偽りに隠れた真実(6)
はい、長らく時間があきまして申し訳ありません。
やっとこ「偽り」の続編でございます。
番外編につづき、沖田の嫉妬編になっています。
さて、今回の被害者は誰かなぁーー(笑)
そうそう、今、「クロックゼロ」を絶賛攻略中ですvv
CZやりながら書いた部分もあったり。(←をい)
それにしても、りったん可愛ええよぉvvv
今のところ、一番気になっていたりったんは、ついさっき攻略したZE!
マジ可愛かった、泣いた、カッコイイ!!
幼馴染イイっっ!!
基本的に、シナリオもよくできていたから楽しめたよ。
でも謎を解くには他のキャラも攻略しないとね!
おっと、失礼。
CZのことはまた今度にします。
では、「読んでみる?」から本編へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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今夜の夕餉の食事当番だった私は勝手場に立っていた。
この時期、特に冷え込んできているから皆さんに身体を温めてもらえるように暖かいものにしようと考えていた。
「おでん、とかがいいかな・・・・」
「それなら、僕、大根が食べたいなぁ。うーんと甘くしたやつ♪あと、竹輪だったら食べてもいいよ」
頭に浮かんだ献立をポソリと口にした途端に、おでんに入れる具材の注文をしてくる楽しそうな声が私のすぐ耳元から聞こえてくる。
「・・・あの、沖田さん」
「ん?」
「そんなにくっつかれていると、動きづらいので離れていただけると作業がしやすいなぁ、なんて・・・」
「嫌だ」
「・・・・・・・はい?」
沖田さんの即答に私は呆気に取られてしまって、その答えの意味をよく把握できなくて呆けた声を漏らしてしまった。
「だ・か・ら、【嫌】って言ったんだよ」
背後でクスリと笑う雰囲気を感じたそのすぐ後、沖田さんの掠れた吐息声が一言一言を区切るようにゆったりと私の鼓膜を刺激する。
「あ、あのですね、私はお食事当番なんですが!!」
瞬間的に、私はビクリと身体を硬直させてしまう。
頬が熱くなっているのを感じながら堅く目を瞑って、とりあえず私が【当番】であることを訴えてみようと声を上げる。
「うん、分かってるよ。だから、甘い大根と竹輪を入れてね、ってお願いしてるんだけど?」
「では、離れて・・・・」
「嫌だ」
「え、えーと。ですからね、私は・・・・」
「別に僕が此処にいたって準備はできるでしょ。・・・それとも居られると困ることでもあるのかなぁ?」
えぇ、おおいに困ります。こんな背後から抱き付かれていたら動けません。
―――と、思うけど、寂しそうな声色に私は何も言い返すことが出来なかった。
「・・・・・分かりました」
「そう、良かった」
こうなってしまったら、どうしようも無いと観念した私は、小さな溜息をついて諦めることにした。
機嫌よさそうな沖田さんの声に、私は再び溜息を吐いた。
・・・・どうしたって、私が沖田さんにかなうはずが無いだろうし。
「あ、お酒も忘れないでね。それと、苦いのは入れちゃ駄目だからね!」
「お酒ばかりじゃ身体に悪いですよ。好き嫌いしないでちゃんと他のお野菜とかご飯も食べないと駄目ですよ?」
「えー、僕はあんまり食べる方じゃないし、お酒をチビチビとやる方が好きなんだけどなぁ。でも、そうだな・・・千鶴ちゃんが食べさせてくれるなら他のもちゃんと食べるよ」
耳元に囁きかけられた言葉に甘い雰囲気を感じて私は、咄嗟に頬を紅く染めてしまう。
それと同時に何かを誤魔化すかのように胸がツキンと震える。
―――これは【金平糖】のせいなのだと、私はまだ何も【気づいてはいない】から大丈夫、と。
「な!!なに言ってるんですか。お一人で食べてください、子供じゃないんですから!!」
「なんで?この間は僕が食べさせてあげたじゃない。今夜は千鶴ちゃんが僕に食べさせてよ」
「ど、どうしてですか!!」
「ん。もちろん、見せつけるためだよ?」
「み!!?」
ごく普通のことのように告げるその言葉に、私は絶句で手元さえも止めてしまった。
そして、考える間も無いままに先ほどまでの調子とは打って変わった低く小さな呟きが私の耳を震わせた。
「千鶴ちゃんは僕のなんだから。僕以外になんて・・・許さない」
「沖田さん?」
本当に小さな呟きだったから最後の方はほとんど聞き取れなかったのだけど、その変化に思わず私の声は不安に滲んでしまった。
あの、お昼のときの一件と同じものをその声色に感じてしまったから。
それは、怖いほどの――――
そこまで考えた私は、首を横に振ってその思考を散らしてしまう。
それ以上は考えては駄目だと、本能的に悟っていたのだと思う。
気づいたら危険だと、戻れなくなってしまう自分を。
「ん?ただ、僕の千鶴ちゃんに食べさせて欲しいなぁ、って言っただけだけど?」
けれど、直ぐに何時もの私をからかうときのような飄々とした声に、内心はホッとしながらも困惑した表情を浮かべる。
「もう、さっきから何を・・・・・・」
「だぁあああ、いい加減にしやがれッッ!!!!!!!!!どこの新婚家庭だっつーーのッ!!」
私たちの間に立ち込めていた空気を掻き消すかのように響いた叫びで私はハッと我にかえった。
苛々した様子を隠しもしない永倉さんの視線を感じて私は苦笑いを浮かべてしまう。
その理由が痛いほどに分かるし、周囲を失念していた自分自身にさえ驚愕してしまうほどだ。
つまり、当番は私一人ではない、ということ。
「す、すいません!!すぐに支度します!!」
「いや、千鶴ちゃんは悪くはないんだけどよぉ・・・なぁ、千鶴ちゃんがさっきから背負ってるクソ邪魔そうなソレ・・・・・」
永倉さんが私の背後・・・というか背中に張り付いている沖田さんを見て引き攣った笑みを浮かべている。
あははは・・・・本当にゴメンナサイ、永倉さん。
先に謝っておきますね、色んな意味で。
「嫌だなぁ。”クソ邪魔そうなソレ”って失礼じゃないですか、新八さん?」
いつもの惚けた口調ではあったけれど、少しムッとしたような雰囲気の沖田さんに、永倉さんの額がピクリと痙攣している。
下手をすれば、今にも斬り合いが始まってしまいそうな一触即発な空気が勝手場を包む。
「あぁ!?んじゃぁ、聞くがなぁ。当番でもねーお前がなんで勝手場に居るんだよ?」
「なんでって、千鶴ちゃんが心配だからじゃないですか」
怒りを抑え込むような永倉さんの声にも、沖田さんは顔色を変えることもない。
「だからって千鶴ちゃんに抱きつくなんて羨ましい状態の理由にはなんねーだろうがよッ!!」
「新八さん・・・・・今、何て言いました?」
けど、顔色を変えることの無かった沖田さんが永倉さんの一言に何故かピクリと反応した。
その声色は、いつもより低い音を紡ぎだしている。
「あ?」
その沖田さんの変化に、永倉さんもすぐに気づいたようで戸惑いの色を見せる。
「今、千鶴ちゃんに抱きついてる僕が、何だって言いました?」
「お、おい、総司?」
益々と不穏なものを感じる。
その証拠に永倉さんの額には薄っすらと汗が滲んで、苦笑いを浮かべている。
「僕の聞き間違えじゃなければ、【羨ましい】って言いましたよねぇ」
「ちょ、ちょ、待てって!!」
「僕の千鶴ちゃんに、抱きつきたい、なんて邪なこと考えてませんよね?」
「バ、馬鹿ヤロウッ!そ、そんなこと、この”男・永倉新八”様が考えてるわけねーだろうッッ!!」
「ふぅーん・・・・それにしては変ですよね?」
沖田さんは私から離れると、永倉さんの前に立って、その目をジッと見る。
口元は笑みの形を描いているというのに、永倉さんに向けている沖田さんの目は笑ってはいない。
「な、何がだよ」
「目が泳いでますよ、新八さん」
「へ?」
永倉さんの上擦ったような声と、沖田さんの冷たいほどの抑揚のない声―――そして、お湯が沸くグツグツとした音がこの勝手場に響いている。
そのお湯の沸く音で、私はハッと我に返った。
隊士たち全員分の夕餉の準備をしないといけないというのに、手を止めている暇などない。
夕餉後には、巡察もあるのだから遅れさせるわけにもいかない。
「そ、そうだ!永倉さんはおでんの具はどんなのがいいですか?・・・・」
「駄目だよッッ!!」
「え?」「あ?」
その場を収める為に話を逸らそうとした私の言葉に、鋭いほどの沖田さんの声が覆いかぶさる。
そんな沖田さんの様子に、私と永倉さんの驚きの声が重なった。
あの時と同じ叫びだった。
この間の土方さんに向けたものと。
この間のことといい、今のことといい、私の中で沖田さんに対する言い知れない恐怖と不安が過ぎったのだった。
沖田さんの何に対してのものかも分からないままに―――。
【つづく】
★♪後書き♪★
さて、「偽り~」は終幕に向かって”沖田の嫉妬”編に
突入でございます。(いつから○○編なんてついたんだ。。。)
さて、今回の被害者は新八っあんでした。
何気に新八っあんのキャラ好きですよvv
うふふふふ・・・・・。
さて、次の被害者は誰にしようかなぁ~~。
ではでは、お読みいただき有難うございました!!
