*第6話*幾夜を越えた願い
お久しぶりの「守護霊シリーズ」でございます。
お待ちいただいていた方、お待たせいたしました!!
・・・・が、今回は千鶴&ソウシはお休みです。
(す、すいませぬ・・・)
ある意味、総司編となっています~。
そして、また無駄に長くなってしまいました(汗)
いつも長すぎるかな。。。
もう少し短い方がいいのだろうか。。。(うーむ)
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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『―――さん、―――さんっ!!』
私は何度も何度も、彼の名を呼ぶ。
けれど、彼の口から私の名が紡がれることはない。
その瞳は閉じられたまま、私の姿を映すこともない。
それでも私は冷たくなっていく彼の手を握り締め続けた。
もう一度、私の名を呼んでください。
もう一度、アナタの笑顔を見せてください。
私は願い続ける。
幾つもの夜を越えて、幾百の夜を越えて、幾千幾万の夜を越えてでも。
いつの日にか、再びアナタに。
―――永い時間の中で記憶が薄れたとしても、私の心は永遠にアナタのものです。
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「どうか、私をアナタの元に置いてはいただけませんか」
シーンと静まり返った夜の山中に響く愛らしい少女の声。
空には満天の星が輝き、淡い月光が夜の闇を優しく照らしている。
少女の表情を確認するには十分な明かりだった。
懇願するような瞳に見つめられた青年は、彼にしては珍しく困惑した表情を浮かべている。
目の前に居る少女は、青年のよく知る後輩の女の子に酷似していたのだ。
―――もう一つ言うならば、その雰囲気さえもが。
つまりは、どう考えても顔だけが酷似したあの腹黒兄でないことは確かである。
艶やかな黒髪はその長さまでもが同じで、今は熱が篭って潤んでいる瞳の色さえもが同じだ。
違うといえば、服装ぐらいだろうか。
青年が見慣れた制服ではなく、目の前の少女は桃色の上衣に袴と何故か男物の着物を纏い、左腰には短刀を差していた。
「・・・・ねぇ。もしかして君さ、幽霊?」
「なんで・・・・・・?」
青年の言葉に、なんで分かったのかと、少女は驚きに瞳を見開いて青年の顔を凝視する。
「んー、なんでって言われもなぁ。・・・なんとなく?」
その言葉が青年の口からついて出たのには理由があった。
つい先ほど耳にした噂、少女の儚さを感じさせる存在感、このシチュエーションである。
こんな真夜中の山奥に少女が一人で佇んでいること事態がおかしいのだ。
もう一つは、自分が感じる意味の分からない懐かしさだった。
ここ最近、そう感じることが青年には多くなっていた。そう、学校帰りに気を失ったあの日から―――。
だが、その理由を明白に出来ないままに、この学校行事に参加することになったのだ。
青年は、少女の必死な瞳から少しだけ視線を逸らすと、今日の出来事を思い返したのだった。
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澄んだ空気、清らかな水、鳥たちのさえずり。
ある東北地方の自然に囲まれた山奥で、白いシャツに青のジャージズボン姿という同じような格好をした青年たちがいくつかのグループに分かれて何やら作業をしていた。
その場所にはアウトドア用の調理器が並んでおり、湯気が立ち上っている。
手馴れた手つきの青年や戸惑いながら作業をしている青年と様々だ。
そんな中で、ジャージの上着を腰に巻きつけた一人の青年が蛇口からザルへと冷たい水を流してジャガイモやニンジンなどの野菜を水洗いをしている。
・・・そのはずなのだが、その青年は水を流すだけで手を止めて深い溜息を吐いていた。
「はぁあー、本当に面倒だよねぇ」
「愚痴ばかり言っていないで手を動かしたらどうだ、総司」
