恋心はカプチーノのように・・・<1> ~Side千鶴~
早いものでもう12月ですね。。。
あぁ、本当にあっという間だったぁ。
さて、やっとこ更新できて、ひとまず一安心。
なかなか更新できずに申し訳ないです><
今回のお話は、以前アップした「君の笑顔とカプチーノ」と繋がっていますので、よかったら「君の~」の方もご一緒にどうぞ!
では、”社会人・沖田x高校生・千鶴の甘い系、だけど今回は沖田の出番なし”でもよろしければ、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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帰りのホームルームを終え、私はゆったりと帰り支度をしていた。
鞄に教科書やノート、筆箱を入れてふたを閉じる。
ふぅと軽く息を吐きながら、そっと腕を上げて腕時計へと目を留める。
2時30分――。
(まだ、大分時間があるなぁ)
時間を確認した私は、思わず大きなため息を吐いた。
少なくとも、あと1時間半の間はソワソワする破目に陥るんだろう。
待ち遠しくてドクンドクンと胸の鼓動が高鳴る。
私の淹れたカプチーノをコクリと飲み干して「美味しいね」と微笑んでくれる表情を思い浮かべて頬が緩んでしまう。
そんな自分にハッと気づいて、頬が緩んでいたのを誤魔化すように両の頬をペチペチと叩く。
(いやいや、今日も来てくれるとは限らないじゃない!! お仕事忙しいかもしれないし・・・・・そうだよね、来れないかもしれない、よね)
期待する自分と否定的な自分。
約束しているわけじゃないし、ましてや―――そう考えると段々と落ち込んでいく。
自然と目が潤んでしまう自分に戸惑いを感じる。
私のこの感情はいつからこんなにも強く深くなってしまったのだろう。
「・・・・ちゃん、ち・・・づる、ちゃん・・・千鶴ちゃん」
肩を緩く揺すられる振動と耳に馴染んだ声にハッとここがまだ教室であることを思い出す。
「へ?」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、目の前には親友の千ちゃんの姿があった。
「あぁ、やっと気づいてくれた。寂しそうな顔してどうしたの?」
優しくて美人な千ちゃんは私の自慢の親友。
眉間を寄せて心配そうな表情をさせてしまっていることに申し訳なさを感じる。
「ううん、なんでもないの。ごめんね」
「こーら。無理しないの。千鶴ちゃんにそんな表情させるってことは・・・・沖田さんのことかな?」
「う、うん」
聡明で人の気持ちにも敏感な千ちゃんには、すぐに私の憂いの理由に思い至ったようだった。
あっさりと言い当てられた私は落ち込んでいたのも忘れて思わず頬を赤らめてしまう。
再会できたことが嬉しくて、次の日のお昼にお弁当を食べながら千ちゃんに沖田さんのことを話してしまっていたから。
興奮して話す私にも呆れることなく千ちゃんは話を聞いてくれていた。
といっても、その時はまだ沖田さんの名前は知らなかったのだけど。
それ以来、私と千ちゃんの会話には頻繁に沖田さんの話題がのぼるようになった。
「今さらだけど、なんか焼けるな」
「千ちゃん?」
何のことか分からずに首を傾げる。そんな私に千ちゃんはクスリと笑みを漏らす。
「千鶴ちゃんにそんな表情させられるのって沖田さんだけなんだろうなぁって。ちょっと悔しいかな」
「そ、そんな表情って・・・な、なに?」
「ふふふ・・・・決まってるでしょ。”恋する乙女”よ」
「こ、こい!?お、おとめ!?」
”恋する乙女”って、今の私はどんな表情をしてるんだろう。
変な顔していないか不安になって両手で顔を覆った。
「なんで隠しちゃううの?」
「だ、だって絶対に変な顔してるよ、私」
「なんで?可愛いと思うけど。っていうか、心配になっちゃうぐらいに可愛いのよね。うーん、やっぱり一度ぐらいは沖田さんに挨拶しておくべきよねぇ・・・・・」
「あ、挨拶って?沖田さんに?」
「ん?そうよ。千鶴ちゃんの親友として一度は挨拶しておくべきかなぁって」
目の前の千ちゃんはニッコリと笑っているのに、なんだか異様な威圧感を感じるのはなぜなんだろう?