偽りに隠れた真実(5)~番外編~
(5)のちょっと後で土方さん視点の番外編となっています。
一応コメディのつもりです。
そして、今回、仕事の方が忙しかったり、明日のイベントの準備に追われていたのでいつもより短めです。。。
それでもよろしければ、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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「あの、副長少しお時間よろしいでしょうか。折り入ってご相談したいことが・・・」
襖の向こう側から恐る恐るといった声が掛けられたのは、総司が昼の巡察の報告とともに俺に頭痛の種を増やして出て行ってから暫くしてのことだった。
まるで総司が去るのを見図っていたようにも思える頃合だ。
書類から顔を離さないまま用件を確認する。
「相談?なんのだ」
忙しい時には特に様々な事象を把握して優先度をつけていくのは当たり前だろう。
「あの・・・沖田組長と雪村のことなんですが・・・」
弱ったような声で告げられた用件・・・・”問題児の名”に、忙しく動かしていた手は止まり、苦虫を噛み殺すかのように顔を顰めてしまった。
「・・・入れ」
その問題児の名に俺の声は常よりも低くいものになってしまっただろう。
昨夜の夕餉のときに総司が告げた言葉を思い出した俺は、ただでさえ忙しいというのに更に頭痛の種が増えるのかと、溜息を吐きたくなった。
だが、聞かないわけにもいかず眉間の皺を深めながら了承の言葉を告げた。
========
そして俺は今、廊下にドタドタと足音が響き渡るほど荒い足取りでその部屋へと向う。
その部屋の前でピタリと足を止めて力任せに襖を横に引けば、襖がピシャリ音を立てて開かれる。
「総司、てめーはどういうつもりだぁああああ!!!」
が、怒声をあげた俺の目の前に広がっている光景を見た瞬間、不覚にも絶句した。
「あれ、どうかしたんですか。さっき報告はしましたよ」
総司、てめーは昼から何やっていやがる!!??
俺が怒りを投げつけた当人は部屋で寛いた・・・というか、それはそれは気持ち良さそうに寝ていた。
てめーは、さっき忙しい、とか言っていなかったか?俺に苦労を押しつけてお前は何をやっているっ!!??
だが、当の本人といえば、いつもの勘にさわる飄々とした態度だ。・・・・・・・いい加減にしろよ、お前。
眉間がピクピクと動くのを感じるが、そこまではいいとしよう。いや、良くはないんだがコイツに言っても意味がないっだろう。言って聞くような奴なら俺がこんなに苦労することもなかっただろうからな。
「そういうことを言ってんじゃねぇっ!!」
確かに、見回りで浪士との立ち回りがあったことも報告受けてる。
『大事な用事』があるならばと、しぶしぶでも休憩をやったのも俺だ。
百歩・・・どころか一万歩譲ってやろう。・・・・だかな、総司。
「お前が枕にしてんのは何だ?」
「やだな、もう老眼なんですか、土方さん」
「見えてるから聞いてんだろーがっ!いいから俺の質問に答えろ!!」
「見てのとおり、千鶴ちゃんですよv」
そう言いながら、総司は自分の頬を、枕・・・千鶴の膝へと猫のように擦りつけた。
それに対して、千鶴は顔を真っ赤にしながら困ったように目をギュッと閉じてしまった。
「”ですよv”じゃねーーーっっ!!!なんで、千鶴を枕にしてるんだって聞いてんだよ」
「だって、僕の愛する千鶴ちゃんが危ない目にあったんですよ!!千鶴ちゃんがいつ何を仕出かすか、心配で心配で。つ、ま、り、千鶴ちゃんに責任とってもらってたんです」
「・・・・・・」
何か嫌な予感がするんだが・・・・・俺の気のせいだと願いたい。
が、きっと気のせいではないだろう。
昨夜のことといい、一番組の隊士たちが俺にまで泣きついてきたことを考えると――――
「まさか、さっき言ってた『大事な用事』って言うのは・・・・・」
「もちろん、千鶴ちゃんに責任とって僕を癒してもらうことです♪♪」
「っっ!!!!!!!!!!」
だが、やっぱり俺の願いを裏切って総司から伝えられたのは予想通りの言葉だった。
「んだとッ!!?てめーは隊務を何だと思っていやがるっっ!!第一、千鶴にも仕事があんだろーがっ!てめーの都合で振り回してんじゃねーよ。千鶴だって嫌がってるだろうが!!」
コイツは剣だけじゃなく、俺を怒らせる天才でもあると本当に心の底から思う。
捲くし立てるかのように、怒りのままに俺は声を張り上げた。
つーか、千鶴の膝枕って・・・・・他の奴が知ったらどんな反応するか容易に予想がつく。
俺だって役目がなきゃ・・・・・・・・・・ゴホン、ゴホンッ。
あーこれはナシだ、ナシ。俺は何も言ってねー、言ってねーぞ。そーだな、何も言っていないな!!
「あれ、嫌だった、千鶴ちゃん?」
「えっ!?・・・・・あの、その・・・・」
総司は、身体を動かして仰向け状態になると、上目使いでジッと千鶴を見つめながらそう言った。
自分に話が来るとは思っていなかったのか、千鶴は戸惑ったように言葉を濁らせた。
「千鶴、嫌なら嫌だと言え」
「土方さんには聞いてないんですけど」
「あ?」
俺と総司の間に険悪な空気が立ち込める。千鶴と言えば、オロオロとしてしまっている。
「あ、あの・・・・嫌、ではないです・・・・私でもお役にたてるなら、嬉しいです・・・・恥ずかしいですけど。あ、あの、もし良かったら、土方さんもお疲れのようでしたら今度・・・・・」
「駄目だよっっ!!」
「え?」
急に声をあげたのは総司だった。さっきまでの人を食ったような態度はなりを潜めて怖いほどの・・・・瞳の奥に暗い炎が見え隠れする。総司、お前・・・・・・・・?
「千鶴ちゃんは、僕の、でしょ!?だから絶対に駄目だから!!」
必死なほどのその声に、俺は思わず声を失ってしまった。
付き合いの長い俺でさえ、そんな総司を見るのは初めてと、言っていいかもしれなかった―――――
【終わり?】
★★後書き★★
はい、土方さん視点の番外編でした。
コメディだったはずが最後の最後で・・・つか、中途半端な感じになってしまったぁ(汗)
せっかく前回軌道修正したはずなのにぃ、そんなに私は沖田狂愛ルートにもっていきたいのか!!??
