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まだ寒さに身も凍えるような時期。
そんな寒さも忘れてしまいそうなほどの熱気で包まれている場所があった。
そこには、怖いほどに真剣で血走った目をした女性で溢れかえっている。
その場所を遠い目をして眺めているのは、この場所には【不釣り合い】といってもいい男六人だ。（約一名は面白いものを見るような目をしているが）

「な、なんだ、ここは？・・・・すごい殺気を感じるが・・・・」
「あぁ・・・一くん固まってるよ。でも確かに・・・すっげぇよな、なんつーかさぁ・・・・」
「言いたいことは分かるぜ、平助。俺もこれほどまでに【戦場】だとは思わなかったぜ。女っていうのはよ、もっとこーふんわりとして、守ってやりてー！つー感じじゃねーのか！？少なくとも俺らの知ってる【女の子】はそうだよなっ！？」
「はぁ・・・新八、お前その歳になってまでなに幻想みてんだ。・・・何であれ一生懸命な女を悪く言うんじゃねーよ」
「原田先生は本気で言ってるんですか？俺は軽く・・・いや大分引きますけど・・・うちの妹とは大違いだ」
「確かにねぇ。でも、【あの娘】が特別なんじゃないかな。だって、薫の妹だなんて信じられないくらいに素直で可愛いし」
「俺に喧嘩売ってるのか、沖田・・・・」
「んー、別に。そう聞こえた？」
「「・・・・・・・・」」

にこやかに黒いものをまき散らしながら今にもまさしく【血みどろの戦場】へと化そうとしていた空気を見事にぶち壊したのは、ＫＹ、不遜な態度は通常仕様の男である。

「ふん。やはりこの俺の妻に相応しいのはアレだけだな。我が妻に敵う女などいない」
「はぁ？風間ぁ・・・・もしかしなくても、その【妻】って、俺の可愛い妹のことじゃないよな？」
「何を今さらのことを。俺の妻はあれしかいない」

｢｢｢｢｢だから、千鶴（ちゃん）（雪村）は、お前の【妻】じゃないっっ（ではないっ）！！！！｣｣｣｣｣

ごーいんぐまいうぇい・風間の１名を除いた男たちの気持ちが珍しく同調したようである。
それぞれが個性ありすぎて滅多なことでは交ざり合うことない男たちだというのに、声を揃えて思いっきり容赦なく風間の言葉を否定していた。それだけその少女がこの男たちに及ぼしている影響力は凄まじいのだろう。
まぁ、そんなわけでその後に続く想いはそれぞれ違っているのだが。
たった一つの【ソレ】を手に入れるために、男たちはこの場違いにも思える【戦場】へと赴いて来たのだから。
つまり、この場所は件の少女・千鶴に想いを寄せる男たちの【戦場】の一つにもなろうとしているということだ。

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※ここから、沖田視点になっています。

「ふぅー。やっぱ素材がいいと出来栄えもいいわねぇ」

達成感でいっぱいの姉さんは額をクイっと汗を拭う仕種をしながら満足そうな表情をしている。
そりゃ満足するよね。こんだけ僕たちで遊べばさ。
そんな姉さんとは反対に不満そうな顔をしてるのは僕以外の六人だ。
一番最初に抗議の声を上げたのは薫だった。うん、予想どおりだよ。

「沖田ぁあーー、これっはどういうことだ！？これが【木の葉は森に隠せ】作戦か！？」
「そうだよ？あれ～、薫は慣れっこでしょ？そういう格好して、いつも千鶴ちゃんに近づく害虫を追い払ってるんだから」
「・・・・なんで沖田が知ってる？っていうか、一番の害虫はオマエだけどなっっ！！」

薫はドス黒い雰囲気を纏って僕を睨み付けながら指を差してくる。
千鶴ちゃんと同じ顔してるのに、本当にまったくもって見間違えることが無いくらいに凶悪顔だよね、薫って。なんで薫と千鶴ちゃんを間違えるヤツがいるのか理解に苦しむよ。

「なぁ、これ逆に・・・目立つんじゃね？」

困惑気な表情をして今の自分の格好をマジマジと眺めてるのは平助だ。

「そう？でも平助って小柄だしけっこう似合ってるよ？」
「いや、それ嬉しくねぇし」

口端を引きつらせながら、ますます嫌そうな声で呟いてる。
一くんに至っては、鏡の前で呆然としてる。

「なぜ俺まで・・・・・・」
「だって千鶴ちゃんへのチョコ、じっくり選びたいんでしょ？」
「それはそうだが・・・これで本当にじっくり吟味することができるのか？」
「大丈夫じゃない？傍目から見ればバッチリ化けられてるし。気づかれないと思うよ？」

