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天気のいい昼下がり。
新選組一番組長・沖田総司は、肩に青々とした大きなものを担いでいた。
総司が正門を潜と、その先には昼の巡察からたった今戻ったらしい平助と原田の姿があった。

「あ、左之さん、平助。お帰り～」
「おぅ・・・って総司！なんだよその笹は？」

総司の飄々とした声に先に反応した平助は、総司が担いでいるものを見て怪訝な声をあげていた。

「あぁ、これ？さっき子供たちと採ってきたんだぁ」
「なんでだよ？」
「・・・平助、本気で言ってるの？」
「なんだよっ！その信じられないものを見るような目はよっっ！！左之さんだって分かんないよなっ！？」

総司の視線に耐え切れずに、平助は助けを求めるように原田へと同意を求めたが、原田もまた総司と同じ意味合いの視線を平助へと向けていた。

「え・・・もしかして左之さんも分かっ・・・てる？」
「あぁ。俺には分からないっつー、お前の方が分からねーよ」
「そうだよね。七月七日に笹を持ってれば一目瞭然じゃない？」
「だな」
「あ」

総司と原田は二人して首を縦に振って頷き合っている。
そして平助もその言葉でやっと思いたったのか、間抜けな声をあげた。

「で、でも、何で屯所で七夕なんてやんだよ！あんなの女子供の行事だろっっ！！」

気づいたものの取り繕うように、自分が気づかなかった理由を二人へと勢い良く告げる。
平助曰く、男ばかりの屯所で”女子供”の行事をやる理由が分からない、自分が気づかないのも当たり前じゃないか！・・・と。
そんな平助の言い訳に二人が憐れむような呆れたような顔を向けると、何だか居心地の悪いものが平助を襲った。

「な、なんだよっっ！？」
「・・・ま、確かに”女子供”が主の行事だよね」
「・・・あぁ、”女子供”のな」
「え・・・左之さん？総司？」

何故か何となく言った自分の言葉を強調して繰り返された平助は、意味が分からず二人の顔を交互に見やる。
そして、二人の口から徹底的な”理由”が告げられたのだった。

「「千鶴（ちゃん）は好きだろうな（ね）」」
「・・・・・・・・あぁああああああああああっっ！！！！！！！」

その事実に行き着いた平助は、屯所の中までに届くのではなかろうかという絶叫をあげていた。
平助の絶叫が終わるのを見計らって三人は移動し、笹を人目の無いところに立て掛けたてから総司の部屋へと場所を移した。

「・・・てなわけで、誰のための”七夕”か分かってくれたよね」
「あぁ」
「で、総司。何だって急に七夕なんて思いついたんだ？」

確かにである。
そもそも平助がすぐに”七夕”に思い当たらなかったのも、平助が言うように仕方がないといえば仕方がないのだ。
男のみのこの環境で”女子供”の行事を気にしている方が普通はおかしいだろう。－－”女”は居ないはずなのだから。
現に原田さえも、笹を見るまでは今日が”七夕”であることを忘れていたぐらいなのだから。

「あぁ。子供たちがはしゃいでたんだ。今日は七夕だからって。で、笹を採りに皆で行って来たんだ。千鶴ちゃんも喜ぶんじゃないかと思って僕も採ってきたわけ」
「なるほどな」
「あ、そういえば二人とも知ってる？」

何かを思い出したのか、総司は平助と原田へと、子供たちから聞いたんだけど、と前置きした上で話始めた。

「七夕といえば織姫と彦星の七夕伝説があるでしょう。七夕伝説に似た話で”羽衣伝説”っていうのがあるんだってさ」
「羽衣伝説ぅ～～？」
「あー、何か聞いたことがあるような気がすんな」
「で、総司。その”羽衣伝説”ってどんなんだよ」
「えーとね・・・・」


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（語り部：近藤さん）

ある海辺に近い村に住む若い独身の男が居りました。
その男の名を千鶴といいました。
ある日・・・

「・・・って、ちょっと待てよ、総司！なんで”独身の男”が千鶴なんだよ」
「ん？・・・その方が面白いでしょ？（ニコリ）」
「・・・総司、その笑顔怖えーぞ。・・・この後に何かあんだな」
「いやだな、左之さん。何も無いですよ？」

ある日、千鶴が日課としている海岸の散歩をしているときのことです。
この世のものとは思えないほど透きとおった美しい布・・・・ではなく、段だら模様の入った浅黄色の羽織が松の木の枝に幾つも掛けられていました。
いつもは無いはずの羽織に千鶴は首を傾げました。
ふと、一枚の羽織が浜辺に落ちているのに気づいた千鶴は木の枝に掛けようとそれを手にとりましたが、近くから水しぶきの音がすることに気づいた千鶴は水音のする方へと顔を向けたのです。
すると、そこには美しい・・・女（？）たちが水浴びをしていました。
けれど、複数いる女（？）たちの中、千鶴の瞳に映るのはただ一人のようです。


――さぁ、ここで質問です。
千鶴の瞳に映ったのは誰だったのでしょうか？
よかったら、アンケートフォームから投票くださいませ。


【つづく】
 

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