4444【縁を結ぶ場所】
4444HIT!有難うございます!!
まめ柴様より、「沖千で二人で夏祭り」(屯所でもSSLでもどちらでもOK)という素敵リクをいただきました!
今回はSSL設定で書かせていただいてます。
前半、千ちゃんがかなり出張っていますが。
後半、何故か甘くなってますが。
それでもよろしければ、「読んでみる?」からお進みください。
※お持ち帰りは、まめ柴様のみOKです。
▼読んでみる?▼
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陽が延びているせいか空には未だに陽が在ったが時刻としては夕暮れ時の電車の中には、浴衣姿の二人の少女の姿があった。
それは、涼やかな翡翠色の浴衣に身を包んだ千鶴と鮮やかな山吹色の浴衣に身を包んだ千の姿だった。
「千ちゃん、誘ってくれて本当にありがとう!!ここのお祭り行きたかったんだぁ」
「え?あぁ・・・うん。千鶴ちゃんに喜んでもらえると、私も嬉しいなぁ」
千は何故か少しだけ言い淀みながらも笑みを向ける。
千が誘った祭りとは、実は千鶴が行きたいと思っていた祭りだった。
電車を何本か乗り継いで1時間半ほどかかる少し遠出といえる場所の祭りなのだが。
千鶴が少々遠いともいえるこの祭りに興味を持ったのは、夏休み前に何気なく見ていた雑誌の特集だった。
皆・・・先輩を誘ってみようと思ったが、偶然そこに居合わせた先輩が何となく口にした言葉によって願望を口にするまでもなく諦めてしまった。
けれど、千が誘ってくれて千鶴はビックリはしたが嬉しくて了承の返事をした。
もちろん親友の千と祭りをまわれるのも嬉しいのは本心なのだが、少しだけ先輩ともお祭りをまわりたかったな・・・なんて思ったのは千鶴だけの秘密だったりする。
千の自宅から近い駅では浴衣姿の人など千と千鶴の二人だけだったが、何本か電車を乗り継いで現地に近づいていくにつれて浴衣姿の人が徐々に増えていった。
祭りが開催される最寄り駅へ着くと雑誌でも特集されるほどの祭りでもあるせいか、かなりの人の姿があった。
その多くが、カップルらしき男女や女の子同士といった祭り客のようである。
まぁ、ここの神社の特性からいって当たり前と言えば当たり前かもしれないが--
「うわぁ、すごい人だねぇ」
「そうだねぇ・・・」
予想以上の人の多さに千鶴は驚いたように千へと話かけたが、千は辺りを見回しているようだった。
「どうしたの?そんなにキョロキョロし・・・」
千の様子にどうしたのかと聞こうとした瞬間、背後から肩へ手がポンと置かれたのと同時に聞き知った男の人の声が千鶴の耳へと響いた。
「千鶴ちゃん」
その声を聞いた途端に周囲のざわめきが掻き消えたかのように、自分を呼ぶその男の人の声だけが千鶴の鼓膜を震わせた。
けれど、千鶴はとっさに”そんな筈かない”と思った。
千鶴が手にしていた雑誌の記事を覗き込んで、
『皆、部活や講習で急がしいし疲れちゃってお祭りどころじゃないよねぇ』
と、言った先輩と同じ声だったから--
千鶴は皆の負担になりたくなくて一言も口にぜずに諦めたのだ。
その”皆”には先輩も含まれているわけで。
そんな思考が巡っている千鶴の横で、千があっさりとその人物の名を口にする。
「沖田さん、どこに居たんですか!?」
「やぁ。ちょっとね、ヤボ用」
「はぁ!?何を・・・」
総司は短く言うと、更に何か言い募ろうとした千を無視して再び千鶴の後頭部へと視線を戻した。
「ねぇ、千鶴ちゃん。こっち向いてくれないの?」
「だ、だって・・・沖田先輩なわけ・・・」
「んー、困ったなぁ」
ちっとも困ったような感じではなかったが総司はそう言ながら、千鶴の肩に置いたままの手へと僅かに力を入れて自分の方へと引き寄せる。
「きゃっ?」
体勢を崩した千鶴は後ろ向きのまま総司の胸へと倒れ込み、千鶴を後ろから抱きこむような体勢になった総司は千鶴を胸の中に抱きとめたまま上から千鶴の顔を覗き込んだ。
