- 2025/05/17 [PR]
- 2011/07/30 a week's fate~1day: transient lovers~
- 2011/07/10 星の恋人たちの日~前夜~(沖田x千鶴)
- 2011/07/08 星の恋人たちの日~前夜~(郁人x奏)
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a week's fate~1day: transient lovers~
企画SS「a week's fate」の本編でございます。
序章アップしてからどんだけ経ってるんだっつー話ですよね(大汗)
はい、すいません。
ちょびっと際どい(?)チューとかの表現とかありますので、苦手な方はご注意くださいませ~。
ではではOKな方は、「読んでみる?」から本編へとお進みくださいませ。
▼読んでみる?▼
**********
始まりは雲一つない青空が広がる月曜の昼休みだった。
立ち入り禁止になっているはずの屋上で眠っている一人の男子生徒。
微かな寝息の音、均整のとれた胸元を上下させる鼓動の音――男子生徒以外の気配はないようである。
通常この学園――誠凛学園の屋上は生徒には解放されていないのだから、一人眠っている男子生徒の他に姿がないのは当たり前といえる。
いや、男子生徒が立ち入り禁止の屋上に居ること自体が問題ともいえるのだろうが、今のところ男子生徒がコッソリと屋上を利用していることを知っている者は一人も居ない。
立ち入り禁止の屋上を自分だけの秘密の場所としている男子生徒は、沖田総司という二年の生徒だ。
サラサラと触り心地の良さそうな茶髪、くっきりとした二重にアーモンド型の目、吸い込まれそうなほどに煌く翡翠の瞳に整えられた柳眉、すっきりした顎のラインに整った顔、しなやかな身体つき――そして、やる気のなさそうな退廃的な雰囲気が逆に沖田の艶を際立たせていた。
おまけに、大抵のことは努力しなくても人並み以上に出来るうえに、勉強も運動もソツなくこなせてしまう沖田を周囲の女子が放っておくわけもないだろう。
女生徒から絶大の人気を誇っていたため本人の意思とは関係なく一人になることが皆無となっていた。
沖田自身は誰かと行動を共にすることをあまり好んではいなかったのだが周囲が放っておかなかったのだ。
そんなわけで、何にも興味を持てずにいた沖田にとって、煩わしさから逃れられる唯一の場所がこの屋上だけだった。
沖田がこの世に生を受けてからの17年間、他人に興味を持つことや、夢中になる何かを見つけることは一度もなかった。
そのせいなのか、それとも他に理由があるのかは分からないが、この世界で生きること自体をツマラナク感じていた。
つまり、沖田にとって生まれてから今まで何一つ執着するものは何もなく、これからも無いだろうと思っていたのだ。
――少なくともこの日の昼休みまでは。
いつもなら昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り終わるまでは一人の時間を堪能するところなのだが、沖田以外誰も来ないはずの屋上の扉がカチャリと音を立てたことで一人の時間は終わりを告げた。
だが、立ち入り禁止で誰も来ないはずの屋上に第三者の気配が現れたというのに沖田は起き上がろうともせず目を閉じていた。
ここ一週間ほど、あまり体調が良くないせいか身体を起こすことが億劫だったのだろう。
沖田の体調不良はなぜか夜には回復する。
それどころか、目は冴え、普段以上に身体が軽くなり、感覚も鋭くなるのだ。
目下、売られた喧嘩は――瞬殺というオプション付きで沖田の圧勝という結果に終わる。
そして昼は、その代償のように身体が重く、ひどく眠気を感じてしまうのだ。
時には起き上がるのさえ辛さを感じるほどに。
最初は”夜型にでもなったのか?”ぐらいで、あまり気に留めていなかった沖田だったが、この状態が一週間続くうえに段々と徐々にではあるが症状が重くなっていている状態に自分の身体とはいえ不審感が募っていく。
だが、沖田は特にどうしようともしなかった。
病院に行ったとしても無駄だと本能で悟っていたのかもしれない。
そんな体調の事情もあって、沖田はそのまま眠ったフリを続けることにしたのだ――いや、そうするしかなかったのかもしれない。
目は閉じたままではあるが、意識はゆったりと近づいてくる気配を感じていた。
その気配が、傍らまで来たところでピタリと止まる。
そして、鈴を鳴らしたかのような心地の良い声が沖田の鼓膜を震わせた。
「やっぱり、ここに居たんですね・・・・・」
その声に何やら懐かしさのようなものを僅かに感じた沖田だったが、少女の”やっぱり”という言葉に引っかかりを覚え、意識が今の状況に向き直る。
そもそも立ち入り禁止の屋上のことなんて、誰にも言ったことなんてないはずだった。
誰も知らないはずの秘密の場所。
それなのにどうして、この少女は知っているのか?
そんな疑問が生じた沖田だったが、それもすぐに霧散してしまう。
「青空が好きなのは変わらないんですね」
今まで瞼裏で感じていた陽の光が翳ったかと思うと、懐かしむかのような柔らかな声が沖田の鼓膜を震わし、少女の細い指先が沖田の前髪をすっと梳く。
いつもなら勝手に触れようもならすぐにでも辛辣な言葉を放つ沖田が、大人しく好きなようにさせている。
沖田自身そんな自分に不可解な気分に包まれていた。
本来なら人に触られるのは嫌いな方だし、いつもなら好き勝手になんかさせたりなんてしないはずなのに。
それでも、まだもう少し――と、目を開けることができない。
「でも、こんな陽が差す場所で眠ってしまっては具合が悪くなってしまいますよ・・・『沖田さん』」
(――え?どういう意味?キミは誰?)
自分の名を呼ぶ少女の言葉の意味が分からずに沖田が思考に捕らわれたのと同時に柔らかな感触が唇に重なる。
「っ!!」
「んぅっ・・・」
触れたのは一瞬のことだった。
その僅かな時間、身体中の血が逆流していく感覚に襲われるが、それが治まってしまうと今まで感じていた身体の重さがふと消えた。
急激に身体が軽くなった感覚に反射的に目を開ければ、何かに耐えるかのように少女の黒真珠のような瞳が細められ、桜色の唇を固く結んでいる姿が視界に映り込む。
仰向けに眠っていた沖田に少女の顔が上から重ねられていたのだから当たり前なのだが、沖田と少女の目が数センチという至近距離で合わさる。
すると、少女は瞬時に苦悶の表情を消し、驚いたようにパチリと黒真珠の瞳を瞬かせた。
「・・・あのさ、いつまでそうしてるつもり?」
動こうとしない少女に、沖田が冷淡にも聞こえる声色で言葉を発する。
すると、状況を理解したのか少女は頬を赤らめながら慌てて顔を上げて沖田から離れた。
「あ、あの、私、ごめ・・・」
「キミ・・・誰?」
「え?」
上半身を起き上がらせた沖田は、寝ていたせいで乱れた髪を簡単に梳き整えながら顔を少女の方へと向けた。
沖田の問い掛けに少女は呆気にとられたように、首を傾げると黒真珠のように煌めく瞳を瞬かせる。
そんな少女に沖田は焦れたのか、苛立ったような声で先を促した。
「名前。キミ、初めて見る顔だけど」
「す、すいません!私、先日転校してきた一年の雪村千鶴といいます」
「ふーん。で、千鶴ちゃんは僕に何の用なの・・・まぁ、人の寝込みを襲うぐらいだからは想像はつくけどね」
「す、すいません!!・・・でも、それなら話は早いですよね」
「どういうことかな?(へぇこの子、大人しいタイプに見えるのに以外と・・・)」
わざと侮蔑するような視線と冷たい声を向けた沖田に対して、千鶴もまた先ほどまではと打って変わって大人しそうな外見に反した挑むような強い意志の篭もった瞳を沖田へと向けた。
「沖田先輩、ずっと・・・好きでした」
しばらく睨み合うように対峙していた二人だが、ふいに千鶴の桜色の唇から愛しさを告げる言葉が零れ落ちた。
それは紛れもなく、千鶴から沖田に対しての【告白】のはずなのだが、千鶴の告白に沖田は違和感を感じてしまう。
今まで数え切れないほど女の子からの告白を受けて来た沖田だったが、今までの女の子たちとは違うものを千鶴に感じたのだ。
十代の少女の恋心というには、もっと深く執念のようなものが感じられる気がする。
「あの、沖田先輩・・・だめ、ですか?」
だが、窺うかのように発せられた千鶴の声はつい先ほどとは違う戸惑った不安を滲ませたもので、その外見に見合った大人しく優等生タイプの女子高生そのものだった。
そう、今まで沖田の告白してきた茶髪で軽いノリが多い、いわゆるギャル系の女の子たちとは違うタイプ。
もっといえば、”遊び”とは無縁のタイプだ。
千鶴のタイプからいって告白するのに緊張して固くなってしまったという線が濃い。
沖田に寄ってくる女の子たちと違うタイプだから沖田も違和感を感じただけだったのだろう。
「あのさ、面倒なことになるの嫌だから先に言っておくけど、僕さ・・・・」
「【一週間のお試し】のことなら知っています。先輩が来るもの拒まずなのも、今まで沖田先輩に興味を持たせた子がいないことも、先輩自信が何にも執着を持てずにいることも――」
「へぇ・・・それを知ってて僕と付き合いたいんだ」
「はい・・・・・・それだけあれば【目的】は果たせますし」
「目的?じゃぁ、キミは僕のことを好きなわけじゃないんだ?」
「好きですよ。最初に言いました、私」
「そのわりにはアッサリしてない?ホントは僕自身のことなんてどうでもいいんじゃない?」
ただの大人しい優等生タイプの少女――そう結論付けようとしていた沖田だたが、不可解な千鶴に興味を持ち始めていた。
弱々しい態度を見せたかと思うと、強い眼差しを向ける。
いきなり寝込みを襲うクセに目が合えば頬を赤らめる。
”遊び”なんて通じないタイプに見えるのに、【目的】のために【お試し】でもいいと言う。
【目的】が何なのかは分からないけど、そこに千鶴にとって譲れない何かがあることだけは分かる。
千鶴から視線を逸らすことなく真意を探るように沖田は見つめ続けていると、どこか遠くを見るような瞳をした千鶴は青空を仰ぎながら桜色の唇をゆっくりと動かした。
「”君がすべてを諦めて未来をも捨てるというなら僕が君を殺してあげるよ――でも、死にたくないなら、君が僕との未来を望むなら絶対に諦めないで”・・・・」
桜色の唇から紡がれた言葉に沖田の翡翠色の瞳が訝しげに細められる。
「何それ?」
「昔、約束したんです。―――私の愛した人と・・・・だから私は諦めません」
「あのさぁ。やっぱりキミ僕のこと好きなわけじゃないんじゃない?そうだな、たとえば、その【愛した人】と僕を重ねてるだけじゃない?」
「そう、思いますか?」
「うん」
「そう思うのなら思っていただいて良いです。ですが、私が愛した人は沖田先輩です。だから――」
「だから、なに?」
「沖田先輩に幸せになって欲しいんです。あなたのことを愛してるから、約束したから」
「は?なに?君が僕を幸せにするっていうの?こんなツマラナイ日常を君が変えるっていうの?今まで一度も僕の世界を変えた人間なんていないのに?あはは・・・随分な自信だね」
「いいえ、私じゃありません。私はお手伝いさせてもらうだけです。貴方を変える――昔、貴方を取り巻いていた人たちとの出会いを」
「意味分かんないんだけど――でも、面白そうだね。君のお手並み拝見させてもらうよ。僕の彼女になった君が僕の世界を変えられるか、ね」
「はい、楽しみにしていてください」
千鶴は微笑みを浮かべると、沖田の傍らに膝つき唇を触れ合わせた。
「んっ・・・。これは約束の口づけです」
「ふぅん。約束、ね。じゃぁ――」
またすぐに触れ合わせることが出来そうな距離、言葉を発する度にお互いの唇へと吐息がかかる距離。
その距離で沖田は唇を三日月を描き、悪戯っぽい笑みを刻む。
そして、千鶴の後頭部に手を添えてぐいっと手前と押しつけることで、また唇を触れ合わせた。
「んっ・・・ぁっ・・・・んんっ」
それは触れ合わせるという表現よりももっと激しく奪うようなものだった。
生温かな舌が這うように唇をなぞり、薄く開かれた瞬間を逃すことなく口腔へと侵入させていく。
歯列をなぞった次には濡れたお互いの柔らかな舌を絡め合わせるような深いものだった。
角度を変えて何度も千鶴の口腔を蹂躙するのを堪能していた沖田だったが、昼休みの終了を告げるチャイムによって名残惜しさを感じながらも絡めていた舌を解き、重ねていた唇を離す。
その深さを如実と伝えるかのように銀色に輝く糸が二人を繋いでいる。
「はぁはぁ・・・っん」
「んっ・・・・僕からの”約束の口づけ”だよ。僕を楽しませてくれるならこのくらいしてくれないとね♪――それじゃ今日からの一週間楽しみにしているよ、千鶴ちゃん」
濡れた唇を手の甲でグイっと拭った沖田は先ほどと同じ悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、肩で息をしている千鶴へとそう告げると、屋上を後にした。
屋上の扉へと向かう沖田の表情は今までないほどの笑みを称えていた。
それは今まで沖田が見せたこともない期待を滲ませたもの。
屋上を去る沖田の背を見送る千鶴にはそんな沖田の表情を見ることは出来なかったのだが。
そして、背後で自分を見送る千鶴が哀しげな表情をしていることに沖田が気づくこともなかった。
「ごめんなさい・・・沖田さん」
誰もいない屋上で呟かれたその言葉にも――。
<to be continue...>
★♪後書き♪★
お待たせいたしました!!
