廻るキセキ3~乙女の園に降り立つキセキ~
久しぶりの更新でスイマセン(汗)
オンリーも終了しましたので、更新用に戻れるかな、という感じです。
再度、お礼をば。
スペースまで遊びに来てくださった方、「いつも見てます!」との嬉しいお言葉をくれた方、本当に有難うございます!!感涙です。
あと、忙しくて中々コメントのお礼とかもできなかったのですが、コメント&拍手もありがとうございます。
いつになるか、本当にできるのかは分かりませんが、通販の検討はさせていただきます。
(こちらでの回答で申し訳ありません。)
では、今回の「廻る」ですが、副題のとおり乙女の園(笑)が舞台となっております。
そして、龍ちゃんx小鈴のかほりも漂っています。(龍ちゃんの登場はありませんが)
それでもOK!という方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
子供と大人の境目にいる【乙女】たちが、【桜のように柔らかくも凛とした】立派な女性になるように、が学園方針でもある桜凛女学園高等部――。
この学園はあらゆる意味で有名な学園だった。
制服が可愛いことでも評判のこの学園は巷の少女たちの憧れの学園であり、少年たちにとっても評判の学園である。
――曰く、可愛い女の子が多い、と。
そんな桜凛女学園高等部の一年一組の教室では、年頃の少女たちの浮かれたざわめきで満ちている。
その理由は、HRが終了する少し前から校門脇の壁に寄り掛かっている一人の男子生徒が理由だ。
窓際の席の少女が目敏くその男子生徒の姿を見つけ、帰りのHRが終了するのと同時に「校門に格好良いヒトがいる!!」の一言で窓際には少女たちの群れが出来上がった、というわけだ。
少女達の黄色い声が教室中に飛び交っている。
「きゃぁvvあの校門のところにいるヒト、格好良い~~!!」
「あの制服って、誠風高のだよね?」
「え!!あの!?ここら辺じゃ偏差値が高くて文武両道が信念の高校だよね!?」
「なんでココにいるんだろう?やっぱ誰か待ってるのかなぁー?」
「誰か、って彼女とかかなぁ!?」
「えーー!!だとしたらショックぅ~~」
そんな騒がしいほどに色めきたった周囲の声も聞こえないかのようにボーっと呆けている少女が一人。
机の上に肘をつき、何度なく頬を紅く染めたり、溜息をついている。
そんな少女の元に、他の少女たちとは違って噂の男子生徒には興味がない様子の小柄な少女が近づいていく。
黒髪をおだんごに結い、幼さを残したような表情の中にも意志の強さを宿した瞳が印象的な少女だ。
「千鶴ちゃん、帰りましょう」
「はぁ・・・・・・・・」
「・・・・千鶴ちゃん?」
おだんごに結った少女は、名前を呼んでも返事のない千鶴の顔を覗き込むように腰を屈めた。
千鶴の目の前で手を振っても反応はまったくといってない。
千鶴の黒曜石のような瞳にはおだんごに結っている自分の姿がバッチリと映っているというのに返事がないということは、意識がどこかへ行ってしまっている証拠だろう。
つい数日前にも同じような事態に遭遇しているだけにすぐに悟ってしまった。
千鶴の意識にまでは自分が認識されていないようだ、と。
そして、千鶴が【誰】を見ているかも。
千鶴が見ているのは、実際にはこの場にいないであろう【あの男】なのだろう。
千鶴と二人である番組の公開録画を観覧に行ったとき、初対面であるはずの千鶴に衝撃的な出来事をやらかしてくれた【あの男】だ。
(あのヒトは、千鶴ちゃんを知っているような雰囲気だったけど・・・・千鶴ちゃんは知らないみたいだし・・・・でも・・・)
あの茶色い髪と翡翠色の瞳をした男の姿を頭に思い浮かべながら、チラリと千鶴へと視線を向ける。
「あ、沖田とかいうヒトだ」
「え、えぇ!!沖田さん!?」
ポソリと少女が呟いた名前に、さっきまでは何度呼んでも反応のなかった千鶴が過剰なまでに慌てた様子で立ち上がり、教室中を見回したす。
「ウソよ、千鶴ちゃん。だから落ち着いて」
「へ、うそ?・・・って、あれ? 静ちゃん?」
大きな目をパチクリさせる千鶴におだんごの少女・・・静は、はぁ、と溜息をついた。
「ここに、沖田、とかいうヒトがいるわけないでしょ?」
「そ、そうだよね。え、えぇとぉ・・・・?」
気まずそうに眉根を寄せて困った表情を浮べる千鶴に、静は本来の目的を告げる。
「もう放課後だよ、一緒に帰りましょ?」
「へ?放課後?」
何度か瞬きを繰り返してから腕時計を覗き込めば、とっくに15時をまわっている。
「ね?とっくにHR終わってるでしょ?」
「う、うん。ごめんね」
おずおずと申し訳なさそうな表情になる千鶴に、静は安心させるように優しい微笑を浮べる。
「うん、大丈夫だよ。でも、千鶴ちゃんってば今日一日・・・ううん、一昨日といいボーっとしっぱなしだよ?・・・まぁ、仕方がないといえば仕方ないと思うけど・・・」
【一昨日】というキーワードを聞いただけで千鶴の顔が再び茹でタコの如く、真っ赤に染まってしまう。
「ふふふ、千鶴ちゃんってば正直ね。でも、その様子を見ると、嫌ではなかったのね?」
「へっ!?そ、そんなことないよ!!・・・たぶん」
慌てる千鶴の姿に微笑ましさを感じて静は笑みを漏らしてしまう。
【一昨日】のことは、本来なら怒ってもいいような出来事だというのに千鶴の反応は違った。
その様子を隣で見ていた静には千鶴の気持ちをなんとなく察することができた。
沖田とかいう男の気持ちも―――。
あの出来事の瞬間、静は突然隣で起こった出来事にビックリして呆けてしまったが、その次に沸いた感情は怒りだったのだ。
人目のあるところで女の子にいきなりこんな事するなんて許せない!と。
千鶴との間に割り込んで抗議してやろうとも思ったのだが、静が行動に移すことはなかった。
いや、椅子から腰を浮かしかけてはいた。
けれど、沖田とかいう男の目を見た瞬間、身体から力が抜けて椅子へと再び身体を沈めていた。
翡翠の瞳には千鶴だけが映っていて、心の底から千鶴が愛しいのだと、沖田とかいう男のすべてが物語っていた。
見ているこちらが思わず脱力して赤面してしまうほどに。
そして、困惑しながらも頬を赤らめる千鶴の姿は嫌がっているようには見えなかった。むしろ―――。
「一目惚れ、でもしちゃった?」
「ひとっっ!?・・・・分からない。でも、うん、ドキドキは、してる、と思う」
「そうだよね。いきなりあんなことされたら、驚いて【ドキドキ】しちゃうよね?」
「・・・・うん」
「そっか。そのドキドキが【驚き】によるものなのか、【恋心】からくるのか分からなくて悩んでたんだ?」
「・・・・うん」
千鶴は素直にコクリと頷くと、恥ずかしいのか顔を俯けてしまう。
