*第7話*嵐の前の静けさ
今回も、総司&チヅ編となております。一応。
斎藤さんも最初の方出張っておりますが。
沖田と斎藤のコンビもいいですよねン。
あと、最後にちょびっとですが、ソウシ&千鶴も登場です!!
(総司&チヅには絡んでいません!)
そうそう、後書きも読んでくださっている方で裏系ネタが苦手な方は注意してくださいね。
一応、後書き中に注意もいれましたが。まぁ、なんてことはないのですが一応。
そういえば、明日は通信録のイベントですねvv
理空は夜の部の方だけ参戦いたします。
参戦される方、お互いに楽しみましょう!!
最近、忙しいので元気を貰ってきたいと思います!!
では、心の準備ができた方は、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
チチチチチ・・・・・
小鳥の囀りが鼓膜を刺激し、眠りの泉に沈んでいた青年の意識を緩やかに浮上させる。
僅かに身じろぎながら青年はもう暫し夢と現の境で微睡むことにしたようだ。
小鳥の囀りでは青年を完全な覚醒に促すには到らなかったと見える。
暫く微睡んでいた青年の耳に、今度はガサゴソという物音が聞こえてきた。
その物音は控えめなものではあったが、気配には敏感になっている青年にとっては完全に目が冴える理由になる。
「・・・・・・・ちょっと一君、煩いんだけど」
不機嫌気味に眉を寄せて、隣へと顔を向ければ剣道着に着替えた斎藤の姿がある。
「すまない、起こしてしまったようだな」
起さないように気を使って準備していた斎藤だったが、沖田だけが目を覚ましたことにそれほど驚きも見せずに静かな声色で謝罪を述べる。
「って・・・・まだ起床には早い時間だよねぇ」
枕元に置いておいた携帯を手にとって、パカリと開き画面を覗き込むと、画面の右上には、”5”と”0”の数字が羅列されている。
起床時間は6時半となっていたはずで、起きるには1時間半ほど早い。
「あぁ、そうだな。だが、俺には日課があるからな」
「ふぅーん。本当に真面目だよねぇ、一君ってさ。学校行事で違う土地に来てても朝練なんてするんだぁ」
『ふあぁ』、と欠伸をしながら両腕を上げて上半身を伸ばした。
テントで地面の堅い場所で眠ったせいか身体の節々が多少の悲鳴をあげる。
「なに?」
なぜお前が知っていると、驚いたような声をあげる斎藤に対して、沖田は柳眉を潜めて斎藤へと顔を向けた。
「え、そこ驚くとこ?その格好見れば嫌でも分かると思うけど」
「あぁ、そういえばそうだったな」
「そうそう。そんじゃまぁ、朝練がんばってねぇ~~・・・・」
「総司」
首を微かに縦に動かしながら納得する斎藤の様子に話も一段落ついたと、再び身体を横たえようとした沖田だったが、斎藤の静かな声によって二度寝の至福を遮られてしまう。
「・・・・なに?」
「練習に付き合わないか」
「はぁ?」
突然の斎藤の申し出に意表をつかれたように、沖田は目をパチパチとさせる。
その瞳に映る斎藤は、常の真面目そうな静かな眼差しをしている。
「お前も朝練をしていただろう」
「・・・・・はぁ。なんで一君が知ってるわけ?僕、誰にも言ったことなかったんだけどなぁ」
「たまに見かけていたからな」
高校剣道界において、薄桜学園剣道部自体が他とはレベルが違いすぎるほど強い。
そしてその中で特に『天才』と名高いのが沖田である。
普段から不真面目な言動が多いのだが、勉強も運動も何だろうと難なくこなす。
生活態度が若干緩いところがあり、遅刻の常習犯でもある沖田は、【努力】という言葉からは程遠い存在だった。
だが、剣道に関しては実は誰よりも真面目であることを仲間たちは知っている。
【天才】が【努力】するのだから誰よりも強いのは当たり前。
その【天才】と同じくらいの技量を持つのが斎藤である。―――まぁ、高校生の括りでいえば、であり、沖田と拮抗する実力者は薄桜学園の教師陣にも存在している。―――
「あははは。一君も人が悪いなぁ、知ってたんだ?」
