a week's fate~1day: transient lovers~
企画SS「a week's fate」の本編でございます。
序章アップしてからどんだけ経ってるんだっつー話ですよね(大汗)
はい、すいません。
ちょびっと際どい(?)チューとかの表現とかありますので、苦手な方はご注意くださいませ~。
ではではOKな方は、「読んでみる?」から本編へとお進みくださいませ。
▼読んでみる?▼
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始まりは雲一つない青空が広がる月曜の昼休みだった。
立ち入り禁止になっているはずの屋上で眠っている一人の男子生徒。
微かな寝息の音、均整のとれた胸元を上下させる鼓動の音――男子生徒以外の気配はないようである。
通常この学園――誠凛学園の屋上は生徒には解放されていないのだから、一人眠っている男子生徒の他に姿がないのは当たり前といえる。
いや、男子生徒が立ち入り禁止の屋上に居ること自体が問題ともいえるのだろうが、今のところ男子生徒がコッソリと屋上を利用していることを知っている者は一人も居ない。
立ち入り禁止の屋上を自分だけの秘密の場所としている男子生徒は、沖田総司という二年の生徒だ。
サラサラと触り心地の良さそうな茶髪、くっきりとした二重にアーモンド型の目、吸い込まれそうなほどに煌く翡翠の瞳に整えられた柳眉、すっきりした顎のラインに整った顔、しなやかな身体つき――そして、やる気のなさそうな退廃的な雰囲気が逆に沖田の艶を際立たせていた。
おまけに、大抵のことは努力しなくても人並み以上に出来るうえに、勉強も運動もソツなくこなせてしまう沖田を周囲の女子が放っておくわけもないだろう。
女生徒から絶大の人気を誇っていたため本人の意思とは関係なく一人になることが皆無となっていた。
沖田自身は誰かと行動を共にすることをあまり好んではいなかったのだが周囲が放っておかなかったのだ。
そんなわけで、何にも興味を持てずにいた沖田にとって、煩わしさから逃れられる唯一の場所がこの屋上だけだった。
沖田がこの世に生を受けてからの17年間、他人に興味を持つことや、夢中になる何かを見つけることは一度もなかった。
そのせいなのか、それとも他に理由があるのかは分からないが、この世界で生きること自体をツマラナク感じていた。
つまり、沖田にとって生まれてから今まで何一つ執着するものは何もなく、これからも無いだろうと思っていたのだ。
――少なくともこの日の昼休みまでは。
いつもなら昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り終わるまでは一人の時間を堪能するところなのだが、沖田以外誰も来ないはずの屋上の扉がカチャリと音を立てたことで一人の時間は終わりを告げた。
だが、立ち入り禁止で誰も来ないはずの屋上に第三者の気配が現れたというのに沖田は起き上がろうともせず目を閉じていた。
ここ一週間ほど、あまり体調が良くないせいか身体を起こすことが億劫だったのだろう。
沖田の体調不良はなぜか夜には回復する。
それどころか、目は冴え、普段以上に身体が軽くなり、感覚も鋭くなるのだ。
目下、売られた喧嘩は――瞬殺というオプション付きで沖田の圧勝という結果に終わる。
そして昼は、その代償のように身体が重く、ひどく眠気を感じてしまうのだ。
時には起き上がるのさえ辛さを感じるほどに。
最初は”夜型にでもなったのか?”ぐらいで、あまり気に留めていなかった沖田だったが、この状態が一週間続くうえに段々と徐々にではあるが症状が重くなっていている状態に自分の身体とはいえ不審感が募っていく。
だが、沖田は特にどうしようともしなかった。
病院に行ったとしても無駄だと本能で悟っていたのかもしれない。
そんな体調の事情もあって、沖田はそのまま眠ったフリを続けることにしたのだ――いや、そうするしかなかったのかもしれない。
目は閉じたままではあるが、意識はゆったりと近づいてくる気配を感じていた。
その気配が、傍らまで来たところでピタリと止まる。
そして、鈴を鳴らしたかのような心地の良い声が沖田の鼓膜を震わせた。
「やっぱり、ここに居たんですね・・・・・」
その声に何やら懐かしさのようなものを僅かに感じた沖田だったが、少女の”やっぱり”という言葉に引っかかりを覚え、意識が今の状況に向き直る。
そもそも立ち入り禁止の屋上のことなんて、誰にも言ったことなんてないはずだった。
誰も知らないはずの秘密の場所。
それなのにどうして、この少女は知っているのか?
