が、舞ったんです。雪が、紅く染まって、まるで桜みたい、でした・・。不謹慎・・けど、桜の中を舞って・・よで、綺麗で、沖田さんに、魅入られた・・です」

僕の瞳からは、次々と涙が溢れていく。
千鶴ちゃんの姿が、涙で歪んでしまう。

次の瞬間には、僕の腕の中には千鶴ちゃんの着物だけが残っていた。
千鶴ちゃんを抱き締めるかのように、着物を強く強く抱いた。

僕は、初めて、居るのかも分からない神様へ祈った。

ぱらぱらと、季節外れの雪が舞う－。

【終わっとけ】

‡‡後書き‡‡
わーー、何か、何か、こんなのでゴメンナサイ（＞△＜）
何でこんな話になってるんだぁーーー！！
ここまでお読みいただき有難うございました！

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