同時に教室内では変化がおきていたのだが、俯いていた千鶴と、千鶴に意識が向いていた静は周囲のざわめきがさっきまでよりさらに大きくなったことに気づけなかった。
「だったらさ、もう一度、試してみればいいんじゃないかな?」
「「え?」」
声の出処へと視線を向ければ、楽しそうな笑みを浮べている翡翠色の瞳。
「あははは。二人とも同じような顔して・・・面白すぎるよ?」
千鶴と静は口をポカーンと開けて、ただ目の前にいる男の姿を見上げている。
先に我に返ったのは静だった。
「な、なんでアナタがここに居るんですか!?」
それもそのはずだ。
目の前にいるのは、どこからどう見ようと【男】で、ものすごく見覚えがある。
というか、たった今まで話題にのぼっていたのだから。
「うーん?千鶴ちゃんを迎えに来ただけだよ?授業は終わったはずなのに中々出てこないからさ」
周囲の視線も省みることもない飄逸な男に、自然と静の眉間に皺が寄る。
「だからって女子校の中にまで入ってくるなんてどういうつもりですか!?」
「だって通りかかった子に聞いたら、ココまで案内してくれたんだもん」
「はぁああ!?」
関係者以外を校内に招き入れるなんて何を考えているのか。
例え相手が【イケメン】と呼ばれる部類だとしても、もしストーカーとかヤバイ奴だったらどうするつもりだったのだろうと、静は頭が痛くなる。
・・・・いや、あながちストーカーではない、とは言い切れない何かあるような気がしないでもないが。
「ね。千鶴ちゃん、僕と行こ?」
いつの間にか沖田は千鶴の手をとると、その白く滑らかな甲に口元を寄せて切なげに目を細めてジッと千鶴の瞳を見つめている。
その表情は捨てられた子猫の哀願のようにも思えてしまう。
「は、はい・・・・」
千鶴の胸がキュンと痛み、口から出たのは了承の言葉だった。
「ちょ、千鶴ちゃん!?」
「え・・・あ、あれ、わた・・・!?」
「そう?良かったぁ。じゃ、行こうっか?」
静に名前を呼ばれたことでハッと我に返った千鶴だったが、間髪おかずに沖田がそれを遮るように声を発し、有無を言わせない笑顔をニッコリと浮べる。
「で、でも・・・ごめんなさい!!わたし、今日は静ちゃんと帰る約束を・・・・」
「大丈夫だよ、その対策はバッチリだから。僕って運がいいよねぇ、ホント」
「え・・・沖田、さん?」
「は?何のこと言ってるんですか?」
それでも何とか声を振り絞る千鶴の強い心に、ますます惹かれる自分を感じて沖田はほんわりと暖かなものが身体を廻る感覚に心を震わせる。
そして、静のことは想定の範囲内と、告げる沖田の口元には弧が描かれていたが、その瞳はキラリと光っている。
考えるまでもなく、何かを企んでいるのが分かってしまうほどに。
だからこそ突拍子のない沖田のセリフに訝しげな声しか出てこない。
「えーと、静ちゃんだっけ?この間も千鶴ちゃんと一緒にいたよね?どっかで会ったことあるなぁ・・・って思ってたんだけど、今朝ポチの顔見たら思い出したんだよねぇ~~。君さ、【井吹龍之介】って知らない?」
「いぶき・・・?」
「そう。彼さ、君のこと探してるよ?・・・【小鈴】ちゃん」
「いぶきりゅうのすけ・・・・井吹はん?」
告げられた名をなぞるように静の唇が動き、ポソリと最後に紡がれたのは京なまりの呼び名だった。
「静ちゃん?」
「あ・・・私?」
「どうしたの?顔が赤くなってるけど・・・」
千鶴の心配そうな声にも反応できずに、静はただ心臓の上のシャツをキュっと握る。
なぜか分からないが、【井吹龍之介】という名を聞いた瞬間から頬が火照り、心臓がドクンドクンと煩いほどに叫びをあげているのだ。
「・・・ねぇ静ちゃん、これは提案なんだけど。君さ、今日は【Re:peat】でお茶する気ない?知ってるよね、【Re:peat】」
【Re:peat】とは、都内を中心に店舗拡大中の人気カフェである。
口の中で蕩けるようなフワリとした優しく甘いスイーツたちは全国の女性を魅了するほどだ。
それは千鶴と静も例外ではない。
「知ってますけど・・・なんでですか?」
「べつに?今朝さ、知り合いから【Re:peat】の特別招待権を奪・・・じゃなくて、貰ったんだよね。今日からコッチにある【Re:peat】に移ったみたいでさ・・・ホント、生きるための仕事には事欠かないよね、カレは。しぶといというか、なんというか」
ケラケラと笑いながら、沖田は静の前へとチケットを一枚差し出した。
そのチケットを暫くジッと見つめ、それから千鶴へと視線を向けた静は溜息を吐く。
「・・・・分かりました。そのチケットいただくことにします。何か企んでいそうで嫌ではありますが・・・・」
「でも気になるんだよね、【井吹はん】が」
「っ!!」
「僕もそうだったよ。・・・気になる【誰か】が確かにいるのにそれが分からなくてすべてを諦めて【自分自身】を偽って・・・・でも、【キセキ】って廻るものだよね」
その言葉が嘘ではないと分かるほどの優しい微笑みを浮べる翡翠の瞳には、愛しい少女の俯いた姿が映っている。
「・・・めんなさい・・・・そ・・・じ、さん」
繋いでいた手に僅かな力が籠められたかと思った次の瞬間に聞こえたのは、謝罪の言葉と【昔】の幸せな時間での呼び名で。
「千鶴ちゃん?今・・・」
「え?私・・・・?」
顔を上げた千鶴の瞳は驚きに見開き、目端からはポロポロと大粒の涙が零れている。
千鶴自身、自分が何故泣いているのか、こんなにも切ない想いで胸がはち切れそうになっているのか分からずにいる。
それでも―――
「泣かないで・・・僕は今【幸せ】なんだ。けど、もっと僕を【幸せ】にできるのは、千鶴だけなんだからさ」
愛しい気持ちを隠しもしない穏やかな声と、涙を吸ってくれる唇の柔らかく暖かい感触に憧憬を感じずにはいられない。
そのまま身を任せるかのように目を閉じよう・・・としたが、したのだが、残念ながら閉じられることはなかった。
「「きゃぁあ~~!!いやぁあっっ!!」」
沖田にとっておいしい雰囲気を壊してくれたのは、さっきからソワソワと周囲から沖田を見ていた少女たちの悲鳴だった。
「や、やだ、私ったら・・・・」
沖田の向ける甘やかな雰囲気が懐かしくて、心地よくてそれが自然のことに思えて身を任せそうになっていたが、ここがどこだったかを思い出した千鶴の頬は急激に朱に染まっていく。
それを隠すように、沖田の胸に手を添えて突っ張ることで身体を離した千鶴の顔は床とご対面状態になっている。
バクバクと脈うつ心臓の音がいやに大きく聞こえ、周囲の音が耳に入ってこないほどだ。
(わ、私、今・・・・このまま沖田さんに・・・・キス・・・して欲しいって・・・・な、なんで??)