では、お読みいただき、ありがとうございました!!
偽りに隠れた真実(5)
今回は沖田視点デス。
前回(4話)での巡察から帰ってきた後のお話になっています。
そして、コメディにはなりませんでした、スイマセン。。。
ちょっぴりシリアスかな?
本当に最近、どーした?(タクミん口調で)←
理空がおかしいのなんていつものことじゃない?(沖田口調で)
・・・・・・・・・マジでヤバイよ、私orz
あと、さらにスイマセン!!
読み返しが甘いのでいつも以上に文章とかがおかしいかと思います。
後々、コッソリ修正をかける可能性があります。。
それでもよろしければ、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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昼の巡察のすべての仕事を終えた僕は自室へと向っていた。
余程のことが無い限りは稽古が始まるまでの短い時間ではあるけど休憩時間が与えられるのが常。
あ、でも土方さんの機嫌に左右されるのも常。・・・僕の場合は、だけど。
それはそれで土方さんで遊べるから僕は別に構わないんだけどね。
でも今日に限っては土方さんに構ってるヒマなんてないからザッと報告だけして、捕まえた浪士たちに関してもすべて任せて部屋を出ることした。
叩けば色々と出てきそうなあの浪士たちから情報を引き出す段取りを決めるのは土方さんの仕事だし。
僕に振ってきたとしても今日ばかりは丁重にお断りさせてもらう。
他の人間でも問題が無いだろう仕事をワザワザ請け負いたくないしね。
それに今の僕には浪士たちをいたぶることよりも、土方さんで遊ぶことよりも重要な用事がある。
そう言うわけで今日の所は、大人しく短い休憩を(何がなんでも)貰うことにして、僕はお茶と団子を載せた盆を手に自室へと向っていた。
歩きなれた廊下をいつもと変わらずに進んで角を曲がれば僕の部屋。
自室の襖扉を開ければ襖の音に反応して顔をあげた千鶴ちゃんの視線とぶつかる。
――これが理由。
僕の部屋で千鶴ちゃんとお茶をするという大事な用事。
今、何に置いても僕が一番優先させたいのが千鶴ちゃんの傍に居ることだった。
土方さんの部屋へ報告に向う前に、僕の部屋で待っててね、と告げた僕の言葉を生真面目に従って千鶴ちゃんがソワソワとしながらちょこんと座って待っていた。
千鶴ちゃんから視線を外さないまま後ろ手で襖を閉めると、ピシャリと僅かな音が部屋の中に響いた。
その僅かな音にも千鶴ちゃんは身体をピクリと反応させて、困った様に瞳を泳がせて最後には膝の上に乗せられた両手へと視線が落ちる。
千鶴ちゃんの視線を追って僕も手へと目を向ければ、片手に白い布地が巻きつけられている様が目に入った。
「・・・おまたせ」
その小さな手に白い布地が巻かれることになった経緯を思い出して、何て言ったらいいのか分からない感情がカッと心に生じた。
けれどその激情を誤魔化すかのように、殊更に優しい声色で千鶴ちゃんへ声を掛けながら僕は畳へと腰を下ろす。
「い、いえ・・・そんな・・・っ!?」
千鶴ちゃんは反射的に再び顔を上げて言葉を発しようとしたけれど、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。
顔を上げた先に僕の顔が思いがけないほど間近で見えたからだろう。
つまり、至近距離ってこと。
お互いの膝頭がくっ付くほどの近さ。
それを狙って千鶴ちゃんの真正面へと腰を下ろしたんだから当然といえば当然。
「待たせちゃってゴメンね、一緒にお茶でもしようかと思ったんだよねぇ・・・どうかしたの?」
白い肌が羞恥で赤く染まっていくのを目に留めながら、素知らぬフリをする。
「・・・あ、あの・・・その・・・」
薄っすらと目を細めて微笑む僕に対して、千鶴ちゃんは何て言おうか迷っているせいか袴をギュッと握って発するべき言葉を模索しているようだった。
「ん?」
さらに笑みを深くする僕に何かを感じ取ったのかビクリと身体を揺らし、身体を赤く染めたまま表情が固まってしまう。
「・・・・・・・何か・・・怒ってます、か?」
シーンと静まり返り、どこか重い空気に満たされた空間に耐え切れなかったのか千鶴ちゃんの細い声が恐る恐るといったように呟かれた。
「ん、何が?」
笑みを崩さないまま、そう答えると、再び千鶴ちゃんは困ったように眉根を寄せて俯いてしまった。
――やっぱり、こういう時の千鶴ちゃんは何気に鋭いなぁ。
確かに僕はかなり苛々してたりする。
さっきは手を繋ぐことで、千鶴ちゃんを僕の傍に感じることで何とか飲み込んだ激情。
僕の手をすり抜けて離れていく彼女。
彼女の上に鋭い刃の光を見た瞬間にはヒヤリと背中に冷たいものが伝うのを感じた。
もし、あの時、彼女を喪っていたら僕はどうなっていたんだろう?
もし、彼女が僕から離れて行ってしまったらどうなるんだろう?
千鶴ちゃんを僕に繋ぎとめておくにはどうしたら―――
「・・・あの、沖田さん?」
遠慮がちな小さな声にハッとする。
僕は無意識のうちに千鶴ちゃんの包帯へと触れていたようだった。
ふとした瞬間、心の奥底に生まれそうになる暗い灯。
そんな自分を誤魔化すように殊更に甘い笑みを刻んで、包帯に触れている指先にも意味を持たせる。
「・・・・ねぇ」
つーと包帯の上から指先を滑らせながら吐息に載せた少し掠れさせた声を響かせれば益々と顔を赤くさせる千鶴ちゃん。
「僕を癒して?」
切なげに眉を寄せて見つめるというオマケも一つ付けてみる。
「え、い・・・癒すとは、な、何を・・・?」
予想を裏切ることもなく千鶴ちゃんは頬に朱を走らせてパクパクと口を動かして動揺の色を隠すことはない。
「それはね―――」
僕は千鶴ちゃんの問いに言葉ではなく行動で答えることにして、素早く身体を動かした。
あまりに突然のことでもあったせいか、千鶴ちゃんは呆然として事態をすぐに飲み込めない様だ。
うん、これも予想の範疇だけどね。
「・・・・・・・っっ!!!お、沖田さんっ、な、なにをしてるんですかぁあ!!??」
千鶴ちゃんが固まってしまっていることは無視して僕はその”癒し”・・・千鶴ちゃんの膝の柔らかさを堪能しながら、本当に効果あるかも、なんて考えていた。
そしたら、正気に戻ったらしい千鶴ちゃんの落ち着きのない質問が降ってきた。
「んーーー。だから、癒されてるんだよ?千鶴ちゃんの膝枕ってすっごく気持ちいいなぁ・・・ふぁーあ」
本当に気持ち良すぎて何だか眠気に誘われ始めた僕は目を閉じながら千鶴ちゃんに答えた。
「・・・っ!あ、あの、お茶をするんじゃありませんでしたっけ!?」
初めに言った僕の言葉を思い出したのか、千鶴ちゃんが苦し紛れに、お茶にしましょう、と訴えている。
よく思い出したね、とは思うけど・・・ごめんねぇ、千鶴ちゃん。