やっと本編の1話めです。
これからどうなっていくのかドキドキしていただけていれば嬉しいのですが。
さて次回は”あの人”との出会いです。
ではではここまでお読みいただきありがとうございました!!
星の恋人たちの日~前夜~(沖田x千鶴)
今回は、転生パロ、義兄妹ネタになっておりまして、9月発行予定の『秘密遊戯(仮)』の二人となっています。
ちょろっと設定が変わる部分があるかもですが。(あ、転生、義兄妹に変更はありませんよ)
ではでは、転生パロ、義兄妹ネタでもOKな方は『読んでみる?』からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
夕飯を終えた後、近藤家のリビングで家族の団欒を堪能している時だった。
――といっても、親である近藤は長期出張中でこの家には兄と妹の二人だけだ。
高校剣道界において天才と名高い兄の沖田総司と、その剣道部の大和撫子と名高い妹の雪村千鶴である。
名字で分かるが、二人に血の繋がりはなく義理の兄妹である。
血は繋がっていないが、幼い頃から一緒に暮らしている二人には家族という絆が確かにあった。
そして、それとは別の【繋がり】も―――。
「雨だ・・・」
ザーという音が聞こえ、窓にピタリとくっついて外を覗き見る千鶴の表情も天気と同じように曇り始めてしまっていた。
「あぁ、本当だ」
総司は、残念そうに沈んだ声を漏らす千鶴の背後に立つと、千鶴を囲うかのように窓に手をつき、窓の外を覗き見た。
「っぁ・・・」
総司の気配を間近に感じた千鶴の頬が紅色に染まり、キュッと目を瞑ってしまう。
というのも、ここ最近で千鶴は総司のことを急速に意識し始めていたのだ。
それは頻繁にみるようになった【夢】のせいなのかもしれないが。
優しい声色で囁きながら肌に指先を滑らしていく夢の中の男の人――。
(あれ?小さい頃も同じような夢・・・でも、あのときの指先は子供みたいだったような・・・?)
何かを思い出しかけた千鶴の思考を遮るように、千鶴を心配する総司の声が掛けられる。
「どうかした、千鶴ちゃん?」
「あ、な、なんでもないよ!!そ、それより一緒に照る照る坊主、作ろうよ?」
「照る照る坊主?」
「うん!!せっかくの七夕が雨なんて寂しいし・・・・」
「なんで?僕らの歳で七夕っていったら恋人たちのイベントじゃない・・・そういう相手がいるの、千鶴ちゃん」
「そ、総ちゃん?」
いつも意地悪なことを言う総司ではあったが、一瞬強い感情を感じた千鶴は驚きに瞳を見開いた。
「・・・あぁ、ごめんね。千鶴ちゃんが兄離れしちゃうのかと思ったら少し寂しくてね」
「ち、違うよ!!じ、実は、明日の夜、総ちゃんと夜のお散歩ができたらいいな、って思ってて・・・」
ハッとしたように総司は微笑みを浮かべたが、千鶴はその笑みにツキンと痛みを覚えて密かに計画していたことを口にしていた。
「え?散歩?」
すると、総司は心底驚いたかのように千鶴を凝視した。
「どうしたの、総ちゃん?」
そんなに総司が驚く意味が分からず、千鶴は首を傾げてしまう。
「あぁ、ごめん。何でもない。いいよ、一緒に作ろうか照る照る坊主」
「じゃぁ、道具持ってくるね!!」
いつもと同じ雰囲気に戻った総司に安堵した千鶴は、パタパタと音をたててリビングを出ていく。
「千鶴・・・早く思い出して・・・お願いだから」
そして、リビングに一人残った総司の苦し気な呟きを千鶴が耳にすることはなかった。
=====
陽が沈み、月が天空へと顔を出した刻限。
窓際に吊るした風鈴が夜風に揺れ、涼しげな音を響かせている。
「ねぇ、千鶴。たまには夜の散歩でもしない?」
「え?お散歩、ですか?」
夫・総司の唐突ともいえる提案に千鶴は繕い物の手を止めると、微かに首を傾げながら顔を上げた。
「うん。日中の暑さが嘘みたいに涼しくなったし、それにほら・・・」
そう言って、総司は襖を開け放った縁側に座ったまま顔を夜空を振り仰ぐ。
そこには圧倒されるほどの星々が輝いている。
「あぁ、綺麗ですね・・・あ、そういえば今日は・・・」
「くすくす・・・気づいたみたいだね。だからさ、一緒に夜の散歩に出かけよう?」
「はい、喜んで」
穏やかな微笑みを向けながら誘いの言葉をする総司に、千鶴もまた穏やかな微笑みを浮かべてコクリと頷いた。
散歩にでると決まってからの行動は早かった。
火元を消し、手際良く戸締りを済ませた二人は家を後にするまでそう時間がかかることはなかった。
「あぁ、夜風が気持ちいいね」
「ふふふ。そうですね」
通い慣れた山道を二人が手を繋いでゆったっりとした足取りで歩んでいると、夜風が二人の肌を、髪を撫でていく。
繋いだ手とは反対側の手で頬にかかる髪先を拭いながら目を閉じる。
吹き抜けていく風の心地好さや、繋いだ手から伝わる体温に安堵を感じ、確かに二人は幸福に包まれていた。
そんな風に夜の散歩を堪能しながら辿りついたのは、お馴染の野原だ。
春には色とりどりの花が咲き誇っており、よく二人で昼寝をしている場所だった。
そして、千鶴に婚姻の意を伝えた場所でもあり、二人の曖昧な関係が【夫婦】という確かな関係に変わった場所だ。
二人は手を繋いだまま野原へと身体を仰向けに横たわらせる。
視線の先には満天の星々が輝きを放っている。
「織姫と彦星も、今こうやって幸せな時間を過ごしているんでしょうか」
「そうなんじゃない。だってこんなに輝いてるんだから」
「・・・なんだか贅沢ですね。こんなに綺麗な星空を総司さんと私で一人・・・じゃなくて二人占めしてるみたいです」
「うん、そうだね・・・こうやって千鶴の隣に居れるなんて贅沢だよね。僕にとって千鶴との一瞬一瞬がかけがえのない贅沢な時間だよ」
「総司さん・・・私もですよ、総司さんと過ごす時間は私にとって何よりも大切なものなんです」
「ありがと、千鶴。―――ね、千鶴。僕は約束するよ。例え、僕たちが織姫と彦星のように引き離されてしまう時が来たとしても、僕は再び君に会いに行くよ。生まれ変わったとしても、僕の心は永遠に君のもだと誓う」
「私も・・・誓います。私の心はアナタのものです、永遠に――」
”その時”を予感して、千鶴は零れ落ちそうになる涙を堪えるように繋ぐ手に力をこめた。
今はココに居るのだと確かめるように――。
「千鶴・・・」
傍らの総司が動く気配がしても千鶴はジッと満天の空を見つめ続けていた。
だがすぐに、総司の身体によって視界は遮られ、星の輝きの代わりに翡翠の輝きが煌めく。
翡翠色の瞳に、そっと目を閉じる千鶴の姿が映し出される。
「・・・ん」
優しく触れ合う口づけに千鶴の眦から一筋の涙が伝った。
二人は一層強く指先を絡め、満天の星の下で口づけを交わし続けた。
その想いを心に刻むかのように――。
=====
雨音が止み、雲の隙間から星の輝きが垣間見える。
窓際に吊るした照る照る坊主が揺れる下で、空を見上げているのは総司だった。
その表情は月光に照らされて陰影を刻んでいるせいか、寂しげなものに見える。
「・・・じ、さん」
窓を開け放って夜空を眺めながら【昔】のことを思い出していた総司の耳に切なそうに呟かれる声が響く。
その声に音を立てないように近づいて覗き見れば、ベットに横たわる黒髪の少女の眦から一筋の涙が見て取れる。
「千鶴・・・大丈夫だよ、僕はここに居るから安心して」
ベットサイドに腰を下して優しい手つきで前髪を梳いてやると、千鶴の表情が穏やかなものへと変化していく。
腰を屈めて口元を千鶴の目元に近付けると、眦に滲んだ雫をチロリと舐めとる。
顔を離し、ジッと飽くことなく千鶴の寝顔を見つめる総司の瞳は愛しさに溢れていた。
焦がれるような切なさを帯びた呟きが部屋の中へと木霊する。
「ねぇ、千鶴―――今度はいつ君に会えるのかな?」
そして再び――月光によって白い壁に映し出された二人の影が重なり、熱を帯びたような吐息が絡まる音が響いたのだった。
<END>
★♪後書き♪★
かなり遅れての七夕前夜ネタ・おきちず編をお送りいたしました。
楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、今回のおきちづ設定は9月発行予定の『秘密遊戯(仮題)』で使おうかと思っています。
ちょびっと設定が変わる可能性もありますが。
興味がありましたら、こちらもお待ちいただければと思います。(ブログupはありませんが。。。)
ではでは、ここまでお読みいただき有難うございました!!
星の恋人たちの日~前夜~(郁人x奏)
すいません、やることが多過ぎてなかなかブログ更新ができない状況です(汗)
続きものとかも、いくつかの種類をチョコチョコ中途半端(汗)にしか打ててないっす(泣)
本当に、お待ちいただいている方には申し訳ありません!!
そうそう9月のオンリーには参加しようと思っていますので、追ってオフ情報を更新しますね!!