千鶴がどんな想いでいるかも知らない沖田にとっては、非常に面白くない状態で自然と眉間が顰められ、ムッとした表情になっていく。
「沖田さん、こんなところで二人の世界を作れるわけがないじゃないですか。むしろ途中まででも展開できたことに私は畏怖の念をアナタに感じますけど・・・・で、そのチケット私にいただけるんですよね」
「は?」
わざとらしく大きな溜息をついた静は沖田をジトリと睨みながらも、スッと手を差し出した。
「こんな所で二人の世界を展開されるのは迷惑です、というか、千鶴ちゃんが可哀相なので場所をかえてください」
「へぇ・・・それって今日の放課後の千鶴ちゃんとの時間を僕にくれるってこと?」
「えぇ、沖田さんの気持ちはよぉーーーく分かりました。それと千鶴ちゃんの気持ちも。私が思っていた以上でしたよ、まったく。それより分からないのは・・・・」
「自分の気持ち、だけだよね?」
「っっ!!ホント、千鶴ちゃん以外には容赦ないですよね、沖田さんって」
「そんなことないよ?千鶴ちゃんの友達で、僕の一応トモって呼んであげてもいいかもしれない男の【大事なヒト】だからね。これでも珍しいほどの大盤振る舞いだと思うけど?」
「そうなんですか?」
「そうだよ。この僕がここまでお膳立てしてあげてるんだから」
沖田はニッと笑いながらチケットを静の手に乗せると、千鶴の鞄を手にしてすぐに千鶴へと身体を翻した。
未だに放心している千鶴の耳元に寄せて吐息混じりに掠れた声で囁きを与える。
「ホラ、千鶴ちゃん。今度こそ僕とイコ?」
そうすれば千鶴がどんな風になるかも知ったうえで。
そして、目の前の千鶴は沖田の予想を一寸も違えることがない。
涙目に真っ赤に染めた顔で両手で耳を抑えながら口をパクパクさせて沖田を見ている姿は、可哀相になってくるくらいに可愛くて可愛くてしょうがない。
可哀相だと思うのに虐めたくなる、そんな表情。
我慢も限界を超えそうになった沖田が、場所を移すべく千鶴の手をとって校外へと出るまでの時間は一瞬かとも思えるほどの素早いものだった。
その僅かな時間の後さえもクラスメイトの悲鳴が教室中に響き渡り続けたのは言うまでもないだろう。
その中でただ一人悲鳴をあげていないのは、手の中にある一枚のチケットを大切そうに胸に当ている静だ。
そっと目を閉じてまだ見ぬ【井吹はん】を想うと、トクンと胸が高鳴るのを感じた。
暫くして目を開けば、千鶴の手を引いて校門を通り過ぎていく沖田姿が入り込んでくる。
「【お膳立て】って・・・・。なによ、自分が千鶴ちゃんとの時間を独占したかっただけでしょ・・・でも、一応アリガト」
それを教室の窓から見やりながら口にした静の言葉はクラスメイトの悲鳴によって掻き消されたのだった――。
<END>
★★後書き★★
いえーぃ☆龍ちゃんx小鈴を匂わせてやったぜぃ!!
黎明録・沖田ルートの龍ちゃんだけど、何かの瞬間に小鈴と出会っていて、沖田夫妻との再会後、小鈴とも再会して恋に落ちてる設定だぜ!!
いいじゃん、龍ちゃんx小鈴も好きなんだもん。
(一番はおきちずですけど。)
今度は、龍ちゃんx小鈴を番外で書こうかしらん。
それと、もうひとつオマケで佐々木xあぐりも登場させたいわん。(いつものことながら予定は未定!!)
あれ、佐々木で良かったんだよね??・・・調べなおさなきゃ。
では、お読みいただき有難うございました!!
廻るキセキ2~もう一つの邂逅~
やっぱり、やってしまいました。。。
「廻るキセキ」、シリーズものにしてしまいました。
というわけで、カテゴリーに「廻るキセキシリーズ」が増えてます。
う、うちのシリーズものは基本、1話読みきりなんで!!(汗)
今回の”2”は、沖田視点ではございません。
とある学校のとあるクラスでの出来事になっております。
さて、誰視点になっているでしょうか~~。・・・分かります?(笑)
ちなみに、千鶴は今回登場なしです。名前しかでてきません。
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
*************
今日からまたかったるい一週間が始まろうかという月曜日の朝――。
俺は朝のHRを知らせる鐘が鳴り響く廊下を歩いてた。
一歩先を行くのは今日から俺の担任となる教師で、白髪混じりに背広姿と、どこにでもいる中年の教師だ。
真新しい制服に着慣れていないせいか、居心地の悪さを感じながら教師の後を付いて行く。
すぐに目的の教室に着き、扉の前で教師の足が止まった。
目線を少しだけ上へと向ければ、プレートには【二年一組】と表記されている。
担任が教室の中へと入って行くのに続いて俺も教室へと足を踏み入た。
その瞬間、ざわめきが起こり始める。
「こら、お前ら静かにしろ!!今日は転校生を紹介するぞ」
すでに俺の噂はクラスメイトたちの耳にも入っていたみたいで、興味津々の視線が俺へと注がれている。
【転校生】だから注目されるのは仕方ないかもしれないが、ジロジロと値踏みでもされているようではっきり言っていい気分はしない。
自然としかめっ面になるのは仕方がないだろう。
俺は感情を隠すのはあまり得意じゃないんだ。・・・アイツみたいにふざけた態度と言葉で誤魔化すよりかはマシだと思いたい。
「皆、揃ってるか?」
俺を紹介する前に出席の確認をする担任の問いに答えたのは、クラスの盛り上げ役の一人らしい男子生徒だ。
「せんせー、沖田がまだ来てません~~」
「沖田が?珍しいな・・・」
「な、沖田ぁッッ!!??」
その名前を聞いたとたん、俺は思わず担任の言葉を掻き消すほどの素っ頓狂な絶叫をあげていた。
担任やクラスメイトたちから訝しげな視線が俺に向けていることに気づいて、気まずい心持ちで口を閉じる。
「井吹、どうかしたのか?」
「あ、いや、・・・昔馴染みの奴かと思って驚いただけ、です。・・・そんな偶然あるわけがないよな」
慣れない敬語で担任へと言い訳をすると、ポソリと自分を落ち着かせるように呟く。
そうだ、そんな偶然が早々あってたまるか。――それにアイツも【覚えてる】とは限らないんだからな。
「そうか?それにしても沖田が遅刻なんてめずらしいな」
「真面目君ですからねー、沖田って。暗いつーか、なんつーか」
「こら、佐伯!沖田はクラスメイトだろうが」
「だって、本当のことだしー」
クラスメイト全員が佐伯の言葉に頷いたり、嘲笑を浮べている。
そんなクラスメイトの態度にムッとして俺は顔を顰めた。
集団になれば、こういう手合いが居ることも理解できるが、気に入らないものは気に入らないんだから仕方がない。
だが、直ぐにそんな想いを隠すように俺は無表情を決め込むことにする。
基本的に面倒なことはお断りなんだ。・・・認めるのも癪だが、なんだかんだで流されちまってることがあるのは確かだ。
俺は気分を切り換えるように、得た情報を整理して沖田という奴の人物像を思い浮かべてみる。
担任とクラスメイトたちのやり取りを聞く限り、このクラスに在籍している沖田とやらは真面目だが、暗い性格で、クラスメイトとの交流もほとんどないようだ。
・・・・どこをとっても俺が知る”沖田”ではないな。別人で間違えないだろう。
あの神経を逆立てる言葉の数々を聞かずに済むかと思うと、俺の口からはホッとした溜息が漏れ出た。
なんとなく寂しさを感じてしまっているのは、俺の勘違いだろう。
今の溜息は、断じて、あの沖田じゃなくてガッカリした溜息なんかじゃないからなッ!!
