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最初の印象は”怖いヒト”。
獲物を狙う豹のように鋭い目をした彼に私は身体を竦ませてしまった。
でもすぐに”怖そうだけど優しいヒト？”になった。
迷子になってしまった私を助けてくれた彼は、でも意地悪で。
まぁ、”豹”みたいっていう印象はそのままだったけれど。
とにかく、掴みどころのないヒト。
友達になった今でも油断しちゃいけないヒト――。
そのハズなんだけど・・・。

「ふふふ、カワイイなぁ」

思わず、その微笑ましい姿に笑みを刻みながらジッと見つめてしまう。
腰を屈めて上から覗き込むように見つめているせいで、瞳を閉じた彼の顔に影が落ちる。
起きていると”豹”。
でも、寝ている今は―――
普段は”由奈”って呼ぶのに、たまに私を初めて会ったときのように”子猫ちゃん”って呼ぶことがある。

「私なんかよりもよっぽどタクミくんの方が”子猫”みたいだけどなぁ」

まぁ、起きてたら”豹”だから本人には絶対に言わないけどね。
どんな報復が待っていることか（汗）
嬉々とした表情で私を苛めて楽しむんだろうタクミくんの姿がリアルに想像できてしまう辺り・・・・・・・うん、やっぱり言えない。

でも、今は寝ているから”子猫ちゃん”。
本当に気持ち良さそうに寝てるなぁ。
青空の下での昼寝はそりゃ気持ち良いよね。
屋上のコンクリに仰向けで寝そべっているタクミくんの隣に腰をおろして体育座りをする。
そして、青空に向って思いっきり伸びをしながら清々しい空気を深く吸い込むと、身体の中が爽快感で満たされるような気がした。

「んーーー、気持ちいいなぁ」

伸びをしていた腕を下ろすと、太ももに肘を着いた格好で眠っているタクミくんへと視線を向ける。
紅いメッシュの入った髪の毛をサラサラと風が優しく撫でていく。

（あ、こっちも気持ち良さそう）

その気持ち良さそうな髪に触れてみたい衝動に駆られた私は、風がタクミくんの髪を梳いていく様を羨ましい気持ちでジッと眺めていたけれど、誘惑に負けた私は体育座りの体勢を崩してタクミくんの髪の毛へと手を伸ばす。
それは彼が寝ているからこそ出きる所業。
私の指の間を流れていく髪の毛は想像した以上に柔らかくて気持ちよくて。
いつまでも梳いていたいような手触りに思わずウットリとしてしまう。
んーー、ある意味クセになりそうだよぉ。

「クククッ・・・お気に召したのかなぁ、子猫ちゃぁーん」

柔らかな手触りを堪能していた私の耳に独特な喋り方の男のヒトの声が唐突に響いた。
今、この時、この状態で聞いてはいけない人の声が。
それを脳が理解したのと同時に梳いてた指先をピタリと止めてしまう。
ついでに身体も石にでもなったかのように硬直してしまって動かない。
この独特ではあるけど身震いしてしまうほどにセクシーな声の持ち主は・・・。
い、いや、それはダメでしょ。うん、ダメに決まってる。
気のせい、気のせ・・・・

「ムーシ、しないでくれる？」

恐る恐る瞳だけをソコに向ければ閉じていたはずの瞼は開かれていて、アメジストの瞳には楽しそうな悪戯っぽい色が刻まれている。
―――ってことは。
気のせい・・・じゃなかったぁあああああ！！！！
じんわりと額に冷や汗が浮かぶ。
浮かんでいるというのに、私の手はその柔らかな毛から離れてくれない。

「た、たたたたた、タクミくん・・・い、いつ、から？」

起きていた、というのだろう？
獰猛な”豹”が目覚めてしまったことに少なからず私は動揺していた。
と、いうか！！！
私の独り言は聞かれていないよね！！？？

「んー、気になるー？」

ええ、とっても！！！
でも、怖いから聞きたくない気がしないでもないようなそうでもないような・・・あれ、結局どっちなの私っっ！！！？？
目を細めて酷薄な笑みを口元に刻むタクミくんは”豹”そのもので。
眠れる”子猫”を、獰猛な”豹”に変じさせてしまったのは間違いなく私だろう。
誰に聞くまでもなく、間違えようなんてないほど事実だろう。
何であの誘惑から逃れられなかったかな、私！！
視線を外した瞬間に食われてしまう草食動物の気分になっていた私は、せめて”豹”に狩る隙を与えないように視線を合わせたまま私の独り言を聞いていないことを祈るばかりだった。
――うん、断言しましょう。
この時の私は思いっきりパニくっていました。
髪を撫でているところを見つかった時点で”狩り”の理由を与えていることにまったくもって気づいてませんでした、はい。