愚痴を零している総司に、苦言を呈したのは同じグループの斎藤一だった。
その声に、緩慢な動きで振り返った総司の目に飛び込んできたのは、軽量スプーンを手にしながら真剣な眼差しで計っている斎藤だった。
「・・・・一君って本当に真面目だね」
総司のそんな言葉が耳に入らないほどに、斎藤の意識は作業台に置いた冊子と調味料へと傾いているようだ。
「・・・ふむ、醤油が大さじ・・・」
「ふぅん、野菜スープねぇ。こういうのは適当でいいんじゃないかなぁ」
冊子にチラリと目を向けた総司は、斎藤が手を伸ばした先にあった調味料を奪い取るように手に取ると、ドバドバと目の前の鍋へと適当に入れていく。
「総司っ!アンタは・・・・これでは濃すぎだ」
「濃ければ水入れて薄めればいいんだから大丈夫だよ」
「そういう問題ではない。アンタは、いつもいい加減すぎる!」
「そういう一君は慎重すぎるよね」
「「・・・・・・・」」
表情もなく総司を睨みつける斎藤と、笑顔だが目が笑っていない総司、両者の間に沈黙がおりる。
二人の間に漂う殺気のようなものに恐れをなした周囲の生徒たちは、触る神に祟りなし、とばかりにススーと後ずさりしていく。
暫く続いたその沈黙を破ったのは総司の方だった。
「・・・・っていうかさ、前にもこんなこと無かった?」
「なんのことだ」
総司の言葉に斎藤は訝しげな視線を向けるが、総司はそれを軽く流して記憶を辿ろうと思考を巡らせる。
「んーー、なんか前にも一君と料理しながら、こんな言い合いをしたことがあるような?」
「総司、寝ぼけてるのか。俺はお前と料理をしたことなど無いが」
「そうだよねぇ、僕も覚えないもん。でも、なんだろ、すっごい懐かしい気がしたんだよね、思わず斬ってもいいかなぁ、って言いたくなったぐらいに」
うんうん、と首を縦に動かす総司に対して、斎藤の目は一種の憐れみを帯びたものへと変わっていく。
「総司・・・・・」
「ちょっと、一君。何でそんな憐れそうな目で僕を見るのかな?」
そんな斎藤の視線に、総司は面白くないとばかりに顔を顰めていく。
斎藤はコホンと咳ばらいすると、何やら逡巡する素振りを見せた後に真剣な眼差しになった。
事前に山南から聞いていた情報が脳裏を過ぎったのだ。そして、ここ最近その日を境に総司の言動が多少ではあるがおかしかった事にも気づいていた。
「山南先生の所に行ってきたらどうだ。先週、帰宅途中に倒れたのだろう?」
「・・・・・そう、だね。じゃ、お昼の準備は任せたからね~~」
肩を竦めながら軽い調子でそう言うと、総司は背を向けてその場を去って行った。
だが、その軽い調子の声とは反対に総司の瞳にも真剣な色が浮かび始めていた―――
この清浄な空気に包まれた人里離れたキャンプ場へとやって来ているのは、都内にある薄桜学園の二年に在籍している生徒たちだった。
朝の7時には新幹線に乗り込み2時間半の時間を仮眠をとることで費やし、そこからバスに揺られて1時間ほどの山奥でバスを降り、さらに10分ほど歩いたところにこのキャンプ場はあった。キャンプ場に来て最初の作業が昼食の準備となっていた。
その都会っ子である年頃の男子生徒たちが、空気が美味しい綺麗な自然とはいえ携帯も通じないようなこの場所に居るのかといえば、薄桜学園・二年生徒にとっては恒例の2泊3日の”自然体験学習”のためだ。
基本的に、サボる、という選択肢は与えられていない。よっぽどの事がない限りは強制参加である。
サボうろうものなら、もれなく恐怖体験が与えられる。
一つは、この学園の”鬼教師”と呼ばれる土方のそれだけで人を殺せるのではないかという視線と怒気を向けられながらの説教。
もう一つは、保健医・山南が研究している”紅い液体”を飲むこと。(実際に飲んだ生徒はまだいないようではある)
その恐怖体験を覚悟のうえでサボろうなどという勇気ある生徒はいない。
対土方に関しては例外もいたりはするのだが・・・土方を怒らせることに喜びを見出している生徒が約1名いることは否定しないでおこう。
