変わらぬ鐘の音と、――
多分、甘いはず。うん、多分。
元々は、お正月ミニSSとしてアップしようかと思って、正月に最初だけ打っておいてウッカリ忘れてました。(←アホ)
あははは、正月に実家の妹のPCで打っててHDに保存していたもんだから、忘れちゃったんだよね(汗)
だがしかし、また実家に来る用事があったんで、妹のPCで打ってアップしちゃえ!的にしちゃいます!!(←言葉がおかしいよ?今さらだけどな)
だから本当に今更感タップリな年越しSSとなります。
うん、ミニSSの予定だったけど、打ってたらいつもとあんま変わんないテキスト量になっちた★
では、残念な感じでもOKな方は「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・
月明かりだけの薄暗い部屋はシーンと静まり返っていた。
遠くから聞こえてくる鐘の音と広間の方から微かに聞こえてくる騒ぎ声が、その部屋の静かさを際立たせているのだろう。
空気が冷えているせいか夜空に浮かぶ月がくっきりとした輪郭を魅せている。
そんな月がよく見える窓際の壁に背を預けてゆったりと座り込んでいる青年の膝のうえには、顔を赤く染めたまだ幼そうな少年の頭が乗せられている。
青年は片手には猪口があり、時折口元に運んでは傾け、コクリと喉を鳴らす。
もう片方の手は顔を赤くして眠っている少年の柔らかな前髪を飽くこともなく梳いている。
少年の桜色の唇からは小さな呻きが漏れたかと思うと、眉根が寄せられ辛そうに表情だ。
「ぅんッ・・・・」
髪を梳いていた手が離れたかと思うと、少年の火照っている額がひんやりとしたもので覆われる。
少年は頭がひどく重たくてグラグラしていたが、額に感じるひんやりとした感触が気持ち良くて少しだけ頭痛が和らいでいく気がしていた。
だが、さっきまでの優しく髪を梳く指先の感触が無いことがなんだか寂しく感じて自然と閉じている目端に水滴が溜まっていく。
「父・・さま・・・」
幼い頃、熱を出して寝込んで寂しい心持になったときに少年の父が頭を撫でてくれながら傍にいてくれたことを思い出したのだろう。
「・・・は、君の父さまじゃない・・・・」
つい漏れた少年の言葉に、青年は複雑そうな表情をすると、苦笑じみた響きを滲ませながら持っていた猪口をコトリと置いて顔を少年へと近付ける。
少年の頬を柔らかで冷たい毛先が擽り、目元には柔らかで暖かい何かが触れ、そこに溢れていた水滴を吸い取るような音が小さく響く。
眠りの朦朧とした意識の中でも、目元に触れた柔らかな何かに少なからず【愛情】のようなものを感じた少年はトクンと胸を鳴らし、再び深い眠りへと落ちていった。
小窓の襖を開け放ち、壁に寄りかかりながら青年は緩慢な動きで手に持った猪口へと口をつけている。
もう片方の手は、青年の膝を枕にして眠る女性の頭へと置かれており、それが自然のことのようにゆっくりと優しく手つきで女性の髪を梳き続けている。
冷えた夜空に浮かぶ月を肴に呑むのも風情があって、それはそれで良いのだがそろそろ飽きてきたらしい青年はふと視線を落とした。
膝の上で顔を赤くして眠る愛らしい女性を暫しの間、眺めていた青年は徐に口角をあげて悪戯っぽい笑みを刻む。
手近な場所へと猪口を置き、腰を屈めて女性へと顔を近づけていく。
青年の毛先が女性の頬を擽り、青年の暖かく柔らかな唇が女性の顔のいたる場所へと触れていく。
柔らかな輪郭を描く頬、黒真珠のような綺麗な瞳を今は隠している瞼、赤くなっている額、桜色に色づく唇―――
「んん・・・・そ・・じ、さん?」
その感触に女性の目元が微かに震え、気持よさそうな声とともに呟かれたのは青年の名だ。
自分の名がその唇から紡がれたことに深い笑みが浮かぶ。
「そうだよ・・・ねぇ・・・そろそろ起きない?・・・・千鶴」
それでもまだ目を覚まさない女性・千鶴に、青年・総司は殊更に甘い響きで囁きながらも口づけを止めることはない。
「ぅんん・・・・」
「くすくす・・・・千鶴も強情だなぁ・・・まぁいいけどね・・・・早く起きないと――どうなっても知らないよ?」
耳たぶをあま噛みしながら吐息混じりに告げられた言葉に、千鶴の瞼が大きく震えてパチリと開く。
「あ、残念。起きちゃったんだ?」
「そ、総司さん!?な、な、なにを!!??・・・・痛っ!!」
甘くも不穏な空気を感じた千鶴は、総司の膝からバッと頭を離して飛び起きたが、ズキンと痛む頭に顔を僅かに歪めた。
「そんな急に起き上がるからだよ、千鶴」
「あの・・・私・・・?」
額を抑えながら記憶を辿る千鶴に、総司は苦笑を漏らすが、その声には心配そうな色が滲んでいる。
「うん?あぁ・・・水と間違えて僕のお酒を飲んじゃったんだよ。それより頭痛は大丈夫?」
「はい、一瞬痛みが走っただけでもう大丈夫です。それよりも、すいません私ったら・・・・」
「・・・千鶴らしいなぁ。自分のことよりも僕の方を気にするなんて」
申し訳なそうに目を伏せる千鶴だったが、総司はいつもどおりの千鶴にホッとしていた。