お茶は手段の一つであって、より癒される手段があるのであればそっちを取るよね、普通。
「あぁ、お茶ねぇ。千鶴ちゃんとのんびりお茶でもすれば、さっきの巡察の疲れも吹き飛ぶかなぁって思ってたんだけど、こっちの方がいいな、僕」
だって元々、僕の目的は、この”暗い灯火”を消すことだから―――
だからキミとのお茶は、あくまでも手段の一つに過ぎない。
「それとも僕がこうするの、イヤ?・・・本当は僕のこと嫌い?」
薄く目を開いて甘えた声で告げれば千鶴ちゃんは首を小さく横に振ってポソリとした微かな声で答えてくれる。
「・・・いえ、イヤとか、嫌い、ではないんです。その・・・・」
千鶴ちゃんの中で引っかかっているものが何なのか知っていながらも言う事はできない。
「良かった・・・やっぱり僕たち相思相愛なんだね。千鶴ちゃん、大好きだよ」
僕が作り出した偽りの状況の中で、僕は本心だけを口にする。
けれど千鶴ちゃんにとっては、すべてが”偽り”に見えるんだと思う。
「っ・・・・」
その証拠に千鶴ちゃんの瞳が悲しそうに僅かに伏せられる。
「どうかした?」
ごめんね、そんな顔をさせちゃって。
でも『まだ』だと思うから―――
そっと腕を伸ばして千鶴ちゃんの頬に触れて、慰めるかのように撫でる。
「い、いえ・・・何でも、ないです」
その感触に驚いた千鶴ちゃんは僅かに身体を揺らして、ぎこちない笑みを浮かべた。
「そう。・・・・金平糖なんて関係ない僕の本心なのになぁ」
千鶴ちゃんに聞こえないほど小さく呟く。
『まだ』なのに、言わずにはいられなかったんだと思う。
でも、伝えることはできないから音になるかならないかの本当に小さな呟き。
「え?沖田さん、今なんて・・・・」
何て言ったのかまでは聞こえなかったんだろう千鶴ちゃんの質問を遮るかのように、頬から手を離して自分の口元へと持っていき、大きな欠伸を漏らす。
「ふぁぁあ・・・眠くなってきちゃった。時間になったら起こしてくれる?」
僕は今感じている欲望を素直に口にしてチラリと上目遣いで見る。
そして、仰向きになっていた身体をクルリと回転させて横向きになる。
千鶴ちゃんの柔らかな膝を頬に感じながら僕は再び目を閉じた。
「はい」
眠りの体勢に入った僕に、邪魔したら悪い、と思ったのか千鶴ちゃんは僕のお願いに頷いてくれた。
「ありがと。おやすみぃ」
口元に笑みを刻みながら意識を眠りへと落としていく。
愛しい声と、ふわと僕の髪に触れられた優しい指先を感じながら―――
「・・・おやすみなさい、沖田さん」
【つづく】
★☆後書き☆★
ありゃ、沖田視点にしたらコメディにならなかったorz
これも番外編やっちゃおうかなぁ、例の”あの人”で。
そうすれば完全にコメディになる!
・・・私の頭の中ではね。
では、お読みいただき有難うございました。
偽りに隠れた真実(4)
今回は千鶴視点です。
そして、何故かシリアス路線に・・・(汗)
最近、私の頭の中ではシリアスばかりが展開されてしまいます。。。
コメディ系が書きたいのにぃいいいいい!!!!!
まぁ、いいです。
かろうじて冒頭と最後はこのシリーズのノリにもっていったんで。
▼読んでみる?▼
********************
今日は昼の巡察に同行させてもらえる日。
一番組みの皆さんに同行させてもらうのも何度目かのことなんだけど・・・。
隊士の皆さんの視線が痛いです。
そうですよね、普通は”不自然”ですよね?
「あ、あの、沖田さん・・・」
「ん、何?」
うーー、”何?”じゃないんですがぁ~。
沖田さんが気づいてないわけないですよね??
一番組みの皆さんの視線に。
「あの、手を離していただけると・・・」
「だぁめ。さっきも言ったでしょ。君は危なっかしいから僕から離れないでねって。前にも勝手に走って行って斬りあいに巻き込まれたでしょ」
「う・・・そうですけど。でも・・・」
確かに事実なだけに否定ができないど、仮にも私は”男”として通っているわけで。
いくら私がまだ”少年”で危なっかしいからと言っても、隊士の皆さんや町人の方々の目には奇異に映るのでは・・・。
そう思った私は、再び沖田さんの方へと視線を向ける。
すると、沖田さんは困った様な笑みを口元に刻み、小さな溜息をつくと私の耳元でこう囁いた。
「ねぇ、千鶴ちゃん。周囲なんて気にしないで、僕だけを見て?」
沖田さんはそれだけ告げると、すぐに顔を離して正面を向いてしまう。
私といえば、火照り始める頬を隠すように地面へと視線を下げた。
けれど、私は”怖い”と思った。
沖田さんが私に優しい視線を向けてくれるのは・・・甘い言葉をくれるのは、あの”ホレ薬入り金平糖”のせいなのに。
沖田さんの本心じゃないって分かってるのに、私はこんなにも反応してしまう。
効力が切れて沖田さんが元に戻ったとき、私が元に戻れるのか不安になる。
『僕だけを見て?』
・・・出来るわけないです。
だって、アナタが私の総てになってしまったらアナタが私を見てくれなくなったとき、私はどうやって立ち直ればいいんですか?
「うわぁあああん」
微かな子供の泣き声が聞こえたような気がして私は、思考を止めて顔を上げて泣き声の方へと視線を向けた。
すると、浪士が子供に向けて刀を抜こうとしている姿が映った。
泣いている幼い女の子を庇って、女の子のお兄ちゃんらしき男の子が懸命に浪士をにらみつけている。
『千鶴は僕が守るんだ!!』
『うわぁあん、・・・るお兄ちゃん・・・』
目の前の光景が私の中の何かの光景と重なる。
恐ろしいほどの形相の大人から私を守ろうとしてくれた小さな背中--
「あ・・・やめて!!」
考える間もなく、沖田さんの手を離した私は子供達へと向かって走り出していた。
「千鶴ちゃん!!??」
背後から沖田さんの驚いたような声が聞こえたけれど、私の目には子供達の、私を守る小さな背中しか見えてはいなかった。
「やめてっっ!!!」
振り上げた刃が陽の光で反射を受けている。
咄嗟に差していた小刀を鞘から抜いて子供達の前に立ち、その刃を受け止める。
「なんだ、このガキが!!」
「こんな幼い子供に刀を向けるなんて僕が許さない!!」
「ふん、許さなかったらどうだっていうんだ」
「そんな小刀で俺達に勝てると思ってるのか」
「・・・っ」
正直、自信はない。
でも、この子達を助けたいという思いで私はそこに立っていた。
再び刀が振り下ろされる。
受け止めようとしたけれど、今度はさっきよりも力を入れられていたために受け止めきれずに私は地へと倒れこんでしまった。
「終わりだな、まとめて始末してやる」
その声が鼓膜へと響いた瞬間、私は子供たちへと覆いかぶさっていた。
あぁ、本当に私は弱いなぁ。
こんなんだから、私は沖田さんにも”斬るよ”って言われちゃうんだ。
それなのに、いつも私を助けてくれる。
何でなんですか、沖田さん?