俺はそんな自分を誤魔化すように軽く頭を左右に振っていたが、ふと堅い表情を浮べながら何やら考えている担任の姿が目に入る。
「連絡もないとなると心配だな・・・」
まぁ、今まで遅刻も、連絡無しに休むこともなかった生徒だったみたいだから担任が心配になるのも当然か。
暫しの逡巡の後、沖田の家へ確認の連絡を入れた方がいいと判断した担任が自習を言いつけようとしたのと同時にガラリと教室の扉が音を立てて開かれた。
音に反応して、自然と視線は扉の方へと向けられる。
「ふぁあーー、おはよーございます」
教室にいる全員にとってもそれは同じのようで、一人の生徒へと注目が集まった。
その生徒は、口を手で覆いながら眠そうに欠伸をしている。
その証拠に、寝ぼけたような締まりのない緩い声色で朝の挨拶を口にしながら、だるそうな足取りで教室へと入ってきた。
俺以外は、その生徒に見覚えがないようで一瞬呆けた後、探るような目つきになっている。
俺といえば、目の前にいる男の姿が信じられずにいる。
何か言いたいのにそれを言葉にすることも出来ずにもどかしい想いでいっぱいで、ただ、指先をソイツへ突きつけながら口を馬鹿みたいにパクパクと動かしているだけだ。
そんな俺をよそに教師は正体不明の生徒の前に立ち塞がり、怪訝な表情を生徒へと向ける。
緩められた襟元に巻きつけられているのは、ここにいる男たちと同様の赤のネクタイだ。
この学校では、学年ごとにネクタイ(女子はリボン)の色が違う。
赤のネクタイをしているのだから二年であることは確かなようだが、見覚えの無い生徒から担任が視線をを外すことはない。
ソイツが一目見たら忘れられないだろう存在感を放っているだけに、この学年の担任を持っている教師がその生徒に見覚えが無いのが腑に落ちない、といったところなんだろう。
そんな担任と対照的なのは女どもで、クラス中の女生徒たちが色めき立っている。
女生徒の顔には期待に満ちた色が浮かび、顔を赤くさせているものや見惚れてしまっている女生徒がほとんどだ。
見覚えの無いその生徒をチラチラみては女子同士で小声で盛り上がっている。
ついでにいえば、男子生徒に到っては面白くなさそうに文句を言い募っているんだが。――それもそのはずだよなぁ。
眠そうにしているコイツは、整った顔立ちに、均整のとれたスタイルの持ち主だ。・・・【剣の天才】とまで言われてたからな、今も剣道かなんかでバッチリと鍛えてんだろうよ。
眠いせいで細められているが切長の目にパッチリとした二重、輝く翡翠色の瞳、鼻筋スッととおり、薄く形の良い唇、緩めた襟元から覗く綺麗な鎖骨、広い背中に細い腰と見事な逆三角形の身体・・・と、その生徒を形取るものはすべてにおいてイケメン】と呼ばれる部類のものであり、女生徒が騒ぐのも当然だ。
確かにコイツが【イケメン】であることは認めるが、非常に面白くない。
顔良し、頭良し、運動神経もバツグンで、剣の才能もあり強い・・・・・・何の嫌味だ。
まぁ、性格は悪いがな。
と、まぁ驚愕しながらも頭の中では冷静な思考を巡らせていたんだが、俺の横で担任の声がソイツへと向けられる。
「君、何組の生徒だ?」
「何組って、ここに決まっ・・・・」
「沖田ぁああああああっっっ!!!!!!!!!!」
担任の質問にソイツは寝起きの呆けた声で答えようとしたが、それを掻き消したのは俺だ。
先ほどから空気にしかならなかった言葉がやっと音に変って絶叫となった。
俺とは逆に言葉をなくしたのは、担任やクラスメイトたちだ。
正体不明の【イケメン】生徒が、あの【真面目で暗い沖田】だということや、沖田と俺が知り合いらしいという事実に、担任やクラスメイトたちは言葉も無く俺たちを凝視している。
「あれー、井吹君じゃない。久しぶりぃー」
そんな教室を包み込む雰囲気にも沖田は気を留めることはせずにその口元に笑みを刻んでいる。
その表情はクラスメイトたちにとっては初めて見るものかもしれないが、俺にとっては見慣れた飄々とした笑みだ。
――懐かしさを感じるのと同時に、思わず”あの頃”を思い出してイラッとくるぐらいにな。
「”久しぶりぃ”じゃねーよ!なんで沖田がココにいるんだッ!?」
「何でって、当たり前のことを聞かないでくれない。そんなことも分からないくらいに馬鹿なわけ?――普通【犬】は賢いものなんだけどね。まぁ、君は別かもしれないけど」
やっぱり沖田は、俺の知ってる沖田だった。
この様子だと記憶もあるみたいで、挨拶代わりとでもいうように平然と嫌味を繰り出してきやがる。
「”犬”って言うな!芹沢さんが勝手にそう呼んでただけだろう!!・・・ってそうじゃなくてだな!このクラスの”沖田”とやらは真面目で暗いヤツじゃなかったのか、って話をしてるんだよ!!お前とは正反対の”沖田像”を聞かされていたんだよ、俺は!!」
沖田の言い様に一気に血が頭へと上り、声が大きくなってしまう。
あんな風にクラスメイトたちに言われていたのに当の本人は飄々としていて、俺は意味も分からずにイラツキを覚えた。
「うるさいよ、井吹君。”真面目で暗い”って失礼じゃない?」
「俺が言ったんじゃないっ!!こいつらが言ってたんだよ!」
「ふぅーん、そう。・・・まぁ、当たり前といえば当たり前かなぁ」
【ふぅーん】って気の無い言葉はなんだよ!?
お前はそんな奴じゃなかっただろう!!
んなことを言おうものなら十倍どころか百倍返しは普通だっただろ、お前っ!!
と、思ったが、それが勘違いであることに気づく。
少なくとも今俺の目の前にいる沖田は、昔のまんまの反応をしているからだ。
チラリとクラスメイトたちへ視線を向けた沖田は相変わらず笑みを浮べていたが、目は笑っていなくて禍々しいほどの殺気が放たれている。
教室の中が一気に氷点下まで下がったような冷気に包まれる。
教師もクラスメイトたちもゴクリと唾を飲み込んで、沖田から目を離すことができない。
目を離した瞬間に命を奪われかねない緊張感が漂ったが、それは一瞬のことだった。
沖田がすぐに興味をなくしたかのように、俺へと向き直ったからだ。
「”当たり前”ってなんだよ。このクラスの”沖田”がお前なら、普通は”真面目で暗い”じゃないだろ。どっちかっていうと、”捻くれた性格の油断ならない奴”だよな!?」
「・・・・・・・・・」
クラスメイトたちは沖田の興味が俺へ向いたことで安堵の溜息をつく。
つまり、自分に被害が及ばなければ問題はない、ということなんだろう。
――沖田としては、そんな奴らに構うのも馬鹿らしかっただけなのだが。
「つーか、その前にクラスの奴らがお前のこと表立って好き放題言えるはずがないよなっっ!!近藤さんとあの可愛い嫁さんと子供以外には血も涙も無いお前なら、【斬っちゃうよ】とか言って殺気だけで相手を殺せるもんな!?」
だが、久しぶりの”犬”呼ばわりに多少頭に血の登っていた俺は、自分の失言に気づくことが出来なかった。
「ちょっと、井吹君・・・なに失礼なこと言ってくれちゃってるわけ?濁流に突き落とすだけじゃなくて今度こそキッチリと斬ってあげようか?」
「っ――――」
沖田の表情から完全に笑みが消えたところで、俺はやっと自分の失言に気づいて口を閉ざす。
「それと――確かに千鶴は可愛いけど、手をだしたらどうなるか・・・・分かってるよねぇ」
言葉が進むにつれて沖田の声色が低くなり、目も据わり始めている。
コイツ、本気だ。俺には分かる。
「ちょ、ちょ待てって!!お前の【斬る】とか【殺す】は冗談にならねーんだって!!」
”あの頃”の話とはいえ、沖田には近藤を暗殺しようとした隊士を斬ったという前科があるのだ。
しかも、再会した際に目の当たりにした、沖田の嫁さんへの惚れ込み具合を考えると冗談で済ますわけにもいかないだろう。
「あはははは。嫌だなぁ、井吹君。・・・当たり前じゃない、【本気】なんだから」
沖田は俺の考えがあっていることを証明するように、形だけの笑みをその整った顔に微塵も浮べることもせずに乾いた笑い声とともに、ドス黒いものを秘めた言葉を口にする。
俺、マジでヤバイかもしれない、俺は転校初日にして命を落とすことになるのか!!??
