紅月の再会・後半~紅闇の残像1~
遅くなって申し訳ありません!!
お待ち頂いていた方、お待たせいたしました。
相変わらずまともに名前は出てきていませんが沖田登場です!
このシリーズをはたして沖千SSと言っていいのだろうか。
なかなか甘くならん予感が。。。
いや、雰囲気は匂わせてるんですがね。
では、心の準備ができた方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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ビルの合間から見える夜空には、血を吸ったかのように紅い月が妖しく輝いている。
先ほどまでは優しく夜を照らしていた白い月さえもが狂ってしまったのだろうか。
それはまるで世界が紅き闇に犯されていく未来を描いているようにも見える――――。
それを証明するかのように、手始めと言わんばかりに少女へ向かって狂気に満ちた紅い瞳をした男がナイフを手にしながらユラリユラリと迫っていた。
狂気の男を挟んだ向こう側には、男を狂わせた原因であろう【紅い水】を与えた黒いフード男が微動だもせずに少女たちを眺めている姿がある。
この暗闇とフードを目深に被っているせいで表情を確かめることは出来ないが、きっと冷めた瞳をしているのだろう。
いや、もしかしたら冷める云々の前に何も感じてなどいないのかもしれない。
たまたま、この場に出くわしてしまった少女がどうなろうと、フードの男には関係ないのだろう。
ただ運が悪かっただけ、と。
少女は、自分へと迫ってくる男以上にフードの男の方に恐怖を感じていた。
同時に悲しみを感じ、わけも分からずに涙が溢れてくるのを止められない。
その間にも狂った笑い声をあげながら【死】は少女へと一歩一歩と近づいてくる。
「あ・・・・い、嫌ぁ、た、すけて、タ・・・ソウちゃぁああああんっっ!!!」
恐怖で足が竦んで動けない少女が力を振り絞って叫んだ瞬間、今まで微動だもしなかった男の身体が僅かに震えた。
だが、少女の瞳に映っているのは狂気に満ちた表情でナイフを振り上げようとしている男の姿だけで、フードの男の姿を視界に捉えることのできない少女がそれを知る由もない。
「ギャァアアアッッーー!!」
終わりを予感してギュッと目を瞑った少女だったが、予感していたはずのナイフが突き立てられる痛みを身体に感じることはなかった。
その代わり、自分へと迫って来ていた男の絶叫が夜の闇に響き渡る。
「な・・・に?」
恐る恐ると目を開けば、背を仰け反らしながら口から血を吐く狂った男と――――地にしっかりと足をつけて日本刀を振り下ろした格好をした漆黒の姿があった。
日本刀を握っている漆黒の正体は、あのフードの男だった。
「っっ・・・!!」
少女はフードの男の姿に、目を見開いた。
一瞬にして狂気の男の背後に迫ってその背を斬りつけたせいか、フードがスルリと脱げ落ち、隠れていた表情が露わとなっていたのだ。
白い糸のような髪が風に靡き、夜の闇に浮かび上がる三つの紅月が少女を見下ろしている。――――フードの男の背後で輝く月と、フードの男の二つの紅い瞳が。
いや、空に浮かぶ紅月よりも禍々しくも美しい瞳が少女を魅了し、少女が視線を逸らすことを許さない。
それはまるで、小説やドラマの中でしか存在しないはずの生き物――――――
「・・・・ヴァン、パイア・・・・?」
少女のピンク色の唇が震えながら紡いだのはその一言だった。
「ヴァンパイア、ねぇ・・・・」
口元に酷薄な笑みを刻むフードの男に、恐怖とともに戸惑いをも感じていた。
だが、少女の戸惑いも疑問も無視して、この状況だけは待ってはくれない。
「っっ!!」
再びあの狂った男が狂笑をあげてムクリと起き上り、その血走った狂った瞳を少女へと向けてきたのだ。
その姿に、身を竦ませて少女が息を呑んだ次の瞬間、生温かな雫がポタリポタリと少女の滑らかな白い頬へと滴り落ちた。
少女の目の前には、赤い液体を滴らせる切っ先。
それを辿って行けば、狂った男の胸部から突き出ている。
つまり、それは―――心臓を貫いているということ。
その事実をすぐに理解するには少女には【非現実】すぎるはずだった。
突き出た刃が引かれ、息絶えた男の身体が支えを失って固い地面へと崩れ落ちていく。
すると、自然とそこには再びこの場に存在するもう一人の姿が顕わになる。
「ら・・・・せつ」
白い髪に、紅い瞳、そして血を纏った姿は、【ヴァンパイア】というよりは―――つい先日、少女が暇つぶしで読んだ伝奇小説に出てきた鬼―――【羅刹】のようだった。
少女の目からは留めなく涙が溢れ、血に混じりながら頬を濡らしていく。
「・・・んで、ですか、沖田さん・・・・」
少女の許容量を遥かに超えたのだろう。
視界が揺れて遠のく中で何かの記憶と混濁させた少女はその名を呟きながら、完全に意識を手放した。
「・・・・馬鹿だなぁ、別に君のためじゃないんだから。そんな顔しないでよ・・・」
力の抜けた少女の身体をフードの男の腕が支える。
そして、黒の革手袋を嵌めた指先が優しく少女の頬から目元を拭っていく。
フードの男の瞳は先ほどまでのような冷たいものではなく、見る者を癒すような新緑色へと変じていた。
「―――る!?―――!!」
近くから誰かを探しているのであろう男の声と、駆けてくる足音が聞こえる。
その音でフードの男はハッとした。
自分は何をやっているのだろうか、と。
こんな想いは初めてで・・・・いや、本当に初めてなんだろうか?
