*第5話* 動き出す闇(後編)
お待たせいたしました!(待っていなかったらスイマセン)
たいしたことはないと思いますが、多少血の表現があります。
苦手な方はご注意くださいませ。
ふふふ、でもやっとこ一番書きたかったネタが書けた♪♪
これからのお約束にもなりそうかな?
▼読んでみる?▼
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ちょうど平助が保健室へと向かった昼休み時のある二年の教室――
総司は机にペタリと頬をくっつけて昼寝をしていた。
いや、昼寝をしているフリをしているだけである。
話しかけるな、という無言の主張なのだろう。
腕を枕代わりにして机に顔を埋めながら、総司は無意識に己の唇へと指を滑らした。
今もあの温もりが残っているような気がしたのだ。
ある意味、魔が差したとしか言いようのない出来事を思い出しモヤモヤとした気分になった総司はガタリと席を立った。
そして、机の横に掛けられた鞄を手に取る。
「総司、何ゆえに鞄を持つ必要がある?」
その声に隣の席へと顔を向けると、黙々と無表情で弁当を食している斎藤の姿があった。
総司がどうしようとしているのか分かっているうえで投げかけた質問だろう。
「調子悪いから帰ろうと思ってね。ホラ、僕さっきも保健室に行ってたくらいだし」
「ほぅ、それはおかしいな・・・4時間目の自習のときには”眠いから保健室に行ってくる”と聞いたような気がするが」
「あれ、そうっだったけ?そんな昔のこと覚えてないや」
「・・・だいたいアンタはいつもいい加減すぎる。先ほどの自習でも来週の自然学習の班決めがあるというのに”適当に決めておいて~”とは何事だ・・・」
「どうせ、はじめくんと同じ班なんでしょ、僕」
「な、何を言っている」
「だって、土方さんから”総司から目を離すな”とか何とか言われてんでしょ」
「アンタに答える必要はない」
「まぁ、どっちでもいいけどね。でも、今日は”気分”が悪いのは事実だし、帰るから伝えておいてよ。じゃぁね」
「総司!!」
まだ他にも言いたいことがあるであろう斎藤に耳を貸す様子も見せずに、伝えることだけ伝えた総司はスタスタと教室を出て行った。
そうして何の目的もなく街をぶらぶらとしていると、街路樹によって遮られた場所に見慣れた鞄と携帯が落ちているのを見つけた。
それを見つけたのは偶然だったのか、それとも偶然ではなく何かの力に引かれてのことなのか。
落ちていた携帯を手に取りながら嫌な予感が総司の中で駆け巡る。
それは紛れもなく千鶴の物だったからだ。
携帯に付けられたストラップは自分が千鶴にあげたモノなのだから間違えようがなかった。
「きゃぁああああーーーっっ!!」
その時、高いビルに挟まれて暗く細い通路の奥から聞き間違えようもない千鶴の悲鳴が総司の耳に届けられる。
考える間もなく千鶴の携帯を手にしたまま薄暗い通路奥へと駆け出していた。
総司の心臓が嫌になるほどにドクンドクンと脈打っている。
通路奥の小さな空間には思ったとおりの少女の姿があった。
けれど、何人かの男たちに壁へと追い詰められている千鶴の表情は恐怖で青く染まっている。
「千鶴ちゃんっ!!」
「・・・きた、先ぱぃ・・・んで?」
千鶴と自分の間に居る男たち。
男たちは緩慢な動きで総司へと身体を向ける。
「っっ!?」
男たちの着ているのは、不良ばかりが集まるという近隣の偏差値の低い高校の制服だった。
ズボンを腰で履き、靴を踏み潰している。
極めつけは手に鈍い光を放つナイフを握っている。
ナイフを持っていようとそれだけならただの不良にすぎず、身体能力なら剣道で鍛えられた総司の方が断然に上で十分に勝算はあっただろう。
だが、薄暗いこの空間の中に浮かび上がる男たちの容貌は白髪に血のように紅い瞳といった”異様”なものだった。
その瞳には正気の色は微塵もなく狂気しか感じられない。
総司の目の前にいる男たちはまるで―――
「っ・・・吸血鬼ごっこでもやってるわけ?でも、君たちあんまり似合ってないよね」
冗談みたいな言葉とは裏腹に総司の表情には明らかな警戒が浮かんでいる。
総司の携帯を握る手に力がこもる。
「ぃ・・・血、血ぃいいいいいいい!!!ぎゃはははははぁあああああ」
狂ったように男たちは笑い声をあげながら総司へと襲い来る。
すんでのところでナイフを避け、男たちの隙間を掻い潜って千鶴の前へと立つ。
白髪の男たちから千鶴を護るように。
「大丈夫、千鶴ちゃん?」
「・・・・は、ぃ」
「僕が来たからには大丈夫だから安心して?」
千鶴を安心させるようにいつもの悪戯っぽい声で告げる。
けれど白髪の男たちからは一瞬も目を逸らしてはいない。
総司の背中から緊張が漲っているのが千鶴にも分かる。
このままでは二人とも白髪の男たちによって殺されてしまうかもしれない。
そんな状態の中で千鶴は総司が握っている携帯の存在に気づいた。
(あ・・・ソウシさんなら沖田先輩を助けられるかもしれない)
助かるかもしれない、その可能性に気づいた千鶴はキッと目に力をこめて総司の握る携帯へと手を伸ばす。
正確には携帯のストラップへと――。
(ソウシさん、お願いします!沖田先輩を、沖田先輩を助けてくださいっっ!!)
