序曲は混乱とともに
今回はパロです。
一応、現代。
和風ファンタジーの匂いが微かにあったりなかったり。(どっちだ)
相変らず、沖田と千鶴の二人。
▼読んでみる?▼
***************************
空には灰色の雲がかかり、ゴロゴロと唸り声をあげて雨の到来を予告している。
そんな中、肩に学校指定の鞄を肩に提げて片手には買い物袋、もう一方の手には特売品のティッシュ箱5個入りを持っている一人の制服姿の少女の姿があった。
その出で立ちから見て明らかに、学校帰りにスーパーに寄り、買い物を終えて急いで帰路に着こうとしている途中なのだろうことが伺える。
少女が帰り道にある神社の鳥居の前をちょうど通りかかったとき、激しいほどの地響きが起こった。
それは少女の歩みを止めるには十分で少女が揺れに耐え切れずに地へと座り込んだ。
すると、今度は間近でドーォンッという音が天と地に轟き、驚いた少女は一瞬のことで耳を塞ぐこともできずに(どちらにせよ両手が塞がっていたのだが)反射的にギュッと目を瞑っていた。
暫くして恐る恐る目を開くと両手に持っていた荷物がコンクリートの地面へと転がっている。
はぁ、と溜息をつきながら荷物を拾おうと手を伸ばしたとき、先ほどとは異なるカッという激しい音と共に空から一閃の光が地へと--神社の境内辺りへと伸びている。
一瞬の後、光が消えたと思ったら何か白い影が落ちていくのが少女の瞳に映った。
少女自身もよく分からないままに影が落ちた場所・・・境内へと向って鳥居を抜けて階段を駆け上っていた。
その間に、空からは雨がポツリポツリと降り始め、すぐにザーっと肌に叩きつけられるような激しい雨へと姿を変える。
境内に着く頃には、水を吸った服が重たげに少女の身体に纏わりつき、サイドで結んだ艶やかであった黒髪が濡れそぼって首筋に貼り付いている。
すっかり濡れ鼠となった少女が息を乱しながら階段を駆け上りきってそこを見渡すと、境内奥にある木々の一部が焼き焦げて倒れている。
その焦げた匂いがする木々の下には傷だらけになった子猫の姿が在った。
===
昨夜(といっても夕方頃)から降り続いていた雨もすっかり上がり、昨夜が嘘のように清々しい朝を迎えていた。
道端に植えられた木々の葉や、花びらにつたう雫が陽の光を受けて透明な輝きを放っている。
そんな気持ちの良い朝。
とある一軒家のある可愛らしい部屋では、目覚まし時計のジリリリ・・・という音が鳴り響いていた。
毎日同じ時刻に鳴るその音が大きくなっていくのに比例するかのように部屋の主である少女の意識も徐々に覚醒へと促される。
まだ浅い眠りの中にいる少女は閉じられている瞼の裏に陽の明るさを感じて眩しさで無意識に眉間へと皺を寄せると、暫くして薄く目を開いた。
少女らしい白いレースのカーテンの隙間から差し込む朝陽の眩しさに再び瞳を瞬かせながら、未だに鳴り響いている目覚まし時計を止めようとベッドサイドに手を伸ばそうとしたが、何か暖かい障害物によって阻まれてしまう。
不思議に思って自分の隣にあるであろう障害物へと、まだ完全に覚醒していない寝ぼけた状態のまま視線を向ける。
そこには、気持ち良さそうにゆったりと胸部を上下させながら眠り耽る男の体躯があった--
(もう、また薫ってば・・・・・・・・・・って、あれ?)