頭の中がグルグル回って、イラツキを覚え始める。
「千鶴っっ!!」
フードの男が混乱しているうちに、気を失っている少女を探してたのであろう男がここまでやってきたようだ。
フードの男の背には隠すこともない殺気がぶつけられている。
首だけを軽く背後へと向ければ、目つきの鋭い―――まるで獲物を狙うヘビのような目を男がこちらを睨んでいる。
「千鶴に何をした?」
警戒と怒りを含ませた低い声がこのビルの合間の空間に反響する。
だが、フードの男の気を捉えたのは、少女の身内らしい男の殺気よりも何よりも、その名だった。
「ち・・・づる?」
頭に締め付けられるような痛みが走り、僅かに顔を顰めた男の風貌が再び【羅刹】のものへと変わっていく。
茶髪は白髪、新緑色の瞳は紅色の瞳へと。
だが、眠っている少女を映す紅い瞳には狂気などなく、戸惑いと愛しみだけが溢れている。
「っ!?・・・おまえ・・・・」
少女の身内の男は、その存在に確かに見覚えがあった。
幼い頃にたった一度だけであったけれど。
その時は、相手も子供で――――でも、少女・・・千鶴への愛しみを込めたような瞳も同じもので。
「・・・総司?」
覚えのある人物の名を確信とともに口にしたのだった。
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黒で統一されたシックな部屋に、カーテンが開け放たれた大きな窓を通して朝陽が降り注いでいる。
そんな清々しい朝だというのに、部屋の中には非常に気まずい雰囲気を漂わせた二人の人物がいた。
一人は眉を顰めながら長い足を組んでソファーに座っている、紫がかった黒髪に赤いメッシュを入れている若い青年だ。
その男はアメジスト色の瞳を細めて視線を少し下へと向けている。
そこにいるのは、この部屋に居るもう一人の人物で、床に正座にしながら顔を俯かせている黒髪の少女だ。
つい先ほど目を覚ましたばかりのせいでボサボサになってしまっているが、それでも艶やかさを失ってはいない。
身体を縮こませるようにして小さくなっている姿を見れば、少女が心から反省している様子が見て取れる。
「・・・千鶴、どうしてアソコに居た?」
暫くの沈黙の後、口を開いたのは青年の方だった。
いつもは人を煙に巻くかのように語尾をのばしたりと、チャラチャラした若者が使うような抑揚の激しい独特の喋り方をしているというのに、少女へとかけた言葉は静かなものだった。
だからこそ、そこに【怒り】が含まれているのが伺える。
もちろん、それは少女・・・妹である千鶴を心配したからこその【怒り】なのだが。
千鶴に似た人物がウロウロしていると聞いたタクミは”まさか”と思いながらも、千鶴に何かあったらと、探している間は生きている心地がしなかったのだ。
【アイツ】の代わりに千鶴を護ると、約束もしたし、自分にとっても千鶴は大切な妹なのだから。
「ごめんなさい・・・タクミちゃん」
タクミが本当に自分を心配してくれたのだろうことを痛いほどに分かっているから、千鶴も申し訳なさを感じて落ち込んでしまう。それに、途中からの事はよく覚えてはいないが、涙を拭ってくれた優しい指先のことは覚えている。
きっと涙を拭ってれたのはタクミだったのだろうと思う。
学園では基本的に怖がられているタクミだったが、その実、面倒見が良くて優しいことを千鶴は知っている。
タクミは施設に入ったときから千鶴にとっては、頼れる【兄】なのだ。
―――それなのに、何故なのだろう。
あの時、タクミの名を呼ぼうとしたのに実際に口にしたのはまったく違うものだった。
覚えのない名、【ソウちゃん】と――――。
(まさか【ソウちゃん】って、あの黒いフードのヒト・・・?)
この紅月夜の再会が、再び【運命】の歯車を回し始めたのだった。
<つづく>
★♪後書き♪★
遅くなって申し訳ありません!!
やっとこ、再会編の後半をお届けしました。
あぁ、文章力ない自分が(以下、略)
つか、なかなか沖x千の甘い部分が出せなくて申し訳ないですーー。
本当に沖x千SSなのか、っていう。。。。
今回、頑張って少しは入れてみたんですけどね。
では、相変わらず拙いものをお読みいただき有難うございました!!