千鶴の見開かれた大きな瞳には、悪戯っぽい笑みを浮べた総司の姿が上下逆さまになって映っている。
「どう、ちゃんと見えてる? 正真正銘、僕は”沖田先輩”だけど」
「な、なんで?沖田せん、ぱいが?」
「ん?それはね・・・僕が、千ちゃんに”お願い”したからだよ」
にっこりと笑みを浮べながら言う総司に対して、向いに立っていた千は総司をジトリと睨め付けながら総司の言葉に訂正を入れた。
「”お願い”というより、半ば”強引に”ですけどね。千鶴ちゃんの想いをたてにとって・・・本当にイイ性格してますよね、沖田さんって」
「ありがとう。褒め言葉としてとっておくよ♪」
「せ、千ちゃん?”お願い”って??」
「あーっと・・・ごめんね、千鶴ちゃん。実は・・・」
まだ事情を飲み込めていない千鶴は、助けを求めるように千へと視線を向けた。
千は顔の前で手を合わせて千鶴に謝ると、今回の経緯を説明する。
つまりはこういうことだった--。
雑誌の特集を千鶴が興味深々で見ていた所に、偶々総司だけが居合わせたことに始まる。
千鶴の様子を見ていれば、その祭りに行きたがっていることは容易に予想がつくことで。
ついでに言えば、千鶴が誘えば皆が賛成することも予想に容易い。
だが、その場には総司の他には誰も居らず、その時点では千鶴が祭りに行きたがっていることを知っているのも総司だけということになる。
もし、千鶴がその場にいる総司だけを誘ったとしても、どこからか話を聞きつけた邪魔者がわらわらと沸いて出ることも予想の範疇である。
それを理解すると同時に、総司は今回の計画をあっという間に頭の中で構築させた。
そう、邪魔者を排除して千鶴と二人だけで祭りに行くための計画を--
そして、千も千鶴の想いに気づいているだけに総司の計画に協力することにしたのだった。
「・・・ってわけで、沖田さんに頼まれたのよ。二人っきりでお祭りを楽しみたいからって」
千鶴は”二人っきり”という言葉に嬉しさと多少の恥ずかしさを感じて頬をほんわりと赤く染めながらも上から覗き込んでいる総司の瞳へとおずおずと視線を合わせてポツリと呟いた。
「二人っきりで・・・?」
「そう、二人っきりで。・・・あれ、僕と二人なんて嫌だった?」
「そ、そんなことないです!!そ、その、う、嬉しいです///」
「そう、良かった」
顔を真っ赤にして俯く千鶴と、確信犯の笑みを浮べる総司。
そんな二人を見ていた千は、自分の存在を知らせるかのように業とらしいほどの咳を響かせた。
再びジトリと総司を睨んでいる千へと二人の視線が向けられる。
「・・・白々しい。千鶴ちゃんが喜ぶのなんて分かりきってるくせに。じゃなかったら、私が協力するわけないじゃ、ないっ・・・!」
「えっ、千ちゃんっ!?・・・」
すっかり違和感無く総司の胸に収まっていた千鶴の腕を引いてそこから救出すると、千鶴と向き合った千はその両手を己の両手でキュッと包み込んだ。
そして、総司に向けていたのとは違う朗らかな笑顔を浮べて千鶴に優しく告げた。
「千鶴ちゃん、楽しんできてね!千鶴ちゃんの笑顔が見たくて、この腹黒天邪鬼男に協力したんだから!」
「千ちゃん・・・」
千の優しい想いに千鶴が瞳を潤ませながら二人が友情を確かめ合っていると、苦笑めいた総司の声が割り込んだ。
「”腹黒天邪鬼男”って、もしかして僕のことかなぁ?」
「もちろんです、他に誰がいるって言うんですか?我ながら的を得ていると思いますけど」
「酷いなぁー」
「それより、沖田さん。・・・分かっていると思いますけど、千鶴ちゃんを泣かせたら私が許しませんからね?」
「あはは、怖いなぁ。大丈夫、千鶴ちゃんが嫌がることはしないから(嫌がることはね)」
暗に牽制をひいた千に総司もまた笑顔で返しながら、そっと心の中で言葉を付け足す。
笑顔のはずの二人から不穏なものを感じた千鶴はオロオロとするばかりだった。
それに気づいた総司は千から千鶴へと視線を戻す。
そして、千鶴へと手を差し伸べて優しい声色で誘いの言葉を囁いた。
「お手をどうぞ、お姫様?」
「へ!?」
「・・・迷子にならないように、ね?」