「まぁな。・・・・久しぶりにお前と打ち合いをしたいんだが」
「そうだね。面白そうだしイイよ」
同じ強さを持つ者と剣を交えることは、斎藤にとっても沖田にとってもワクワクすることなのだろう。
不敵な笑みを浮かべる沖田と、無表情ながらもその瞳は強者への期待の色が浮かんでいる。
それはお互いの力を認めているからこそのもの。
「それじゃぁさ、準備したら行くから先に行っててくれない?」
「わかった」
斎藤がテントから出て行くのを見送ると、沖田は着ていたシャツへと手をかけた。
『ちょ、ちょっと待ってください!!沖田さん何やってるんですか!!』
沖田の着替えを止めるように、可愛らしい声が慌てて悲鳴をあげる。
だが、その声を聞けるものは沖田以外にこの場には存在しない。
斎藤が先に行った以上、他のクラスメイトは未だに眠りの中にいるのだから。
そもそも、その声は携帯に取り付けられた黒ネコのストラップから発せられたもので、波長の合う沖田にしか聞こえないものだ。
―――つまり、この様子を目にする者がいれば、傍目には沖田は【痛いヒト】にしか映っていないだろう。
「何って着替えようと思っただけだけど?」
『それは分かってます!なんで私の目の前で恥ずかしげもなく着替え始めるんですか!!』
思わず黒ネコのストラップから抜け出してしまったチヅの白磁のように白い頬は【羞恥】という名の頬紅で色づけられている。
黒曜石のような瞳を僅かに潤ませながら睨みつけても上目づかいになっているだけで、怖くもなんともない。
むしろ沖田の嗜虐心を煽るほどの愛らしさだ。
「・・・・・ふぅん。チヅは恥ずかしいんだ?」
口角を吊り上げてニヤリと笑むと、沖田はシャツへと再び手をかけて勢いよく脱ぎ捨ててしまう。
『って、なんで言ってるそばから着替えを再開するんですかっっ!!』
よく鍛えられたしなやかな筋肉が顕わになり、自然と視線はその女性好みの筋肉美に釘つけになってしまう。
そんなチヅの様子を面白がりながらも無視して、沖田はズボンへと手をかけた。
『きゃぁーーーーー!!』
さすがに我慢の限界が来たのか、チヅはギュッと目を瞑って黒曜石の瞳を隠した。
すると、視界は黒闇に覆われて何も見えなくなる。
「ぷっ、あはははは。最初からそうすればいいのに」
『へ?』
沖田の笑い声にチヅがゆっくりと目を開くと、至近距離で沖田の翡翠の瞳が自分を覗きこんでいる。
相変わらず上半身は裸のままの沖田だったが、ズボンはきちんと穿いている様子からチヅをからかったのだと分かる。
さらにチヅをからかう魂胆なのか、沖田はチヅへと顔を寄せて目を細める。
「・・・・そんなに僕の生着替え見たかったの?・・・ヤラシイなぁ、チヅは」
『はぃいっっ!?』
混乱も生じているせいでチヅの声が恥ずかしさから裏返ってしまう様子を視界に捉えながら、それに拍車をかけさせるかのように潜める声に艶を滲ませていく。
「だから、最初からチヅが目を瞑ればコトは済む話だったんじゃない?ってことだよ。それなのに、なんだかんだ言いながら僕の着替え見てるから、さ」
『ふ、ふぇえええ?』
「そんなに興味ある?僕の・・・裸に」
『そ、そ、そんな、こ・・・とは・・・・ない、です」
「本当に?」
沖田の指先がチズの顔の輪郭をなぞるようにスルリと撫でる。
「・・・不思議だよね。チヅは幽霊のはずなのにこうやって僕は君に触れることができるんだから」
『お・・・き・・・たさん?』
「僕は興味あるな。千鶴ちゃんの・・・・」
『だ、駄目ですっっっ!!!!私には沖田さんが・・・・・!?』
恥ずかしさの限界から勢いよく沖田から離れながら【私には”沖田さん”というヒトがいるんです】と、チヅは言おうとしていたが、ハタと自分が言おうとした言葉のおかしさに気づいた。
今、自分の目の前に居る人物こそが【沖田さん】だというのにどういうことだろう??、と。
そんなチヅの思考を吹き飛ばすかのように、目の前の沖田は柄にもなくお腹を抱えて笑いこげている。
