星の恋人たちの日~前夜~(沖田x千鶴)
今回は、転生パロ、義兄妹ネタになっておりまして、9月発行予定の『秘密遊戯(仮)』の二人となっています。
ちょろっと設定が変わる部分があるかもですが。(あ、転生、義兄妹に変更はありませんよ)
ではでは、転生パロ、義兄妹ネタでもOKな方は『読んでみる?』からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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夕飯を終えた後、近藤家のリビングで家族の団欒を堪能している時だった。
――といっても、親である近藤は長期出張中でこの家には兄と妹の二人だけだ。
高校剣道界において天才と名高い兄の沖田総司と、その剣道部の大和撫子と名高い妹の雪村千鶴である。
名字で分かるが、二人に血の繋がりはなく義理の兄妹である。
血は繋がっていないが、幼い頃から一緒に暮らしている二人には家族という絆が確かにあった。
そして、それとは別の【繋がり】も―――。
「雨だ・・・」
ザーという音が聞こえ、窓にピタリとくっついて外を覗き見る千鶴の表情も天気と同じように曇り始めてしまっていた。
「あぁ、本当だ」
総司は、残念そうに沈んだ声を漏らす千鶴の背後に立つと、千鶴を囲うかのように窓に手をつき、窓の外を覗き見た。
「っぁ・・・」
総司の気配を間近に感じた千鶴の頬が紅色に染まり、キュッと目を瞑ってしまう。
というのも、ここ最近で千鶴は総司のことを急速に意識し始めていたのだ。
それは頻繁にみるようになった【夢】のせいなのかもしれないが。
優しい声色で囁きながら肌に指先を滑らしていく夢の中の男の人――。
(あれ?小さい頃も同じような夢・・・でも、あのときの指先は子供みたいだったような・・・?)
何かを思い出しかけた千鶴の思考を遮るように、千鶴を心配する総司の声が掛けられる。
「どうかした、千鶴ちゃん?」
「あ、な、なんでもないよ!!そ、それより一緒に照る照る坊主、作ろうよ?」
「照る照る坊主?」
「うん!!せっかくの七夕が雨なんて寂しいし・・・・」
「なんで?僕らの歳で七夕っていったら恋人たちのイベントじゃない・・・そういう相手がいるの、千鶴ちゃん」
「そ、総ちゃん?」
いつも意地悪なことを言う総司ではあったが、一瞬強い感情を感じた千鶴は驚きに瞳を見開いた。
「・・・あぁ、ごめんね。千鶴ちゃんが兄離れしちゃうのかと思ったら少し寂しくてね」
「ち、違うよ!!じ、実は、明日の夜、総ちゃんと夜のお散歩ができたらいいな、って思ってて・・・」
ハッとしたように総司は微笑みを浮かべたが、千鶴はその笑みにツキンと痛みを覚えて密かに計画していたことを口にしていた。
「え?散歩?」
すると、総司は心底驚いたかのように千鶴を凝視した。
「どうしたの、総ちゃん?」
そんなに総司が驚く意味が分からず、千鶴は首を傾げてしまう。
「あぁ、ごめん。何でもない。いいよ、一緒に作ろうか照る照る坊主」
「じゃぁ、道具持ってくるね!!」
いつもと同じ雰囲気に戻った総司に安堵した千鶴は、パタパタと音をたててリビングを出ていく。
「千鶴・・・早く思い出して・・・お願いだから」
そして、リビングに一人残った総司の苦し気な呟きを千鶴が耳にすることはなかった。
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陽が沈み、月が天空へと顔を出した刻限。
窓際に吊るした風鈴が夜風に揺れ、涼しげな音を響かせている。
「ねぇ、千鶴。たまには夜の散歩でもしない?」
「え?お散歩、ですか?」
夫・総司の唐突ともいえる提案に千鶴は繕い物の手を止めると、微かに首を傾げながら顔を上げた。
「うん。日中の暑さが嘘みたいに涼しくなったし、それにほら・・・」
そう言って、総司は襖を開け放った縁側に座ったまま顔を夜空を振り仰ぐ。
そこには圧倒されるほどの星々が輝いている。
「あぁ、綺麗ですね・・・あ、そういえば今日は・・・」
「くすくす・・・気づいたみたいだね。だからさ、一緒に夜の散歩に出かけよう?」
「はい、喜んで」