たまに夜中に寝呆けて入ってきて隣で眠ることがある兄の薫だと思ったが、何か違和感を感じる。
肝心なことを忘れているような気がしないでもないのだが、上手く頭が働いてくれない。
その間も目覚まし時計がけたたましい音を響かせている。
「んーー」
男は朝を知らせるこの音が不快だとでもいう様に音とは反対側--つまり少女の方へと寝返りをうった。
少女の瞳に映ったのは、形のいい眉を顰めた端整な顔立ちの男の姿だった。
(え・・・)
そう、少女の兄・薫とはまったくもって違う男の顔が。
その事実に少女は瞳を見開いて声を出すことも出きずにその男を凝視してしまう。
暫くして辛うじてガバリと上半身だけ起き上がらせたが、そこで身体さえも固まってしまう。
少女が起き上がったことで掛け布団の上半分が捲れ、物理的に当たり前だが隣に眠る男のへそ上部辺りまでが露になるわけで---。
つまり、少女の瞳に映ったのは何も身に纏っていない男のしなやかな裸体だったりする。
この世に生命を受けてからこの歳まで彼氏も居らず、友人や家族からは”純粋”と評される少女にとっては十分に刺激が大きいといえる。
少女は、まるで金魚のように顔を真っ赤に染めて口をパクパクと動かしている。
しかし、その言葉は残念ながら音になって出ることはなかった。
--それだけ少女にとって衝撃が大きかったということなのだが。
声にはならずとも、頭は急激に活動し始める。
ただし、混乱で占められてはいるが。
自分とソックリな顔をした兄の薫ではない見知らぬ男の端整な顔をチラリと伺っっては顔を紅く染め、首をフルフルと振って視線を外して何かを呟いては顔を蒼くさせたりとリトマス紙のように変じさせる少女は忙しない。
---まぁ、普通は当たり前といえば当たり前である。なんせ、起きてみたら見知らぬ裸体の男が自分の隣ですやすやと気持ち良さそうに眠っているのだから、純情と称される少女にとっては天変地異ほどの衝撃である。
「そうよ、薫のはずがないじゃないっっ!!だって薫は・・・っていうか、なんで知らない男の人が私のベットで寝てるのっっ!!??そ、そ、それに、何で、は、は・・・・か!?///いや、カッコイイ人だけど・・・って、そうじゃなくて・・・そ、そうだ、昨夜のあの猫ちゃんは!!?」
音にならなかったはずの声は、いつの間にか空気にのって振動し、見事に音として部屋に響いている。
けれど、少女は頭の中で巡っている疑問が音となって出ていることにも気づかないほどパニックに陥っていた。
そう、そんな少女の慌てた様子をニヤリとした笑みを浮べて眺めている存在にも気づかないほどに。
「ねぇ、薫って誰?」
「私のお兄ちゃんよ」
「そうなんだ。で、そのお兄ちゃんは・・・っていうか、家族はどっかに出かけてるの?この家には君一人みたいだけど?」
「当たり前よ。お父さんの海外転勤にお母さんも付いていったし、薫も留学で・・・・って、あれ?」
「ふぅん。昨夜から家の人が居ないからおかしいなとは思ってたけど、やっぱり君一人なんだ?この家」
少女が壊れたロボットの様にギギギと首だけを隣・・・斜め後ろへと向けると、いつの間に起きたのか、ベットに肘をついて頭を支える格好で寝そべりながら、男は瞳を細め口角をあげて面白そうな愉快そうな表情で少女を見つめていたが、頭から己の腕を外して自分も上半身だけ起き上がると、少女にニッコリと笑みを向けた。
「おはよう♪」
「あ、お早うございま・・・って!!そう、そうじゃなくて!!あ、あ、あ、あなたは一体なんなんですかぁあ!!??」
少女は根が素直なせいか男の朝の挨拶に自然に返しながら、ハタとその不自然さに気ずいて、再び少女は混乱に支配される。
そんな少女を可笑しく思いながらも、男は傷ついたような目をして少女を見つめた。
そして、少女の艶やかな黒髪へ指を絡めて梳きながら色を含んだ声色で囁いた。
「酷いなぁ、僕のこと忘れちゃったの?昨夜はあんなに瞳を潤ませながら僕の身体に触れて・・・一生懸命になって僕に抱きついてくれてたのに」
「ふ、触れる?抱きつく!??」
「そう。君の温もりが僕の身体に今も・・・あれ?」
「な、何なんですか!!?」
男は自分の身体に目をやると首を傾げた。
