とあるX'masの一日~PM編~
クリスマス3部作小説の2つめ、PM編です。
おきちず~~。
まぁ、これはこれだけでも読めないことはないと思います。多分。
では、AM編の注意など了承のうえ、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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身に染みるほどの肌寒さを感じる季節、十二月。
今年もあと少しというこの時期、街や人は浮かれた様子を見せる。
街中のいたるところでは様々なイルミネーションの飾りつけが施され、いつも以上の人出で賑わっている。
子供から大人までが浮かれた様子で街中を歩いており、そこには笑顔で溢れかえっている。
「うわぁ・・・すっごい人だねぇ・・・・まぁ、クリスマスだからしょうがないっか」
「そ、そうですねっっ!!」
どこを見ても、人の頭の黒色で埋め尽くされた通りを見渡した沖田は、来た早々からゲンナリとしたように顔を顰めた。
元々、沖田は人混みがあまり・・・というか、ハッキリ言って嫌いなのだ。
はぁ、と溜息を吐く沖田の隣では、なぜか過剰なまでの反応を示し、声を裏返させる千鶴の姿がある。
「・・・・どうかしたの?」
「へっっ!?な、なにがですかっ!?」
「ねぇ、千鶴ちゃん。自分が隠し事できない性質だって分かってるよね?」
「・・・・・はぃ」
待ち合わせの場所で顔を合わせたときから千鶴の様子がおかしかったのことに沖田は気づいていた。
だが、休みの日にこうして二人だけで街に出かける機会などなかったことだから緊張しているのだと、沖田は思っていたのだ。
そんな緊張でソワソワしている千鶴が可愛くてそんな様子を盗み見ては楽しんでいたりしていた。
だが、ふと記憶を辿ってみると千鶴の様子がおかしかったのは、今日のこの約束をした日からだったような気がする。
「あのさ、迷惑だった?」
「え?」
沖田の言葉に驚いたように俯いていた顔を上げた千鶴の先には、困惑したような悲しげに歪められた沖田の表情があった。
「そうだよね、千鶴ちゃんにとっては迷惑だったよね。せっかくのクリスマスに僕の用事に付き合わせちゃってるんだから・・・・」
「ち、違いますっ!!迷惑なんかじゃありません!!」
「千鶴ちゃん?」
千鶴にしては珍しく声を張り上げたことに、今度は沖田が驚きの様子を見せて、千鶴を凝視してしまう。
ハッと我に返った千鶴は、頬をほのかに桜色に染めるて視線を足元へと這わせた。
「違うんです・・・・本当に迷惑なんかじゃ、ないんです・・・・」
「本当に?」
ポソリとした呟きを沖田の不安げな声がそれを遮る。
自分の態度が沖田を悲しませていると思った千鶴の心はギュッ掴まれたように痛み、勢いよく沖田を見上げ、た、のだが・・・・、
「そ、よかった♪ じゃ、ちょっとは脈ありって思ってもいいよね~」
「へっ?なにか言いまし・・・?」
その表情を視界に捉えた瞬間、千鶴はフリーズしてしまった。
目の前には、いつものように悪戯っぽく瞳を眇め、ニンマリとした笑みを浮かべている沖田の姿だ。
先ほどまでのしおらしい態度はどこへいった!?、と問いたいほどに意地の悪い笑みである。
「ん、なんでもないよ?千鶴ちゃんはまだ、気にしなくてもいいから。・・・【まだ】、ね?」
意地悪な笑みだというのに、それに反して新緑の瞳の奥に甘い雰囲気が潜んでいるのを無意識に感じ取った千鶴は一気に顔を紅潮させた。
かーっと全身が熱くなったような気がして思考がまともに働かなくなってしまう。
「クスクス・・・・このくらいでそんなに反応しないでよ。・・・後がもたないよ?」
駄目押しとばかりに耳元で囁かれた低音の声色に、千鶴はさらに硬直してしまった。
「さてと。いつまでもここに突っ立ってるわけにもいかないし行こうっか?」
「え・・・あ、はい」
つい今までのやり取りなど無かったかのようないつもの飄々とした態度に戻った沖田に、千鶴の硬直も僅かに解ける。
依然呆然としたままの千鶴へと声をかけた沖田は、千鶴が素直にコクリと頷くと、満足気な笑みを口元に浮かべた。