い、いや、それは勘弁してもらいたい。
俺は、俺は、まだ【アイツ】に再会してないんだッッ!!ここで死んでたまるかッ!!
「だからッ!俺がお前の嫁さんに手を出すはずねーだろ!!お前、本当に近藤さんと嫁さん以外には容赦ねーよなっっ!!」
【アイツ】のことを思い浮かべた俺の目には力が込もり、意志だけでも沖田に負けないようにと睨み返したんだが・・・。
「当たり前じゃない・・・・僕を信じてくれたのは、信じさせてくれたのは、近藤さんと千鶴だけなんだから―――――。」
予想外のことに、沖田は寂びしそうな色を表情と声に滲ませた。
沖田が抱えるもう一つの側面を思い出す。
それは自分と似すぎている部分。その気持ちが自分のことのように理解できてしまう部分だ。
「沖田・・・・」
昂ぶっていたものがスッと落ち着いていき、静かな声色で自分と似すぎた”友”の名を呟く。
「あと―――、かな」
沖田の口からふいに漏れた小さな呟きは、音になるかならないかのものだった。
「何か言ったか、沖田?」
「別に何も。・・・ただ、井吹君は相変わらず人に流されやすいな、って言っただけ」
再び意地の悪い笑みとともに意地の悪い言葉をぶつけてくる沖田に、俺の肩が怒りに震える。
「おーきーたぁああああ!!!今日という今日は絶対に許さないからなぁ!」
「君が僕に敵うと思ってるわけ?」
「うっ!!」
「・・・・そこで怯まないでかかってくれば、少しは認めてあげたのに。本当に井吹君って変ってないよね」
「くっ・・・お前もなっっ!!」
その後も俺たちは、唖然としている担任とクラスメイトを無視して久しぶりの再会を堪能したのだった。
――だが、疑問が残ったままだ。
何故、沖田がクラスメイトに【真面目で暗い】と評されていたのか、ということだ。
まったくもって腑に落ちん!!
<END>
★★後書き★★
やはり「廻る」がシリーズになってしまいました(汗)
黎明録をやったら、この「廻る」でやりたいネタが増えたともいふ。。。
・・・と、いうわけで今回は龍ちゃん視点にしました。
龍ちゃんと沖田のコンビも好きなのよねぇ。
そして、龍ちゃんx小鈴も好きだ!!
あ、書いちゃったけど、そのうち小鈴もだしますよ♪♪
絶対、沖田x千鶴に絡ませてやるvv
では、お読みいただき有難うございました!!
廻るキセキ~後半~
お待たせいたしました。
後半になります。
先に謝っておきます。
短編と言っているわりには長いです(汗)
そして、収集がついていないような・・・(汗)
そしてそして、最初に求めていたものが入れられなかったデス(泣)
というわけで、この転パロ・・・・シリーズになるカモ(大汗)
いや、シリーズといっても、この設定で書きたいネタが3つほどあるってなだけです。
・・・と、まぁ、そんなことはどうでもいいですよね、スイマセン。
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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あれは――――山々が彩を見せ始める秋の頃だったと思う。
確か、僕たちは言葉も無く見守っていたんだったけ。
紅葉がはらはらと舞う中を二人寄り添いながら、ふと消えていく男女の姿を。
消えていく瞬間の二人の表情は柔らかいもので、お互いが愛しくてしょうがなくて、”来世での自分たちの幸せ”に想いを馳せているように見えた。
千鶴ちゃんは二人が消えて居なくなっても暫くの間、二人が居た場所を見つめ続けていて。
そう、だから―――瞳を潤ませながら真摯な瞳で見つめ続ける千鶴ちゃんに僕は聞いたんだ。
そして千鶴ちゃんも、戸惑いながらも答えてくれた。
それから幾つかの言葉を交わした後、僕は言ったんだ。
『―――なら、僕も自信ならあるんだけどな。生まれ変わっても君を見つけ出す自信あるよ。そうだなぁ、例えば僕の記憶が無かったとしてもね』
千鶴ちゃんは羞恥で頬を染めて僕から顔を逸らすと、”からかわないでくださいっ!”なんて言ってさ。
僕はといえば、その可愛すぎる反応が僕を刺激してることにも気づいていない千鶴ちゃんに愛しさが募って、もっと千鶴ちゃんの可愛い反応が見たくて―――――
『からかってなんてないよ。じゃぁ、賭けてみる?』
――――って。
それから、”賭けの約束”のために僕たちは指きりをした。
仄かに頬を紅くしながらも差し出す、千鶴ちゃんの小指に僕の小指を絡ませた。
そして僕と千鶴ちゃんは、お互いの小指を絡ませて”賭け”を成立させた。
『嘘ついたら―――――――のーーまーすー♪♪』
そう”約束”して、絡めていた指を解けば、千鶴ちゃんは僕を凝視していたっけ。
顔から湯気でも出そうなくらい真っ赤にさせて、口をパクパクさせて、ね。
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”昔”のことを思い出しながら―――というか、あの時の千鶴ちゃんの表情を思い出して、微笑とともに小さな声で呟いていた。
「クスッ・・・”賭け”は僕の勝ちだね、千鶴ちゃん」
一旦は顔を上げたと思った僕が再び俯き、ポソリと呟いたのが微かに司会者の男にも聞こえたようだった。
「沖田さん、何か言いました?」
そう僕に聞いてくる司会の男の声には、若干、引いている音が混じっている。
そりゃそうだよねぇ。僕の今の見た目で俯きながら笑ってれば、意味が分からない人から見たら”不気味”の一言だよね。
だって千鶴ちゃんも近藤さんも居なかったから、どうでも良かったからね。
っていうか、他人の相手するのが面倒だったから遠ざけてたんだよね、今思えばさぁ。
でもまぁ、不審に感じているだろうに流石はプロというところかな、そんな様子は微塵も表には出してこない。――――でも、悪いけど、僕の感覚って鋭くなってるから分かっちゃったんだよねぇ。そのぐらいの気配は読めないと、命に関わる世でしたから。
「・・・・いえ、すいません。あの、こんなカッコイイ人達に囲まれて気後れしちゃって」
一瞬の間に思考を繰り広げた僕は、さっきまでの気後れしています、という雰囲気を崩さずにいることにした。おまけして、たどたどしい口調で答えるっていうオプションもつけてみる。
「あぁ。そうですよね、本当に素敵な人達ばかりで僕も驚いたくらいですからね。そこらへんの芸能人よりも煌びやかな人たちが揃ってますからね、女の子達は嬉しいんじゃないですかねぇ~」
僕の態度とその言葉で納得したのか、司会の男は僕の言葉に、うんうんと首を縦に動かしながら頷き返した。僕もそれに頷きを返す。勿論、意図があってのこと。
「そうですね。特に土方さんは”イケメン”さんですよね」
そう笑顔で司会の男に答えた僕は、一瞬だけ言葉を止めて土方さんへと眼鏡越しに視線を向ける。