薬のことが無くても私を・・・
「誰が終わり?僕には君達の方が”終わり”に見えるけど?」
「なっ!!」
子供達を抱いたまま顔だけあげると、そこには水色の羽織を着た逞しい背中があった。
そして、その背中の向こうには焦りの表情を浮べた浪士たちの姿。
その足元には刀が転がっている。
浪士から視線を離さないまま沖田さんが私へと声をかけてくれた。
「大丈夫だった?千鶴ちゃん」
「・・・は、い」
その声に、その背中に安堵した私の視界は徐々に歪んでいった。
そして子供達も助かったことが分かったのか、私達は一緒になって嗚咽をあげていた。
その間に一番組隊士の皆さんもやって来たようだった。
沖田さんは彼らに浪士たちや子供たちのことを任せると、私の元に駆け寄ってきて痛いほどの力で私を抱きしめた。
「勝手なことしたら”斬るよ”って、いつも言ってるよね、僕」
「うぅ・・・はい。・・・ご、めんな、さい」
「そんなに僕に斬られたいの、千鶴ちゃんは!?」
いつもと違うその声色から沖田さんが私を心配してくれたことが分かった。
そして同時に何か違和感を感じたのだけれど、それが何なのか思い当たらなかった私はまだ混乱していたこともあってあっさりとその思考を流してしまった。
沖田さんは”いつもと同じ”言葉を言ったのに。
しばらく黙っていた沖田さんは何かに気づいたかのように、腕の力を抜いて身体を離して私の身体を確認するかのように視線を動かした。
「・・・・・怪我はない?」
「はい、たいしたことないです。倒れたときに手の甲に擦り傷をつくったくらいで・・・」
「ちょっと見せて」
「いえ、大丈夫で・・・」
沖田さんは私の手をとると、自分の口元へと近づけた。
次の瞬間には、手の甲に熱くて濡れた感触を感じて私は思わず声をあげていた。
「ふぇええええ!!!?お、沖田さんっっ!!??」
「なに?」
「いえ、な、何を!?」
「消毒」
「しょっ!?い、いえ!そ、それほどの傷じゃ・・・」
傷から口を離した沖田さんは、そこをジッと見つめたままポソリと言葉を発した。
「・・・どうすれば、君を僕にずっと縛り付けることができる?」
「え?」
「手を握るだけじゃ、君はすぐにどこかへ行ってしまうでしょ?」
「沖、田さん?」
「ねぇ、千鶴ちゃんは”僕”を壊したいの?」
「どういう・・・」
その言葉の意味を確かめようとしたけれど、隊士さんたちの声によってそれは遮られてしまった。
「あの・・・お邪魔して申し訳ありませんが沖田組長、捕縛完了しました」
「・・・そう。じゃぁ、屯所に戻るよ」
「はい!」
屯所へ帰る途中。
私は隊士さんたちの視線を背中にヒシヒシと感じていた。
「あのぉー、沖田さん・・・」
「うん、駄目」
「・・・私、まだ何も言ってませんが」
「うん、予想はついてる」
「では、この手を・・・」
「だから、だぁめ。さっきの忘れたとは言わせないよ?」
「うっ・・・。せめて、繋ぎ方をさっきのに戻してください!」
「それも、だぁめ」
私は一応、”男”ってことになってるんですよ?
ということは、私達は傍目からは男同士ということになっているんですよ、沖田さん?それなのに、さすがにこの繋ぎ方は・・・。
だって、これ・・・指と指を絡めて繋ぐのって、恋仲同士の男女しかしませんよ?
と、目だけで訴えると、正確にそれを読み取った沖田さんはこう続けた。
「だって、さっきのじゃ、千鶴ちゃんまたすぐにどこかに逃げちゃうでしょ。これならさっきよりはしっかり繋げるし・・・」
沖田さんは一旦言葉を止めると、妖しい笑みを浮べて私の耳元で囁いた。
「僕達、恋仲同士なんだから問題ないでしょうv」
「へっ・・・!?」
そう言いながら、沖田さんは私の手を引いて口元に持っていくと、チュと音がするほどの口づけを落とした。
「ふえぇえええええええええ!!????」
隊士の皆さんどころか、町人達の視線までもが私達に突き刺ささることになったのでした・・・。
恥ずかしくて、穴があったら・・・いえ、むしろ穴でも掘って埋まりたい心境になった今日この頃です。
【つづく】
††後書き††
あれ、途中シリアスになってる??
WHY??
しかも、ちょびっと薫フラグがたってるし。
そして、沖田狂愛フラグも立てちったORZ
何故?
あぁもう、派生させちゃおうかなぁああああ。
元は明るいだけの、巡察中に手にチュvネタだったはずなんだけど。。。
まぁ、とにかくお読みいただき有難うございました!
次回はただのお馬鹿話に戻っていると思います。多分。
偽りに隠れた真実(3)
今回は(1)の沖田視点となります!
▼読んでみる?▼
********************
千鶴ちゃんの手から色とりどりの金平糖が零れ落ちて地面へと散らばっていく。
その柔らかな白い手を僕の手が包み込んだからだ。
僕たちの周りに散らばったそれは陽の光を受けてきらきらと煌いているけれど、僕の目が捉えている煌きは2つだけ。
「千鶴ちゃん、僕は君が好きだよ。少しも離れていたくないんだ」
それは黒真珠のように煌く千鶴ちゃんの瞳だけ。
その瞳を見つめながら僕は心を込めて愛の言葉を告げた。
いつものような嘘か本当か分からないような戯れの言葉に混ぜるでもなく”真実”だけを。
愛しい想いを真剣に告げるって、結構恥ずかしいものなんだね。
自分でも顔が熱くなるのを感じる。
顔を赤くしている僕に対して、千鶴ちゃんは混乱しているのか口をパクパクとさせて顔を蒼白とさせていた。
・・・まぁ、理由は分かってるけどね。
お日様の匂いがする千鶴ちゃんの華奢な肩に顔を埋めた僕は口元に笑みを刻みながら昨日のことを思い浮べていた。
島原潜入の件で協力を申し出たあの娘が屯所へと尋ねてきたのは突然のことだった。
千鶴ちゃんが”お千ちゃん”と呼んでいる娘だ。
どうやら千鶴ちゃんに会いに来たようだった。
”お千ちゃん”の姿を目に留めた千鶴ちゃんは、よっぽど嬉しいのか満面の笑顔を浮べた。
千鶴ちゃんのそんな笑顔を見たことがなかった。
常から笑顔を見せてはくれてはいるけど、でも今ほどの笑顔を見たことはなかった。
女の子同士の気安さみたいなものもあるんだと思うし、男所帯で千鶴ちゃんの気苦労が多いからなのかもしれないけど。
それを分かっているから、近藤さんも千鶴ちゃんに一時の息抜きを与えてあげたくて許可をしたんだと思う。・・・あの土方さんまでもが。
僕もそれは分かっているけど、僕にはそんな笑顔を向けてくれることなんてないのに・・・なんて、面白くない心持ちになってしまう。
僕には困ったような顔しか見せてくれないし、すぐに僕から視線を外してしまうのに。
確かに僕が千鶴ちゃんをからかうからっていうのも分かるけど。
でもやっぱり面白くないものは面白くない。
まぁ、顔には出さなかったけど。
許可を出したはいいけど屯所の中を二人だけで歩かせるわけにもいかず、たまたまその場に居た僕が二人に付くことになった。
「じゃぁ、時間になったら迎えに来るから」
「はい、お願いします」
襖を閉めて一旦その場を離れたけど、しばらくしてまた千鶴ちゃんの部屋の前に戻った。
部屋の中からは二人の楽しそうな会話が漏れ聞こえ、時おり笑い声も混じっている。
そんな声を聞きながら、気配を消した僕は刀を抜き腰を下ろす。
僕が二人に付くのは部屋までの間だけじゃなかった。二人が部屋の中に居る間もそれは続く。
(あの鬼副長の指示で)監視も兼ねて事情を知らない隊士に見つからないように見張ることになっていたから。
まぁ、本来女人禁制の屯所に二人も女人が居るんだから注意をするに越したことはないよね。
そんなわけで、千鶴ちゃんの部屋の前に陣とることになった僕はある会話を耳にしてしまうことになった。
それは偶然なのか必然なのか・・・。
千鶴ちゃんの部屋の前で、暇な僕はぼーっと空を眺める。
その間も千鶴ちゃんたちの声が自然と耳に入ってくる。
女の子っておしゃべりが好きだなぁ、って思っている間にも清々しいほどの青空では白い雲が風にのって気持ちよさそうに流れていっている。
それがしばらく続いていたんだけど、途切れることのなかった声がふと止んだ。
途切れたことに気も留めずに僕はそのまま空へ視線を向けていた。
けれど、僕の耳に唐突に飛び込んできた言葉があった。
それは千鶴ちゃんのものではなく、あの娘のものだった。
「そういえば、この前言ってた”気になる人”とは何か進展はあった?」
「えぇ!!??」
”気ニナル人”トハ何カ進展ハアッタ?
