*第5話*動き出す闇(前)
久しぶりの守護霊シリーズです。
いつもとテイストがちょっとだけ変わっていきます。
少し本題が入ってくるかな??って感じです。
まぁ、お馬鹿なところはそのままな感じですけど(汗)
今回の5話は、前編、後編に分かれます。
前編には、ソウシはちょびっと、沖田はまったく登場していません。
平助祭り(笑)になってます。
(後編はソウシ&沖田祭りになる予定ですが)
そうそう、山南さんが新登場です!
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********************
涼やかで心地良い風が少女の頬をなでていく。
少女たちを覆う木々の隙間から見える夜空には淡い光を放つ満月が浮かんでいる。
『ずっと――さんといっしょに、ずっと・・・』
そう願った少女は自分の想いをこれ以上どう言葉にしていいのか分からず、目の前に立つ愛しい男の胸元へと身体を寄せている。
男はそんな少女の想いをしっかりと受け留めたのか、優しく少女の身体へと腕をまわす。
そして、少女の耳元へと口元を寄せて吐息のような囁きを与えた。
『・・・君は、ずっと僕のそばに』
それ以上の言葉はいらなかった。
二人の想いは確かに重なっていた。
それを証明するかのように二人の距離はどちらともなく縮まり、少女もそうすることが当たり前かのように瞳を閉じてその瞬間を待った。
男の吐息を微かに感じた次の瞬間、唇に温かな感触が触れた。
どれほどの時間、唇を重ね合わせていたのかは分からない。
優しい口付けとは逆に心は身体の奥底から湧き上がる熱で火照るかのようだった。
少女の目端に煌く雫が浮かんだ。
暫くして再び二人の間に距離ができると、少女はゆっくりと目を開く。
けれど、瞳に滲んだ涙のせいか男の姿がぼやけてしまいはっきりとその姿を捉えることは叶わない。
ぼやけたままの男の口元が動きを見せ、音となって少女の鼓膜を優しく響かせた。
「僕の心は永遠に―――ちゃんのものだよ」
============
白い清潔なベットの中で眠っていた少女はガラリと扉を開けられる音によって夢から覚醒を促された。
カーテンをシャッと開ける音とともに聞き覚えのある声がする。
「千鶴大丈夫か?」
幼馴染でクラスメイトである藤堂平助のものだ。
「平助、くん?」
「おう・・・気分はど・・・」
千鶴に視線を向けた平助は急に慌てたような表情をして千鶴の元へと寄った。
「ど、どうしたんだ、千鶴!やっぱすっげー調子悪いのかっ!!?」
「え、調子・・・?」
どこか痛いとかだるさは特にはない。
若干、何か違和感を感じないでもないが、身体はいたって平常だ。
そのため、平助が何を心配しているのか分からずに千鶴は首を傾げる。
「熱でもあるんじゃないのか!?顔真っ赤だし、涙目になってんぞ!」
「熱?・・・涙?」
目元を拭ってみると、指先に水滴がのっている。
ふと、その指先で自分の唇にそっと触れる。
夢とは思えないようなあの温かな感触が残っているような気がして千鶴はますます顔を赤くした。
「千鶴?やっぱ調子悪そうだな。・・・気づいてやれなくてゴメンな」
「え?」
ただ夢でのことを思い出して赤くなっていただけの千鶴は平助の言葉に慌てて顔をあげた。
その先にはシュンと子犬のように落ち込んだ様子を見せる平助の姿がある。
「本当は今朝から調子悪かったんじゃないのか?それなのに遅刻しそうになって走らせて・・・結局薫のせいで遅刻になっちまうし。だから、体力的にも心的っつーのかな、とにかく疲れちまって教室に着いた途端に倒れちまったのかなって」
「平助君が私を保健室まで運んでくれたの?」
「あ、あぁ。・・・っていうか、俺のせいなんだし当たり前だろっ!?」
平助の悔しそうな悲しそうな表情と声に、千鶴までもチクリと痛みを覚えながら平助へと声をかけると、いかにも平助らしい反応が返ってきた。
そんな平助に微笑ましさと安堵を覚えた千鶴は緩やかに純粋な笑みを平助へと向けた。
「ふふ・・・ありがとう」
「へっ?」
「平助くん優しいね」
「そ、そんなこと、ねーよ////」
千鶴が見せる愛らしい笑顔を正面からまともにくらった平助は顔を赤くさせると、それを隠すようにぷいっと顔を逸らした。
「どうしたの平助くん」
「い、やっ、なんでもねーよ!?」