体調は大丈夫そうだと判断した総司の口から漏れたの苦笑だった。
「だって、せっかく二人だけで迎える初めての年越しだったから・・・」
ますます落ち込んだ表情をする千鶴に、総司は安心させるような笑みを浮かべて千鶴の頬を撫でる。
「大丈夫だよ、まだ明けてないから」
「本当ですか!?」
「うん。その証拠にほら・・・・」
「あ・・・・除夜の鐘」
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・
「一緒に年明けを迎えたかったのは僕も同じことだしね。だからこうやって千鶴を起こしたわけだし・・・。千鶴は随分な時間を眠ってたように感じたのかな?でも実際はそんなでもなかったんだよ」
「総司さん・・・・」
震えた声で名を呼ぶ千鶴の瞳には涙が滲んでいる。
総司は頬に触れていた手を目元に持っていき、その水滴を拭う。
「今年もよろしくね、千鶴」
「・・・・はい。私こそ、今年もよろしくお願いします。総司さんと一緒に新しい年を迎えられて嬉しいです」
「うん、僕も千鶴と迎えられて嬉しいよ・・・・これからも一緒に・・・・・・」
「はい、一緒に・・・・・」
暫くの間、見つめあった二人はどちらともなく顔を寄せると、今年初めての口づけを交わしたのだった―――。
<終わり>
★☆あとがき☆★
新年一発目の沖x千SSとなります。
いかがだったでしょ。。。
年明けから、もう何日たってんだよ、というツッコミは無しの方向でvv
なんか、おまけと合わせたらいつもと変わらないテキスト量になってしまった(苦笑)
ミニSSの予定だったのに・・・。
というわけで、↓におまけがあるのでよかったらドウゾ。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
【おまけ】
町から離れた山奥にひっそりと佇む一軒家があり、若い夫婦が二人寄り添う仲睦まじい姿があった。
妻の千鶴は、夫の総司の左肩に凭れかかっている。
新年の月を見上げながら鳴り響く鐘の音に耳を傾る二人の手はしっかりと握られている。
千鶴に酌をしてもらって並々と注がれていた猪口につけて、クイっと呑みほした総司は徐に口を開いた。
「そういえば、千鶴」
「なんですか、総司さん?」
「一つだけ訂正しといていいかな」
「・・・?何をですか?」
言葉の意味が分からず目を瞬いて首を傾げる千鶴に、総司はクスリと笑みを浮かべる。
それを話したときに千鶴がどんな表情をするのか想像するだけでも、千鶴への愛しさは募るばかりだ。
「千鶴と二人だけで迎える年越しは今回が初めてじゃないよ?」
「え?」
「――本当、千鶴は変わらないよね。今も、昔も」
「そ、総司さん!?それどういうことですか!?」
「ん?そのままの意味だけど?」
「で、でも今までは新選組の皆さんと・・・・・」
「まぁね。でもあれは一応【二人っきり】って括りになると思うんだよね~」
「もう総司さんっ!!意地悪しないで教えてください!」
「さっきから言ってるよ?千鶴は今も昔も変わらない、って」
「分からないから聞いてるんです!!」
「そっか・・・千鶴は忘れちゃったんだね」
「あ・・・ごめんなさい」
瞳を伏せてわざとらしく悲しそうな表情をする総司にも気付かずに千鶴は申し訳なさそうに俯いてしまう。
長い付き合いで総司が基本的にいじめっ子体質であることなど分かっているはずなのに、それでも簡単に騙されてしまうのは千鶴が純粋ゆえのことだろう。
「いいんだ、そうだよね・・・・・僕は剛道さんじゃないのに『父さま』なんて呼ぶくらいだしね」
「え?私が総司さんのことを?」
伏せていた瞳を千鶴へと向けると、ニっとした笑みを浮かべる。
「そうだよ。今日みたいに水と間違えて僕のお酒を飲んじゃった”千鶴ちゃん”が、ね」
その言葉に当てはまる記憶を物凄い勢いで頭の中から発掘した千鶴は、みるみるうちに顔を赤くしていく。
「あ、あれは夢・・・・」
「じゃないよ?」
総司の翡翠の瞳に映る千鶴は、目を見開いて口をパクパクと蠢かしている。
「あのときと変わらずに千鶴は可愛いよ――」
千鶴の目元に唇を寄せて今はない涙を啜るマネをする。
「――!!・・・・今、言うなんて・・・ズルイです、総司さん」
言いたいことはたくさんあるというのに、心を落ち着けるような声と穏やかな口づけにそんなことはどうでもよくなってしまう。
でもなんだか悔しくて、せめての抗議としてキッと睨みつけるような視線だけは向けてみた。
「うん、僕はずるいんだよ。そんなの千鶴だって知ってるよね?それと、もう一つ教えてあげるけど・・・・」
「な、なんですか?」
「そんな上目づかいで睨んでも、僕を煽ってるようにしか見えないよ?」
「っっ・・・!?」
総司はずっと握っていた千鶴の手を己の口元へと引き寄せると、チュッという音を立てさせながら口付けを落とした。
同時に除夜の鐘の音も止んだのだった―――。
<おまけ/終わり>