そんな疑問が生じた沖田だったが、それもすぐに霧散してしまう。
「青空が好きなのは変わらないんですね」
今まで瞼裏で感じていた陽の光が翳ったかと思うと、懐かしむかのような柔らかな声が沖田の鼓膜を震わし、少女の細い指先が沖田の前髪をすっと梳く。
いつもなら勝手に触れようもならすぐにでも辛辣な言葉を放つ沖田が、大人しく好きなようにさせている。
沖田自身そんな自分に不可解な気分に包まれていた。
本来なら人に触られるのは嫌いな方だし、いつもなら好き勝手になんかさせたりなんてしないはずなのに。
それでも、まだもう少し――と、目を開けることができない。
「でも、こんな陽が差す場所で眠ってしまっては具合が悪くなってしまいますよ・・・『沖田さん』」
(――え?どういう意味?キミは誰?)
自分の名を呼ぶ少女の言葉の意味が分からずに沖田が思考に捕らわれたのと同時に柔らかな感触が唇に重なる。
「っ!!」
「んぅっ・・・」
触れたのは一瞬のことだった。
その僅かな時間、身体中の血が逆流していく感覚に襲われるが、それが治まってしまうと今まで感じていた身体の重さがふと消えた。
急激に身体が軽くなった感覚に反射的に目を開ければ、何かに耐えるかのように少女の黒真珠のような瞳が細められ、桜色の唇を固く結んでいる姿が視界に映り込む。
仰向けに眠っていた沖田に少女の顔が上から重ねられていたのだから当たり前なのだが、沖田と少女の目が数センチという至近距離で合わさる。
すると、少女は瞬時に苦悶の表情を消し、驚いたようにパチリと黒真珠の瞳を瞬かせた。
「・・・あのさ、いつまでそうしてるつもり?」
動こうとしない少女に、沖田が冷淡にも聞こえる声色で言葉を発する。
すると、状況を理解したのか少女は頬を赤らめながら慌てて顔を上げて沖田から離れた。
「あ、あの、私、ごめ・・・」
「キミ・・・誰?」
「え?」
上半身を起き上がらせた沖田は、寝ていたせいで乱れた髪を簡単に梳き整えながら顔を少女の方へと向けた。
沖田の問い掛けに少女は呆気にとられたように、首を傾げると黒真珠のように煌めく瞳を瞬かせる。
そんな少女に沖田は焦れたのか、苛立ったような声で先を促した。
「名前。キミ、初めて見る顔だけど」
「す、すいません!私、先日転校してきた一年の雪村千鶴といいます」
「ふーん。で、千鶴ちゃんは僕に何の用なの・・・まぁ、人の寝込みを襲うぐらいだからは想像はつくけどね」
「す、すいません!!・・・でも、それなら話は早いですよね」
「どういうことかな?(へぇこの子、大人しいタイプに見えるのに以外と・・・)」
わざと侮蔑するような視線と冷たい声を向けた沖田に対して、千鶴もまた先ほどまではと打って変わって大人しそうな外見に反した挑むような強い意志の篭もった瞳を沖田へと向けた。
「沖田先輩、ずっと・・・好きでした」
しばらく睨み合うように対峙していた二人だが、ふいに千鶴の桜色の唇から愛しさを告げる言葉が零れ落ちた。
それは紛れもなく、千鶴から沖田に対しての【告白】のはずなのだが、千鶴の告白に沖田は違和感を感じてしまう。
今まで数え切れないほど女の子からの告白を受けて来た沖田だったが、今までの女の子たちとは違うものを千鶴に感じたのだ。
十代の少女の恋心というには、もっと深く執念のようなものが感じられる気がする。
「あの、沖田先輩・・・だめ、ですか?」
だが、窺うかのように発せられた千鶴の声はつい先ほどとは違う戸惑った不安を滲ませたもので、その外見に見合った大人しく優等生タイプの女子高生そのものだった。
そう、今まで沖田の告白してきた茶髪で軽いノリが多い、いわゆるギャル系の女の子たちとは違うタイプ。
もっといえば、”遊び”とは無縁のタイプだ。
千鶴のタイプからいって告白するのに緊張して固くなってしまったという線が濃い。
沖田に寄ってくる女の子たちと違うタイプだから沖田も違和感を感じただけだったのだろう。
「あのさ、面倒なことになるの嫌だから先に言っておくけど、僕さ・・・・」
「【一週間のお試し】のことなら知っています。先輩が来るもの拒まずなのも、今まで沖田先輩に興味を持たせた子がいないことも、先輩自信が何にも執着を持てずにいることも――」
「へぇ・・・それを知ってて僕と付き合いたいんだ」
「はい・・・・・・それだけあれば【目的】は果たせますし」
「目的?じゃぁ、キミは僕のことを好きなわけじゃないんだ?」