「千鶴ちゃんを泣かせるような男じゃないか実際に会って確かめてみないとね」
千ちゃんの形の良い唇から小さく呟かれた言葉を私は聞き取れなかった。
けれど、今の千ちゃんに問うことは何故か阻まれた。
だって、いつもの優しい千ちゃんとは雰囲気が違うんだもん。
声をかけたらいけないんじゃないかという気になってしまう。
「あ、私、バイト行かなくちゃ。じゃ、じゃぁ、また明日ね!!」
顎に手をかけて思案している様子の千ちゃんにそう声をかけた私は、今までにない素早さで教室を後にした。
「ちょっと、千鶴ちゃん!?」
背後から千ちゃんの呼び声が聞こえたけれど、今日ばかりは聞こえないフリをした。
心の中で「ごめんね」と謝りながら。
=====
私が初めて沖田さんに会ったのは今から約半年前。
高校入学を控えた春休みのある日のこと。
その日は朝から雨が降っていた。
中学を卒業し、春休みの予定もない私は特にやることもなく家でのんびりとしていた。
双子の兄である薫は私と違って友達との約束があったのか、少し遅めのご飯を食べて一休みしたあとに出かけて行った。
家に一人になった私はのんびりと寛いでいた。
居間にある座り心地の良い広いソファーを一人占めする。
部屋から持ってきたお気に入りのクッションを抱えながらお気に入りの小説を読んだりして。
雨の音さえもが心地好い空間を演出するBGMになっていた。
手を伸ばせばすぐに届く場所にあるローテーブルの上には大好きなミルクティーを淹れたカップ。
こんな贅沢をしていいのかな、という考えが脳裏に浮かんだ瞬間を狙ったかのように家の電話のベルが鳴った。
電話はお父さんからだった。
急きょ夜勤が続きくことになったから着替えやタオルを持ってきて欲しい、ということだった。
私のお父さんは、隣駅にある大きな病院へ勤めている医師。
隣駅の近隣はビジネス街でビルが立ち並んび、飲食店などのお店も多い。
駅から10分ほど歩いた所に父さんの務める病院がある。
雨の中を歩くなら、それなりの装備が必要となるだろう。
着替えなどの荷物を父さんに届けた後、近辺を探索することにした。
雨の中の散歩も案外悪くはないような気がしたから。
世界が違って見えるようで楽しさを感じていた。
自分でも分からないけれど、その時の私は何かを期待して胸をドキドキと高鳴らせていた。
とはいえ、雨の中の散歩だから、薫からバレンタインのお返しで貰ったばかりの真新しいレインコートをシカッリと身に纏い、濡れないようにフードも深く被る。
ちょっと視界が悪いけれど、雨に濡れて風邪をひかないように対策はしっかりとしておかないと。
辺りの景色を楽しむように雨の中の散歩を楽しむ。
歩道に溜まった水たまりが描く波紋、ビルの窓ガラスを伝い落ちる雫。
ビジネスビルが並ぶ通りを歩き進め、路地裏に入った所で私は歩みを止めた。
「わぁ~~、可愛いカフェ」
ひっそりとした路地裏に佇む私好みの可愛らしいカフェ。
真っ白な壁面に伝う瑞々しい蔦、アンティーク調の扉。
付近にはビジネスビルが立ち並ぶ中、そこだけが違う世界を作り出しているかのようだった。
私を捉えるのは、カフェの外観だけではなかった。
鼻孔を擽る甘い香りにも酔いしれ、うっとりとした心地でカフェを見つめていた。
「こんなカフェでバイトできたら素敵だろうなぁ」
高校に入ったら社会勉強も兼ねつつバイトするつもりだった私は、かなりこのカフェに惹かれていた。
一目惚れだった。
カフェをジッと見つめていた私の耳にみゃぁみゃぁというか細い鳴き声が聞こえてくる。
鳴声のする方へと視線を向けると少し離れた所にある建物の間に雨で濡れたダンボールが置かれていた。
その中には、雨に濡れて寒々とした子猫の姿がある。