一くんの肩をポンポンと叩きながら笑っていると、背後から殺気を感じた。
チラリと瞳だけを動かしてみれば、誰かさんみたいに眉を吊り上げた留年生徒会長サマだ。

「おい、キサマッ！！この俺にこのような姿をさせるなど・・・覚悟はできているのだろうな」
「嫌ならやらなきゃいいだけじゃない。僕は強制なんてしたつもりないけど？」
「ぐっ・・・」

拒否することもできるのにしなかったのは自分だって分かってるだけに押し黙るしかないんじゃないかな。自分で決めたことでグチグチ言うのはプライドが許さないだろうし。

「でもよ、総司ぃ・・・・お前、俺らが教師だって分かってるか？なんだってこんなよ・・・・」

髪を掻きあげた佐之さんは渋面をつくっているけれど、その姿は様になっている。

「あははは、他の方法は考え付かなかったんで。でも、佐之さんってそういうのも似合いますよねぇ・・・・」
「そりゃどーも」

僕の賛辞に疲れたように返した佐之さんも、これしか方法はないと諦めたようだ。

「っていうかさぁ、やっぱり姉弟だよなぁ・・・・」

ニコニコとした笑顔を浮かべてる僕と爽やかな笑みを浮かべている姉さんを交互に見た平助が感心するような声をあげる。

「うむ、そうだな。ミツさんが二人いるようだ」
「双子の姉妹みたいだぜ、総司？」

昔から僕たち姉弟を知っている一くんと佐之さんも気心が知れてるせいか、ポロっとそんな言葉を漏らした。

「でっしょ～～！！我が弟だけあって私似の美人になったわよねぇ。血は争えない、ってことかしら」

自分ソックリな僕を見て感慨に耽ってる姉さんに苦笑してしまう。
僕としては複雑でもあるんだけどね。

「自分で【美人】って、ちょっとずーずーしくない？」
「あら本当のコト言って何が悪いのかしら？でも・・・・本当、皆、タイプは違うけど極上の【女性】にしか見えないわよねぇ～～」

姉さんは僕たちを見回して、感心するようにウンウンと頷いている。
―――そう、今僕たちは【女装】していたりする。
女の子の群れの中に入るなら、【女の子】に見えればイイってこと。
そうすれば、顔が割れてる僕達でもバレずにゆっくりと見れるはずだよね。

「おい、お前ら！俺を無視するなっっ！！」

敢て視界に入れないでいた新八さんの声に皆が顔を向けるけど、その姿を見た途端に――

「ぷっ、あははははは・・・・せっかく触れないでいてあげたのに」
「あははは、そ、そんな、筋肉モリモリの女の子なんていねーよ、新八っつあん」
「く、あはははは・・・・ダメだ、腹いてーよ、新八ぃー」
「見るに耐えんな」
「・・・一種の拷問、視覚への暴力」
「すまない・・・俺には何も言えん」

噴出して笑い声をあげたのは、僕に平助、佐之さん。
渋面を浮べて顔を背けたのは、風間と薫。
何とも言えない表情をしてるのは、一君だ。

「お～ま～え～らぁ～、人事だと思って好き勝手言いやがって！！」
「だってヒトゴトだし、ねぇ？」
「新八ぃ、【二丁目】に行けばモテモテなんじゃねーの？ぷっ、あははは」
「確かに。新八っつぁんって一部の特殊な男にはモテそうだよな・・・・ぷっ、ぎゃははははっ・・・ていうか、女の子の格好してる新八っつぁん、不気味だって！！」

平助と佐之さんはツボにはまったのか、新八さんの肩が怒りでフルフルと震えてるのもお構いナシに目端に涙が滲むほど笑い転げてる。

「うるせーんだよ、平助っ！佐之っ！おまえらぁ～覚悟は出来てんだろーなぁ・・・・」

ポキポキと指を鳴らしながら近づく新八さんから平助と佐之さんは笑いながら逃げ回ってる・・・・なんか傍からみてると滑稽で面白いよね。
一くんや薫たちは関わらないことに決めたみたいで無視してるけど。

「あー、ごめんねぇ、新八くん・・・確かに筋肉が凄いからニューハーフ仕様にしちゃったのよね」

秘かに一緒になって笑っていた姉さんが笑いを堪えて呼吸を整えると、新八さんへと声をかけた。

「あ・・・ははは・・・・いや・・・まぁ、しょうがねーんじゃねーかな、なんて・・・・」

姉さんに頭の上がらない新八さんは、乾いた笑いとともに顔の片側を引きつらせている。
けどまぁ、姉さんのおかげでひと段落はついたみたいだし、【本題】に戻ろうかな。

「皆、忘れてるようだけど―――僕たち【敵】だからね？塩を贈るのはここまで。後は個人行動にするよ・・・・負けないからね？」

不敵な笑みを浮べる僕に皆もまた不敵な笑みを浮べて解散となった――。


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