「あはははは。本当にチヅは可愛いなぁ、からかいがいがあるんだから」
だが、沖田の瞳の奥には動揺の色が僅かに浮かんでいた。
チヅからは沖田の表情など見えないせいで、沖田がどんな想いをそこに秘めているのかなど気づいてはいない。
『も、もしかして、か、からかったんですか!!?』
沖田が自分の反応を見て楽しんでいたことに気づいたチヅの身体がフルフルと震え、口元をギュッと噛みしめて、目端には浮かびそうになる水滴を堪える。
そして、噛みしめた唇を震わせながらチヅは心の底からの抗議の声を張り上げた。
「お・・・きたさんの、沖田さんの・・・・沖田先輩のバカぁあああああああっっっ!!!!!!!」
はぁはぁと息切れがしそうなほどの絶叫をあげながらガバリと布団から上半身を起き上がらせたのは、少女らしい桜色のパジャマに身を包んだ黒髪の少女だ。
『・・・・千鶴ちゃん、朝から絶叫とか近所迷惑だと思うケド?』
「へ?・・・・あれ?・・・・ソウシ、さん?」
『そうだけど・・・なに?』
「あれ??沖田先輩は?」
『・・・・何、言ってんの?”自然体験学習”とやらでいないんじゃなかったけ?そもそも千鶴ちゃんの部屋に朝から居るわけないよね?・・・・もしかして、寂しくて沖田先輩の夢でも見た?』
茶ネコの縫いぐるみに入っているのに、ニヤリと笑むソウシの表情をリアルに想像して、千鶴の頬がプクリと微かに膨らむ。
「そ、そんなこともないもん・・・・・相変わらず沖田先輩が私をからかってるだけだし」
夢の内容を思い出して、頬を朱に染めながら小さな呟きを落とす。
『クス・・・・何、”沖田先輩”の着替えを見ることになってそれについてからかわれた、とか?』
「へ?なんで・・・・?」
『あれ、・・・・図星?』
やけに具体的に夢の内容を言い当てられた千鶴は、驚きに黒曜石のような瞳を見開きソウシを凝視した。
そのことにソウシもまた軽く驚いたようである。
そして、ソウシは何かを考え込むように口を閉ざしてしまたのだった。
「?」
ソウシの様子に首を傾げながらも目覚し時計が示す時刻を目にした千鶴は、支度をするためにベットから抜け出した。
枕元に残された茶ネコの縫いぐるみ、もとい、ソウシの呟きも知らないままに。
『ボクが見た夢と繋がって・・・・る?』
【つづく】
★★後書き★★
今回もここまでお読みいただき有難うございますvv
さて、いかがだったでしょうか。。。
多分、次回何かあるはず。
総司とチヅの方に。
すいません、自然体験学習はまだ終わりましぇん。
つか、なんでこんな話になったんだ?
沖田の生着替えなんて予定になかったのに。
つか、私は・・・・・見たいケド。えぇ、ジックリとvv
って!!私の願望がそうさせたのか!!??
じゃぁ、次は千鶴の生着替えで!!
↓ちょっと卑猥(オイ)。苦手な方は注意!!(R18!!/笑)
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・・・・可愛らしい色とか柄のブラでぇ、レースとかついてたりしてぇ、
その下には白い肌とピンク色の・・・(自主規制/笑)
あぁ、恋人設定の沖田からランジェリーをプレゼントされて羞恥に染まりながらも沖田の希望を叶えてあげちゃう千鶴ちん。。。あー萌えるぅvv
つか、これ守護霊シリーズじゃねーし。
それ以前に『裏』になるっつーの。
・・・・今度、『裏・短編~UnderMoon~』のカテゴリー増やしていいですか?
(ここで聞くな。そしてカテゴリー名も思いつきダロ)
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すいません、自己ツッコミが多くて(汗)
つか、こんな後書きまで読んでくださっているお嬢さんはいらっしゃるのか。。。。
*第6話*幾夜を越えた願い
お久しぶりの「守護霊シリーズ」でございます。
お待ちいただいていた方、お待たせいたしました!!