どういうこと?
千鶴ちゃんには想う人がいるってこと?
それが僕ならいいのにと思うけど、それと同時に僕ではないとも思う。
僕が知っている千鶴ちゃんの表情は、どれも困ったようなものばかり。
僕の言葉に顔を紅く染めることもあったけど、それはそういう言葉に慣れていない少女なら当たり前のこと。
僕じゃなくても恥ずかしさで紅く染めるだろう。
現に何度かそんな場面を目の当たりにしてるし。
僕の中に焦燥と黒いモヤモヤとしたものが生まれる。
まだ千鶴ちゃんには早いと思っていた。
この間の島原潜入の一件で千鶴ちゃんは”子供”なんかじゃないって気づいていたはずなのに。
簪を挿しなおす僕の指に、僕の言葉に、綺麗に着飾っていても常と変わらない千鶴ちゃんに”あぁ、この娘にはまだ早いんだ”と勝手に納得していた。
僕の中で焦りばかりが募っていくというのに、僕のこの想いなんか知らない二人の会話はどんどんと進んでいく。
それはまるで遠くの出来事のように感じる。
実際は障子一枚隔てただけだというのに。
「千鶴ちゃんの”気になる人”に千鶴ちゃんの目の前で食べさせてちょうだい」
「どういうこと?」
「この金平糖ね、ホレ薬入りらしいわよ」
「えぇ、ほ、ホレ・・・!?」
「ね、千鶴ちゃんも”気になる人”に試してみたら?」
けれど、そんな僕の耳に断片的な単語が飛び込んできた。
金平糖?ホレ薬?・・・”気になる人”に試す?
心臓がドクンドクンと大きな音を立てている。
けれど、そろそろ時間だと思い当たり冷静を装って襖越しに声を掛けた。
そして千鶴ちゃんの慌てた様子の返事とともに襖を開く。
「千鶴ちゃん、もうすぐ時間だよ」
「は、はいっ!!」
襖を開けると、慌てた千鶴ちゃんに対して彼女は落ち着いた面持ちで千鶴ちゃんへ声援を送っているところだった。
「じゃぁ、千鶴ちゃん頑張ってね」
ソレが何のことか知ってるクセに僕は何気なさを装って千鶴ちゃんへ問いかけた。
「なに、何の話?」
「いえ!な、なんでもないんです!!気にしないでください!!」
「ふぅん、そう?まぁ、僕も君の事なんて興味ないけどね」
興味ない、なんて嘘。
こんなに気にしてる。
千鶴ちゃんがそう答えるのは当たり前なのにね。
でも僕は何だかそれが気に入らなくて冷たい態度をとってしまったんだ。
この時、僕も余裕がなかったんだと思う。
現に僕は苛ついていたしね。
「沖田さん、さっきの聞いてましたよね?」
「何のこと?」
千鶴ちゃんを食事の準備へと促し、僕は彼女と二人で表門までの廊下を黙々と進んでいた。
けれど、突然彼女は僕へと静かに言葉を発した。
何を指した言葉なのか当然気づいていたけれど、僕は知らないフリを通す。
「”金平糖”のことですよ」
「金平糖がどうかしたの?」
「・・・沖田さんって金平糖お好きでしたよね」
「・・・それがどうかした?」
「気になるなら食べてみたらどうですか?」
「は?」
「後は沖田さん次第って話です」
「・・・・」
短い会話を交わしただけですぐに表門へと着く。
彼女は意味深な笑みを浮かべながら僕に向く。
「送っていただいて有難うございました。・・・沖田さんも頑張ってくださいね」
それだけ言うと、彼女は踵を返して去っていく。
その姿は段々と小さくなり、やがて見えなくなった。
僕は理解しているんだと思う。
たった今、交わした会話の意味を。
「んー、どうしたものかなぁ」
さっき部屋を出る間際、千鶴ちゃんの手の中には桜色の包みがあった。
多分、それのことだと思う。
・・・千鶴ちゃんがソレを使うとは思えない。
だけど、貰ったものを返すことも捨てることも出来ないだろうことは容易に予想がついた。
やがて僕の脳裏にあることが浮かび、”その時”を虎視眈々と狙うことにした。
けれど、鬼畜土方さんに用事を言いつけられて忙しそうな千鶴ちゃんを見るだけでこの日は機会が巡ってこなかった。
その次の日・・・つまり、つい先刻--
”その時”はやってきた。
悶々としたものを抱えながら稽古をつけていた僕はいつも以上に手加減が出来なかったと思う。だけど、そのおかげか少しだけスッキリしたような気はしていて、やっぱり身体を動かすって気持ちいいんだなって思いながら通りかかった縁側でそれは佇んでいた。
お茶が側に置かれていることから休憩中だとすぐに気づく。
そして手の中には、あの桜色の包みがある。
僕の口元は自然と弧を描く。
けれど、それをすぐに元に戻して休憩中の千鶴ちゃんへと声をかけた。
「あれ、千鶴ちゃん休憩中?」
「っ!!は、はい。お疲れ様です、沖田さん」
「ふーん。じゃぁ、僕もちょっと休もうかなぁ」
いつもの僕を崩さないまま千鶴ちゃんの横に腰掛ける。
そして千鶴ちゃんの手の中にある金平糖へと手を伸ばした。
千鶴ちゃんが呆けたような声をあげる。
「あれ、金平糖?少し貰うねー」
「え・・・」
僕が金平糖を口に入れるのを見た千鶴ちゃんは身体を硬直させてしまう。
その様子を横目で見ていた僕は笑いそうになるのを堪えながら金平糖の甘さを舌に感じる。
それはほんわりと口の中全体に広がっていく。
僕は”あぁ、やっぱりね”と思いながら、硬直している千鶴ちゃんへと顔を向けた。
「んーー。やっぱり疲れた時は甘いものが一番だよね、千鶴ちゃ・・・」
千鶴ちゃんを視界に捉えた瞬間、僕は身体をピクリと止める。
僅かな沈黙が生まれる。
一応、僕にも心の準備ってものが必要だ。
素直になるための・・・。
そして僕は彼女の手を己の手で包み込む。
それは証拠隠滅も兼ねていたんだ。
彼女の手の中に残っていた”証拠”が地面へと散らばっていくのに気も留めずに素直な想いを言葉にする。
「千鶴ちゃん、僕は君が好きだよ。少しも離れていたくないんだ」
こうして今に至っているってわけ--
千鶴ちゃんが混乱しているのを分かっていながら、その身体に腕をまわして抱きしめる。
そして、僕は少しだけ意識して彼女の耳元へ囁きかける。
「ね、千鶴ちゃんは僕のこと嫌い?」
「い、いえ、そんな嫌いなんて・・・・」
「本当に?じゃぁ、僕のこと好きなんだ?」
「へ?いえ、あの・・・」
「嬉しいな、僕たち相思相愛なんだね」
「え、えぇぇええ!!???」
「”嫌だ”って言っても、もう離さないからね」
「うっ、え、あ・・・」
ねぇ、千鶴ちゃん。
確かに、これは”偽り”。
でも、紛れもない”真実”でもあるんだよ。
【つづく】
††後書き††
お読みいただき有難うございます!!
いかがだったでしょう?沖田ヴァージョンは・・・。
さて、気づいていたとは思いますが、沖田は”素”です!
”素”で甘いものを放っていたんです(^。^;
知らない千鶴ちゃんと、それを利用して徐々に陥落させようとしている沖田!