ブログ連載中のシリーズ1本と、書き下ろしのオフ本・・・2冊の新刊を予定してるわけですが・・・・できるかなぁ。
とと、今回は2011年七夕SSで、「黒金鍵。」の郁人x奏となっております。
おきちづ編も出来たら明後日にはアップしたいなーとは思ってます。
(まだ打ててないですけど。。。)
で、今回は”七夕前夜”ネタなので、当日編は旧暦七夕にでもアップしよーかしら、ってな感じです。
では、、「黒金鍵。」の郁人x奏でもイイぜっ!!という方は、「読んでみる?」から本文へドウゾ。
▼読んでみる?▼
**********
学園から帰宅した奏が夕食までの時間を自室で楽しそうに雑誌を捲りながら過ごしているときだった。
「ふふ♪・・・あ、こことかいいなぁ~~。あ、でも郁人はこっちがいいかなぁ」
雑誌を参考に明日の予定を考える奏の口元は自然と緩んでいる。
何ページかページを進めた頃、窓に何かかが当たる小さな音に気づいた奏は雑誌から顔を上げて窓の方へと視線を向けた。
「うそ・・・」
雑誌をローテーブルに置いた奏は窓際へと駆け寄ると、窓越しにそれを確認する。
それを確認した奏の目が細まり、哀しそうな表情が浮かんでいる。
「あ、そうだ!!」
哀し気に歪んだ表情も少しの間のことで何か閃いた様子の奏の表情がみるみるうちに使命でも負ったかの如く気合を入ったものへと変化していく。
思いったったら即行動!とでも言いたげにすぐさまに身体を翻すと、パタパタと慌しく部屋を飛び出て行った。
「郁人、郁人ーっっ!!」
「うっせーよ、姉貴。少しは静かに出来ないのかよ」
少し乱暴気味にリビングのドアを開けながら目的の人物の名前を呼べば、すぐさまに窘めるかのような声が奏へと向けられた。
「あのね!・・・って、あれ?郁人、その雑誌・・・」
「な、何でもねーよっっ!!それより何の用だよ」
用件を伝えようとした奏だったが、ソファーで一休みしている郁人の手の上に何やら見覚えのあるような雑誌が目に入った。
奏が何気なく口にした言葉に対して慌ててそ雑誌を閉じた郁人は隠すようにブックストアーの袋へと戻し、話題を逸らすかのように話を奏の用事へと戻した。
「そうだった!!ね、郁人ー。布切れとマジックってどこ?」
郁人に用件を促されたことで自分の使命を思いだしたらしく、興奮気味に目的を口にする。
「はぁ?んなもん何に使うんだよ」
奏の言葉に郁人の眉間に皺が寄り、表情が訝しげなものへと変化していく。
「な、何だっていいでしょ・・・郁人に言ったら絶対に馬鹿にするし・・・」
「アンタ、オレに何か隠し事でもしよーとしてんのか」
理由を口にするのが恥ずかしい奏は微かに頬を朱に染めながら言い渋るように口元を窄めた。
奏のそんな様子に隠し事されたようで郁人の声が若干低くなってしまう。
「そ、そんなんじゃないけど・・・そ、それより布とマジック・・・あ、あと紐とかリボンちょうだ・・・」
「ないっっ!!」
郁人の様子が少しだけ変化したことに怯みを感じつつも気を取り直して用件を伝えようとした奏に対して、最後まで聞かずに郁人が容赦ない即答を返した。
「はぁ!?そんなわけないでしょ!!」
「だいたい姉貴、モノ使って使いっぱなしで片付けねーだろーが!片づけするオレの身にもなれよな」
流石に郁人の不機嫌そうな即答にカチンときた奏が食いかかると、呆れた表情でジトリとした視線が向けられる。
まるで【弟】とか【恋人】という関係よりは、【母親】のようである。
「なによ・・・片付けとか家事一般するの好きなクセに」
「何か、言ったかぁー、ア・ネ・キ?」
「ふぇー何も言ってません~。そ、それより意地悪しないで出してよ」
だが、郁人の言葉も事実なだけにボソリと言い返すことしか出来ない。
小さく呟いた言葉を聞き咎められ、奏が涙目になってしまう。
「だったら。何に使うかくらい言えっつーの。オレが納得すりゃ出してやるよ・・・オレだって明日の準備で忙しいんだっつーの」
涙を浮かばせしまったことにバツの悪さを感じたが、それでも納得のいかない郁人は不貞腐れたような言葉を口にした。
「え?郁人、何か言った?」
最後の言葉だけはボソボソとしたもので奏には伝わらず、奏は不思議そうに首を少しだけ傾けて郁人へ視線を向けた。
「だぁっっ!!何も言ってねーよ。んなことより何に使うか言えって。それともなんだ・・・オレに聞かれたら困ることなのか?」
「そんなんじゃないけど・・・笑わない?」
「んなの聞かなきゃ分かんねーだろうが」
「うーーー」
「あぁもう、分かったよ。笑わねーよ」
恋人になってからの家での定位置である郁人の真横に移動すると、ソファーへと腰を下ろしポスンと頭を郁人の肩へと預けるようにして身体を擦り寄せる。
「本当に笑わないでね?あ、あのね、雨が・・・」
郁人の温もりを感じながら、チラリと窓へ視線を添わせた奏が言いづらそうに桜色の唇を動かす。
「雨?」
奏の視線を追うように郁人の視線も窓の方へと移動する。
「うん。雨が降ってきちゃったみたいでね」
「げ、マジかよ」
よく見れば、窓の外に幾筋もの水が天から地上へと降り注いでいる。
郁人の表情にも困惑の色が浮かぶ。
「それでね、明日も雨だったら嫌だなぁーって。だから照る照る坊主を作ろうと思ったの」
「明日が七夕、だからか?(姉貴、もしかして気づいてるのか、オレの・・・)」
「そう、七夕・・・年に一度だけ織姫と彦星が会える日なんだよ、雨のせいで会えなくなっちゃたら哀しいじゃない?・・・・もし、私が織姫と同じだったら、って考えたら・・・なんとしてでも明日は晴れて欲しいなって」
「は?織姫と彦星?・・・って、何だよ、明日の計画に気づいてたわけじゃないのかよ!!」
自分の予想と違う奏の言葉に一瞬ぽかーんとした表情を浮かべた。
いや元々、妄想癖があるのは知っていたはずなのに、そこまで読め切れなかった自分になんだか悔しさを感じてしまう。
そのせいか、郁人は思わず自分が考えていた【計画】のことを滑らせてしまった。
「え?明日の計画って?」
「あ!いや・・・・なんだ、その、なんつーか」
「郁人?」
「だから!!七夕くらいアンタと外で恋人らしいことしてーなーって思ったんだよ!!」
郁人は恥ずかしさと奏の天然さにヤケになったように仏頂面で本心を口にした。
そして、徐にさっきまで見ていた雑誌を袋から出すと、奏へと放り投げた。
「あ・・・ふふふ」
「な、なんだよ?なに笑ってんだ、アンタ」
その雑誌を目にした奏はクスリと笑みを漏らすと、郁人との距離をもっと詰めるかのように腕を絡めた。
「私たち同じコト考えてたんだね。私もこの雑誌、買って来てたんだ」
「は?」
「私も・・・その、郁人と、七夕デートしたいなって・・・」
「はぁああ!?んだよ、ソレ!!だって、アンタ、さっき織姫と彦星がどうのって」
「それも本当のことだよ!織姫と彦星に私と郁人を重ねちゃったんだ。私たちの関係がバレちゃったら引き離されちゃうかもしれないし・・・それで郁人と会えなくなったら嫌だし・・・私だったら1年に1回なんて耐えられないよ。だって、郁人はもう私の一部なんだもん」
不安を拭うかのように二人は寄り添った。
郁人の肩口へと顔を埋める奏と、奏の華奢な肩に腕を回す郁人。
「んなの、オレも同じだっつーの。今さら姉貴・・・奏と離れられるわけないだろう。出会ったときから奏はオレの全てだったんだしな。だから、何があってもオレはアンタと離れたりしねーよ」
「郁人・・・ありがと」
「おぅ。・・・夕飯の後にでもさ、二人で照る照る坊主つくろうな」
「ふふふ、郁人も一緒に作るの?」
「悪りぃかよ。アンタに付き合ってやんだ!・・・・なんてな。一人より、オレたち二人の願いの方がパワーがありそうじゃね?」
「うん、そうだね」
「姉貴・・・」
真剣な色を帯びた郁人の飴茶の瞳に頬を赤く染めた艶やかな奏の姿が映し出されている。
気づくと、奏の身体は郁人の手によってソファーへと沈み込んでいた。
仰向けになった奏の顔に郁人の影が差し、それが徐々に色濃くなっていく。
「ぅんっ、っぁあ・・・」
唇が重なり合い、角度を変えて口づけは深くなる。
薄く開いた唇の隙間から舌が差し込まれ、ちゅくちゅくと音をたてて絡まり合う。
「っん、あ、ねきっ・・・すっげー・・・甘い、っん、っちゅ・・・」
「ぁンっ・・・」
暫く続けられていた深く濃いキスに酔いしれて濡れた唇が離れも、二人の唾液による銀糸で繋がれていた。
軽い触れ合わせる口づけをすることで銀糸を断ち切った郁人は奏の艶やかな黒髪を梳きながら普段よりも低い艶の含んだ声で囁く。
「明日だけじゃなくて、ずっとアンタと外でも【恋人】だ、って言えるようにすっから――少しだけ待っててくれよな」
その郁人の言葉に、奏は嬉しさと愛しさで透明な輝きを放つ真珠のような涙を浮かべたのだった。
そして、その夜には仲良く並ぶ2対の照る照る坊主が窓際に吊るされていたとか―――。
<END>
★♪後書き♪★
すんません、一日遅れの七夕ネタです。
つか、七夕前夜ネタですが。(ってことは二日遅れ?)
旧暦七夕では、七夕デート編でも打とうと思っています。
・・・あー、こっちはR18になりそうな予感が(汗)
え、えーと、よかったらそちらもお待ちいただければと思います!!
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
ブログ一周年記念☆「a week's fate~inperfect epilogue~」
いつも遊びに来てくださる皆様、本当にありがとうございます。
おかげさまで当ブログも一周年を迎えることができました!!(ちょっと過ぎちゃいましたけど;;)
いやー、自分でもビックリビックリ。
まさか本当にここまで続けられるとは・・・・。
これもひとえに、遊びに来てくださる皆様、拍手やコメントくださる方々のおかげです!!
これからも頑張っていく心づもりですので、よろしければまた遊びにいらしてくださいね!!
さて、てなわけで、当ブログ一周年記念小説を投下したいと思います!!
概要は、下記みたいな感じになります。
・全8話のつづきもの(今回の序章は除く)。
・各話、私にしてはかなり短め(多分)。
・沖田BADエンドからの転生現パロ(SSL設定ではありません)。
・基本、沖田x千鶴。
・4話、5話あたりを投下したら、アンケート設置!!
・アンケート結果によって結末を決める予定(ハッピーorバットor沖田+薫のバット系?)。
・なるべく間を空けないようには頑張りますが、投下スピードは曖昧。
・今回の序章のみお持ち帰りOK!!
⇒ただし、拍手か、この記事のコメント欄から一言だけお願いします。(「持って帰ってやるよ!」みたいな)
⇒(乙女ゲー二次創作の)サイトやブログをお持ちの方で、こんな小説でも飾っていただけるようなら嬉しいです!!
(えぇ、アンケート結果がラストを決めますのでvv つまり、皆さんのお声がラストを決めるから広めてくれたら嬉しいなvつーことですvv←をい。)
・・・・でも、それ以前に持って帰ってくださる方がいなさそうな気がするorz
とりあえず、気を取り直して。
ではでは、ご理解いただけた方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
人里離れた山奥に、すすり泣く少女の哀しみが響き渡る。
それを慰めるかのように、夜の帳に飾られた月や星々が煌き、惜しむことなく優しき光を少女の居る地上へと降り注ぐ。
闇の中に佇む少女の涙に濡れた黄金色の瞳を、銀色に輝く髪を、陶器のように白い頬を淡い光が照らし、儚くも妖らしき美しさをこの世へと露わにする。
けれど、その姿を目にするものはただの一人としてこの場には居ない。
腕の中に微かに残る温もりを感じながら、その妖の少女は強く願う。
紅く彩られた唇が一つの【呪】を紡ぎ、妖の少女の腕の中で眠る男の冷たくなった唇へと触れ合わせる。
ただ、彼の人の幸せを――【未来】を願って。
男に重ねた顔を上げた妖の少女は、夜空を越えた遥か先を睨むように見つめている。
その瞳には、もう涙はない。
「私は、決して諦めない―――今度は、私がアナタを護ります。どんな手段を講じてでも」
その強い意志を込めた言葉は、少女たちの身体を撫でていく一陣の風によって、空高く舞い上がった。
遥かな時代を越えて――。
=====
一週間が始まる月曜の朝。
いつもと同じ通学路の風景に見えるが、この日は少しだけ違っていた。
学校へと向っている生徒たちの視線がある一点へと向けられている。
「ねぇ、あの娘・・・・」
それは爽やかな朝の空気とは逆に悪意に満ちたものだ。
生徒たちはその少女を目に留めると、驚きの表情を浮かべた次に目を細めて訝しげな声を漏らす。
友人とヒソヒソと話しながら、侮蔑の色を滲ませた多くの視線の先には、同じ制服に身を包んだ黒髪の少女が背筋を正して颯爽と歩く姿がある。
「なんで居るの?確か謹慎中じゃなかったっけ?」
「あんな問題発言しておいて、図々しいんじゃない」
「っていうか、先輩が危ないんじゃない!?」
「そうだよね、あの娘、先輩のストーカーみたいな感じでしょ?」
「えーー!!先生に言いに行った方がいいんじゃない!!」
そんなざわめきの中を一人、気に留める様子もなく前だけを見据えて歩く少女からは強い意志のようなものを感じる。
その視線の先には――校門をくぐった先に何人かの女生徒に囲まれている一人の男子生徒の姿がある。
襟足が長めの茶色い髪に、つまらなそうな色を宿した翡翠色の瞳、開いた襟元からのぞく鎖骨、白いシャツは緩く結ばれたネクタイの赤が彩りを添え、すべてがその男子生徒の魅力を最大限に活かしている。
少女がその男子生徒へと向って足を止めることなく歩みを進めれば、男子生徒に近づく度に周囲のざわめきの声が大きくなっていく。
そのざわめきに気付いたのか、男子生徒の顔が少女へと向けられる。
男子生徒が少女の姿を捉えた瞬間、その翡翠色の瞳が大きく見開かれ、驚きの色が瞬時に浮かんだ。
「え・・・・あ、ちづ・・・・?」
「お早うございます、沖田先輩?」
男子生徒の反応から、その瞳に自分が映っていることを感じとった少女はふわりとした微笑を浮べたが、唐突に動かし続けていたその足を止めた。
取り巻きという女生徒たちの壁が少女を阻んだからだ。
「ちょっと、雪村さん、何で学校に来てるのよ」
「沖田先輩に近づかないでくれる!?」
「・・・そこ、どいてくれませんか」
雪村と呼ばれた少女は、取り巻きの女生徒の言葉に気を留める様子も無く、落ち着いた声を発する。
だが、そんな雪村の態度が女生徒たちには気に入らなかったのだろう、化粧で飾った『キレイ』な顔が醜く歪んでいく。
「はぁ!?何、言ってんの、アンタ!!」
「私は沖田先輩に用があるんです」
「沖田くんがアンタとなんか話すわけないでしょ!?アンタみたいな傍迷惑なだけのストーカー女と!!」
「ストーカー・・・・ね」
取り巻きの一人が興奮したような声色で立て撒く言葉の一つが、よっぽど可笑しいものに聞こえたのか、『雪村』と呼ばれた少女は馬鹿にしたような笑いを漏らしながら女生徒へと視線を向けた。
「なによ、本当のことでしょ!!」
「私は”ストーカー”になった覚えはないですけど」
「うわぁ・・・タチ悪っ」
「ホント。大人しそうな顔して怖ーーい」
「自覚無いんだ?あんな危ないことまで平然と言っておきながら」
「そうだよね、アンタ、総司に『殺す』とかなんとか言っておきながら・・・・」
「略さないでくれません?・・・私は、『未来を諦めるならどこにも行けないように私が終わらせてあげる』って言ったんです」
「だから、それが妄想に浸った狂言だ、って言ってるの!!」
「【狂言】ですか・・・・クスクス・・・・」
「何がおかしいのよ!やっぱりアンタ変なんじゃないの!!」
「ホント、笑っちゃう・・・・【狂言】ですって、『沖田さん』?」
女生徒たちは言葉では強がっていたが、笑い声をあげる雪村の姿に狂気じみた何を感じたのか、微かに怯んだ様子を見せていた。
それは、言葉に僅かな震えが滲んでいたことや、雪村から距離をとるように身体を背後に引いている様子から伺えるだろう。
「キミ・・・・誰?」
そんな女生徒の壁の中に居る沖田の僅かに開いた口から呆然としながらも疑問に滲んだ言葉が零れ落ちていた。
「・・・・『誰』、って酷くないですか?たったの5日とはいえ、『私』は先輩の【彼女】だったのに――」
【運命の一週間】は、この日から遡ること7日前の月曜日から始まったのだった。
<to be continue>
★♪後書き♪★
いかがだったでしょう。。。興味を持っていただけていれば嬉しいのですが。
さて、このお話は、当ブログの一周年記念小説の序章になっております。
ラストは、アンケートで決めようかと思っていますので、アンケートを設置した際には、ぜひ投票いただけると嬉しいです。
ではでは、ここまでお読みいただき有難うございました!!