・・・・が、今回は千鶴&ソウシはお休みです。
(す、すいませぬ・・・)
ある意味、総司編となっています~。
そして、また無駄に長くなってしまいました(汗)
いつも長すぎるかな。。。
もう少し短い方がいいのだろうか。。。(うーむ)
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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『―――さん、―――さんっ!!』
私は何度も何度も、彼の名を呼ぶ。
けれど、彼の口から私の名が紡がれることはない。
その瞳は閉じられたまま、私の姿を映すこともない。
それでも私は冷たくなっていく彼の手を握り締め続けた。
もう一度、私の名を呼んでください。
もう一度、アナタの笑顔を見せてください。
私は願い続ける。
幾つもの夜を越えて、幾百の夜を越えて、幾千幾万の夜を越えてでも。
いつの日にか、再びアナタに。
―――永い時間の中で記憶が薄れたとしても、私の心は永遠にアナタのものです。
=======
「どうか、私をアナタの元に置いてはいただけませんか」
シーンと静まり返った夜の山中に響く愛らしい少女の声。
空には満天の星が輝き、淡い月光が夜の闇を優しく照らしている。
少女の表情を確認するには十分な明かりだった。
懇願するような瞳に見つめられた青年は、彼にしては珍しく困惑した表情を浮かべている。
目の前に居る少女は、青年のよく知る後輩の女の子に酷似していたのだ。
―――もう一つ言うならば、その雰囲気さえもが。
つまりは、どう考えても顔だけが酷似したあの腹黒兄でないことは確かである。
艶やかな黒髪はその長さまでもが同じで、今は熱が篭って潤んでいる瞳の色さえもが同じだ。
違うといえば、服装ぐらいだろうか。
青年が見慣れた制服ではなく、目の前の少女は桃色の上衣に袴と何故か男物の着物を纏い、左腰には短刀を差していた。
「・・・・ねぇ。もしかして君さ、幽霊?」
「なんで・・・・・・?」
青年の言葉に、なんで分かったのかと、少女は驚きに瞳を見開いて青年の顔を凝視する。
「んー、なんでって言われもなぁ。・・・なんとなく?」
その言葉が青年の口からついて出たのには理由があった。
つい先ほど耳にした噂、少女の儚さを感じさせる存在感、このシチュエーションである。
こんな真夜中の山奥に少女が一人で佇んでいること事態がおかしいのだ。
もう一つは、自分が感じる意味の分からない懐かしさだった。
ここ最近、そう感じることが青年には多くなっていた。そう、学校帰りに気を失ったあの日から―――。
だが、その理由を明白に出来ないままに、この学校行事に参加することになったのだ。
青年は、少女の必死な瞳から少しだけ視線を逸らすと、今日の出来事を思い返したのだった。
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澄んだ空気、清らかな水、鳥たちのさえずり。
ある東北地方の自然に囲まれた山奥で、白いシャツに青のジャージズボン姿という同じような格好をした青年たちがいくつかのグループに分かれて何やら作業をしていた。
その場所にはアウトドア用の調理器が並んでおり、湯気が立ち上っている。
手馴れた手つきの青年や戸惑いながら作業をしている青年と様々だ。
そんな中で、ジャージの上着を腰に巻きつけた一人の青年が蛇口からザルへと冷たい水を流してジャガイモやニンジンなどの野菜を水洗いをしている。
・・・そのはずなのだが、その青年は水を流すだけで手を止めて深い溜息を吐いていた。
「はぁあー、本当に面倒だよねぇ」
「愚痴ばかり言っていないで手を動かしたらどうだ、総司」
愚痴を零している総司に、苦言を呈したのは同じグループの斎藤一だった。
その声に、緩慢な動きで振り返った総司の目に飛び込んできたのは、軽量スプーンを手にしながら真剣な眼差しで計っている斎藤だった。
「・・・・一君って本当に真面目だね」
総司のそんな言葉が耳に入らないほどに、斎藤の意識は作業台に置いた冊子と調味料へと傾いているようだ。
「・・・ふむ、醤油が大さじ・・・」
「ふぅん、野菜スープねぇ。こういうのは適当でいいんじゃないかなぁ」
冊子にチラリと目を向けた総司は、斎藤が手を伸ばした先にあった調味料を奪い取るように手に取ると、ドバドバと目の前の鍋へと適当に入れていく。