「そんなの・・・」

じれったい程にのんびりした声にゴクリと喉を鳴らせながら、その言葉の続きを待つ。
そんな私をニヤリと笑ったかと思うと、彼の頭上に伸びていた私の手首を掴まれる。

「？」

思考が追いつく前に、腕を引かれた私は思いっきり体制を崩してしまった。
身体の下に暖かな温もりを感じる。

「ククク・・・やぁっぱり、”カワイイ”、”子猫ちゃん”は、由奈の方じゃない？ホラ、俺の上で、子猫みたいに丸くなちゃってさぁ」

い、いやぁあああ！！！最初から起きてたなぁああああああっっ！！！！
やっぱり、タクミくんなんて、タクミくんなんてぇっっーーーー、

「っっ～～、油断しちゃいけない男だぁっっ！！！」

私が雄叫びをあげていると、タクミくんの愉快そうな笑い声が鳴り響く。

「今更デショ。本当に、キミってオレの期待を外さないよねー」

そう言うと、タクミくんは私の身体に自分のしなやかな腕をまわすことで私を拘束してしまう。
そして、満足そうに再び目を閉じてしまった。

「え、ちょ、ちょっと、タクミくんっ！！？？」

慌てて声を掛けたけれど、タクミくんが答えてくれることはなく、スースーという穏やかな寝息が聞こえてきただけだった。

「―――っっ！！！誰が”寝てれば子猫”なんて言ったのよ！！　”寝てても子猫の皮を被った豹じゃないっっーーー！！」

言ったのは自分だと分かってはいるけど言わずにはいられなかった私の雄叫びは昼下がりの屋上に空しく響くのみだった―――



ちなみに私がタクミくんの胸の上から退くことができたのは、その数時間後だった。
えぇ、そのまま二人してお昼寝しちゃったんです！
だってタクミくんの上は心地良かったんだもんっっ！！（泣）


【END】


☆♪後書き♪☆
お試しSS・第２弾！！（笑）
タクミんのね。
今回は主人公・由奈っち視点でした。
まぁ、今回もニセモノ率高しっ！！だったけど楽しかったぁ～。

では、お読みいただき有難うございました！
 

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ツマラナイ空虚な毎日。
クダラナイ、クダラナイ、クダラナーイ。
何もかもが面白くなくて、ただ何となく生きているだけ。
ナニモナイ、ナニモ。
この日も、ただ退屈しのぎでダチたちと遊んでいただけだった。

そんな俺の目に飛び込んできたのは不安そうな顔をした女だった。
ここら辺では見たことのない顔。
それにこんな治安の良くない裏通りに居るには場違いな普通の女ぁ。
んー、でも、俺好みの可愛い顔していたから興味を引かれたのかもね。
しばらくの間、ウロウロと困ったように視線を巡らせて覚束ない足取りで・・・そう、言うならば。

――迷子の迷子の子猫ちゃん。

その迷子の子猫ちゃんを眺めて楽しんでいた。
自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていたみたいで、ダチたちが、どうしたんだ？、とか軽く驚いたように口々に言っていたけど無視する。
今、俺が夢中になっているのは、目の前にいる子猫ちゃんだけだった。
頼れるものもなく、たった一人で必死になって。
心細げに薄っすらと涙目にりそうなのをキッと瞳に力を入れて警戒を強めているのが分かる。
まぁ、だから放って置けなかったかもネ。
こんなに見てて飽きない女なんて始めてだったし？
子猫ちゃんも俺たちの存在に気づいたみたいで、俺と子猫ちゃんの視線が絡みあった。
ニヤリと笑みを浮かべながら俺はダチたちから離れて一人で女へとゆったりとした歩みで向かった。
子猫ちゃんにナニかするつもりは何もないし、助けてあげようと思って近づいているだけだったけど、どうせならギリギリまで子猫ちゃんの反応を見て楽しむのも悪くないかと、子猫ちゃんの恐怖を煽るようにワザと狙い済ました風な視線を向けて歩みを進める。
身体を緊張で硬くしている子猫ちゃんの正面に立って見せ付けるようにペロリと唇を舐めてみせて。

「ねぇ、キミ・・・・どーしたの？」

俺から視線を外せないままに言いよどむ子猫ちゃんに、俺はますます笑みを深くしたんだよね――
それが俺と、子猫ちゃん――由奈との初めての出会い。

 

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