「そ、そうですよね、凄い人ですもんね!!」
「くすくすっ・・・そうだね」
「じゃ、じゃぁ、・・・よろしくお願い、します」
「うん、よろしくされました」
差し出された大きな手へと千鶴の小さな手がおずおずと乗せらる。
総司の手に重ねられた己の手に視点が固定されていた千鶴は気づかなかったが、二人の向いに居た千にはバッチリとその様が見てとれた。
千鶴が纏っている浴衣と同じ翡翠の色をした総司の瞳に、自分が見たこともないような何時になく甘やかな色が浮かんでいるのを。
「・・・はぁ。もう、とっとと千鶴ちゃん連れて行っちゃってください」
「ん、言われなくても千鶴ちゃんは僕が攫っていくから♪」
「はい、はい、そうですか。ごちそうさまです」
そうして千と別れた千鶴と総司は、駅を出て出店が並ぶ通りを手をしっかり繋いで歩いていた。
手を繋ぎながら、総司は隣の千鶴へと顔を向けて微笑んだ。
「今日の千鶴ちゃんも可愛いね。その浴衣、すごく似合ってる」
「かっ!!からかわないでくださいっ!!もう、沖田先輩ってば、いつもそうやって私をからかって遊ぶんだから・・・」
「からかってなんかないよ。今日の僕は素直なんだから・・・あえて言うなら”ここの神様効果”かな?」
「っっ///・・・ありがとう、ございます?」
頬をほんのりと染めながらそう小さく言って、千鶴も総司へと目を向けた。
いつも見る制服姿とは違って総司も祭りに相応しい浴衣姿だった。
常の悪戯っぽい子供ような雰囲気を見せる総司とはまた別の、大人の雰囲気を醸し出している。
そのうえ、堅苦しいのが嫌いな総司らしく襟元が緩められており、剣道で鍛えられたしなやかな胸元がちらりと覗いていて男性独特の艶っぽさもプラスされている。
めったに見ることのない総司の姿や雰囲気に、千鶴の鼓動はトクントクンと煩いほどに鳴り響くようだった。
そんな千鶴を余所に暢気な声がかけられる。
「あ!ねぇ、千鶴ちゃん。あれ食べる?」
「えっ?」
千鶴が返事する前に、総司は繋いだ手を緩く引いて目的の場所へと向かっていた。
向かう先から漂う甘い匂いが鼻を擽り、目に映ったのは棒をくるくる回して白くてふわふわとした雲のような菓子を作り出している様子。
その店の前に着くと、ゴーという大きい音の中で総司は店のオヤジへと目的のものを注文した。
「オジサン、一つちょうだい」
店のオヤジは、総司と、隣に佇む千鶴の姿を目に留めると、ニカっと効果音が付くような豪快な笑顔を浮かべて気っ風の良さを感じさせた。
「あいよ。おっ、彼女にかい?」
「うん、そうだよ」
「へっ!?か・・・?」
「可愛い彼女じゃねーか。よーし、サービスだ!特大にしてやらぁ」
「どーも。・・・ほら、千鶴ちゃん」
「あ、は、はいっ!!」
総司に促されて言葉どおり特大といえる綿飴を屋台のオヤジから受け取ると、再び神社への参道で繰り広げられている縁日の中を二人は歩み始めた。
けれど、ただでさえ緊張しているというのに第三者から見たら自分達がカップルに見えると思うと、ますます心臓が早鐘を打ち始める。
そんな状態で何を話したらいいのか迷った千鶴は、たった今買ってもらった綿飴へ黙々と口をつけた。
綿飴の上部分が口の中で溶けてなくなってその甘さが完全に広がる頃には少しだけ心が落ち着いたような気がする。
同時に、はっとその事実に気がつく。
「あ、沖田先輩の分の綿飴はいいんですか?」
「あぁ、僕は一人じゃこんなに食べれないからねぇ・・・」
ふと、総司は何かを思いついたのか口角を少しだけ上げて悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「でも、そうだなぁ、美味しそうだし少しだけ味見させてもらおうかな」
そう言って、行動に移したのは一瞬だった。
立ち止って屈み込むと、繋いでいるのと反対側の手で綿飴を握っている側の千鶴の腕を掴んで固定させ、綿飴に顔を近付けてパクリと口を付けた。
一瞬のことで何が起こったのか把握できていなかった。