段ボールの淵に前足を掛け、必死な様子で鳴き続けている。
自然と私の足は駆け足で子猫へと向かっていた。
私を見上げる円らな瞳。
小さな身体をハンカチで覆い、濡れた身体を拭う。
寒さでフルフルと震えた身体。
背を摩って暖めようとするけど、3月という時期もあって気温が低いせいか子猫の震えは止まらなかった。
身体の芯から冷え切ってしまっているのかもしれない。
鳴声がどんどんと小さくなっていっているような気がして、私は泣きそうになっていた。
そんなときだった。
子猫を抱きしめて、涙目になっていた私の目の前に差し出されたソレ。
「間違えて買っちゃたから、コレあげる」
突然降ってきた声にビックリして、思わず顔を上げる。
そこには、優しい眼差しをしたスーツ姿の男のヒトがいた。
パチパチと目を瞬かせていると、スーツの男のヒトが私の左手をとった。
冷たくなっていた左手が温かみを感じる。
手の中にはあるのは缶のホットミルクティーだった。
スーツのヒトの手にはカプチーノの缶が握られている。
どうやら、カプチーノを買おうとして間違えてミルクティーを買ってしまったということらしい。
「その子と一緒に飲んだら?」
それだけ言うと、スーツのヒトは颯爽と去って行ってしまった。
私はその背を瞬きすることも忘れて見つめ続けていた。
ほんの一分ほどの出来ごとだったというのに、私の心の割合をかなりの大きさで占めてしまった。
綺麗な翡翠色の瞳が脳裏から離れない。
みゃぁ、という鳴き声にハッと我に返った私は子猫とミルクティーを分け合った。
缶のミルクティーはビックリするほどに美味しくて、そして身体を温めてくれた。
子猫もミルクティーで暖まったのか、表情が緩んできている。
私はホッと息を吐き、子猫を胸元に抱えたまま歩き始めた。
後に私は、子猫に”ヒスイ”と名付けて家で飼うことになった。
そして、このときのスーツのヒトが沖田さんだった。
沖田さんと再会できたのは、この日から一ヶ月半ほど後のこと。
一目惚れしたカフェでバイトを始めて何度目かのときだった。
「カプチーノと優しさをアリガト。雪村千鶴ちゃん♪♪」
沖田さんは私のことなんて覚えていないだろう。
ヒスイのお礼にと私が勝手にカプチーノを淹れて持っていたにも関わらず、沖田さんはお礼を言ってくれた。
そして、私の名前を沖田さんが初めて口にしてくれた。
最初は何で私の名前を知っているんだろうってビックリしたけど、私の心は嬉しさでいっぱいになっていく。
妄想じゃなくて現実に、再び会えるなんて、ましてや名前を呼んでもらえるなんて嘘のようだった。
それから沖田さんはよくカフェに来てくれるようになり、会話を交わせるようになっていった。
沖田さんの名を知り、趣味を知り、少しづつ沖田さんのことを知っていく。
会話を重ねるごとに私の恋心は肥大していき、現在に至っている。
この後、私は沖田さんのことをまったく分かっていなかったことを痛感することになる。
私の想像の限界を超えるほどの出来事が待っているなんて想像もしていなかった。
ふわふわで、ちょっとだけ苦くて、とびきり甘いカプチーノみたいな関係が始まろうとしていた――。
<つづく>
★♪☆後書き☆♪★
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「君の笑顔とカプチーノ」から少し後の千鶴サイドのお話となります。
いえ、現在、過去が入り乱れてますね、すいません!!
えー、題名を「恋心はカプチーノのように・・・」と改名し、視点を色々かえて連載していくつもりです。
もちろん甘々でいきますよ~~!!
よろしければお付き合いくださいませ。