「総司っ!アンタは・・・・これでは濃すぎだ」
「濃ければ水入れて薄めればいいんだから大丈夫だよ」
「そういう問題ではない。アンタは、いつもいい加減すぎる!」
「そういう一君は慎重すぎるよね」
「「・・・・・・・」」
表情もなく総司を睨みつける斎藤と、笑顔だが目が笑っていない総司、両者の間に沈黙がおりる。
二人の間に漂う殺気のようなものに恐れをなした周囲の生徒たちは、触る神に祟りなし、とばかりにススーと後ずさりしていく。
暫く続いたその沈黙を破ったのは総司の方だった。
「・・・・っていうかさ、前にもこんなこと無かった?」
「なんのことだ」
総司の言葉に斎藤は訝しげな視線を向けるが、総司はそれを軽く流して記憶を辿ろうと思考を巡らせる。
「んーー、なんか前にも一君と料理しながら、こんな言い合いをしたことがあるような?」
「総司、寝ぼけてるのか。俺はお前と料理をしたことなど無いが」
「そうだよねぇ、僕も覚えないもん。でも、なんだろ、すっごい懐かしい気がしたんだよね、思わず斬ってもいいかなぁ、って言いたくなったぐらいに」
うんうん、と首を縦に動かす総司に対して、斎藤の目は一種の憐れみを帯びたものへと変わっていく。
「総司・・・・・」
「ちょっと、一君。何でそんな憐れそうな目で僕を見るのかな?」
そんな斎藤の視線に、総司は面白くないとばかりに顔を顰めていく。
斎藤はコホンと咳ばらいすると、何やら逡巡する素振りを見せた後に真剣な眼差しになった。
事前に山南から聞いていた情報が脳裏を過ぎったのだ。そして、ここ最近その日を境に総司の言動が多少ではあるがおかしかった事にも気づいていた。
「山南先生の所に行ってきたらどうだ。先週、帰宅途中に倒れたのだろう?」
「・・・・・そう、だね。じゃ、お昼の準備は任せたからね~~」
肩を竦めながら軽い調子でそう言うと、総司は背を向けてその場を去って行った。
だが、その軽い調子の声とは反対に総司の瞳にも真剣な色が浮かび始めていた―――
この清浄な空気に包まれた人里離れたキャンプ場へとやって来ているのは、都内にある薄桜学園の二年に在籍している生徒たちだった。
朝の7時には新幹線に乗り込み2時間半の時間を仮眠をとることで費やし、そこからバスに揺られて1時間ほどの山奥でバスを降り、さらに10分ほど歩いたところにこのキャンプ場はあった。キャンプ場に来て最初の作業が昼食の準備となっていた。
その都会っ子である年頃の男子生徒たちが、空気が美味しい綺麗な自然とはいえ携帯も通じないようなこの場所に居るのかといえば、薄桜学園・二年生徒にとっては恒例の2泊3日の”自然体験学習”のためだ。
基本的に、サボる、という選択肢は与えられていない。よっぽどの事がない限りは強制参加である。
サボうろうものなら、もれなく恐怖体験が与えられる。
一つは、この学園の”鬼教師”と呼ばれる土方のそれだけで人を殺せるのではないかという視線と怒気を向けられながらの説教。
もう一つは、保健医・山南が研究している”紅い液体”を飲むこと。(実際に飲んだ生徒はまだいないようではある)
その恐怖体験を覚悟のうえでサボろうなどという勇気ある生徒はいない。
対土方に関しては例外もいたりはするのだが・・・土方を怒らせることに喜びを見出している生徒が約1名いることは否定しないでおこう。
山南が医務室用として用意されているコテージで薬や道具の確認をしていると、コンコンと扉をノックする音の後にキィーと音をたてながら扉が開かれた。
扉が開かれるのと同時に、薄暗い部屋の中に陽の光が差し込んでくる。
「おや。どうしたんですか、沖田君」
作業の手を止めて扉のほうへと顔を向ければ、そこにはよく見知った生徒の顔があった。
「一君が、調子悪そうだから山南さんの所へ行けって言うんで、大人しく来ました」
そう言っている沖田の表情はケロリとしていて、どう見ても調子悪そうには見えない。
「・・・・早速サボリですか、沖田君」
一旦作業を中止にすることにした山南は立ち上って椅子へと腰掛けると、視線だけで総司にも座るように促した。
「あはは・・・さすが、山南さん。僕のことお見通しですね?」
総司は後ろ手で扉を閉めると、山南の視線に従って向かいの椅子へと腰を下ろした。その間も総司が山南から視線を外すことはなかった。