穏やかな微笑みを向けながら誘いの言葉をする総司に、千鶴もまた穏やかな微笑みを浮かべてコクリと頷いた。
散歩にでると決まってからの行動は早かった。
火元を消し、手際良く戸締りを済ませた二人は家を後にするまでそう時間がかかることはなかった。
「あぁ、夜風が気持ちいいね」
「ふふふ。そうですね」
通い慣れた山道を二人が手を繋いでゆったっりとした足取りで歩んでいると、夜風が二人の肌を、髪を撫でていく。
繋いだ手とは反対側の手で頬にかかる髪先を拭いながら目を閉じる。
吹き抜けていく風の心地好さや、繋いだ手から伝わる体温に安堵を感じ、確かに二人は幸福に包まれていた。
そんな風に夜の散歩を堪能しながら辿りついたのは、お馴染の野原だ。
春には色とりどりの花が咲き誇っており、よく二人で昼寝をしている場所だった。
そして、千鶴に婚姻の意を伝えた場所でもあり、二人の曖昧な関係が【夫婦】という確かな関係に変わった場所だ。
二人は手を繋いだまま野原へと身体を仰向けに横たわらせる。
視線の先には満天の星々が輝きを放っている。
「織姫と彦星も、今こうやって幸せな時間を過ごしているんでしょうか」
「そうなんじゃない。だってこんなに輝いてるんだから」
「・・・なんだか贅沢ですね。こんなに綺麗な星空を総司さんと私で一人・・・じゃなくて二人占めしてるみたいです」
「うん、そうだね・・・こうやって千鶴の隣に居れるなんて贅沢だよね。僕にとって千鶴との一瞬一瞬がかけがえのない贅沢な時間だよ」
「総司さん・・・私もですよ、総司さんと過ごす時間は私にとって何よりも大切なものなんです」
「ありがと、千鶴。―――ね、千鶴。僕は約束するよ。例え、僕たちが織姫と彦星のように引き離されてしまう時が来たとしても、僕は再び君に会いに行くよ。生まれ変わったとしても、僕の心は永遠に君のもだと誓う」
「私も・・・誓います。私の心はアナタのものです、永遠に――」
”その時”を予感して、千鶴は零れ落ちそうになる涙を堪えるように繋ぐ手に力をこめた。
今はココに居るのだと確かめるように――。
「千鶴・・・」
傍らの総司が動く気配がしても千鶴はジッと満天の空を見つめ続けていた。
だがすぐに、総司の身体によって視界は遮られ、星の輝きの代わりに翡翠の輝きが煌めく。
翡翠色の瞳に、そっと目を閉じる千鶴の姿が映し出される。
「・・・ん」
優しく触れ合う口づけに千鶴の眦から一筋の涙が伝った。
二人は一層強く指先を絡め、満天の星の下で口づけを交わし続けた。
その想いを心に刻むかのように――。
=====
雨音が止み、雲の隙間から星の輝きが垣間見える。
窓際に吊るした照る照る坊主が揺れる下で、空を見上げているのは総司だった。
その表情は月光に照らされて陰影を刻んでいるせいか、寂しげなものに見える。
「・・・じ、さん」
窓を開け放って夜空を眺めながら【昔】のことを思い出していた総司の耳に切なそうに呟かれる声が響く。
その声に音を立てないように近づいて覗き見れば、ベットに横たわる黒髪の少女の眦から一筋の涙が見て取れる。
「千鶴・・・大丈夫だよ、僕はここに居るから安心して」
ベットサイドに腰を下して優しい手つきで前髪を梳いてやると、千鶴の表情が穏やかなものへと変化していく。
腰を屈めて口元を千鶴の目元に近付けると、眦に滲んだ雫をチロリと舐めとる。
顔を離し、ジッと飽くことなく千鶴の寝顔を見つめる総司の瞳は愛しさに溢れていた。
焦がれるような切なさを帯びた呟きが部屋の中へと木霊する。
「ねぇ、千鶴―――今度はいつ君に会えるのかな?」
そして再び――月光によって白い壁に映し出された二人の影が重なり、熱を帯びたような吐息が絡まる音が響いたのだった。
<END>
★♪後書き♪★
かなり遅れての七夕前夜ネタ・おきちず編をお送りいたしました。
楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、今回のおきちづ設定は9月発行予定の『秘密遊戯(仮題)』で使おうかと思っています。
ちょびっと設定が変わる可能性もありますが。
興味がありましたら、こちらもお待ちいただければと思います。(ブログupはありませんが。。。)
ではでは、ここまでお読みいただき有難うございました!!