暁に見る剣の夢
黎明録ネタSSになります!
沖田ED中(後)SSは他のサイト様とかで素敵なのをご馳走になっておりますので、他の方向からいってみました!
というか、あの沖田ルートの最後あたりをやっているときから、このネタを書きたくてしょうがなかった!!
というわけで、沖田ED直前(?)SSとなっています!
切ない系になるのかな。。。
龍ちゃん視点です。
そして思いっきりネタバレもあるので、ご注意くださいませ。
では、大丈夫な方は「読んでみる?」からドウゾ~!!
▼読んでみる?▼
*********
俺は今、真夜中の山の中にいた。
しかも険しい道なき道をひたすら掻き分けてきた俺の身体は疲労で身体が重くなっている。
あの噂を耳にしてしまった俺は、”昔の出来事”に思いを馳せながら暗い山道を進んでいたせいで、いつの間にか山道から外れて迷い込んでしまっていたんだ。
夜空に浮かぶ月だけを頼りに何とか元の山道に出ようと必死に進み、何とか休めそうな広けた場所へと出ることができた。
人目に着きにくそうな草木の陰になった木の根元まで来た所で力尽きたかのようにドスっと地面に尻をつく。
鉛のように重く感じる身体を木の幹に凭れ掛けた瞬間、俺は過度の疲労で深い眠りへと誘われていた――。
俺が沖田に濁流に突き落とされてから四年半ほどの年月が経つ。
なんとか助かった俺は、新選組へは戻らず行商をして生計をなんとか立てていた。
独り身だから気楽といえば気楽で、北から西まで色んな街や村を転々とまわっている。
転々としている間にも新選組の噂は俺にも届き、話を聞く度に影で沖田が活躍する姿が鮮明なほどに脳裏へと浮かび上がっていた。
『僕は近藤さんの――”新選組”の剣”になる』
噂を耳にする度に、強い意志を宿したあの深緑の瞳を思い出す。
そして、最後に見せた寂しそうな表情を。
俺を濁流へと突き落とした沖田は、常のふてぶてしい笑みを浮べながら手を振っていたのに、あの壬生寺のときと同じように―――俺には泣いているように見えた。
だからなのか、突き落とされた瞬間、落とされたこと以上に沖田の表情に俺は驚愕していたんだ。もしかしたら沖田自身も気づいていなかったかもしれないが。
俺は暫くの間、沖田の最後に見せた表情が頭から離れることはなかった。
近藤さんのことにしか興味のない沖田がなぜ?
俺を殺さなかったのだろう、斬りもしないで――「自分の悪運を信じてみれば?」と言って突き落としただけだった。
『”新選組”の剣”になる』と言ったアイツなら、迷うこともなく俺を斬っていたはずだ、なんの感慨もなく。
あの時からずっと記憶の中の沖田に問いかけている。
俺がオマエを”もしもの自分”と見ていたように、
オマエも俺を”もう一つの可能性”だと思ったのか?
オマエは俺の中に何を見ていたんだ?
何を思って、俺を斬らなかったんっだ?
けれど、記憶の中のアイツが俺に答えてくれることはない。
ただ、あの飄々としたムカツク笑みを浮べているだけだ。
答えは出ないまま、気づけば月日だけが経っている。
そして、これからもその答えは出ないままだろう。
すでに沖田はこの世には存在しないと思うから――。
なぜなら、近藤さんが投降し、処刑されたという噂を聞いたからだ。
それを聞いた瞬間、”あぁ、沖田はもうこの世にはいないんだ”と思った。
それと同時に”半身”を奪われたような不思議な虚無感が俺を襲った。
近藤さんにあれ程に執着していた沖田だ。
沖田が生きているなら、近藤さんが”死ぬ”状況を何があっても許すはずがない。
それに近藤さんが亡くなってまでも沖田が生きていられるとは思わない。
”近藤さんのために――”
それが、沖田が自分自身さえも押し殺して剣を振るう理由であり、存在意味だった。
沖田はその未来を掴むために、”死ぬ”覚悟で剣を握っていたんだから―――
===
「ここまで来れば大丈夫、かな。・・・少し休もうか」
「私なら、大丈夫です・・・」
「ん、・・・僕が疲れちゃったから休むんだよ」
「・・・・は、い」
草木を隔てた向こう側から声が聞こえてきた俺は、薄っすらと瞼を開いた。
だが、少し休んだぐらいで疲労がとれるわけもなく、俺の身体は少しも動いてはくれない。
首だけを声がした方へと向ければ―――
信じられないものを目にして驚きで、一瞬息をするのも忘れてしまった。
色素が抜け落ちた白髪、光る四つの紅い瞳が夜の闇の中に浮かび上がっている。
洋装姿に日本刀を腰に差した男の羅刹と、白髪を一本に結った少年の・・・いや、あの身体の線の細さからして男の格好をした少女の羅刹がそこに居た。
”浪士組”にいたときに味わった恐怖が再び蘇ってきて、知らずに唇が震える。
なんでこんな所に羅刹が!?
だが、雲間から顔を出した月の淡い光が二人の羅刹を照らした瞬間、俺の恐怖は驚愕へと塗り替えられた。
二人の髪や瞳は、元の色を思い出したかのようにスッと”人間”のものへと変じていった。
(沖田――ッ!?)
