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「ほら、ルナ。そんな隅にいないで、コッチ来たら？」
「っ・・・・」

クスリと笑みを漏らしながら、自分の隣にあるクッションをポンポンと叩くトーマに対して、壁際で背を向けて俯くルナの頬が薔薇色に色づいている。
ついでにいえば、バクバクと煩いほどに心臓が高鳴っていた。
自分が望んでいた関係とはいえ、いざ【女の子】として見てもらえて、恋人という立場になったら、どうやって接していいのか分からなくてルナは落ち着きをなくしていた。
しかも夜に、ずっと恋心を向けていたトーマの部屋に二人っきりだ。
色んな想像が頭を過ってしまうのも仕方がないだろう。
――まぁ、つい昨日までも二人っきりだったのだが、昨日までとは意味合いがまるっきり違うと言える。
なにせ昨日までは、トーマ自身の意思によって、トーマの部屋で檻に入れられて監禁されていたのだから。
それも元をただせば、事故の影響で記憶障害を起こしてしまったうえに、悪質な嫌がらせを受けている事実を知ったトーマがルナを守ろうとしてのことだったのだが。

「・・・まぁ、イイけどね。・・・やっぱりお前は俺のこと兄としか見れないのかもしれないね――」
「あ・・・トー・・・・」

仕方がないな、とでも言うように寂びし気に溜息を吐きながら立ち上がるトーマに、ルナはビクリと肩を震わせた。
せっかく恋人という関係になれたのに、また妹のような存在に戻ってしまうのではないかと、焦りを感じたからだ。
ルナはトーマを引き止めるために身体を翻そうとしたが、何かが圧しかかる重みで行動に移すことはできなかった。

「でも、ゴメン。あんなに酷いことしたのに、それでもお前は俺を受け入れてくれた。俺はもう、どんなに頑張ったってルナを妹だなんて思えない――この腕を解いてやれない」

背後から自分の身体を包み込むように抱き締めるトーマの鼓動にルナの鼓動もまた重なっていく。
そして、耳元で告げらる青年の切なげな言葉にルナの心が痛みを覚えた。
自分の胸元に置かれた大きな手に、そっと自分の小さな手を重ねる。
自分だって同じだと、伝えるかのように。

「いいよ、解かないで。ずっと、ギュッとしてて・・・・」
「ルナ・・・」
「私、トーマにこうしてギュッとしてもらえるの嬉しいよ。・・・恥ずかしくてどうしたらいいのか、分からなくなるけど、でもずっとトーマと一緒にいたい」

記憶が混乱していても、監禁されている間も揺らがなかった気持ち。
羞恥を感じながらも、ルナをたどたどしい口調ながらも一生懸命に口にする。
そんなルナの一生懸命さを感じたのか、ふとトーマが笑みを漏らした。

「ありがとう、ルナ。・・・・でもね、弱った表情をする男を甘やかしちゃ駄目だよ？」
「え・・・トーマ・・・？」

弱々しかった声は、いつも聞き慣れた人好きのするようなトーンに戻っている。
それは、一見すれば柔らかく、人に安心感を与えるものではあるが、ルナには分かった。
それが、相手を油断させるためだけの微笑みだと。
だてに１９年も幼馴染をやっていたわけではない。
それでも――。

「こーされても、文句いえないよ？」

クイと顎を持ち上げられた先で、ルナのサファイア色の瞳に何かを企んでいるような笑みを浮かべたトーマの顔が逆さまに映り込む。
そして、あと数ミリで唇が触れそうな位置にトーマの顔があった。

「・・・トーマなら、イイよ？」

本人が断言するように優しい仮面を被った最悪な男なんだろう。
――一般的には。
だが、ルナにとっては違う。
何時も自分のことを想ってくれて、優しくて、そして強くて弱い、愛しいヒト。