山南が医務室用として用意されているコテージで薬や道具の確認をしていると、コンコンと扉をノックする音の後にキィーと音をたてながら扉が開かれた。
扉が開かれるのと同時に、薄暗い部屋の中に陽の光が差し込んでくる。
「おや。どうしたんですか、沖田君」
作業の手を止めて扉のほうへと顔を向ければ、そこにはよく見知った生徒の顔があった。
「一君が、調子悪そうだから山南さんの所へ行けって言うんで、大人しく来ました」
そう言っている沖田の表情はケロリとしていて、どう見ても調子悪そうには見えない。
「・・・・早速サボリですか、沖田君」
一旦作業を中止にすることにした山南は立ち上って椅子へと腰掛けると、視線だけで総司にも座るように促した。
「あはは・・・さすが、山南さん。僕のことお見通しですね?」
総司は後ろ手で扉を閉めると、山南の視線に従って向かいの椅子へと腰を下ろした。その間も総司が山南から視線を外すことはなかった。
「えぇ、聞かなくても分かりますよ。君が斎藤君に言われたぐらいで大人しく言うことを聞くわけありませんからね。・・・・・昔から」
総司の子供の頃でも思い出したのか、クスリと笑みを漏らしながら言う山南の瞳には僅かに遠い昔を懐かむ色が浮かんでいる。・・・・その奥にある何かの感情を覆い隠すかのように。
「ひどいなぁ」
二人は世間話をするかのような軽さで会話を重ねていった。
その後も、何でもない日常の話をしながらも総司の脳裏を占めているのは疑問だった。
あの日、異様な雰囲気を纏った不良たちと対峙したところまでは総司の記憶にはあるのだが、その後がスッポリと抜け落ちていた。次に気づいたときには、千鶴と共に保健室のベットで横たわっていたのだ。
話を聞けば、体調不良で早退した二人が偶然たまたま同じ場所で倒れていたのを見つけた誰かが学校に連絡してくれた、ということらしい。
腑に落ちなかった総司は、翌日あの不良たちの学校まで見に行ったが、それらしき生徒を見つけることは出来なかった。
やはり、夢か何かだったのかとも思ったのだが、身体に残る何か嫌な感じの感触が、それを”現実”だと総司に伝えていた。―――それが何なのかまでは分からないが。
昼食の準備は山南の所でサボった総司だったが、午後のテントの準備やら夕飯の準備には一応参加して”自然体験学習”の一日目は終えようとしていた。
夜の21時をまわって就寝の時間になっが、年頃の男子がこんな早くに寝るわけもなかった。
一日目は、準備のみという非常に軽い作業しかなかったために体力が余っているのだろう。
テントの中からは話し声が漏れ出ている。
それでもテントから出ようとしないのは、鬼教師と紅い液体の効力だろう。
例に漏れず、総司や斎藤と同グループのクラスメイトも話し込んでいる。
「そういえばさ、知ってるか?ここら辺ってさ、出るらしいぜ」
「え、出るって・・・・」
「そう!!幽霊だよ、幽霊!!刀を差した少年の武士の幽霊が!!」
「俺が聞いたのは違ったぜ。共食いする化け物!!って話だけど。なんかお互いの血を啜りあってる白髪の化け物とか、なんとか」
「うわぁーー、マジかよ」
ただの噂と流していた総司だったが、ふいに軽く引っかかるものがあった。
”少年の武士”、”血を啜る”、”白髪”―――
身体がピクリと反応し、喉が焼け付くような熱さを訴え始めようとしていたときだった。
「明日に備えて寝たほうがいいと思うが」
「っっ!!」
一時間ほどは大目にみていたのだろうが、さすがに明日のことを考えると就寝についたほうが得策と考えた斎藤の言葉が同グループの生徒へと向けられた。
それと同時に総司も、その言葉にハッとしたように斎藤へと視線を向けたのだった。
喉に感じた焼け付くような熱さは消えている。
気づかれないようにコクリと息を飲み込んだ総司はテントを出て行こうと、出口へと手をかけた。
「どこに行く?」
「んー、寝る前に厠に行ってこようと思っただけだよー。すぐに戻るから大丈夫だって」
いつもの飄々とした声でそう告げると、テントを出て行ったのだった。