俺は心の中で、その男の名を叫んでいた。
体力があれば、間違いなく夜の山中に響くような絶叫を上げていただろう。
だが、すぐに”コレは夢なんだ”と理解した。
アイツの事を考えすぎていたから、俺は”幻”を見ているんだろう。
月明かりに照らされた男は、倒れる直前まで俺の頭の中を占めていた人物で、死んでいる筈の人間だったからだ。
近藤さんが亡くなっているのに羅刹になってまで生き続ける沖田なんて現実には無いだろう。
それに――――。
「ほら、おいで」
沖田は、腰から刀を抜いて木の根元に腰を下ろすと、その手を少女へと差し伸べた。
ふわりと優しく笑みを浮べる沖・・・田に・・・って、優しい!?・・・あの沖田かが!?
沖田が労わるようにしながら女の子と一緒にいる姿なんて有り得るわけがない。
子供には優しかったが、子供でなければ女にも容赦ない態度をとるのが沖田だ。
・・・ま、まぁ、俺の”夢の中”だからなのか。そういうこともあるの、か?
俺の混乱は余所に、目の前の幻たちは事を展開させていっていた。
沖田が差し出した手に、チラリと視線を走らせた少女は、おずおずと小さな手を沖田の大きな手に乗せた。
「イイ娘だね、千鶴ちゃん」
満足そうな表情を浮べながら少女の身体を自分へと引き寄せるようにして少女を自分の足の間へと座らせた。
沖田の足の間にスッポリと収まった少女は、心配そうな表情を浮べながら沖田を見上げる。
「沖田さん・・・」
「僕なら大丈夫だから、安心して眠りなよ」
少女の背へと腕をまわした沖田は、その小柄な身体を自分の身体で包み込んでしまう。
自然と沖田の身体へと少女は凭れ掛かる形になり、柔らかそうな頬は沖田の胸元へと押し付けられている。
「・・・・沖田さんの鼓動が聞こえます」
「うん・・・おやすみ、千鶴ちゃん」
沖田の手が穏やかなリズムで少女の背を撫でる。
その仕草が心地良かったのか、少女は安心した表情を浮べてゆっくりと瞼を下ろした。
―――夢の中の沖田は腕の中にいる少女を愛しむかのように、その黒髪を梳いている。
その表情は柔らかで、近藤さんのために”剣”になると言っていた沖田からは想像も出来ないものだ。
飽くこともなく、沖田は少女の寝顔を見つめ続けている。
だが、悪夢でも見ているのか、唐突に少女の表情が苦悶の色を刻んだ。
少女の眉間が寄せられ、瞳には涙が滲んでいる。
「大丈夫だよ、千鶴ちゃん。・・・・僕がいるから」
少女の瞳に唇を寄せて涙を吸うと、そのまま少女の眉間に口付けた。
すると、少女の表情が安心するように穏やかになっていく。
二人がお互いを大事に想い、信頼しきっているのが伝わってくる。
沖田がこんな表情ができるなんて・・・、対当な立場で想い合えるなんて。
これは、俺の願望なんだろうか。
”もう一人の俺”だったかもしれない、沖田が”変わった”なら、俺も変われる、と――。
「・・・・”生まれた環境は良くなかったかもしれないけど、ここぞって時の運は悪くないんだよね”」
暫くの間、思考に耽っていた俺は、不意に聞こえてきたその言葉にハッとした。
どう、いう、ことだ?
ついさっきまで優しい笑みを浮かべていた沖田だったが、今は夜空を仰ぎながら”昔”何時も見ていたあの飄々とした笑みを浮べている。
「本当に悪運が強いよね――――僕も、だけどね」
だが、すぐに視線を下に移すと、強い意志を瞳に映しながらも柔らかな微笑を浮かべる。
「この娘と出会えた――この娘とともに”生きる”よ、僕はもう・・・・”剣”じゃない。」
それは小さな呟きだったが、”生命”溢れるほどの強い言葉だった。
「僕の”もう一つの可能性”なんだから―――――、ね?」
その言葉に、その優しいともいえるような声色に、驚いた俺は飛び起きていた。
辺りを見回しても誰もいない。シーンと静まり返っている。
眩しいほどの朝陽が降り注ぎ、チュンチュンという雀の鳴き声だけが静かな朝の山に響き渡る。
『君が”幸せ”を諦めるっていうなら、僕が君を殺しちゃうから、ね?』
夢の中で沖田が言った、”殺す”は、”浪士組”の時とは違う響きに聞こえて、俺の目からは熱いものが溢れ出していた。
この夢が”現実”なら良かったのに―――。
願わずにはいられなかった。
<終わり>
★★後書き★★
はい、黎明録ネタの捏造妄想SSでございました。
意味わかんない感じで申し訳ない。。。
この二人には、二人の信頼関係があるように思います。
無意識のうちにお互いの”幸せ”を願っているというか、
”もう一人の自分”だと思っているから、生きて欲しいし、幸せになって欲しい――、みたいな。
なんか、本編やっててそう感じてしまったんですよねぇ。
というわけで沖田EDで”雪村の地”に迷い込む少し前を捏造してみました。
(いわば、沖田ED始め部分の現状説明の行間を捏造しているということです)
ちなみに、龍ちゃんは”夢”だと思ってますけど、”現実”ですよv
では、お読みいただき有難うございました。