傷の一つも染み一つも無い、肌理の細かい己の身体を。
「・・・僕、怪我してたよね」
”怪我をした”という言葉に心当たりがあるのは、目の前の男ではなく”人”でさえもない。
「け、怪我!?怪我してたのは猫ちゃんです、けど?」
「・・・・」
先ほどまでとは違う真剣な表情で何かを考え込む様子を見せた男は「まさか・・・」と小さく呟くと、少女の頬へと手を添える。
少女を魅了する絶対的な何かが宿っているような翡翠色の瞳に少女は動くことも出来ずに男をただ見つめていた。
男の顔と自分の顔の距離が徐々に近づいていくのにも気づかないほどに。
もう少しで触れ合いそうになった瞬間、男の翡翠色だった瞳が血の様に紅い色に染まった。
紅い瞳も綺麗だなと無意識に思ったとき、トクンと心臓が音を紡いで仄かな桜の香りが少女の身体から立ち昇る。
まるで幻の中を漂うかのような感覚が少女を支配していた。
しかし、間近に迫っていた端整な顔はふっと消え去り・・・というか、男の姿自体がこの部屋から消え失せ、男の居た場所には代わりとでもいうように白い毛並みの紅い瞳をした子猫が佇んでいた。
少女をジッと見つめながら。
「えぇ!??あ、あれ・・・」
少女は何かから解き放たれたようにハッとして屈み込み子猫へと視線を合わせる。
すると子猫がニヤリと笑い、普通なら有り得ない事なのだが子猫が人間の言葉を発したのだった。
「僕って結構ラッキーかも。こんなに早くに見つかるなんてね♪」
そんな言葉も耳に入らないほど少女は混乱していた。
朝起きたら隣に見知らぬ男が寝ていた以上の衝撃である--いや、どちらがマシなのだろう?
と思わず考えてしまうほどだ。
「ど、どうして!?あ、あれ、猫ちゃんがあの男の人で、あの男の人が猫ちゃんで・・・」
「総司!」
「え?」
「僕の名前。”猫ちゃん”でも、”あの男の人”でもないよ」
「・・・総司、さん?」
「よくできました。千鶴ちゃん」
「えっ!!何で私の名前をっっ?!!」
「ん?昨夜、僕の看病しながら教えてくれたでしょう」
「や、やっぱり、昨夜の・・・猫ちゃん、なんですか?」
「ちーづーるーちゃーん?」
「う・・・すいません。総司さん」
「うん。そう、僕だよ。君に看病された猫も、たった今君の隣に寝ていた男も、ね」
素直すぎる性質のせいか千鶴は子猫と先ほどの端整な顔の男が同一の存在だと認めると、はっとして気になっていたことを口にした。
「そういえば、怪我は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ。・・・千鶴ちゃんのおかげでね」
「私の?」
総司は何かを思案すると、真面目な顔つき(猫だが)と低めな声(猫だけど)になって、千鶴へと忠告を促す。
「そう--これから君は気をつけた方がいいよ?」
「気をつける?」
「気づかれるのも時間の問題だからね。まだ微かだけど直ぐに香が強まるよ。そして、君の力・・・血を狙って妖の者たちが集い始める」
「え、え、え????」
総司が言っている意味が分からず、千鶴はますます混乱するばかりだった。
予想もしていなかった忠告をされたのだから、その言葉を反芻するので精一杯で意味など考えられるはずもなく。
ただでさえ、この短い時間の中で衝撃的なことが在り過ぎるのだから仕方が無いとも言える。
「まぁ、安心しなよ。君は僕達---僕が護ってあげるからさ」
そんな総司の言葉も、今の千鶴には届いてはいない。
総司は、はぁと子猫の姿で溜息を吐くと、今度はその瞳を悪戯っぽく細めた。
そして、ピョンと千鶴の膝の上に昇り、子猫の小さな手を千鶴の身体に当てて立ち姿になると、チロチロとした赤い舌で千鶴の頬をペロリと舐めた。
「ふぇええ!!??」
濡れた感触の残る頬を押さえて悲鳴をあげた千鶴を無視して、総司はそのまま千鶴の膝の上で身体を丸めるとその心地良い体温を感じながら、小さな欠伸を一つ吐いて再び眠りの体勢と入ったのだった。
(だって、君は僕達が探し続けていた---【聖桜の姫君】なんだから)
<了>
☆*☆後書き☆*☆
お読みいただき有難うございます。
今回は完全なるパロです。
そして、続きものっぽいですが短編です。
えぇ、続きのネタもありますが短編です。←