「・・・・でも以外ですよね、こちらの土方さんも俳句が趣味なんて」
「っっっ!!??」
何気なさを装ってその言葉を口にした僕に、土方さんは驚いたように目を見開いて僕を凝視した。
俳句のことを口にした僕に対して土方さんの表情には、何で知ってる?、とありありと浮かんでいる。
まぁ、僕のことを、昔馴染みの『沖田 総司』だと思っていないようだから当たり前か。
「あ、すいません。実は、ついさっき、このメモ帳を拾いまして・・・・拾い上げた拍子に中身が見えてしまったんです」
「なっ・・・・・それっっ!!」
声を荒げそうになったけれど、土方さんはハッとしたように押し黙ってしまった。
土方さんの良く知る『僕』なら遠慮なく怒鳴るんだろうけど、今は違うもんね。
怒鳴りたくても怒鳴れない、そんな心境に口端を噛み締めてグッと押させているみたい。
そのせいか眉間にも深く皺が刻まれている。
他の皆も『僕』という存在を図りかねているみたいだ。
だって、一度は僕を『新選組の沖田総司ではない』って結論付けちゃってたみたいだしね。
そんな皆の様子に僕といえば楽しくてしょうがない。
「現代の”豊玉発句集”でも出してみたらいかがですか?」
トコトコと歩みを進めて司会者の元に用意されていたパネルを手に取った僕は、しおらしい態度のまま土方さんへとそのパネルを向ける。そのパネルには、”豊玉発句集”の中から抜粋した幾つかの句が書かれていた。
「昔のものはこんなに有名になって、皆知ってるんですから隠すことないですよ」
「おまっっ!!??」
あはははは、迷ってる迷ってる。
僕を『沖田 総司』かもと思いつつも断定できない、と。
だってわざと微妙な言い回しにしてるんだから当たり前ですよー、土方さん♪
「あれ?ハチさん、どうかしたんですか?」
「いや・・・・”ハチ”とはなんだ?」
難しい顔をして僕を見ていた――僕の手の中にある土方さんの手帳を見てたんだよね。うん、分かってる。―― 一君は、聞きなれない呼び名に一君は目を瞬かせて僕を見ながら、低い声でその聞きなれない名を呟いた。
「あの駄目でしたか?親しみを込めて、あだ名を付けてみたんですけど」
弱弱しい声で言えば、いや、別に・・・、と満更でもない様子を見せる。
本当に一君ってたまに天然だよね。”ポチ”のときといい、本当に面白い反応してくれるよね。
土方さんの怒りっぷりと一君の天然ぶりが面白くて気を良くしていた僕の視界の端に、なにやらコソコソと相槌をうちながら話してる三人の姿がふと映った。
もしかして、この三人は傍観組みだから気づいたのかな?
「おい、”ハチ”って、あの”ハチ”のことじゃねーか?」
「おぅ佐之、奇遇だな、俺もちょうどその”ハチ”を想像してたぜ」
「右に同じく、っていうかさぁ、的を得すぎじゃねぇ?」
・・・・っていうか、ソッチ?一君の”ハチ”の方に反応しちゃったんだ?
本当にさ、”三馬鹿”て呼ばれるだけはあるよね。
佐之さんまでが”ハチ”に意識がいっちゃってるのはビックリだけど。
まぁ、いいか。とりあえず三人の話に乗ってみよう。
「だよねぇ~・・・・一君にピッタリだよね、”ハチ”ってあだ名」
「「「っっ!!??」」」
背後から声をかければ、三人はビクリと身体を固くしてしまった。
離れた場所に居ると思っていた僕の声が間近で聞こえてきたから驚いたんだろう。
「なっ、なんで!?ていうか・・・・っ!?」
急に背後に立っていた僕に驚いたのか、平助と新八さんは目と口を開いてアホ面を晒しながら僕を凝視していたけど、佐之さんだけは探るような視線を僕に向けていた。
気づいた、かな?
「あぁ、なんか面白そうな話を皆さんされていたんで、こっちに来ちゃいました♪」
とりあえず佐之さんの視線に気づいていないふりして、僕は無邪気な声で平助の問いに答えることにする。
「”来ちゃいました♪”って・・・・それよりお前、今気配無かったよな?」
口端を吊り上げてニッコリと笑って僕はスタジオ中を見渡した。
「そんなことより皆、土方さんの俳句を見てみたいよね?特に一君は土方さんの俳句を読んでみたいんじゃないの?皆も気にならない?”今”の土方さんがどんな句を読んでるか興味があるんじゃない?ねぇ、佐之さん、新八さん、平助。近藤さんも気になりますよね?」
ニッコリをニヤリの笑みに変えた僕は、昔と同じ呼び方で皆の名前を口にする。
皆は咄嗟には言葉にならなかったのか、一瞬の静寂が包んだ。
たった一人だけ反応したのは、もちろん優しくて、人望も厚い人だけだった。
「そうだなぁ、確かに気に・・・・」
けど、近藤さんが同意をしてくれようとしたのと同時に皆の大声がスタジオ中に響いた。
「てめーーー、やっぱり”総司”だなぁああああ!!!」
「「「「”総司”かっっ!!!!!」」」」
あぁもう、本当に面白いなぁ。皆、昔と変わらないんだから。
けど、近藤さんの言葉を遮るのは許せないかなぁ・・・・後で覚えてなよ?
「何言ってるわけ、皆?”沖田総司”だからココに居るんだけど?」
肩を竦めてわざと呆れた様子で言い放つと、分かるわけないだろ、と皆は次々に言い募り始めた。
「てめーは、いつもいつも、ふざけんのもいい加減にしろよ!!」
「そーだ、分かるわけないだろっっ!!最初んときと雰囲気が全然違うじゃんかっ!!な、佐之さん、新八っつぁん!!」
「平助の言うとおり、だぜ。どうしちまったんだよ、総司!?第一、眼鏡なんかしてるから顔が分からないだろーがよっ!!」
「おぉ、そうだぜ。そもそも総司が、そんなにきっちりと制服を着ていることからして違和感だなんだよ、んなネクタイも斎藤みたいにきっちり締めてるしな」
「・・・佐之、ネクタイをきちんと締めるのは悪いことじゃないと思うが・・・だが、総司が何もせずに大人しくしているわけがないな」
好き放題言っちゃってくれてる皆に対して流石の僕も少しムッときているときだった。
「あのー、皆さんはお知り合い、だったんですか?」
僕たちのやり取りが一段落着いたと踏んだのか、司会の男はこのチャンスを逃すまいと口を挟んできたようだ。
初対面であるはずの僕たちが旧知の仲に見えることに疑問でいっぱいになっているだろうこの場にいる全員の代表としての質問でもあるんだと思う。
「まぁ、そんなものです。あと一人、欠かせない子がいますケド」
「欠かせない?」
「そう。”新選組”にとって―――僕たちにとって欠かせない子ですよ」
僕がそう口にすると、皆も表情を引き締めて頷いている。
司会の男たちにとってはまた疑問が増えたようなものだと思うけどね。
歴史上では一文字たりとも名前は出てはこないんだから、知るわけがない。
でも紛れもなく”新選組”の屯所で一緒に暮らしていた、大切な子。
僕は観覧席へと顔を向ける。
――――ねぇ、この僕たちのやり取りを見て、君も何か感じてくれてるかな?