「好きですよ。最初に言いました、私」
「そのわりにはアッサリしてない?ホントは僕自身のことなんてどうでもいいんじゃない?」
ただの大人しい優等生タイプの少女――そう結論付けようとしていた沖田だたが、不可解な千鶴に興味を持ち始めていた。
弱々しい態度を見せたかと思うと、強い眼差しを向ける。
いきなり寝込みを襲うクセに目が合えば頬を赤らめる。
”遊び”なんて通じないタイプに見えるのに、【目的】のために【お試し】でもいいと言う。
【目的】が何なのかは分からないけど、そこに千鶴にとって譲れない何かがあることだけは分かる。
千鶴から視線を逸らすことなく真意を探るように沖田は見つめ続けていると、どこか遠くを見るような瞳をした千鶴は青空を仰ぎながら桜色の唇をゆっくりと動かした。
「”君がすべてを諦めて未来をも捨てるというなら僕が君を殺してあげるよ――でも、死にたくないなら、君が僕との未来を望むなら絶対に諦めないで”・・・・」
桜色の唇から紡がれた言葉に沖田の翡翠色の瞳が訝しげに細められる。
「何それ?」
「昔、約束したんです。―――私の愛した人と・・・・だから私は諦めません」
「あのさぁ。やっぱりキミ僕のこと好きなわけじゃないんじゃない?そうだな、たとえば、その【愛した人】と僕を重ねてるだけじゃない?」
「そう、思いますか?」
「うん」
「そう思うのなら思っていただいて良いです。ですが、私が愛した人は沖田先輩です。だから――」
「だから、なに?」
「沖田先輩に幸せになって欲しいんです。あなたのことを愛してるから、約束したから」
「は?なに?君が僕を幸せにするっていうの?こんなツマラナイ日常を君が変えるっていうの?今まで一度も僕の世界を変えた人間なんていないのに?あはは・・・随分な自信だね」
「いいえ、私じゃありません。私はお手伝いさせてもらうだけです。貴方を変える――昔、貴方を取り巻いていた人たちとの出会いを」
「意味分かんないんだけど――でも、面白そうだね。君のお手並み拝見させてもらうよ。僕の彼女になった君が僕の世界を変えられるか、ね」
「はい、楽しみにしていてください」
千鶴は微笑みを浮かべると、沖田の傍らに膝つき唇を触れ合わせた。
「んっ・・・。これは約束の口づけです」
「ふぅん。約束、ね。じゃぁ――」
またすぐに触れ合わせることが出来そうな距離、言葉を発する度にお互いの唇へと吐息がかかる距離。
その距離で沖田は唇を三日月を描き、悪戯っぽい笑みを刻む。
そして、千鶴の後頭部に手を添えてぐいっと手前と押しつけることで、また唇を触れ合わせた。
「んっ・・・ぁっ・・・・んんっ」
それは触れ合わせるという表現よりももっと激しく奪うようなものだった。
生温かな舌が這うように唇をなぞり、薄く開かれた瞬間を逃すことなく口腔へと侵入させていく。
歯列をなぞった次には濡れたお互いの柔らかな舌を絡め合わせるような深いものだった。
角度を変えて何度も千鶴の口腔を蹂躙するのを堪能していた沖田だったが、昼休みの終了を告げるチャイムによって名残惜しさを感じながらも絡めていた舌を解き、重ねていた唇を離す。
その深さを如実と伝えるかのように銀色に輝く糸が二人を繋いでいる。
「はぁはぁ・・・っん」
「んっ・・・・僕からの”約束の口づけ”だよ。僕を楽しませてくれるならこのくらいしてくれないとね♪――それじゃ今日からの一週間楽しみにしているよ、千鶴ちゃん」
濡れた唇を手の甲でグイっと拭った沖田は先ほどと同じ悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、肩で息をしている千鶴へとそう告げると、屋上を後にした。
屋上の扉へと向かう沖田の表情は今までないほどの笑みを称えていた。
それは今まで沖田が見せたこともない期待を滲ませたもの。
屋上を去る沖田の背を見送る千鶴にはそんな沖田の表情を見ることは出来なかったのだが。
そして、背後で自分を見送る千鶴が哀しげな表情をしていることに沖田が気づくこともなかった。
「ごめんなさい・・・沖田さん」
誰もいない屋上で呟かれたその言葉にも――。
<to be continue...>
★♪後書き♪★
お待たせいたしました!!
やっと本編の1話めです。
これからどうなっていくのかドキドキしていただけていれば嬉しいのですが。
さて次回は”あの人”との出会いです。
ではではここまでお読みいただきありがとうございました!!