この先も気ままに視点を変えていこうかと思ってます♪
偽りに隠れた真実(2)
ふー、やっとアップできたぁーー。。。
というわけで、「偽り~」の2話目デス。
あまーい沖田に振り回される千鶴といつもの皆さんでーーす(笑)
▼読んでみる?▼
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夕餉の時間--
私は居心地の悪さを感じながら食事をとっていた。
と、いっても私の箸は進んでいないのだけれど。
いつもは騒がしいほどの食事風景が展開されているというのに、今夜は水を打ったようにシーンとした空間が広がっている。
それは、いつも食事の時間を騒がしくしている平助君と永倉さんが大人しいから・・・だけではなく、皆さんが沖田さんの唐突ともいえる行動に唖然としているから。
ここにいる幹部皆さんの視線が私たちへと突き刺さる。
「千鶴ちゃん、あーんして?」
私のすぐ隣に座している沖田さんは私の口元へと箸を差し出している。
箸先に挟まれている綺麗にほぐした焼き魚を見てから沖田さんへと視線を移す。
その表情は純粋なほどの笑みを浮べている。
けれど、食べさせてもらうなんて私には恥ずかしくてできない。
しかも他の人が見ている前でなんて尚更で・・・。
「あ、あの、沖田さん。私なら一人で食べられますから、その・・・」
「僕が千鶴ちゃんに食べさせてあげたいんだよ。・・・ダメかな?」
「う・・・」
沖田さんは、悲しそうに眉をさげて私を見つめる。
まるで捨てられた子猫のような瞳に私はついつい沖田さんが差し出す箸先の焼き魚へと口をつけてしまった。
「おいしい?」
「は、はい///」
先ほどの悲しげな表情が嘘のような笑顔で私に聞いてくる。
本当は、恥ずかしすぎて味なんて分からなかった。
それでも私には断るなんてできそうもない・・・。
そんな表情すれば私が断れないのを見越してのことだったんだと思う。
沖田さんは、分かっているのに断ることができない私のことを予想済みなんだろう。
「よかった♪やっぱり、僕の愛が詰まってるからだね」
「っっ!!///」
「「「「「ぶっっっっーーー!!!!!!!!!!!!!」」」」」
沖田さんの言葉に、私が顔を赤くしてしまうのと同時に皆さんは口にしていたご飯を吹き出してしまっていた。
そして、信じられないモノを見るような目で沖田さんを凝視している。
「なに?皆、汚いなぁー。いい大人がご飯もちゃんと食べれないの?」
皆さんの方にに視線を移した沖田さんは、私に向けていた雰囲気とは反対に挑発するような言葉を口にする。
「もう我慢できねーー!おい、総司っ、俺の前でイチャコライャコラしてんじゃねーよっっ!!羨ましいってーんだよ」
「っていうか、いつから千鶴とそういう仲になってんだよ!」
「やだなぁ、焼いてるの?新八さんも平助も」
「俺も聞かせてもらえてーな、総司ぃ」
「土方さんに同じく、だな」
「俺も副長と同意見だ」
「あれ、皆、そんなに僕と千鶴ちゃんの馴れ初め聞きたいの?」
「ふざけてんじゃねーよ!!!」
「稽古が終わった後からですよ」
「「「「「は?」」」」」」
「だから、稽古が終わった後ですよ、今日の。僕と千鶴ちゃんはお互いの気持ちを確かめあったんです。つ、ま、り、僕たちは愛し合ってるんです」
「「「「「あぁあああああああ!!????」」」」」
「ね、千鶴ちゃん。僕たちは相思相愛なんだよねv」
「へ、あ、あの・・・//」
「ちょっと待てよ、総司!お前、稽古前まではそんな素振りこれぽっちもなかったよな!!?つーか、平助、しっかりしろっっ!!」
「ち、ちづるが・・・そ、そーじと・・・ぶつぶつ」
「あははは。どうしたの、平助」
「どーしたもこーしたもねーだろっっ!!お前、ぜってー分かってて言ってるよなっ!!」
「やだなぁ、新八さん。僕は本当のことしか言ってませんけど?」
「そ、そぉーーじぃ、てめぇー・・・」
「あれ、生きてたんですか、土方さん」
「死んでねーよっっ!!つーか、総司っ、忘れたとは言わ・・・」
「忘れました」
きっぱりと告げる沖田さんに、土方さんは眉間へと皺を寄せると広間に怒声を響かせて沖田さんの襟元を掴み引き立たせたけれど、それに対して沖田さんはいつものように飄々とした笑顔を浮かべていた。
私はというと、一気に騒がしくなったこの状況に追いつけず一人オロオロとしてしまっていた。
「てめーはぁああああ!!!!年頃の娘を預かるにあたって”間違え”が起こらないように言っといたよなぁ!!??」
「やだな、まだ”間違え”は起こしてませんよ、”間違え”は。想いが通じ合ってすぐなんて僕がっついてませんから、誰かさんと違って」
「そういうこと言ってんじゃねーよっっ!!最初に千鶴に手を出さないように全員で決めただろうがぁっ!!てめーも”千鶴に興味がない”って言ってただろうがっっ!!」
「!っ・・・・」
「その時はその時。今は今ですよ、土方さん」
土方さんの言葉を聞いた瞬間に私の身体はピクリと固まる。
あまりにも沖田さんが優しい瞳で甘い雰囲気を漂わせていたから、この短時間で忘れそうになっていた。
沖田さんが”こうなった”理由を。
静かになった私に気付いた原田さんと斎藤さんが私の元へときてくれた。
そして、原田さんがポンと私の肩へ手をかけながら優しい声色で声をかけてくれる。
「どうかしたのか、千鶴?」
「い、いえ・・・」
「アンタも総司に巻き込まれているだけじゃないのか。・・・いつもの総司の悪ふざけとかな」
「あぁ、やっぱり斎藤もそう思ったか」
「ち、違うんです。じつ・・・!!」
斎藤さんの言葉に私は”真実”を言おうとしたけど言うことが出来なかった。
心苦しいものを感じながらも、沖田さんのこの状態は”ホレ薬”によるものだとは言えずにいた。
言ってしまえば、出どころも明かすことになってしまう。
新選組の皆さんのお千ちゃんへの信用がなくなってしまうかもしれないと思うと言うことができなかった。
そして、そんな薬を偶然とはいえ使ってしまった自分を沖田さんはは軽蔑するかもしれない。
”ホレ薬”の効果が切れたときの沖田さんの反応を考えると、私は自然と顔が蒼くなってしまう。
「千鶴、お前、体調が悪いんじゃねーか?」
「あぁ、左之の言うとおりだ。顔色が悪いぞ、雪村」
「い、いえ、大丈・・・」
「駄目だよ、千鶴ちゃん」
「お、きたさん?」
「そんなに蒼い顔して大丈夫じゃないでしょ?」
いつの間にか土方さんとのやり取りを終えて私の元に戻ってきた沖田さんは、そう言いながら私をあっという間に横抱きにする。
「僕が部屋まで連れてってあげる。落ちないようにしっかり僕の首に腕をまわすんだよ」
「いえ、自分で歩けますから!!」
「人の好意は素直に受け取るものだよ、千鶴ちゃん」
「・・・はい」
大人しく言われたままに腕を回すと、沖田さんは揺れを感じさせないようにゆっくりと歩み始めてくれた。
広間を出ようとした沖田さんの足を止めさせてのは土方さんだった。
「総司、話は終わってねーぞ!!」
「何、言ってるんですか。こんな状態の千鶴ちゃんを無視しろとでも?さすがは”鬼の副長”ですね」
「誰も、んなこと言ってねーだろ!千鶴は他の奴に・・・」
「寝言は寝てから言ってください。千鶴ちゃんを他人に任せられません」
「そ、総司・・・?」
沖田さんに抱きかかえられている私には土方さんの様子が見えなかったけれど、最後に沖田さんの名を口にした土方さんには驚きの色が滲んでいた。
土方さんに向けていた冷たい空気を瞬時に払拭して、私へと視線を向けた沖田さんの瞳は優しいものだった。
けれど、沖田さんの瞳が優しい色を浮かべれば浮かべるほど、私の胸はチクリと痛む。
嬉しいと思いながらも痛む心。
矛盾した想いが私の中に存在した。
私たちが去った後、広間は再びシーンとなっていた。
そして、土方さんの呟きがその空間を支配した。
「まずいな・・・総司のヤツ、本気じゃねーか??」
けれど、広間を去った私にはそれを知る術はなかった。
【つづく】
‡‡後書き‡‡
ふふ、幹部の皆さんはヤキモキ。
油断してたらカワイイ千鶴ちゃんが毒牙に(笑)
このシリーズは沖田にとことん甘くなってもらうつもりですv
千鶴ちゃんは沖田が甘ければ甘いほど葛藤が・・・(汗)
偽りに隠れた真実(1)
また、シリーズ(というか長編?)を始めてしまいます。。。
本編よりの沖x千鶴です。
今後の展開では、新選組メンバーも登場させる予定でいます。
・・・もち、皆、千鶴が大好きです☆
よろしければ、どうぞお付き合いくださいませ(^。^)
▼読んでみる?▼
*************************
私の手をしっかり握り、私をジッと見つめる新緑の瞳。
その目元は仄かに紅く染まっている。
「千鶴ちゃん、僕は君が好きだよ。少しも離れていたくないんだ」
急な沖田さんの言葉に反応することも出来ないほど蒼白となっている。
本来ならばこんな風に告げられれば胸を高鳴らせる場面なんだろうけど、今の私にはできない。
それが”偽り”だと理解しているから。
まさか、沖田さんが”コレ”を食べてしまうなんて!!