僕の行動に、土方さんたちさえ意味が分からなかったようで眉を顰めながらも僕の次の行動を伺うことにしたようだ。
「ね、千鶴ちゃん?」
昔、あの『賭け』をしたときと同じように目を細めて悪戯っぽい笑みを浮べた僕は、ただ愛しいその名を呼ぶ。皆はというと、千鶴ちゃんがこの場に居ることに気づいていなかったのか、驚いたように僕が見つめている方向へと視線を走らせた。
「え、え?・・・・わ、たし??」
いきなり自分の名前を呼ばれたうえに僕たちの視線を集中的に受けた千鶴ちゃんは、自分で自分を指差して左右に首をふって辺りを確認しながら、戸惑った様子で愛らしい声をあげた。
その様子から見て記憶はないんだね、さっきの僕たちを見ても何も感じてなかった?
「そうだよ・・・君しかいないでしょ、雪村千鶴ちゃん」
僕は眼鏡を外して千鶴ちゃんをジッと熱い視線で見つめると、肯定の言葉とともに千鶴ちゃんの名を殊更に甘く呼んだ。
千鶴ちゃんが息をのむのと同時に、スタジオ内からもどよめきの声があがっていた。
でも僕はそれを無視して、困ったようにしながらも頬を仄かに赤く染めている千鶴ちゃんだけを見つめた。
「え、えと・・・・」
周囲の人間が突然のことで動けなくなっているのをいいことに、千鶴ちゃんのいる席へと歩みを進めながら言葉を続ける。
「ねぇ”賭け”は僕の勝ちだよ。僕は記憶が無くても君を見つけた」
一番端の通路側に座っていた千鶴ちゃんの元に行くと、目線を合わせるように僕も膝を着いた。
「あっ・・・」
見つめたまま、そっと千鶴ちゃんの白い手へと触れる。
「君は僕を覚えている?」
「あの・・・・どこかで?」
「僕は、君を見つけた瞬間、すべてを思い出した―――千鶴ちゃんのためなら僕は”キセキ”だって手繰り寄せてみせるよ」
ほらね、”賭け”は僕の勝ち。僕の君への想いは何よりも勝るんだよ。
「な、何を言ってるんですか、からかわないでください!!」
覚えてはいなくても、頬を染めて昔とまるっきり同じ反応を示す千鶴ちゃんに、僕の中でますます愛しさが募っていく。
「からかってなんかないってば。だって僕たち”賭け”をしたし、こうして”約束”もした」
「やく、そく?」
千鶴ちゃんの右手を持ち上げて小指だけを立てると、そこに僕の小指を絡ませる。
「ね、ちゃんとこうやって”約束”したんだよ?それなのに、君は約束をやぶるの?嘘つくの?」
「そ・・・そんな、私は・・・・」
「でも、僕が思い出したのに、君を見つけたのに、千鶴ちゃんは・・・・。だから”嘘”ついた君には”約束”どおり、千回のんで貰わないとね」
「え・・・針を、ですか?」
覚えていないはずの千鶴ちゃんが”約束”を律儀に守ろうとして不安そうに表情を揺らめかす、その純粋さに微かな笑みを僕はこぼした。
「クスっ・・・違うよ、針じゃなくて――――」
小指を絡めたままの状態で僕は身を乗り出すと、千鶴ちゃんの艶やかなピンク色の唇に僕の唇を重ね合わせる。
「っ!!」
遠くから怒りの感情が込められている幾つかの声が微かに聞こえたけど今は無視して、千鶴ちゃんの柔らかくていつまでも触れさせていたいような感触を堪能する。
そして名残惜しく感じながらも唇を離した僕は、悪戯っぽい笑みを浮かべて囁いた。
「嘘ついたら”愛千回のます”ってね、あと999回、僕の愛をのんでもらうからね♪」
そう告げれば、僕を凝視している千鶴ちゃんは、顔から湯気でも出そうなくらい真っ赤にして口をパクパクさせていた。――――昔と同じように。
<終わり>
★★後書き★★
な、長いっっ!!
・・・・こんな長いものを、お疲れ様でした。
ダラダラと申し訳ありません。
収集がついていない感もありまくりで申し訳ない。
(楽しんでいただけていればいいのですが・・・)
しかも書きたいことが全部書けていないという・・・(汗)
●昔のエピソードを書きたいです!
●その後の沖x千が書きたいです!!
●スタジオ内での出来事の他人目線を書きたいです!!!
もっと、第三者の驚きっぷりとかが書きたいんだよぉぉ!!
見ている間の千鶴の様子もリポートしてほしんだよぉ!!!
・・・ちっ、沖田目線にして失敗したぜっっ(ボソっ)
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
廻るキセキ~前半~
遅くなってスイマセン~~(>_<)
さて、今回は、転生現パロ/コメディ系になります!
いつもとテイスト違うような同じような?(笑)
とある番組で”幕末”が特集されることに。その一コーナには”新選組”もあり、一般者で同姓同名の人たちが集められて・・・・・。
という、感じです。
では、「読んでみる?」から本編へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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僕は、ある部屋の前に立ち尽くしていた。
ドアノブをジッと見つめながらも、そこに僕の手が伸びることはない。
ただ溜息ばかりが吐いて出てしまう。
いきなりだけど僕はクラスでも目立たない方なんだ。
たまにこの名前のせいで悪目立ちしてしまうこともあるけど。
っていうか、今回もこの名前のせいで目立つような破目に陥っているんだけど。
僕は家族命令でテレビ局へと出向くことになってしまった。
あぁ、なんでこんなことになったんだか。
いや、理由ははっきりしてるけどさ。
なんでもこの幕末ブームにのって、ある特番の1コーナーで幕末時代の人物たちを特集する予定らしい。―――その中には”新選組”も入っているらしい。
つまり、”新選組”の主要メンバーと同姓同名の僕にも”白羽の矢”が立ってしまったというわけ。・・・よく調べるよね、テレビ局の人もさぁ。
っていうか、うちの家族も家族だよ。僕と違ってそういうのが好きな人たちだから僕に確認も無く引き受けてしまった。ミーハーも大概にして欲しいよ、本当に勘弁してくれ。
「はぁ・・・」
いつまでも突っ立ていても仕方がないと思い立ってドアノブへと手を掛けて部屋に入った途端、すでに部屋にいた何人かの男の人がこちらを振り向いた。
けれど、僕を見た途端、彼らは落胆したように首を振ったり、ボソリと何か呟いていた。
「なーんだ、総司じゃねーや」
いや、僕の名前”総司”だけど?
と、思いながらも口に出すことはできなかった。
場違いな雰囲気に少し緊張しながらも空いている椅子へと腰をかける。
チラリと僕以外の人達に視線をやると、僕と違ってなんか煌びやかな人ばかりだった。
なんていうか、女の子が居たら黄色い悲鳴をあげそうな?(例外も居るけど)
うん、僕とは正反対の人達だ。
僕といえば、あんまりそういうことに興味もないからボサボサの髪に眼鏡、私服で来るのも面倒だったから制服で来ちゃったし。もちろん、ネクタイもきっちりと締めてる。
・・・えと、この人達も僕と同じ理由でここにいるんだよね?
本当に僕だけ場違いじゃないか??