After Sweets?~逆チョコ大作戦!?総司編・その後~
・・・っていうか、約二日遅れだよ。。。。
今回は、オフでだした「逆チョコ大作戦!?」の総司編のラスト直後のお話となっています。
なんで、色々と意味不明かもしれません。
そうそう、「逆チョコ大作戦!?」をお買い上げいただいた方に向けての特典SSをホワイトデーにアップしようかなぁーと、思ってますので、よろしければホワイトデーSSをお待ちいただけたら嬉しいですvv
ではでは、意味不明だったり遅いバレンタインSSでもOK!って方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
***********
「・・・・・・」
白い湯気が立ち上るカップを載せたトレーを手にしている僕の目に映り込んだのは、ローテーブルの前でちょこんと俯きながら正座している千鶴ちゃんの姿だった。
「・・・・ねぇ、まだご機嫌ナナメのままなのかな?」
トレーを持ったまま見下ろした先には、口元を固く結び、ぷくりと風船のように両頬を含まらせながら膝上のスカートをギュッと握っている千鶴ちゃんの姿。
千鶴ちゃんが可愛すぎてつい苛め・・・じゃなくて構いすぎたせいで、僕は彼女のご機嫌を損ねてしまっていた。・・・・うーん、やっぱりちょっとやり過ぎちゃったかなぁ?
確かに少し千鶴ちゃんにはちょっと過激だったかもね。
まぁだから、お詫びも兼ねて千鶴ちゃんの心が解れるような暖かくて甘い飲み物を淹れにキッチンに行ってたんだけど。―――元々の【計画】を実行するチャンス!だった、とも言うんだけどね。
でも、僕がキッチンで格闘してたソコソコの時間じゃ、千鶴ちゃんの機嫌を直す時間には足りなかったみたいだ。
とりあえずドアを閉めて、テーブルへと向う。それは千鶴ちゃんの傍へと近づいていくことでもあって。近づいてくる気配を感じているはずなのに顔を上げようとはしてくれない。
まぁ、扉の音に肩をピクリと反応させたり、僕の影がテーブルに映り込んだ瞬間にスカートを握る手が強められたり・・・・千鶴ちゃんの仕草からその感情はタダ漏れなんだけどね。
だからさ、僕も本当は分かってるよ?
千鶴ちゃん本人は頑張って顔を顰めて怒ってるつもりなんだろうけど、実は恥ずかしがってるだけってこと。
そんな千鶴ちゃんの姿は可愛いの一言に尽きちゃうんだよね。―――だからさ、そういう態度は僕を煽るだけでもっと困らせたくなっちゃうよ?
ホント【オトコゴコロ】ってものを分かってないよね、千鶴ちゃんって。
「―――はい。これでも飲んで機嫌直して?」
千鶴ちゃんが俯いているのをいいことにニヤリとした意地の悪い笑みを口元に刻みながら声だけは哀しげな懇願するような色を含ませた僕は、千鶴ちゃんとはテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろす。
膝を床につけて、トレーをテーブルの上に置く音、カップをトレーからテーブルへと移し置く音、動く度に響く衣擦れの音―――。
「っ!・・・・」
日常の何気ない音のすべてが緊張を孕んだ静かな部屋では、いつも以上に大きく聞こえて特別な意味を持っているような気さえしてくるんじゃないかな。
音をたてる度に千鶴ちゃんの身体は面白いくらいにピクリと反応を見せてくれるし。
千鶴ちゃんが反応すればするほどに僕の口元や目は弧を描いて笑みが深くなっていくんだ。
・・・・・心が震えるって、こんな感じなのかな?
なんていうか、ネズミを追い詰めるネコみたいな心境に似てるっていうか、こう嗜虐心がムクムクと―――もっと追い詰めたくなってくるっていうか?
だって、千鶴ちゃんの心を占めているのは僕だと実感できるから。
もっともっと僕でいっぱいにしたくて、他の誰も入り込む余地がないくらいに、僕で―――。
「・・・これじゃ、足りないんだ」
「ぇ・・・?」
不思議そうな表情をした千鶴ちゃんの黒真珠の瞳がチラリとだけ僕を見る。
僕が何て言ったのか聞き取れなかったのか、キョトンとした表情をしてる。
お互いの視線が交わるけど、千鶴ちゃんはすぐに視線を逸らして俯いてしまった。
「はぁ・・・・」
だから僕も千鶴ちゃんがどんな反応するかなんて分かりきっているうえで、わざとらしいほどに肩を揺らして盛大な溜息を吐く。
「ぁっ・・・・!!」
そうすれば、千鶴ちゃんが僕の溜息に今まで以上に身体を揺らして反応して僕を仰ぎ見ることなんて予想済み。僅かに水滴を含んで煌く黒い瞳も、ね。
トクントクンと僕の心臓がリズムを刻み始める。
大好きな千鶴ちゃんにそんな表情をさせてしまってるのに、その瞳に僕だけを映してくれることが嬉しい。
だってさ、その表情は他の誰でもなく僕を想っての表情なんだ。
笑顔も、怒り顔も、泣き顔も、困惑顔も、それ以外のすべての表情も。
―――そして、僕だけが艶っぽくて可愛らしい表情に変えることができるって、たまらなくイイと思わない?
「・・・・どうしたの、千鶴ちゃん?」
「私・・・・また・・・・」
油断でもしたら漏れ出そうになる笑みを抑え込んで、驚いたように千鶴ちゃんへと視線を向ける。
僕たちの瞳がかち合い、千鶴ちゃんは僅かに躊躇するような素振りをして黙り込んでしまう。
「大丈夫だから落ち着いて?」
千鶴ちゃんの頭をふわりと撫でると、千鶴ちゃんの長い睫が震えてそっと瞼が閉じられる。
段々と呼吸が僕の撫でる手のリズムに重なっていく。
「・・・はい。・・・・ごめんなさい・・・」
「なんで謝るの?」
「だって、私・・・また先輩のこと・・・・傷つけちゃいました・・・・恥ずかしかっただけだったのに・・・」
千鶴ちゃんの手が弱々しい力で僕の腕をキュっと握る。
ホント、千鶴ちゃんらしいよね。
僕のこと傷つけた、って思っちゃうなんてさ。
だから僕はドンドン図に乗っちゃうんだよ?
「うん、分かってるから大丈夫だよ」
「沖田せんぱい・・・」
そんな内心は隠したままの僕の穏やかな声に騙されて、千鶴ちゃんの表情がホッとしたように緩む。
「――ねぇ千鶴ちゃん、これ開けてもいいよね?」
さらに千鶴ちゃんの緊張を解くような声で聞く僕の手にあるのは、千鶴ちゃんが僕にくれた【本命】チョコ。
「は、はい・・・」
千鶴ちゃんの返事を待ってから、ピンク色のリボンに手を掛けて解き始める。
スルリとリボンを解いた次は、キラキラとした赤地の包装紙へと手を掛ける。
赤地の包装紙には金色の蔦が絡まってハート象っていて、こんな風に千鶴ちゃんのハートと僕のハートが絡まり合えばいいのに、なんて想いながらゆっくりと丁寧に剥いでいく。
まるで千鶴ちゃんの服を一枚一枚脱がせるかのように―――千鶴ちゃんの黒く大きな目を見つめたまま。
「っっ!!」
千鶴ちゃんの肌を撫でるように指先を滑らせて包装紙を剥いでいく僕の様を目にして、千鶴ちゃんが呼吸が変わっていく。
「―――どうしたの、千鶴ちゃん?」
頬を朱に染めて瞬きすることを忘れてかのように見開いている千鶴ちゃんから目を離さずに薄く微笑みを刻む。
「っぁ・・・い、いえ・・・・」
チロリと瞳を逸らせて身体をソワソワとしだす千鶴ちゃんの姿に、僕は舌なめずりして嗜虐的な笑みを浮かべてしまう。
「くす・・・もしかして自分が脱がされてる、みたい?」
「はぇっっ!!??」
「千鶴ちゃんのご期待に応えてあげようか?」
「わ、私の・・・期待?」
「そう―――例えばさっきの続き、とか?」
「さ、さっき・・・・?」
「うん。ついさっきのことだから・・・・千鶴ちゃんも覚えてるでしょう?」
包装紙に添えている手を、千鶴ちゃんの頬へと移動させてその柔らかな感触に満足しながら、すぅーと指先を滑らせていく。
一瞬にしてさっきと同じような淫靡な空気を纏わせる。
「あ、あぁあああのっっ!!!チョ、チョコ、レぇート!!」
ギュッと目も身体も緊張で固くした千鶴ちゃんがあらん限りの大声を裏返しながら叫ぶ。
刹那の沈黙が二人の間に落ちて―――
「・・・・・ぷっ」
「へ?あ、あの・・・お沖田せんぱい??」
「あはははは、千鶴ちゃんサイコー!!」
千鶴ちゃんの反応が面白すぎたせいで僕は思わず大笑いしちゃって、せっかく作り出した空気は霧散してしまった。
当の千鶴ちゃんは困惑顔でうろたえているんだけど、それがまた可愛くて笑えてくる。
「ごめん、ごめん。からかい過ぎちゃったかな?」
「か?か、からかったんですか?」
「うん、だって、可愛い反応する千鶴ちゃんがいけないんだよ?」
「も、もう、沖田先輩っっ!!」
あぁ、またほっぺ膨れさせて。そんな風にしても可愛いだけなのにね。
未だに自分が僕にどんな衝動を与えているのか分かっていない千鶴ちゃんに苦笑を漏らしてしまう。
「・・・まぁ、かなり本気だった、んだけ・・・・」
ポソリと千鶴ちゃんには聞こえないほどの呟きをそっと漏らした僕は、再び包装紙に手を掛けて残りを綺麗に剥いでいく。
千鶴ちゃんが僕を想って作ってくれたチョコレートが姿を現したとたんに、僕は言葉を失ってしまった。
そして、手の中にあるチョコレートから目を離せなくなる。
チョコレートの茶ネコと、ホワイトチョコの白ネコがキスしてるそれは―――
「・・・・・あ、あの沖田先輩?気に入りませんでしたか?」
何も言わないままチョコレートを凝視して黙り込んでしまった僕に千鶴ちゃんの不安気な声が掛けられる。
ハッとして顔を上げれば、千鶴ちゃんの憂いを滲ませた瞳が僕を見つめていた。
「ねぇ千鶴ちゃん・・・・これって・・・・僕が贈ったチョコのマスコットと同じ、だよね?」
「は、はい。・・・・・私の頭からもこの子たちが離れなかったんです・・・・」
「離れなかった?」
千鶴ちゃんの座っている傍らでラブラブな空気を放っている二匹のネコのマスコットに視線を這わせて問いかけると、千鶴ちゃんは恥ずかしそうにポツリポツリと口を開き始める。
「さっきも言いましたが、何度チョコレートを作り直しても私が作るチョコレートは同じだったんです・・・・あのとき、この子たちに惹かれたのは私好みの可愛いモチーフだったから、って思ってました」
「思ってたってどういうこと?あのとき、僕もこれを見た瞬間に千鶴ちゃん好みだな、って思ったから手に取ろうとしたんだよ」
「はい、確かに私好みです。でも、それだけじゃないんです―――」
いったん言葉を切って、深呼吸をしてから僕を見上げる千鶴ちゃんの瞳には、強い意志が宿ってるように見えた。
「この子たちの幸せそうな姿を見た瞬間、無意識に自分と・・・・・・沖田先輩を重ねていたんです。茶ネコちゃんが沖田先輩の雰囲気が沖田先輩に似てるような気がして―――この子たちみたくなれたらいいのに、って」
「茶ネコが僕ってことは・・・・この白ネコは千鶴ちゃんの分身なんだ?」
手元に視線を戻せば、幸せいっぱいに口づけを交わす二匹のネコのチョコレート。
「っっ・・・・・はい」
ギュッと目を瞑って顔を赤くする千鶴ちゃんと手元のチョコレートを何度か交互に見た僕の口元には自然と弧を描き始める。
何度作っても同じチョコレートで、それは僕たちを重ねて見た恋人同士のネコのモチーフ、ね。
「―――ねぇ、千鶴ちゃん。ひとつ、お願いしてもいい?」
「な、なんですか?」
「コレ飲んで?せっかく淹れてきたのに冷めちゃうしさ」
「へ?」
唐突な僕の言葉に千鶴ちゃんは呆けた声を漏らす。
まぁ、普通はなんの脈絡もないように感じるよねぇ。
「千鶴ちゃんのために淹れてきたんだよ。これは僕からの―――」
チョコレートをテーブルの上へとそっと置いて、代わりにカップへと手を伸ばす。
手に取ったカップを口元へと運んでコクリとその液体を口の中へ流し込めば、口いっぱいに甘さが広がっていく。
「沖田せんぱい?」
思考がついてこなくて呆けている千鶴ちゃんを視界に留めながら、テーブル越しに身体を前のめりにする。
「んぁっ・・・・」
僕と千鶴ちゃんの唇が重なって、暖かくて甘い液体は僕の口から千鶴ちゃんの口の中へと流れていく。
千鶴ちゃんの喉がコクリと鳴ったのを合図にして唇を離す。
「・・・・どう、美味しい?・・・・僕の特製のホットチョコレート」
「・・・な、なにをっっ!!??」
「ん?僕からのバレンタインチョコのプレゼントだよ」
「バレンタインチョコ?で、でも、もう貰ってますよ、わたし・・・」
「でもさ、僕が直接渡せたわけじゃなかったでしょ?だから、ちゃんと僕から渡したかったからホットチョコレートも用意してみたんだ・・・・僕特製のホットチョコレートは口に合わない?」
「っっ!!・・・ず、ずるいです!!合わないわけないの、知ってるクセにぃ・・・・」
「うん、きっと気に入ってくれる、っていう確信はあったよ?」
「やっぱり、沖田先輩はズルイです・・・」
湯気でもでそうなくらいに顔を真っ赤にしている千鶴ちゃんに視線を合わせたまま、緩慢な動きで再びカップを口元に運んでいって―――
「くすくす・・・・・ねぇ、おかわりは・・・・どうする?」
熱の籠った瞳を向けながら意地の悪い質問を向ける。
「っっ・・・・・欲しい、で・・・・んんっ・・・・」
羞恥に目元を染めた千鶴ちゃんが答えを言い終わる前に、唇を合わせてホットチョコレートを流し込んでいく。
僕と千鶴ちゃん特製のホットチョコレートが呑み込まれた音が鳴っても、唇は触れ合わせたまま口の中に残ったホットチョコレートの甘さを堪能し続ける。
そんな僕たちの重なった影がテーブルの上に落ちて―――僕たちの分身のチョコネコと重なった。
<END>
★☆後書き☆★
約二日遅れスイマセン(大汗)
そして何時もの如く意味不明でスイマセン。
特に「逆チョコ~」を読んでいない方にはサッパリな感じで申し訳ないです。
少しでも楽しんでいただければいいのですが。。。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
とあるX'masの一日~SN編~
クリスマス3部作小説の最後、SN編です。
実は、一応3部作なんですけど、ネタフリだけしておりて、回収できていないネタがあります。
いつか番外編と書けたら書きたいなぁ・・・なんて。
あと、まさかの深夜編(R18)とか。。。本当にあるのか?それ。
では、AM編で述べた諸注意を了承のうえ、「読んでみる?」から本文へドウゾ~!!