普通にと念じながらも、残念ながら平助の声は裏返っている。
・・・千鶴の笑顔の威力なのか、平助が純粋ゆえなのか――どっちもかもしれないが。
千鶴から視線を逸らした平助の目に自分が持っているモノが映ったことで本来の目的を思い出したのか、多少落ち着きを取り戻して再び千鶴へと向き直った。
「それより、今日はもう帰った方がいいんじゃねーか。朝からずっと意識なかったんだしさ」
「朝から?って今・・・」
「もうお昼ですよ、雪村くん」
千鶴の疑問に答えたのは、ここ、保健室の主である山南敬助だった。
「山南先生!」
「げっ、山南さんっ!!」
平助の反応に片眉を僅かに上げて一瞥しただけで特に気にすることもなく、平助から千鶴へと視線を移すと、人好きするような柔らかな笑みを向けた。
「体調はいかがですか、雪村くん」
「あ、はい。もう、全然大丈夫です!」
「そうですか。・・・熱もなかったようですし、顔色もいいですね」
「はい、ご心配おかけしてすいませんでした」
「いえ、元気になったら良かったです。ですが、あまり無理をしてもいけませんからね、今日はもう帰った方がいいですよ」
「でも・・・・」
「そうそう無理すんなよ、千鶴!そのつもりでお前の鞄持ってきたんだしさ」
平助の手には確かに千鶴の鞄が握られていた。
そして、ネコのストラップが付けられている携帯も一緒に――
「そういうわけですから、今日は大人しく帰りないさい。・・・それとも私が作った特性の薬を飲みますか?」
「・・・い、いいぇ。遠慮します」
「おや、残念。では、雪村くんは病人ですし諦めて、藤堂君にでもお願いしましょうかねぇ」
「はぁああっ!?」
「教師(特に私)に向かって、”げっ”とは、年上への礼儀がなっていませんからね、これは教育ですよ。何か問題でも?」
「ありまくりだって!!山南さんの薬ってあの赤い液体だろーー!!?」
「おやおや、そんなに喜ばなくてもいいんですよ」
「喜んでねーしっ!!俺は絶対に嫌だからなっっ!!」
眼鏡を光らせながら怪しく嗤う山南に平助の顔は若干青くなっている。
「ち、千鶴、やっぱ早く帰った方がいいって!!俺、校門まで送るしっ!!」
「う、うん」
平助の剣幕に押された形ではあるが、千鶴は手早く身支度を整えた。
その間に山南は先ほどまでの怪しい気配を消し、保健医としての顔で千鶴へと言葉を向けた。
「雪村くん、気をつけて帰るんですよ」
「はい」
山南に見送られる形で平助に手を引っ張られながら、千鶴は保健室を後にした。
そして、帰り道――。
校門で平助と別れた千鶴は青空の下を一人で歩いていた。
桜色の愛らしい携帯を耳に当てながら。
『あー。ごめんね、千鶴ちゃん』
さすがのソウシも若干の責任を感じているのか、その言葉にバツの悪さのようなものが滲んでいる。
「気にしないでください、ソウシさん。私なら大丈夫ですよ」
『ん。相性がいいとはいえ、君にはかなりの負担になっちゃうみたいだね。昨夜もそうだったし』
「・・・そうみたいですね」
確かに否定できない。
実際にソウシが千鶴の身体を使った後に千鶴は気を失っている。
正しくはソウシが千鶴の中に入った瞬間から、ではあるが。
『君に負担がかからないように他の・・・っ!?千鶴ちゃんっ!!』
会話の途中でソウシは何かを感じたのか急に声を荒げた。
千鶴の名を呼ぶソウシに緊迫した様子が漂っている。
――人通りの多い街中とはいえ意外に死角は多い。
道端に等間隔に植えられた木々に視界を遮られたり、一歩路地裏に入ってしまえば人の気配などほとんどないだろう。
ソウシの変化の意味を理解する前に、何が何だか分からないまま千鶴はビルとビルの間の細く暗い路地裏の”人”など皆無の空間へと引っ張り込まれていた。
人通りが多いというのに街路樹によってちょうど死角になっている路地裏へと。
手に持っていた鞄と携帯だけをそこに取り残して。
【つづく】
★♪後書き♪★
久しぶりの守護霊シリーズです。
今回は少しシリアスちっくで終わらせてみました。
しかも続き。。。。
いや、また長くなるかも(汗)と思って切っちゃいました。
・・・はい、スイマセン。
今回、前フリだけだし・・・。
でも、平ちゃんや山南さんが書けて楽しかった♪♪
ふふ、これから山南さんにも活躍いただこうっと♪
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!