けれど、軽く目を閉じて綿飴に口を付けている総司の顔を間近で見ることになった千鶴は、呆然としながらも『沖田先輩の睫毛、長いなぁ』とか無意識に思ってその端正な横顔に見惚れていた。
そんな千鶴へと、総司は笑みで細めた瞳を横目で見やる。
そして、口元を舌でペロリと舐め取ると親指で拭いながら艶を含んだ声色で囁く。
「甘くて美味しいね。・・・千鶴ちゃんみたいで」
その瞬間、ボッと音がするのではなかろうかと思うほどに千鶴の顔が真っ赤に染まった。
ニヤニヤとした総司が千鶴の顔を覗き込み、分かってるくせに意地悪そうな声で問いかける。
「あれ、どうしたの?千鶴ちゃん、顔が真っ赤だよ?」
「っーー!!・・・いの・・です」
「うん?」
「沖田先輩のせいですっっ!!」
羞恥ゲージがMAXに達した千鶴は目を潤ませながら叫ぶと、ぷいと反対側に顔をそらしてしまった。
そこまでは予想していなかったのか、総司は目を瞬かせると形の良い眉を寄せて困ったような表情を浮べる。
「・・・あーー。ごめんね、千鶴ちゃん」
「知りませんっ」
「困ったなぁ。どうやったら機嫌を直してくれるかな?」
恥ずかしさでいっぱいの千鶴は気づいていないかもしれないが、怒っていてもそれでもずっと繋がれている手。
それに千鶴らしさが出ているようで、こんな状況だというのに微笑ましくなって総司はふと微笑んだ。
そして何かを思い付いたのか、千鶴の手を引いて参道を進んでいく。
「ちょっと付き合って、千鶴ちゃん」
「な?沖田先輩!?」
総司が向ったのは神社の境内だった。
ここまで来るために通った参道の喧騒が嘘のような静けさに包まれたその場所は、木々の間に吊るされた提灯の淡い灯りによって照らし出され、神社らしく一種の神聖さを感じさせる。
しかし、総司は特に気にも留めていないのか神様が祭られているという門前の三段ほどの階段に座るように促して千鶴が座ったのを確認してから自分も隣へと腰掛けた。
そして、徐に袖口から何かを取り出す。
千鶴の手をとって手の平を上に向かせると、千鶴たちに会う前に買っておいたそれを乗せた。
桜を模った薄い水色の鈴の根付を。
総司の手の中にもピンク色をした同じものが1つ収められている。
それは元々2つセットの根付で。
縁結びのお守だった--
「どう?機嫌は直してもらえそうかな」
「これ・・・」
「欲しかったんでしょ?」
「・・・沖田先輩、気づいてたんですか?」
「まぁね。千鶴ちゃん分かりやすいし・・・たまには僕も信じてみてもいいかなって思ってね。だって、ここの神様って縁結びの神様でもあるんでしょ」
「せんぱ、い・・・嬉し、です」
それ以上は言葉にならずにいる千鶴の瞳には大粒の涙が光っている。
それを見られるのが恥ずかしいのか俯いてしまった千鶴の目元に総司のしなやかな指先が添えられ涙を掬う。
「まだ早いよ。この場所でやることはもう一つあるでしょ?」
「あ・・・」
雑誌の記事を思い起こしながらその言葉の意味を把握して顔を上げると、涙を掬っていた指先が今度は千鶴の柔らかな唇へと押し当てられる。
そこには総司の真剣さを孕んだ瞳があった。
「・・・嫌だったら言って?」
千鶴の答えは決まっていた。
静かに首を横に振って瞳をそっと閉じる。
指先が離れた替わりに温かな唇がそっと触れた。
神様の前で、誓うかのように優しいキスを重ねたのだった--
【了】
♪★後書き★♪
まめ柴様、「沖千で二人で夏祭り」という素敵リクを有難うございます!!
えぇ、妄想が膨らみまくって困ってしまうほどに楽しく書かせていただきました♪
さて、今回はSSLで書かせていただきました。
(あまりSSL設定が活かせていないような気がしないでもないですが(汗))
が、屯所時代の方でも妄想が膨らみどちらで書こうか迷ってしまうほどで。
しかも、この話の後日談までもが頭の中をぐーるぐーる廻っている始末。。。(笑)
ともあれ、楽しんでいただければ幸いです。
では、この度は本当に有難うございました。
※まめ柴様のみお持ち帰りOKです。