▼読んでみる?▼
**********
沖田の姉・ミツへのクリスマスプレゼントを選ぶ手伝いをするために沖田と一緒にお店を回っていた千鶴の視線がある一か所で止まった。
今は、おしゃれな雑貨や文具を扱うショップの手帳コーナを見ていた二人だった。
「どうかしたの、千鶴ちゃん?」
「いえ、なんでもないんです」
「そう?」
「はい、向こうの方も見てみませんか?」
そう言って、千鶴は沖田の手を引いてカップなどが置いてあるコーナへと向かった。
その後も色々歩き回った二人は、なんとかプレゼントを決めることがでた。
空を見上げればすっかり暗くなっている。
「もう、こんな時間か。今日はありがとう、千鶴ちゃん」
「いえ!!私も楽しかったですよ」
「そう?じゃぁ、お願いして良かった」
イルミネーションで飾りつけされている大きなクリスマスツリーがある広場を通りかかるとその周囲に人だかりが出来始めていた。
「あれ?何かあるんですかね?」
さっきここを通ったときにはツリーのイルミネーションが灯っていたというのに今は消えていることに千鶴は首を傾げた。
「ふーん。もうすぐイベントが開始されるらしいよ?」
「本当ですか?」
「うん、ここの案内版に書いてある」
「そうなんですか~~」
千鶴が期待の目でツリーを見上げる姿を横目に見た沖田は徐に口を開いた。
「千鶴ちゃん、疲れてない?」
「いえ、だい・・・」
「疲れてるよね!!連れまわしちゃったし。僕も疲れたからさ、ここで休んで行こう」
「え、いいんです、か?」
「うん、もちろん。あそこのベンチ空いてるから座ろうか。見やすそうだし」
「はい」
ツリーから少し離れた階段上にあるベンチへと腰をかけると、二人は同時にふぅーと息を吐き出した。
そして顔を見合わせると、どちらともなく笑い声を漏らしたのだった。
「あははは。実は結構疲れてたみたいだね、僕たち」
「はい。人混みのなかずっと歩いてましたしね。でも・・・」
「デートは楽しかったよね」
「はい、楽しかったです、デー・・・・えぇ!!??」
サラリと自然に告げられた単語に、千鶴は違和感を感じることもなく沖田の言葉に同意しようとした。
だが、その単語を口にしようとして、そこで初めてその単語の意味に気付いた。
「ちょ、沖田先輩・・・・」
「シッ・・・ほら、始まるよ」
沖田がそう告げたのと同時に、辺りの電燈は消されツリーのイルミネーションに光が灯される。
クリスマスソングが鳴り響き、曲に合わせてイルミネーションが動き、色とりどりの光を纏い、様々な表情を見せる。
ショーが始まってしまえば、千鶴も沖田の言葉が頭の片隅に残っているもののイルミネーションへと魅入られた。
「・・・・キレイ・・・・」
「うん、そうだね・・・・」
約10分ほどのショーが終了し、人々が散り散りになっていく。
それでもイルミネーションの洪水にのまれたままの千鶴はホゥとツリーを見上げている。
「くすくす・・・ねぇ、千鶴ちゃんそろそろ行かない?」
「あ・・・はい。・・・綺麗でしたね、沖田先輩!!」
「うん、そうだね。あ・・・そうだ」
「どうかしたんですか?」
何かを思い出したような仕種をした沖田に千鶴が少しだけ首を傾げた。
「ごめんね、実はもう一つ付きあって欲しい場所があるんだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ?」
「良かった、ありがと」
そう言って、ベンチから立ち上がると、二人は再び手を繋いで歩き始めた。
======
沖田と千鶴は、夜の暗闇の中で建ちそびえるその建物を見上げている。
「付きあって欲しい場所、ってココですか?」
「うん、そうだよ」
「ここって・・・・・」
「うん、僕たちの通ってる学校だね」
「ここになんの用事が・・・・忘れ物とか、ですか?」
「ううん、違うよ」
「じゃぁ・・・・」
なんなんですか?、と問いかけようとしたが沖田が口元に人差し指を当てて黙るように促され、千鶴は言葉を飲み込んだ。
「ごめんね。見つかるとやっかいだから」
なら、忍び込まない方がいいんでは、とは言えなかった。
沖田がもう入り込む気でいる限り、千鶴に止めることなど不可能だろう。
夜の学校に忍び込んでいるというのに、飄々とした態度の沖田と、ビクビクした千鶴は対照的である。
そして、辿りついたのは屋上へと続く扉の前である。
「あの、屋上って立ち入り禁止で鍵がかかってませんでしたっけ?」
「そうだね、そもそも立ち入り禁止じゃなくても休みの日でこんな時間だったら普通は閉まってるよね」
「じゃぁ、なんで・・・・」
「僕、コレ持ってるんだよね」
チャリンとした音をたててポケットから取り出したのは鍵だった。
「それってもしかして・・・・」
「ご名答♪♪ここの鍵だよ」
「な、なんで持ってるんですか!?」
「んーー、前に掃除やらされたときにコッソリつくちゃった♪」
「”つくちゃった♪”じゃないですよ!それっていけないんじゃ・・・」
「うん。だから内緒ね。僕と千鶴ちゃんの、二人だけの秘密だよ?」
「え・・・」
そなこんな言っているうちにカチャリと鍵が開けられ、屋上への扉が開かれた。
ヒューと冷たい風が二人の身体を過ぎ去っていく。
「ちょっと寒いけど我慢してね」
「は、はい・・・」
身を縮込ませながらも屋上へと足を踏み出して、フェンス際に寄っていく。
「僕が千鶴ちゃんに見せたかったのってコレなんだ」
街の方を見てみて、と言われてそちらに視線を向ければ、光の海原が存在している。
「すご・・い・・・」
「でしょ?でもね、もうひとつあるんだ」
「え、もうひとつですか?」
「そう、もうひとつ。空、見上げてごらん」
言われた通りに空を仰げば、そこにも星々による自然の光が無数に輝いている。
「どう?すごいでしょ?人口と自然のイルミネーションが共存してるんだ・・・なんかすごくない?」
「・・・・・・」
「千鶴ちゃん?」
なんの返事もない千鶴に、どうしたのかと、顔を覗きこんだ。
すると、千鶴は感動で言葉を発することもできずに涙で瞳を潤ませていた。
「そんなに泣かなくてもいいじゃない」
「だって、だって・・・・綺麗すぎて・・・・あり、がとう、ございます、沖田、せんぱ・・・」
「・・・ちょっと、千鶴ちゃん、ソレ反則・・・」
「へ?な”に”がですか?」
涙で声を震わせながら、涙で潤んだ瞳のまま沖田を見上げる。
それを直視できずに顔を背けてなんとか自分を抑え込むことに成功する。
「本当にわからないかなぁ・・・・」
「沖田せんぱい?」
「ねぇ、千鶴ちゃん。そんな簡単に男に泣き顔見せちゃ駄目だよ」
「え?」
「千鶴ちゃんのそんな表情が【男】を煽るって分かってる?」
「あの?」
未だに分かっていない千鶴に沖田は、自分がこんなに我慢してるのに、とある意味逆ギレ気味に思わず本音を口にしていた。
「だ・か・ら、キミを好きな男はもちろん、そうじゃなくても千鶴ちゃんにキスしたり他のこともしたい、って思っちゃうってコト。わかった?」
「え・・・・えぇええ!!??」
数秒思考を巡らせた千鶴は、やっとその意味に気づいて火照る頬を隠すように両手を当てながらバッと身体を後ろに引いた。
「・・・・それはそれでちょっと面白くないんだけど」
そんな千鶴に沖田が不貞腐れたように呟く。
顔を真っ赤にしたままもう一歩後ろに下がろうとした千鶴は、バランスを崩して倒れこみそうになるのを手をバタつかせて体制を整えようとしたが今度は沖田の方へと倒れこんでしまった。
視線を外していたせいでそれに気づかなかった沖田は、千鶴を咄嗟に支えながらもバランスを取ることができずに地面へと倒れ込んだ。
「ちょ、大丈夫、千鶴ちゃ・・・って!?」
「?沖田せんぱい、どうしたんですか?」
沖田の身体の腹筋部分にのっかかる状態になってしまった千鶴は自分の格好に気づいてはいない。
「千鶴ちゃん、それ・・・・【白レースのリボンが掛けられた桜】?」
「へ?なんのことですか・・・・」
「千鶴ちゃん、スカート」
「スカート?」
スカートに手を伸ばしたはずなのに薄い生地越しにお尻に触れる感触に千鶴は未だ状況を飲み込めていない。
「・・・・そっかぁ、姉さんのクリスマスプレゼントって・・・・・」
「どうしたんですか、急に・・・」
「これは有り難く貰っておかないとねぇ。ね、千鶴ちゃん」
「あの、なんのことですか?」
「千鶴ちゃん、スカート捲れてるよ」
「え!?・・・うそっ!!!!」
慌ててスカートを直すと、恥ずかしさで泣きそうになりながら慌てて沖田の上から起き上がろうとしたが、それを沖田の腕が阻んでしまう。
「・・・・ねぇ、千鶴ちゃん。僕は千鶴ちゃんが好きだよ。千鶴ちゃんは?」
「その・・・私の下着・・・見たんですよね・・・」
「うん、ごめんね。でも、今は僕が質問してるんだけど・・・・」
「・・・です」
「え?」
「下着が私の答えです!!」
羞恥心に耐えるように、それだけを叫ぶと千鶴は沖田の胸へとギュッと顔を埋めたのだった。
「あはははは。敵わないなぁ、姉さんにも、千鶴ちゃんにも。・・・・本当に最高のプレゼントなんだもんなぁ」
学校の屋上で抱きあったまま、最高のプレゼントを受け取ったのだった。
ずっと恋心を抱いていた相手の【心】を―――。
それは、あの一言から始まった必然の奇跡。
想いを伝えるための賭けだった。
『ねぇ、千鶴ちゃん。アナタ、クリスマスプレゼントになってみない?』
<SN編/END>
★☆★後書き★☆★
すんません、こんな3部作を作っちまいました。
一気に思いつくままに書いたので、変なところがあったらすいません。
しかも、変態的なネタで。。。。(汗)
くりすます、なのにぃ。。。。
アホではなかろうか、私。
他にも入れたいネタがあったんですけど、体力と集中力が持ちませんでした(汗)
さて、この3部作、期間限定(12月末日まで)でお持ち帰りOKなので良かったらドウゾ~~。
(あ、もし、サイトやブログをお持ちでそこに掲載してくださる、という方は、理空の名とブログ名だけでも添えてくださいませ~~。)
とあるX'masの一日~PM編~
クリスマス3部作小説の2つめ、PM編です。
おきちず~~。
まぁ、これはこれだけでも読めないことはないと思います。多分。
では、AM編の注意など了承のうえ、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
身に染みるほどの肌寒さを感じる季節、十二月。
今年もあと少しというこの時期、街や人は浮かれた様子を見せる。
街中のいたるところでは様々なイルミネーションの飾りつけが施され、いつも以上の人出で賑わっている。
子供から大人までが浮かれた様子で街中を歩いており、そこには笑顔で溢れかえっている。
「うわぁ・・・すっごい人だねぇ・・・・まぁ、クリスマスだからしょうがないっか」