何だか落ち着かない僕は、鞄から本を取り出して本を読むことにした。
けれど、文字を視線でなぞるだけで文章の意味までは頭の中まで入ってはこない。
この部屋にいるメンバーたちのことが何故か気になってしまっていた。
本に視線を落としながらも彼らの会話を聞いていると、どうやら知り合いっぽいけど・・・普通に街中で見かけたらどんな関係があるのか判断つかない三人が盛り上がりながら話をしている。
クラスのムードメーカになりそうな元気のいい少年、赤髪の洒落た大人の雰囲気を持っていてホストでもやっていそうな男の人、筋肉がすごい陽気な男の人・・・この三人が旧知の仲のように会話をしている。
あのーー、違和感ありまくりなんですけど、普通に考えれば。でも僕は、違和感以上に納得してしまっている部分もあった。なぜ??
「っていうかさ、本当偶然だよな~。まさかこんな所で再会するなんてさぁ」
そう言ったのは、元気の良さそうな少年だった。
”再会”ということは以前から知り合いだったのかな?
「そうか?俺は薄々予感はしてたぜ?」
「まぁ、いいじゃねーか。ここで会ったのも何かの縁。終わったら久しぶりに飲みに行こうぜ!」
「おぉ、いいねぇ。新八っあん」
「おいおい、平助。お前今は未成年だろーが」
「煩いこと言いっこなしだって!」
「そうそう、左之は変な所で堅いんだもんなぁ」
「馬鹿。大人として当たり前の配慮だ」
三人が盛り上がって、更に煩くなりそうな雰囲気のところで怒声がこの部屋へと轟いた。
「てめーら、いい加減にしろっっ!!!」
「やっべー、土方さん怒らせちまった」
「副長が怒るのも当たり前だな。少しは静かに出来ないのか、お前達は」
怒声をあげたのは、やたら整った綺麗な顔をした男だった。
・・・なんだろ、何か気にくわないような気がしないでもないようなぁ。
その後ろに控えている僕と同い年くらいの男は、よく分からないけどこの間見たDVDを思い出せる雰囲気だった。
ちなみに僕が見たDVDは「忠犬ハ○公」。・・・この人達には感動なんてしないけど。
―――てな感じで、僕は大人しく彼らを観察していた僕に、優しそうな人が声をかけてくれた。
この中では一番年上みたいだ。
「いやぁ、テレビなんて緊張するな」
「そ、そうですね」
「あぁ、すまんすまん。自己紹介が遅れたな。俺は、近藤勇だ」
「あ、僕は沖田総司です。よろしくお願いします」
「おぉ、礼儀正しいじゃないか。こちらこそよろしく頼む」
目の前の近藤さんは豪快に笑って僕の肩をたたいた。
けれど、他のメンバーは一斉に僕を凝視する。
な、なんなんだろう??
「えぇえええ、マジで!!?お前が”沖田総司”だったのか?」
「そ、そうですけど・・・?」
平助と呼ばれていた少年が目を瞬かせながら、大げさなほどに驚いた表情を見せている。
僕が”沖田総司”だと、そんなに驚くことなの?
”沖田総司”は、小説や時代劇で描かれているみたいに”美少年”じゃないと駄目なわけ??
でも一説ではヒラメ顔とか言われてるでしょっっ!!
「ふーん、お前がねぇ。どうやら、総司だけは別の奴だったみたいだなぁ」
赤髪のホストっぽい左之とかいう人も顎に手を当てて、しげしげと僕の顔を凝視してながらそう言った。
「ふむ。そのようだな。総司ならこんな大人しくしている筈がないからな」
それに続いて、寡黙な男―――とりあえあず”ハチ”と呼ぶ―――も頷きながら同意の言葉を口にしている。
・・・なんだろう、なんか面白くないんだけど。
アンタたちのいう”総司”じゃなくて悪うございましたッ!!
僕だって好きでココに来てるわけじゃないんだけどっ。
しばらくしてスタッフの人が控室へと来て資料を捲りながら段取りを説明していく。
そして、説明が終わると僕たちはスタジオへと向かった。
もうすぐにでも出番のようでセット裏にスタンバイするようにスタッフから指示され、司会者に呼ばれるのを待つ。
セットの向こうからは、出演者たちの軽快なトークが聞こえてくる。
さすがにプロだなぁー、なんて思っていると、”新選組”のコーナーになったみたいで僕たちの出番がきた。
確かさっきの説明では司会の男性から紹介されてから一人づつ順番に表へと出て行くことになっていたはずだ。
まずはもちろん”近藤さん”だろう。―――”新選組”では局長を務めていたのだから。
少し緊張しているようで、顔や身体が硬くなっている。けど、優しくて不器用な一面があるようで、でもどこか頼もしい、そんな雰囲気がある人だと思う。
そして順番からいって次は、”副長”である土方とかいう人だ。
やたら綺麗な顔した人だけど、眉間に皺を寄せて難しい表情をしながら歩みを進めている。
セット裏の扉手前で、土方さんのポケットから小さいノートらしいものが落ちたのを視界に捉えた僕はそれを手にとった。
手渡そうと思ったけれど、すでに表へと出て行ってしまっている。
・・・・・・・・ふーん、あの人にはこんな趣味があるんだ。
女性に人気あるであろう美形で二十代後半くらいというまだ若い部類のはずなのに、こんな古臭い趣味持ってるんだ?
そういえば、歴史上の”土方さん”の趣味も同じだよねぇ。
まぁ、人の趣味にケチつけるつもりは毛頭ないけど。
本番の後にでも返せばいいか、なんて考えていたら表からは予想どおりの黄色い悲鳴があがる。
あぁ、うん。そうだよねぇ、あのヒト、顔だけはやたら綺麗だもんね。性格は・・・鬼みたいなんだろうケド。
っていうか、ものすごーーーく、僕が出づらいんですけど。
と思いながらも呼ばれたら出なくちゃいけなくて、申し訳なく思いながら表へと出て行った。
反応は・・・こちらも予想どおり。
女の子からは落胆の声、男からは安堵の溜息が聞こえた。
やっぱり来ないほうが良かった、と僕が思っている間に他のメンバーが出てくる度に黄色い声があがる。
はいはい、好きにしてください。
っていうか、僕は元々目立ちたくないんだってば!!
つか、ここまで煌びやかに囲まれると、僕の方がいつもと違う意味で悪目立ちするんだって!!
僕が下を向いていると、司会の男が僕に話を振ってくる。
「沖田さーん、どうしたんですか?」
分かってるくせに話を振ったなコイツ・・・。
しょうがなく顔をあげた僕の目に、ふいに観覧席の中のある少女の姿が映った。
え・・・あ・・・・・。
「・・・・るちゃん」
その姿を目に捉えた瞬間、僕の中の時が止まったかのようにその少女へと釘つけになって――――
手触りのいい黒髪を一本で高く結い、本当は女の子なのに袴を穿き、頬を赤らめながらも微笑みを浮かべて小指を相手の男の小指に絡ませている少女の姿と重なる。
そして、一瞬にして僕の頭の中には走馬灯のように様々な映像が駆け巡った。
―――あぁ、そういうことね。
話が繋がりましたよ、僕も。
僕のかける眼鏡には彼女の姿だけが映っている。
再び俯いた僕の口元には笑みが刻まれ、昔と変わらずにあどけない表情を浮かべている彼女に愛しさを募らせながら僕はポソリと呟いた。
「クスッ・・・”賭け”は僕の勝ちだね、千鶴ちゃん」
覚悟しててね?
<後半へつづく>
★★後書き★★
はい、転生現パロでございましたッ!!
今回は前振りのみでスイマセン。
しかも、今回の前半では沖田さんらしところはちょびっとしかない・・・。
まぁ、うちの沖田さんが最後に言っているように、後半では思いっきり遊んでもらいます、せまってもらいます(笑)
では、ここまでお読みいただき有難うございましたッッ!!