こうなってしまったのには、こんな経緯があった---
それは昨日のこと。
お千ちゃんが屯所まで私に会いにきてくれたことに始まる。
島原の一件での協力者でもあることで、私の部屋のみで限られた時間だけという条件付きで会うことを許してくれた。
もちろん、近藤さんの口添えもあったのけれど。
私の部屋でお千ちゃんと二人でひとしきりおしゃべりをした後、お千ちゃんは悪戯っぽい笑顔を浮かべながらこう切り出した。
「そういえば、この前言ってた”気になる人”とは何か進展はあった?」
「えぇ!!??」
ふいに私の脳裏に浮かんだのはあの人で・・・。
私を守ってくれた背中、簪を挿し直した後に私の髪を掻き分ける優しい指先、いつもと違う物言い--
あの時に感じた胸の高鳴りを無意識に思いだしてしまった。
私の頬は自然と熱を持ちだす。
そんな私の様子を見ていたお千ちゃんはポンと手を一度打つと、着物の袖からおもむろに桜色の包みを差しだしてきた。
お千ちゃんは私の手にその包みを乗せてこう言った。
「千鶴ちゃんへのお土産。これね、金平糖なんだけど・・・」
「わぁ、ありがとう。一緒に食べよう」
「ううん、これは千鶴ちゃんが食べたら駄目よ」
「え?」
「千鶴ちゃんの”気になる人”に千鶴ちゃんの目の前で食べさせてちょうだい」
「どういうこと?」
「この金平糖ね、ホレ薬入りらしいわよ」
「えぇ、ほ、ホレ・・・!?」
「ね、千鶴ちゃんも”気になる人”に試してみたら?」
「っっ、わ、私は別に・・・」
私は、その言葉と手の中にある”ホレ薬入り”だという金平糖の存在に慌てふためいてしまう。
そんな時、時間の終わりを告げる沖田さんの声が襖の向こうから声が掛けられる。
「千鶴ちゃん、もうすぐ時間だよ」
「は、はいっ!!」
「じゃぁ、千鶴ちゃん頑張ってね」
「なに、何の話?」
「いえ!な、なんでもないんです!!気にしないでください!!」
「ふぅん、そう?まぁ、僕も君の事なんて興味ないけどね」
沖田さんの視線と言葉に耐えきれず畳へと視線を落とした私を助けるようにお千ちゃんが言葉を挟んでくれて、私は少しだけホッとした。
「沖田さん、もう時間なんですよね。では、私はこの辺でお暇します」
「あぁ、それじゃ外まで送るよ」
「はい、お願いします」
「千鶴ちゃん、彼女は僕が責任もって外まで送るから君は仕事に戻ってくれる?」
「は、はいっ」
今夜の食事当番は私だった。
食事の準備が始まる時間までという条件でこの時間を頂いていた私は、沖田さんの言葉に素直に頷く。
「千鶴ちゃん、今日はありがとう。大変だろうけど頑張ってね」
「うん。お千ちゃんも来てくれてありがとう、嬉しかった。外まで送れなくてごめんね」
「いいのよ。千鶴ちゃんも忙しいだろうし。それじゃ、またね」
「気をつけてね」
屯所の中を他の隊士たちに見つからないよう、来る時も私の部屋と外までの間は沖田さんが付き添ってくれていた。
監視を兼ねていたのかもしれないけど。
先ほどの賑やかさとは打って変わってシーンとした部屋に一人残った私の手の中には、その存在感を主張するほどの重みを感じさせる桜色の包みが佇んでいた。
「これどうしようー・・・」
この後、夕餉の準備に始まり少し忙しくなってゆっくり考えている暇もなく、桜色の包みにくるまれていた金平糖が一夜明けた今日も私の手の中にあった。
暖かな陽が降り注ぐ縁側でお茶を飲みながら休憩していた私は、包みを広げ金平糖をジッと見つめては溜息をつく。
どこからどう見ても匂いも普通の金平糖のように見えるけれど、お千ちゃんは”ホレ薬入り”と言っていた。
コレをどうしたらいいか途方に暮れてしまっていると、稽古を終えた沖田さんが通りかかり声をかけられる。
ボーっとしていた私は、そんなに大きな声でもなかったのに僅かに肩を震わせてしまった。
「あれ、千鶴ちゃん休憩中?」
「っ!!は、はい。お疲れ様です、沖田さん」
「ふーん。じゃぁ、僕もちょっと休もうかなぁ」
そう言いながら、沖田さんは私の隣へと腰を下ろすと、私の手の上に視線を移した。
「あれ、金平糖?少し貰うねー」
「え・・・」
沖田さんは返事を待たないまま、私の手の上からひょいっとソレを何粒か取り上げ口に入れる。
沖田さんの口の中に金平糖が入れられるのを見届けた私は、沖田さんから視線を外せずに凝視することとなった。
身体が固まってしまったともいうんだけど・・・
「んーー。やっぱり疲れた時は甘いものが一番だよね、千鶴ちゃ・・・」
そんなことを言いながら沖田さんも私を視界に捉えると、ピクリと動きを止めてしまう。
一瞬の静寂が生まれ、次に気付いた時には私の両手は沖田さんの手に包みこまれていた--
私たちの周りには、私の手から舞い落ちた色とりどりの金平糖が散らばっている。
「千鶴ちゃん、僕は君が好きだよ。少しも離れていたくないんだ」
そして、今に至っているという具合で---
「ね、千鶴ちゃんは僕のこと嫌い?」
「い、いえ、そんな嫌いなんて・・・・」
「本当に?じゃぁ、僕のこと好きなんだ?」
「へ?いえ、あの・・・」
「嬉しいな、僕たち相思相愛なんだね」
「え、えぇぇええ!!???」
「”嫌だ”って言っても、もう離さないからね」
「うっ、え、あ・・・」
沖田さんは私の身体にその腕を廻し、ギュッと抱きしめながら囁いたのだった。
何か言おうとしても言葉にならないほど、私の頭の中は益々と混乱を極めたのだった。
こ、これからどうなっちゃうの---!!!
【つづく】
‡‡後書き‡‡
お読みいただき、有難うございます。
またまた、カオスなことをおっぱじめてしまった感ありまくりの理空デス。。
・・・本当はこれ短編の予定だったんです。
が、何度も書き直しているうちに書きたいことが増えていきまして・・・。
また長くなりそうだったんで一層のこと続きものにしてやれーと、
してしまいました(大汗)
この先の内容は自分自身にも分かっていないという予定は未定☆な感じで
進めていきます。(←ヲイ)
いや、断片的に落ちは考えてるんですけどね。。。
よろしければ、お付き合いくださいませ。