「そ、そうですねっっ!!」
どこを見ても、人の頭の黒色で埋め尽くされた通りを見渡した沖田は、来た早々からゲンナリとしたように顔を顰めた。
元々、沖田は人混みがあまり・・・というか、ハッキリ言って嫌いなのだ。
はぁ、と溜息を吐く沖田の隣では、なぜか過剰なまでの反応を示し、声を裏返させる千鶴の姿がある。
「・・・・どうかしたの?」
「へっっ!?な、なにがですかっ!?」
「ねぇ、千鶴ちゃん。自分が隠し事できない性質だって分かってるよね?」
「・・・・・はぃ」
待ち合わせの場所で顔を合わせたときから千鶴の様子がおかしかったのことに沖田は気づいていた。
だが、休みの日にこうして二人だけで街に出かける機会などなかったことだから緊張しているのだと、沖田は思っていたのだ。
そんな緊張でソワソワしている千鶴が可愛くてそんな様子を盗み見ては楽しんでいたりしていた。
だが、ふと記憶を辿ってみると千鶴の様子がおかしかったのは、今日のこの約束をした日からだったような気がする。
「あのさ、迷惑だった?」
「え?」
沖田の言葉に驚いたように俯いていた顔を上げた千鶴の先には、困惑したような悲しげに歪められた沖田の表情があった。
「そうだよね、千鶴ちゃんにとっては迷惑だったよね。せっかくのクリスマスに僕の用事に付き合わせちゃってるんだから・・・・」
「ち、違いますっ!!迷惑なんかじゃありません!!」
「千鶴ちゃん?」
千鶴にしては珍しく声を張り上げたことに、今度は沖田が驚きの様子を見せて、千鶴を凝視してしまう。
ハッと我に返った千鶴は、頬をほのかに桜色に染めるて視線を足元へと這わせた。
「違うんです・・・・本当に迷惑なんかじゃ、ないんです・・・・」
「本当に?」
ポソリとした呟きを沖田の不安げな声がそれを遮る。
自分の態度が沖田を悲しませていると思った千鶴の心はギュッ掴まれたように痛み、勢いよく沖田を見上げ、た、のだが・・・・、
「そ、よかった♪ じゃ、ちょっとは脈ありって思ってもいいよね~」
「へっ?なにか言いまし・・・?」
その表情を視界に捉えた瞬間、千鶴はフリーズしてしまった。
目の前には、いつものように悪戯っぽく瞳を眇め、ニンマリとした笑みを浮かべている沖田の姿だ。
先ほどまでのしおらしい態度はどこへいった!?、と問いたいほどに意地の悪い笑みである。
「ん、なんでもないよ?千鶴ちゃんはまだ、気にしなくてもいいから。・・・【まだ】、ね?」
意地悪な笑みだというのに、それに反して新緑の瞳の奥に甘い雰囲気が潜んでいるのを無意識に感じ取った千鶴は一気に顔を紅潮させた。
かーっと全身が熱くなったような気がして思考がまともに働かなくなってしまう。
「クスクス・・・・このくらいでそんなに反応しないでよ。・・・後がもたないよ?」
駄目押しとばかりに耳元で囁かれた低音の声色に、千鶴はさらに硬直してしまった。
「さてと。いつまでもここに突っ立ってるわけにもいかないし行こうっか?」
「え・・・あ、はい」
つい今までのやり取りなど無かったかのようないつもの飄々とした態度に戻った沖田に、千鶴の硬直も僅かに解ける。
依然呆然としたままの千鶴へと声をかけた沖田は、千鶴が素直にコクリと頷くと、満足気な笑みを口元に浮かべた。
「じゃぁ、はい」
「え?」
そして、千鶴の前へと己の手を差し出したのだが、思考が鈍っている千鶴にはそれがどういう意味なのか気づくことができなかった。
「手、だよ」
「手?手がどうかしたんですか?」
「・・・・・それ。本気で言ってるの、千鶴ちゃん?」
「??」
まったくもって気づかない千鶴は不思議そうに沖田を上目づかいで見つめている。
そんな千鶴も可愛いな、と思いながらも沖田は軽く溜息を吐いた。
「手、繋ごう、って言ってるんだけど?」
「えぇええ!!??」
「ちょっと、そんなに驚くこと?」
「だ、だって、沖田先輩と私は、先輩と後輩なのに・・・・・」
「迷子になったら大変デショ?今日はすごい人混みだし、はぐれちゃうかもしれないし」
目を逸らしてゴニョゴニョと言い募る千鶴の言葉を遮るように、沖田はニッコリと言葉を続けた。
「へ?・・・・あ、そういう・・・なんだ・・・・」
呆気にとられながら大きな目を見開いて沖田を見つめ、沖田が告げた理由を脳内で反芻する。
「ん?」
「い、いえ!!なんでもないです!!気にしないでください!!」
そして、自分が瞬間でも想像した内容に恥ずかしくなって、それを誤魔化すように千鶴は鬼気迫った様子で沖田に告げた。
そんな千鶴にクスリと笑うと、再び手を千鶴の前へと差し出す。
「・・・そう?じゃぁ、迷子放送なんてかけなくて済むように、手繋ごうね?」
「もう、沖田先輩!!子供扱いしないでください!!」
「あははは。別に子供扱いなんてしてないよ?」
「いいえ、その顔は絶対にしてます!!」
ぷくーっと頬を膨らませてそっぽを向きながらも沖田の手に自分の手をおずおず重ねる姿に、沖田はますます笑みを深くしてしまう。
きっと照れ隠しもあるのだろうと分かってしまうから。
「ん~~。まぁ、そういうことにしておいてもいいけどねぇ?(本当に【子供扱い】なんてしてないんだけどなぁ)」
柔らかな千鶴の手をキュッと握ると、沖田は人混みの中へと足を踏み出した。
「それにしても・・・・千鶴ちゃんってば本当に単純なんだから」
手を繋ぎながら千鶴より半歩前を行く沖田は、千鶴に聞こえないような小声でポソリと呟きを漏す。
そう、この沖田とのやり取りで千鶴は自分が【あるコト】で酷く緊張していたことをすっかり忘れていたのだった。
(そんなところも可愛いんだけどねぇ~~)
千鶴が何に気を取られていたのか聞かないことにした沖田だったが、チラリと千鶴に視線を這わせてから正面に戻した。
「まぁ、いいけどね。僕でいっぱいにすればいいんだし」
せっかく千鶴と過ごす【今日(クリスマス)】の時間を手にすることができたのだから。
「沖田先輩、何か言いました?」
「うん?・・・千鶴ちゃんが手伝ってくれて助かるな、って言ったんだよ」
「・・・えと、お役に立てるかは分かりませんけど、私がんばりますね!!」
「頼りにしてるよ。女の子が喜ぶプレゼントなんて僕分からないし。っていうか、姉さんを【女の子】の括りにしていいのかは謎だけどね」
「沖田先輩!!ミツさんは素敵な女性ですよ。私から見れば憧れの女性なんですから!」
「ふぅん。千鶴ちゃんは姉さんが【憧れ】なんだ?」
沖田の目が細められ、声色が若干低められたことに気づかないまま千鶴は力説を繰り広げている。
「それに女の子は幾つになっても、心の籠ったプレゼントは嬉しいものですよ!」
「じゃぁ、千鶴ちゃんも嬉しいんだね?」
「はい?」
「心の籠ったプレゼントなら、なんでも嬉しいんだよね?」
「え・・・そう、ですね?」
念押しするような沖田に、思わず千鶴はタジタジになってしまう。
けれど、そんな千鶴とは反対に答えを聞いた沖田は爽やかな表情を浮かべる。
「そっか、嬉しいんだね」
「えーと、沖田先輩・・・?」
「どこから見ようか?」
「え?」
「二十代後半のおばさんへのプレゼントの定番ってなにかなぁ~~」
「沖田先輩!!二十代はまだおばさんじゃありませんよ!!
そんな会話を交わしながら、お互いの手が離れないようにギュッと握りしめながら二人は人混みの中を進んで行ったのでした。
<PM編/END>
とあるX'masの一日~AM編~
はい、こんな時間になってしまいましたが、クリスマス長編小説のアップです。
AM編、PM編、SN編の3部作となっています。
(ちなみに、SNはセイントナイトの略ですーー)
ふー、一気に書き上げたので、色々誤字などなどおかしいところはありますがご了承ください。
ちとキャラ崩壊もしておるかも。
相変わらず、<おきちず>なんですがね。
+αでミツ姉さんもチラッとおりますがね。
色々、残念なクリスマス小説で申し訳ないんですが。。。
頑張って打ちました。。。
ちなみに、このクリスマス小説、12月いっぱいはお持ち帰り可とします。
良かったらクリスマスプレゼントで貰ってやってくださいませ。
(後々、誤字とか修正する可能性はありますが。)
良かったら、コメントとかもいただけると、めちゃ嬉しいです!!
(誹謗中傷はやめてくださいね、ガチでへこむので。。。)
よろしくお願いします~~。
あ、あと、もし、サイトやブログをお持ちの方で「載せてやろうじゃないか」という方は、理空の名前とブログ名を併記いただきますようお願いいたします。
では、AM編には公式クリスマスSSネタがチラッとありますが、大丈夫ですか?
覚悟はできましたか?
以上、のことが大丈夫でしたら、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
身も凍えるほどに冷たい空気を震わせるように目覚し時計のベルが鳴り響く。
ベットから上半身を起こし、目覚しを止めた。
部屋の中に満ちている寒さにブルリと身体を震わせると、暖房のリモコンを手にして「オン」ボタンを押す。
女の子らしい清潔な部屋の白い壁にかかったカレンダーには【12月】と大きく書かれている。
少女の細い指先がカレンダーに書かれている【25】という数字をそっと撫でる。
その数字はピンク色のハートマークで囲まれており、しばらくその数字を見つめていた少女はトクンと心臓を高鳴らせた。
連動するように昨夜の先輩の言葉まで思い出してしまう。
羞恥でしどろもどろになってしまう様子を楽しむかのようにワザと艶を含んだ声色で告げられた台詞。
『明日の約束、覚えてるよね?千鶴ちゃん?』
昨日のイブでは皆でクリスマスパーティの代わりに【年末感謝祭】を開催した。
―――なぜクリスマスパーティではないのかは、諸々の諸事情があるのだがここでは割愛する。(っていうか、公式SSを読もうねvv)
皆で過ごす時間は楽しくて、でも楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもので。
千鶴だけは女の子だということもあり、深夜どころか日を越えてまで続きそうな【年末感謝祭】を中座して帰宅したのだ。
帰宅する千鶴を家まで送ってくれたのが沖田だった。
千鶴を送る役割を決める際にもひと悶着あったのだが、割愛する。(これは公式にもないよvv理空の妄想だよv)
一週間前ほどから沖田と約束していたのだ。
たが、【クリスマス】の日に会う約束だといっても、デートではない。
沖田と千鶴は俗にいう【恋人】という関係ではなく、ただの先輩と後輩の関係だ。
そして、先輩である沖田からある手伝いを頼まれただけだ。
それでも、千鶴にとってはデートにも思えてしまう用事だ。
流れで、沖田の私服姿を脳裏に描きかけて千鶴は顔を真っ赤にする。
(だ、だから、デートじゃないんだってばっっ!!)