怪しまれないように、とりあえずトイレがある場所へと向かった総司だったが、その場所を通り過ぎて山の中へと歩を進めていく。
此処の清浄な空気を深く吸い込むと、狂いだしそうな何かが落ち着いていくような気がした。
空を仰ぎ見れば、都会では臨めないような満天の星空に白い月が輝いている。
緩やかな風が吹き、緑の香りを総司へと伝える。
『ずっと沖田さんと一緒に・・・・永遠に』
風の音が言葉のように感じた総司は、ふいに千鶴を抱きしめたい衝動に駆られた。
「・・・・千鶴ちゃん」
瞳を閉じてギュッと自分の身体を抱きこむことで、千鶴の身体の体温や息遣い・・・そのすべてを思い出すかのように。そして、愛しさを込めた声でその名を紡いだ。
暫くそうしていた総司だったが、近くによく知った気配を感じて目を開き、そちらへと振り返った。
「え・・・・ちづる、ちゃん?」
月光に照らされたその顔は、たった今まで総司が想っていた千鶴と同じものだった。
自分の想いが創り出した幻覚ではないかと、柄にもなく考えてしまうほどだ。
よく見ると、少女の格好は武士のような格好である。
・・・随分、可愛らしくはあるが。
「アナタは、私が見えるんですか?」
「・・・見える、ケド?」
少女は一瞬迷ったような顔をしたが、覚悟を決めてその願いを口にした。
「どうか、私をアナタの元に置いてはいただけませんか」
――こうして、冒頭の少女と総司の遣り取りと相成ったのである。
「あの・・・・・」
思考にふけっていた総司はハッとして、再び意識を目の前の少女へと戻す。
「・・・君の名前は?僕は、沖田総司、だよ」
「おき、た、さん?」
沖田の名前を確認するかのように、少女は沖田の名を呟く。
「そう。それで君は?」
「あ・・・・」
「どうかしたの?」
「すいません、思い出せなくて・・・・私が覚えているのは、私が生きてた頃の”最後の願い”を思い出せば成仏できるってことだけなんです。その為には誰かの守護霊にならないんですが・・・・」
その言葉で総司は理解をした。
つまり、何も覚えてはいないが、成仏をするためにもすべてを思い出したい。だから、総司の守護霊にさせてくれ、ということだろう。
ジッと総司を見つめる少女は、まるで捨てられた子猫のようでもある。
そのうえ、愛しいあの子と同じ顔で性格まで似ているとくると、無碍にもできない総司だった。
面倒ごとを背負い込むのは嫌だが、この千鶴似の幽霊に関しては放っておくことができなかった。
「・・・・チヅちゃん」
「え?」
総司がポツリと言葉にしたそれが、何を意味しているのか分からずに幽霊の少女は小首を傾げて総司を見上げる。
そんな姿までもがよく似ている。
「君の名前だよ。名前がないと不便でしょ?」
「チ・・・ヅ・・・・」
「なに、不満?」
放心したように自分が考えた名前を口にするチヅに気に入らなかったのかと、総司は子供のように拗ねて眉を顰めてしまう。
「そんなことないです、嬉しいです!!ありがとうございます、沖田さん」
それに気づいたチヅは慌てたように総司へと振り向く。
チヅの目端には涙が溜っていたが、浮かべる表情は満面の笑みだった。
その涙が嬉しさからくるものだと見る者にすぐ伝わるほどに素直で、総司も思わず柔らかな笑みを浮かべていた。
【つづく】
★★後書き★★
今回は総司&チヅ編でございました。
6話目にしてやっとこ出せました、チヅを!!
ふぉー、”自然体験学習”でチヅを出すことは決めていたのですが。。。
思わず、総司の羅刹化を先にやっちゃったんですよねぇー。(←ヲイ)
っていうか今回も説明の方が長いし(汗)
総司&チヅの活躍は次回か。。。
総司のチヅへの苛めっ子っぷりも書きたいなぁ。
えぇ、多分、第7話も総司&チヅ編になるか、と。
ソウシ&千鶴の出番は少々、お待ちくださいませ!!
”自然体験学習”から帰れば、ご対面♪になりますので。多分。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!