(沖田先輩をって、僕は千鶴ちゃんの守護霊なんだけど・・・助けるなら千鶴ちゃんでしょ?)
(私はいいんです、それより沖田先輩を・・・・)
(まぁ、千鶴ちゃんらしいといえば、らしいんだけどさぁ・・・。千鶴ちゃんを助けるってことなら頑張るんだけどさ、彼をねぇ。気が進まないなぁ・・・)
(ソウシさんっっ!!)
(冗談はさておき、今の僕じゃどうしようもないんだよね・・・・悔しいけど)
冗談っぽいことばかりを並べていたソウシの声が、瞬間だけ苛立ちを含んだ音に変わる。
その変化に千鶴もハッとする。
今のソウシはネコのストラップの中に捕らわれてしまっていて千鶴の身体に乗り移らないと何もできないのだ。
けれど、今日はすでに千鶴の身体を使っており、更には千鶴に負担をかけて倒れさせてしまっている。
(私なら大丈夫ですから、沖田先輩をっっ!!)
(駄目だよ!君の身体を使わずに何とか君を護る方法を見つける―――)
――君を護るためなら、彼を・・・”沖田先輩”を犠牲にさせてもらう――
その言葉だけソウシは千鶴には言わずに飲み込んだ。
本気だと伝わるソウシの強さに千鶴は何も言葉を返すことが出来ずに唇を噛む。
「?・・・こんなときだっていうのにスラップがどうかしたの?」
千鶴が携帯のストラップに触れていることに気づいた総司は携帯を持つ手を自分の胸元に持ってきて、チラリと視線を走らせる。
その間も意識だけは男たちからは離してはいない。
指先だけを動かしてストラップへと総司が触れた瞬間、異変は起こった。
「なっっ!!??」
(なっっ!!??)
それはソウシにとっても予想もしてなかった変化だった。
ストラップに触れた瞬間、総司は体中が熱くなるのを感じた。
体中にマグマが流れ込んでいるかのようで口からは苦悶の声が漏れる。
総司とソウシ意識が重なり、もう一つの何かが生じるかのようだった。
襟元を掻き乱しながらその苦しみに耐える沖田の脳裏に何かの映像が走馬灯のように巡った。
『どうしても戦いたいというのですか?ならば――これを』
そう言ってビンに入った赤い液体を差し出す、千鶴と同じ顔をした男――
それがどんな意味を持つのか考えることなど出来ない。
「っっ、う・・・ぁああああああああ!!!」
千鶴は目の前で何が起きているのか把握できずに混乱を来たす。
そして、総司のその姿を見た千鶴は驚きで目を大きく見開き、手で口元を覆った。
「お、きた、先ぱ・・・い?・・・・ソウシ、さん?」
総司の姿は千鶴たちへ死の恐怖を与えていた男たちと同じものへと変じていた。
茶色の髪は白髪へ、翡翠色の瞳は血のように紅い瞳へと――
「・・・・僕は血に狂ったりしない、役立たずなんかじゃない。僕は、僕は・・・・」
身体の奥底から搾り出されるかのような低い声。
「沖田先輩?ソウシさん?・・・何を言って・・・?」
千鶴の瞳が不安で揺れる。
いつの間にか、沖田の手には携帯の代わりに銀色に輝く刀が握られている。
「・・・ああッ!!」
沖田は地を蹴ると狂った笑い声を上げる・・・羅刹たちへと刃を走らせる。
――まさに”鬼”というに相応しい圧倒的な強さ。
髪の白が、制服のシャツ、ベストの白が瞬く間に血の紅へと染まっていく。
「沖田・・・・さん・・・なんで・・・・」
いつもと違う呼び名が千鶴の口をついて出る。
血飛沫を纏ったまま、いつもどおりの笑みを千鶴へと向ける。
「そんな顔しないで、千鶴ちゃん。これは僕自身が選んだことなんだから」
その言葉の意味が分からないのに千鶴の胸にツキンとした痛みが走り、頬には涙が伝う。
言い終わると同時に沖田は限界が来たとでもいうように意識を手放した。
地に倒れ伏した総司の姿は常の茶髪へと戻っていた――
【つづく】
★♪後書き♪★
はい、シリアス編となった第5話の後半でございました。
次回はここら辺のことも踏まえつつも、またコメディに戻します。
(どうやって戻そう、なんて思ってませんよ?)←困ってるんだな。
余談ですが、この5話には番外編あったりします。
昼休みに入る前、つまり平ちゃんが来る前の保健室の話なんですけどね。
(つまり、今回長くなっちゃうから泣く泣く削った部分です☆)
では、お読みいただき、ありがとうございました!