自分の想像をブンブンと掻き消し、「支度をしなくちゃ!」と、言い訳のように呟くと、千鶴はカレンダーから身体を離した。そのままクローゼットへと身体を翻し、とりあえず部屋が暖まるまでにシャワーを浴びることにした千鶴は、綺麗に仕舞われている中から着替えの下着を取ろうと引き出しを開け放った。だが、千鶴はピクリと手を止めてしまう。
引き出しの奥には、大事に、そして隠す様に仕舞われた新品の下着だ。
『――あら、これなんか総司が好きそうよねぇ。千鶴ちゃんにも似合いそうだし・・・これなんかどうかしら?』
今月の初めにショッピングに行ったときのことを思い出した千鶴は再び顔を赤くしてしまう。
瞳をキョロキョロと彷徨わせて迷うような手の動きを続けていたが、息を深く吸って何かを決心すると、その新品の下着とバスタオル、ルームウェアを手にして部屋を出て行ったのだった。
シャワーから戻った頃には、すっかり部屋も温まっていた。
クローゼットの中からいくつかお気に入りの服を取り出しては、鏡の前で当てている千鶴の姿がある。
「うーん・・・ちょっと丈が短いかなぁ~・・・でもこのスカートの方が合わせやすいよね・・・レギンスはけばちょっと短くても大丈夫かなぁ・・・・それともこっちの方がいいかな・・・・」
―――などと、女の子らしく一人ファッションショーを繰り広げていた。
結局、短めの黒のフレアスカートに、ベルベット生地でクリスマスらしい深い紅をした首元が大きく空いたマルネックのボトム、その上からは大きなリボンがついた可愛らしい白いコートを羽織り、足元は太腿までの長いニーハイにヒールの低いブーティと、千鶴によく似合うピュアカワ系なコーディネートにおさまったようである。
・・・・本人が無理やり否定しようとしても、まんまデートの準備風景が繰り広げられている雪村家の朝の一コマだった。
=====
―――ところ変わって、おまけにちょっとだけ時間を遡って、沖田家。
ジリリリリリ・・・・・・
必要最低限の家具と剣道関連のものしか置かれていなシンプルな部屋に、珍しく目覚しの音が鳴り響いていた。
ベットの中から出された長い腕が目覚し時計のスイッチを止める。
いつもはこの部屋に存在しない目覚し時計だったが、今日だけは必要ということで準備されたものだった。
学校に遅刻しようと頓着しない沖田だったが、今日の約束だけは遅れるつもりが毛頭ないのだ。
「ふぁあああ~~」
ノソリと上半身を起き上がらせた沖田は両腕を天上へと向けて伸びをしながら欠伸を漏らした。
しばらくベットの上でボーっとしていると、コンコンという音が響く。
「総司、起きたの?」
「・・・あぁ、うん・・・」
まだ若干、眠そうな声の沖田に女性はクスリとした笑みを漏らす。
「シャワーでも浴びてしっかり目を覚ましたら?」
「・・・・そうする」
緩慢な動きながらも着替えを手にすると、扉を開けて風呂場へと向かっていく。
そんな弟の背中を眺めながら、ミツはニヤリとした笑みを浮かべた。
「ふふふ・・・ホント、朝は弱いんだから。千鶴ちゃんにも見せてあげたいわ、総司のあの姿。・・・・・まぁ、上手くいけばすぐに見れるでしょうケドね」
それは、よく千鶴をからかって遊ぶときの総司に似た表情だ―――。
シャワーを浴び終えた再び自分の部屋へと戻り、手早く支度を終えた沖田がリビングへと降りて行けば、ソファーで寛ぐ姉の姿があった。
「あら、総司。お姉さまのために出かけてくるのねぇ」
「・・・・まぁ、毎年恒例のことだからね」
「今年は期待してるわよ?アンタ、いつも適当なんだから」
「あははは、嫌だなぁ。姉さんに言われたくないんだけど?」
和やかな笑みを浮かべる沖田姉弟だったが、お互いにその瞳は笑ってなどはいなかった。
まぁ、これはこれでこの姉弟のコミュニケーションであって、実際は姉弟仲はさほど悪くはない。
「私はいつも心を籠めてるわよ?今年なんてとっておきのプレゼントだと思うんだけど」
「どんなプレゼントなんだか・・・どうせまたロクでもないものなんじゃないの?例えば、去年みたく姉さんのブロマイドとか?」
「あら、いつでも姉の顔を見れるなんて嬉しかったしょ?でもホント、今年は凄いわよ~~。もうすでに【仕込み】は終わってるもの♪♪」
「は?・・・・ナニやったわけ?」
「ふふふ。すぐに分かるわよvホラ、もう出かける時間じゃないの?」
時計び視線を向ければ、確かに家を出る予定の時間を示している。
姉をジトリと見やったが、沖田はふぅ、と溜息を吐くと身を翻した。
「そうそう、【白レースのリボンが掛けられた桜】―――」
行こうとした沖田を呼びとめるようにミツが暗号のような言葉を口にする。
意味の分からないその言葉に沖田は眉間を顰めた。
「・・・・それがなに?」
「私からのクリスマスプレゼント、よ?」
「・・・・・・」
答えるのもバカらしくなったのか、沖田は今度こそミツに背を向けると玄関へと向かった。
ミツ一人となった沖田家のリビングでは、温かい紅茶を啜る音が僅かにした後、カチャリとガラステーブルにカップが置かれる音が続いた。
「ホント、楽しみにしててちょうだい?きっとビックリするわよ?」
<AM編/END>
すうぃーと・はろうぃん
本日、ハロウィンということで、SSL設定の沖x千ハロウィンSSです。
すいません、読み返していません。
色々と拙いかと思います。
とりあえず、沖田にある一言を言わせたいがためにやりましたv(←をい)
それでもよろしければ、「読んでみる?」から本文へドウゾ!
▼読んでみる?▼
**************
10月31日――。
今年から共学となった誠桜学園では、近隣の住民との交流を深めることを目的にハロウィンパーティーが開催されることになった。
学園の宣伝も含めているのだろう。なんせ共学とはいえども女生徒は一人しかいないのだ。
だが、そんな事情は生徒には知ったこっちゃねーということで割愛する。
「千鶴ちゃん、すごく似合うよ!!」
「・・・ありがとう、お千ちゃんも似合ってるよ・・・でもこれちょっと短くないかな?それに・・・・」
「そうねぇ・・・男どもに千鶴ちゃんの柔肌を見せるのは気に食わないわね。狼の群れに餌を投げ入れるようなものだわ」
「せ、千ちゃん??」
千鶴は千の言っている意味が分からずに小首を傾げている。
千本人といえば、重大事に思案するような難しい表情をしながら千鶴の格好を頭からつま先までジッと眺めた。
順に、黒い尖がった帽子、かぼちゃのチョーカー、肩が丸出しとなった黒いミニのワンピース、二の腕まであるサテンの黒い手袋、編み上げのブーツが千の視界へと入り込んでくる。
肌の見え方が黄金比率にでもなっているのではないかというほど、絶妙なバランスで黒色と肌色のコントラストがそこに存在していた。
恥ずかしそうにしている表情と、少し露出気味であるその衣装とのギャップがさらに千鶴を愛らしくしていた。
「・・・やっぱり千鶴ちゃん、可愛いv・・・そうね、私が千鶴ちゃんを守らなくちゃ!!」
思わず千鶴の愛らしさに微笑ましくなって、見惚れていた千はコクコクと頷きながら決意するのだった。
「えと、千ちゃんどうかしたの?」
「あ、うんうん。なんでもないの。ちょっと肌寒いかもしれないし、これを羽織っておきましょう」
千鶴の声にハッと我に返った千は、千鶴を安心させるようにニッコリと微笑を浮かべながら千鶴の肩へと黒いマントを被せたのだった。
「ありがとう、千ちゃん」
「いいのよ。じゃぁ、行こうか?」
「うん」
お菓子や手作りのマフィンを入れたバックを手にした二人は、女子更衣室になっている剣道部室を後にした。
千鶴はチラリとバックの中に忍ばせてある綺麗にラッピングさせたマフィンに視線を走らせると、微かに頬に朱を差したのだった。
(先輩に渡せるといいな)
ハロウィン・パーティの開始は日が暮れ始めた頃合から開始された。
学園の廊下や教室を照らすのは夜空に浮かぶ月や星、カボチャのオラウンタのオレンジ色の灯だけだ。
勿論、学園を開放して子供たちを中心にした近隣の住民を招き入れるのだから問題が起きないように対策は講じられている。
教師、風紀委員、秘密裏には”新選組”メンバーが見回りにへと当っていた。
例によって運営側も仮装は必須ではあるが。
「お姉ちゃん、トリック・オア・トリート!!」
カボチャのお化けの格好をした少年や包帯を巻きつけた少年、頭に猫耳のカチューシャをつけた少女など様々な仮装をした子供たちが、満面の笑顔を浮かべながら千鶴へと手を差し伸べた。
「トリック。はい、どうぞ」
ニッコリと微笑みながら子供たちの小さな手にお菓子を乗せていく。
手の中にあるお菓子に、子供たちもまた笑みを浮かべると、はしゃぎながら去っていったのだった。
少し歩くだけで子供たちから声をかけられてお菓子をあげるというのが続いた。
途中では、本部で委員の人間に指示を出したりと忙しくしている土方、近藤に会い、見回りに当ってる原田、永倉、平助、斎藤、薫にも会った。その度に「お疲れさまです」と微笑みながらマフィンを手渡した。
忙しい中で、千鶴のその微笑みに癒されたことは言うまでもないだろう。
「千鶴ちゃん、どうかしたの」
そろそろ終了の時間もせまり、たった今、最後のお菓子を手渡した子供たちの背中を見送った千鶴がキョロキョロと辺りを見回したのを目の端に捉えた千は千鶴へと問いかけた。
「あ、ごめんね。なんでもないの・・・」
一瞬だけ寂しそうに瞳を伏せた千鶴の視線の先には、翡翠色のリボンでラッピングされたマフィンがある。
「・・・沖田さん、探してたの?」
「え!?・・・あ、違うの、えと、他の皆には会えたからマフィンを渡せたけど沖田先輩だけ会えないから・・・忙しいのかなって思っただけで、その、深い意味は・・・・」
「ふふふ・・・千鶴ちゃん、顔が真っ赤よ」
「えぇえ!?うそ・・・・」
千の言葉に千鶴が頬を両手で覆ったとき、千鶴のマントがクイクイと引かれた。
「トリック・オア・トリート!!」
満面の笑顔を浮かべた少年が千鶴へと小さな手を差し出していた。
「あ・・・・」
千鶴も千も、お菓子は先ほどで全部配り終えてしまっていた。
子供の期待に満ちた瞳に見つめられた千鶴は迷うことなく、それを子供の手に乗せた。
翡翠色のリボンがかけられたマフィンを―――。
「トリック。はい、どうぞ」
「ありがとう、お姉ちゃん!!」
パタパタと少年が去っていくのと同時に、ゴーンゴーンと終了の鐘が鳴り響いた。
「良かったの、千鶴ちゃん?あれって・・・」
「うん、いいの。今日は沖田先輩に会えるか分からないし・・・。あの子に食べてもらった方が良いよ。沖田先輩には、次の機会もあるんだし!ホラ、制服に着替えに行こうよ」
「・・・・千鶴ちゃん」
二人が更衣室の剣道部室の扉の前まで来たところで、千だけがふと足を止めてある場所に視線を向けた。
建物の影に何かを見つけたようだった。
「千ちゃん、どうしたの?入らないの?」
立ち止まったままの千に千鶴が不思議そうに声をかける。
「いけない、私ったら忘れ物してきちゃった。ごめんね千鶴ちゃん、私ちょっと取ってくるから先に着替えてて!!」
「え・・・・」
千鶴が反応するよりも早く千は校舎へと駆けていたのだった。
暫く状況を飲み込めずに呆然と突っ立ていた千鶴だったが、こうしていても仕方がないと部室の扉を閉めた。
シーンと静まり返った部室に寂しさを感じずにはいられない。
すぐに千が戻ってくると分かっているのだが、何故か強い寂しさを感じた。
ジワリと瞳に熱いものが溢れそうな感覚に唇を噛み締めた瞬間、部室のガラス窓がコンコンと音をたてた。
この部室は二階にあるというのに、窓が音をたてることに千鶴は不安を感じた。
風でもなく、何か硬いものか何かで窓を叩く音だった。
僅かに肩を震わせながらも恐る恐ると窓へと近づいていく。
そして、深呼吸をついて窓を開け放った。
「Trick or Treat!!」
部室の隣にある木の枝に腰をかけた狼男が、夜空に浮かぶ満月をバックにして楽しそうに微笑んでいる。
その姿に千鶴はただ、その目の前の人物の名を呟いた。
「お、きた、せんぱ・・・?うそ・・・・」
呆然と沖田を見つめる千鶴と視線を交わした沖田は、枝の上で立ち上がると、部室の窓へと飛び移った。
尻尾を揺らしながら、窓枠へと飛び移ったその身軽さは、本当に狼男のように見えた。
「よっと・・・”うそ”ってなに?正真正銘、”沖田先輩だけど?・・・あ、違うか」
窓枠から部室の中へと入り込んだ沖田は千鶴が座り込んでしまっていた傍らへと膝をつき、千鶴との視線を合わせる。
「え?」
「今夜の僕は君を狙う”狼男”、かな」
茶目っ気たっぷりにウィンクする沖田に、千鶴は咄嗟に顔を紅く染め上げてしまう。
「で、千鶴ちゃんどっち?」
「ど、どっちとは?」
「あれ、聞いてなかったのかな?僕、さっき”Trick or Treat”って言ったんだけど」
「え、あ・・・で、でも今日のは子供たちだけですよ」
「そうだったけ?いいじゃない、別に。それとも、千鶴ちゃんは僕にはマフィンをくれないの?」
「な、なんで!?」
思わず声を上げた千鶴に、沖田は、はぁ、と溜息をついた。
「なんでもなにも、僕意外の皆にはマフィンあげたんでしょ。皆、美味しそうに食べてたなぁ・・・・僕を差し置いてね」
「あ!!そ、その沖田先輩にもお渡ししたかったんですけど、あの、会えなくて・・・・」
沖田の声色が少し低くなったことを感じて、千鶴は慌てて説明し始めた。
「まぁ、僕は寛容だから許してあげるよ。・・・・ってことは、千鶴ちゃんの答えは”Trick”なんだよね?」
再び、笑顔を刻んだ沖田は千鶴へと手を差し出してくる。
その笑顔になにか含みを感じないでもないが、千鶴としてはそれどころではなかった。
なぜなら、マフィンどころかお菓子の一つも無いのだから。
「え、えーーっと・・・・」
自然と千鶴の目が泳ぎ、背中に冷や汗が伝っていくかのようだった。
「ん?どうしたのかな、早くちょうだい」
「・・・ご、ごめんなさい!!実は、さっき男の子にあげちゃって無いんです」
「ふぅん、男の子に、ね。・・・・・マフィンはないんだ?残念だけどしょうがないよね」
「沖田先輩・・・」
覚悟を決めた千鶴はギュッと堅く目を瞑って、沖田へと謝罪の言葉を口にした。
沖田が残念そうに呟く姿に千鶴は何だか罪悪感でいっぱいになってしまう。
「でも、他のがあるよね。僕の一番の大好物がv」
「え?大好物?」
お菓子どころが食べ物一つ持っていない千鶴は、沖田の言葉に戸惑うばかりだった。
クスリと沖田は口端を吊り上げて笑みを刻むと、正面から千鶴の瞳を見つめる。
「そう。一番の、だよ・・・・すごーく甘くて、やみつきになっちゃうんだ♪」
そろりと千鶴の頬に沖田の大きな手が添えられる。
千鶴は、沖田の妖しげに細められた翡翠色の瞳から目が逸らせなくなってしまった。
段々とその瞳に映る自分の姿が大きくなっていく意味さえも把握ができない。
「んっ・・・ぁ」
気づけば、身体を強く抱きすくめられながら唇を触れ合わせていた。
唇を塗れた感触が這い、その温かな感触に思わず僅かに開くと、それが口腔を蹂躙していった。
千鶴はその溺れそうな感覚の中でトローンと瞳を潤ませながら沖田の背をギュッと握る。
沖田はその千鶴の表情に満足そうに瞳を細めて、その口付けを更に深めていったのだった。
<END>
★★後書き★★
あれ、書きたかったネタが消化できてない・・・?