「じゃぁ、はい」
「え?」
そして、千鶴の前へと己の手を差し出したのだが、思考が鈍っている千鶴にはそれがどういう意味なのか気づくことができなかった。
「手、だよ」
「手?手がどうかしたんですか?」
「・・・・・それ。本気で言ってるの、千鶴ちゃん?」
「??」
まったくもって気づかない千鶴は不思議そうに沖田を上目づかいで見つめている。
そんな千鶴も可愛いな、と思いながらも沖田は軽く溜息を吐いた。
「手、繋ごう、って言ってるんだけど?」
「えぇええ!!??」
「ちょっと、そんなに驚くこと?」
「だ、だって、沖田先輩と私は、先輩と後輩なのに・・・・・」
「迷子になったら大変デショ?今日はすごい人混みだし、はぐれちゃうかもしれないし」
目を逸らしてゴニョゴニョと言い募る千鶴の言葉を遮るように、沖田はニッコリと言葉を続けた。
「へ?・・・・あ、そういう・・・なんだ・・・・」
呆気にとられながら大きな目を見開いて沖田を見つめ、沖田が告げた理由を脳内で反芻する。
「ん?」
「い、いえ!!なんでもないです!!気にしないでください!!」
そして、自分が瞬間でも想像した内容に恥ずかしくなって、それを誤魔化すように千鶴は鬼気迫った様子で沖田に告げた。
そんな千鶴にクスリと笑うと、再び手を千鶴の前へと差し出す。
「・・・そう?じゃぁ、迷子放送なんてかけなくて済むように、手繋ごうね?」
「もう、沖田先輩!!子供扱いしないでください!!」
「あははは。別に子供扱いなんてしてないよ?」
「いいえ、その顔は絶対にしてます!!」
ぷくーっと頬を膨らませてそっぽを向きながらも沖田の手に自分の手をおずおず重ねる姿に、沖田はますます笑みを深くしてしまう。
きっと照れ隠しもあるのだろうと分かってしまうから。
「ん~~。まぁ、そういうことにしておいてもいいけどねぇ?(本当に【子供扱い】なんてしてないんだけどなぁ)」
柔らかな千鶴の手をキュッと握ると、沖田は人混みの中へと足を踏み出した。
「それにしても・・・・千鶴ちゃんってば本当に単純なんだから」
手を繋ぎながら千鶴より半歩前を行く沖田は、千鶴に聞こえないような小声でポソリと呟きを漏す。
そう、この沖田とのやり取りで千鶴は自分が【あるコト】で酷く緊張していたことをすっかり忘れていたのだった。
(そんなところも可愛いんだけどねぇ~~)
千鶴が何に気を取られていたのか聞かないことにした沖田だったが、チラリと千鶴に視線を這わせてから正面に戻した。
「まぁ、いいけどね。僕でいっぱいにすればいいんだし」
せっかく千鶴と過ごす【今日(クリスマス)】の時間を手にすることができたのだから。
「沖田先輩、何か言いました?」
「うん?・・・千鶴ちゃんが手伝ってくれて助かるな、って言ったんだよ」
「・・・えと、お役に立てるかは分かりませんけど、私がんばりますね!!」
「頼りにしてるよ。女の子が喜ぶプレゼントなんて僕分からないし。っていうか、姉さんを【女の子】の括りにしていいのかは謎だけどね」
「沖田先輩!!ミツさんは素敵な女性ですよ。私から見れば憧れの女性なんですから!」
「ふぅん。千鶴ちゃんは姉さんが【憧れ】なんだ?」
沖田の目が細められ、声色が若干低められたことに気づかないまま千鶴は力説を繰り広げている。
「それに女の子は幾つになっても、心の籠ったプレゼントは嬉しいものですよ!」
「じゃぁ、千鶴ちゃんも嬉しいんだね?」
「はい?」
「心の籠ったプレゼントなら、なんでも嬉しいんだよね?」
「え・・・そう、ですね?」
念押しするような沖田に、思わず千鶴はタジタジになってしまう。
けれど、そんな千鶴とは反対に答えを聞いた沖田は爽やかな表情を浮かべる。
「そっか、嬉しいんだね」
「えーと、沖田先輩・・・?」
「どこから見ようか?」
「え?」
「二十代後半のおばさんへのプレゼントの定番ってなにかなぁ~~」
「沖田先輩!!二十代はまだおばさんじゃありませんよ!!
そんな会話を交わしながら、お互いの手が離れないようにギュッと握りしめながら二人は人混みの中を進んで行ったのでした。
<PM編/END>