「・・・ったく、オマエには敵わないなぁ」
「私だって、トーマには敵わないよ？」

その言葉に不思議そうに瞬きを繰り返すルナに、トーマは若干目元を赤めると、はぁーと溜息を吐いた。

「オマエね・・・・ホント分かってないなぁ。無自覚ほどタチが悪いって知ってる？」
「？・・・何が？」
「だから、そーいうトコロが、だよ」

警戒してるかと思えば、無防備なルナに、『オマエは俺の理性を試してるのか？』と問いたい。
本人がそのつもりではないのは百も承知なのだが、”あぁ、やっぱ無理だ”と開き直る。
次の瞬間、トーマとルナの唇の距離はゼロになっていた。
その事実に一瞬、驚いたルナだったが、柔らかくて温かな唇に、心がフワリと暖かくなるのを感じながらルナはゆっくりと目を閉じる。

「っン･･･――」

触れ合わせた唇を少しだけ離して、トーマの舌がチロリと優しく撫でるようにルナの唇に這わせられ、そして再び唇が触れ合う。
その唇の、舌の優しい動きに涙が出そうになりながら思う。
トーマが最悪な男に分類されるのなら、自分だって同じようなものだとルナは思う。
トーマの歴代彼女に嫉妬したことなんて数えられないほどで、早く別れてくれないかな、なんて思うのも一度や二度ではなかった。
この唇が、この手が、この吐息が自分だけのモノじゃないと思うと――それこそ嫌な気持ちでいっぱいになってしまう。
そんな自分に自己嫌悪するのもザラなのだが。
トーマの手に添えていただけのルナの小さな手が僅かに震え、キュッと、その手を離したくない、とでも言いたげに力が籠る。

「――ッ。ヤバイな・・・」

唇を離したトーマがルナの肩口に顔を埋めながら、ボソリと呟く。

「ぁっ、ん」

すると、トーマの唇が触れる肌に吐息を感じたのか、ピクンと身体を揺らしたルナが甘い声を漏らす。

「え？・・ルナ？・・・オマエ、今・・・」

それに反応したトーマが少し驚いたようにパチパチと瞬きを繰り返しながら、ルナの横顔を見つめる。

「っっ！！な、なんでもない！！今のは・・・その・・・・」

耳まで真っ赤に染めるルナの姿に、トーマの心が愛しさで満ちていく。

「なんでもない、なんてことないだろ？今、オマエの可愛い声が聞こえたよ」
「うぅっ！！トーマの意地悪っ！！そこは聞こえなかったフリしてよ！！」
「あー、うん。ムリ」
「なっ！？」
「オマエのそんな声聞いて、知らんっぷりなんか出来るわけないだろ？」
「うーー、トーマは意地悪だぁ」
「そんなの今サラだろ？」
「そ、そうだけど・・・」

優しくて、意地悪で、すごい心配性で――でも、大好きなヒト。

「ん？『そうだけど』なに？」

一瞬黙り込んだルナは、トーマの腕から抜け出し、琥珀の瞳と向かい合う。

「私は、意地悪でも性格悪くても、今までもこれからもトーマのことだけが好きだよ」

部屋の中に静寂が漂い、二人の視線が交差し、お互いの息遣いだけが耳を刺激する。
そして、沈黙を破ったのはトーマだった。

「っっ！！！！・・・・はぁ、やっぱオマエには敵わないなぁ・・・」
「トーマ？」
「くっ・・・あははは・・・」
「もう！！私は真剣に言ってるんだからね！！」
「あぁ、うん。分かってるよ」
「分かってない！！私が真剣に言ってるのに！！トーマのバカ！！」

ぷっと吹き出すトーマに、ルナはムッとしたようにトーマを睨みつけると、その胸元をポカポカと叩き出した。
一通り笑って気が済んだのか、トーマは自分を叩き続ける両腕をやんわりと掴みあげ、ジッと真剣な眼差しでルナを見つめた。

「分かってる。・・・・俺もオマエのこと、愛してるよ――ずっと、ね」

そう囁くと、再び唇を寄せたのだった――。



＜終わっとけ＞


★♪後書き♪★
初・AMNESIA小説でーす。
なんか、ワケ分かんない感じになってすいません。
とにかく、トーマｘ主人公で甘いのを書いていきたいっ！！
あ、最初にも書きましたが、うちの主人公ちゃんは【ルナ】ちゃんですｖｖ
これからよろしくお願いしますｖｖ

トーマｘ主人公本出したいなぁ。。。。（ポソリ）

では、ここまでお読みいただき有難うございました♪♪

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