せっかく仮装してるのにぃい!!
っていうか、どこが”すうぃーと”だ!!
看板に偽り有り、で申し訳ありません!!
あえていうなら最後ですよ、最後!!
本当なら、沖田が登場してからのところを書きたかったんだ、私はっっ!!
そして、私の(書くのが)苦手なエロ流れにいきそうだったんで切りました。
・・・・気ままに書いてるからこういうことになるんだよ、理空・・・。
と、とりあえず、沖田先輩の一番大好きなお菓子は「千鶴自身」というネタでした☆
もちろん、沖田しか食せない”甘いお菓子”ですか、ねvv
因みに、あえて”Treat”の方に持っていかなかったのがポイントです!(活かしきれてないがな)
では、お読みいただき有難うございました!!
<1万HIT♪お礼SS> 君だけの僕
改めまして1万HITありがとうございます♪♪
このような辺境の地まで遊びに来てくださる皆様に感謝です!!
というわけで、1万HIT!突発☆SSでございます。
このSSのキーワード(笑)は、
SSL/沖x千/執事/文化祭
・・・となっております。
大丈夫ですか?
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
*****************
ある10月の放課後―――
秋晴れの青空の下に響き渡る喧騒の中を淡い桜色の携帯を手にした一人の少女が駆けて行く姿があった。
教室を出て部室棟へと向っている少女の息は軽くあがっている。
少女が在籍する1年の教室がある棟とは反対側に部室棟が位置しているうえに、忙しく動き回る人々や障害物を避けて進んでいるため余計な体力まで使っているからだろう。
現在は普段なら普通に通れる場所も荷物や道具が置かれていたりとしているために遠回りをしなくてはいけない状態となっていた。
なぜ、少女がこんなに息を軽く切らしながらも部室棟へ向っているかといえば、HR終了直後に入った一件のメールが理由だった。
『今日、部活のミーティングがあるの忘れていないよね?』
――と、いうものだった。
そのメールを見た瞬間、少女は焦りで体温が一気に上がったような気がした。
ミーティングがあるなんて、これっぽちも覚えていなかったからだ。
というか、普通に部活は休みだと思っていたのだ。
少女がそう思うのも当然だろう。
この学園では現在、文化祭を数日後に控えているため準備で大忙しの状態となっていたからだ。教師も生徒も忙しく動き回っており、文化祭の荷物や道具がそこら辺りに散らばっている。
そして、運動部はこの時期は基本的には休みになるのだ。
そう基本的には。
少女がマネージャーを務める剣道部も当然のごとく休みのはずだった。
そんなわけで、近くにいたクラスメイトに少しの間だけ準備から抜けることを謝った少女は、剣道部の部室へと急いで向かうことになった、という具合だ。
そして部室棟まで来れば、そこだけが別世界のような静寂に包まれていた。
準備で賑わっていた校舎からは少し離れた場所にあるためだろう。
少女は扉の前で立ち止まると、深呼吸をして息を整える。
何とか心臓を落ち着かせてドアノブへと手を伸ばし、ガチャリと扉を開く。
「すいません、遅れまし・・・・・」
「おかえりないさませ、お嬢様v」
「・・・・・・・・・・・!?」
扉を開け放った向こう側は何時もと違う様相をしていた。
少女が毎週片付けたり整理しているとはいっても雑然としていた部室が、純白のレースのカーテンなどで覆い隠されて綺麗に装飾されいる。
清潔で優雅な空間を創り出していた。
それだけでも驚きだというのに、少女の目の前にはもう一つ信じられない姿があった。
「どうかなさいましたか、千鶴お嬢様?」
普段、堅苦しいのが嫌いでゆったりと制服や剣道着を纏っているというのに、今は黒い燕尾服をきっちりと綺麗に着こなして優雅なお辞儀でもって少女・千鶴を出迎えている。そのうえ、その人物の口調は柔らかく丁寧なものだ。
だが、顔を上げた男の表情だけは常と同じ悪戯っぽい笑みが刻まれていて、それは千鶴が良く知る剣道部の先輩のものだった。
「あの・・・・沖田先輩、これは?」
「ダメ、だよ」
「はい?」
状況が飲み込めない千鶴は、困ったように眉を下げて沖田へと視線を向けて尋ねたが、返ってきたのは意味不明なものだった。
ますます千鶴の頭には?マークが増殖していく。
「今の僕は千鶴お嬢様の執事なんだから、”総司”って呼んでくれないと♪♪」
「あ、すいませ・・・・・っっ!?沖田先輩、今何て言いました!?」
声を弾ませて楽しそうに告げる沖田に根が素直な千鶴は謝ってしまいそうになったが、その言葉の意味が頭にまでしっかり伝わってくると、それが信じられずに驚きで大きな声をあげていた。
「・・・・・・・・」
「沖田先ぱ・・・っっ!??」
だが、沖田は先ほどまでの悪戯っぽい笑みを涼やかな笑みに変えて背筋を伸ばして立ったままで千鶴の問いかけには答えようとはしない。
もう一度、沖田の名を呼ぼうとした千鶴の桜色の唇に、白い手袋に包まれた沖田の人差し指が当てられる。
「違いますよ、千鶴お嬢様?いつも千鶴お嬢様は僕のことを”総司”と呼ばれていたでしょう?なぜ、今日は”総司”とお呼びになってくれないんですか?」
「っっ??////(何、今日の沖田先輩、なんか・・・え、あれ!?)」
つまりは沖田の中ではそういう設定になっているようで、切なげに眉を寄せて千鶴を見つめ、いつもとは違った色っぽさを魅せつけた。
そんな沖田に、千鶴は顔を真っ赤に染め上げて目をグルグル回しながら混乱に陥っている。
沖田は千鶴に気づかれないほどの小さな笑みを微かに漏らすと、混乱に陥っている千鶴の手を取って親愛の証とばかりに手の甲へと口付けた。
男性のそんな風な行為に慣れていない純粋な少女には、ある意味酷な仕打ちかもしれない・・・。
「千鶴お嬢様・・・さぁ、いつものように”総司”・・・と」
沖田が言葉を紡ぐたびに、その吐息が千鶴の白く滑らかな手の甲へとかかり、千鶴は目をギュッと堅く瞑る。
「そ・・・・そ、総司・・・さん?」
沖田の性格からいって絶対に引かないであろうことを本能的に悟っていた千鶴は覚悟を決めると、顔から火が出る思いで沖田の名を口にした。
「(クス・・・千鶴ちゃんにはそれが限界、かな?)・・・はい、千鶴お嬢様。さぁ、こちらへどうぞ」
そう言うと、千鶴の手を優しく引いてテーブルへとエスコートして椅子へと座らせた。
そしてティーポットとカップを用意すると、慣れた手つきで紅茶を淹れていく。
その洗練された姿に千鶴は思わず見蕩れてしまう。
「おき・・・そう、じ、さんは、紅茶がお好きなんですか?」
「いえ、特には。何故ですか?」
「あの、手つきが慣れているので・・・・」
「あぁ、ここ数日で山南さんに特訓を強いられたんですよ。僕も千鶴お嬢様だけのためならやってもいいかな、と思いまして」
「え?わ、たし、の?」
千鶴は軽く目を見開くと、自分の隣に立って紅茶を淹れていた沖田の横顔へと視線を留めた。それに気づいた沖田はふわりと千鶴へ笑みを返す。
「どうぞ、千鶴お嬢様。緊張で固まった千鶴お嬢様の身体も解れますよ」
何時もとは違う沖田の口調、所作に千鶴はドギマギしながら紅茶のカップを手に取った。暖かな湯気が千鶴へと紅茶の優しい香を伝えている。
カップへ口付けて一口、コクリと飲んでみれば紅茶の温かさが身体の中に染み渡っていき、沖田の言葉どおり身体が弛緩していく。
「・・・・おいしい」
千鶴は紅茶の温かさにホッと息を吐くと、再び隣へと顔を向けて沖田を見上げて微笑を浮べた。
「喜んでいただけましたか?」
「はい、もちろんです。とても美味しくて、また飲みたいくらいです」
「そうじゃなくて」
「え?」
言葉の意味が分からず瞳をパチパチと瞬かせる千鶴から視線を外さないまま、沖田は緑色のタイをその長い指先でクイッと解いて襟元を緩めると、いつもの意地の悪い笑みを口元に刻んだ。
そして千鶴の耳元に口元を寄せて、その言葉を千鶴の鼓膜へと刻み込むように甘く掠れた声でゆっくりと囁いた。
「千鶴お嬢様の、執事である、僕、のことだよ」
「~~っぅ!!!///」
再び頬を紅く染め上げた千鶴は、反射的に上半身を捻って耳元を押さえた。
「ちょッッ、千鶴ちゃんっっ!!」
「へっ・・・・?」
羞恥でパニックに陥った千鶴が、沖田から身体を離そうと身体を思いっきり後ろへと引いたのと同時に沖田の慌てたような声が響いた。
身体を捻っていた千鶴の上半身は、勢いがつきすぎたせいで後ろ側へと重心が傾き、背もたれのない背後へと千鶴は椅子ごと倒れそうになってしまっていたのだ。
「・・・・はぁ・・・本当にソソッカシイんだから、僕の千鶴お嬢様は」
「す、すいません、沖田先輩」
沖田は咄嗟に千鶴の腕を掴んで自分の方へと引いて抱き込むことで、椅子ごと倒れこむのを阻止すると、ホッとしたように呟いた。
「・・・ほら、”沖田先輩”に戻ってるよ」
「あ、えと・・・・」
「まぁ、いいけどね。千鶴お嬢様でも、後輩の千鶴ちゃんでも―――僕が守ってあげたいお嬢様も、後輩の女の子も、一人だけだしね」
「あの、沖田先輩?」
沖田の胸の辺りに手をついて身体を少しだけ離した千鶴は、不思議そうな表情を浮べて沖田を見上げる
「ね、分かってる?僕がここまでするのは、千鶴ちゃんだけ、なんだからね」
沖田は再び自分の胸の中に千鶴をギュッと抱き込むと、それはそれは愛しげな声で囁いた。
『どんな僕も君だけのものなんだから―――』
<END>
★♪後書き♪★
1万HIT!!有難うございます♪♪
思いつき突発SSでございました。
今回は、王道萌えを自分なりに詰め込んでみました。
SSL設定・沖x千で、文化祭、執事、甘々!!みたいな(笑)
では、お読みいただき有難うございました。