「えぇ、聞かなくても分かりますよ。君が斎藤君に言われたぐらいで大人しく言うことを聞くわけありませんからね。・・・・・昔から」
総司の子供の頃でも思い出したのか、クスリと笑みを漏らしながら言う山南の瞳には僅かに遠い昔を懐かむ色が浮かんでいる。・・・・その奥にある何かの感情を覆い隠すかのように。
「ひどいなぁ」
二人は世間話をするかのような軽さで会話を重ねていった。
その後も、何でもない日常の話をしながらも総司の脳裏を占めているのは疑問だった。
あの日、異様な雰囲気を纏った不良たちと対峙したところまでは総司の記憶にはあるのだが、その後がスッポリと抜け落ちていた。次に気づいたときには、千鶴と共に保健室のベットで横たわっていたのだ。
話を聞けば、体調不良で早退した二人が偶然たまたま同じ場所で倒れていたのを見つけた誰かが学校に連絡してくれた、ということらしい。
腑に落ちなかった総司は、翌日あの不良たちの学校まで見に行ったが、それらしき生徒を見つけることは出来なかった。
やはり、夢か何かだったのかとも思ったのだが、身体に残る何か嫌な感じの感触が、それを”現実”だと総司に伝えていた。―――それが何なのかまでは分からないが。
昼食の準備は山南の所でサボった総司だったが、午後のテントの準備やら夕飯の準備には一応参加して”自然体験学習”の一日目は終えようとしていた。
夜の21時をまわって就寝の時間になっが、年頃の男子がこんな早くに寝るわけもなかった。
一日目は、準備のみという非常に軽い作業しかなかったために体力が余っているのだろう。
テントの中からは話し声が漏れ出ている。
それでもテントから出ようとしないのは、鬼教師と紅い液体の効力だろう。
例に漏れず、総司や斎藤と同グループのクラスメイトも話し込んでいる。
「そういえばさ、知ってるか?ここら辺ってさ、出るらしいぜ」
「え、出るって・・・・」
「そう!!幽霊だよ、幽霊!!刀を差した少年の武士の幽霊が!!」
「俺が聞いたのは違ったぜ。共食いする化け物!!って話だけど。なんかお互いの血を啜りあってる白髪の化け物とか、なんとか」
「うわぁーー、マジかよ」
ただの噂と流していた総司だったが、ふいに軽く引っかかるものがあった。
”少年の武士”、”血を啜る”、”白髪”―――
身体がピクリと反応し、喉が焼け付くような熱さを訴え始めようとしていたときだった。
「明日に備えて寝たほうがいいと思うが」
「っっ!!」
一時間ほどは大目にみていたのだろうが、さすがに明日のことを考えると就寝についたほうが得策と考えた斎藤の言葉が同グループの生徒へと向けられた。
それと同時に総司も、その言葉にハッとしたように斎藤へと視線を向けたのだった。
喉に感じた焼け付くような熱さは消えている。
気づかれないようにコクリと息を飲み込んだ総司はテントを出て行こうと、出口へと手をかけた。
「どこに行く?」
「んー、寝る前に厠に行ってこようと思っただけだよー。すぐに戻るから大丈夫だって」
いつもの飄々とした声でそう告げると、テントを出て行ったのだった。
怪しまれないように、とりあえずトイレがある場所へと向かった総司だったが、その場所を通り過ぎて山の中へと歩を進めていく。
此処の清浄な空気を深く吸い込むと、狂いだしそうな何かが落ち着いていくような気がした。
空を仰ぎ見れば、都会では臨めないような満天の星空に白い月が輝いている。
緩やかな風が吹き、緑の香りを総司へと伝える。
『ずっと沖田さんと一緒に・・・・永遠に』
風の音が言葉のように感じた総司は、ふいに千鶴を抱きしめたい衝動に駆られた。
「・・・・千鶴ちゃん」
瞳を閉じてギュッと自分の身体を抱きこむことで、千鶴の身体の体温や息遣い・・・そのすべてを思い出すかのように。そして、愛しさを込めた声でその名を紡いだ。
暫くそうしていた総司だったが、近くによく知った気配を感じて目を開き、そちらへと振り返った。
「え・・・・ちづる、ちゃん?」
月光に照らされたその顔は、たった今まで総司が想っていた千鶴と同じものだった。
自分の想いが創り出した幻覚ではないかと、柄にもなく考えてしまうほどだ。
よく見ると、少女の格好は武士のような格好である。
・・・随分、可愛らしくはあるが。
「アナタは、私が見えるんですか?」
「・・・見える、ケド?」
少女は一瞬迷ったような顔をしたが、覚悟を決めてその願いを口にした。
「どうか、私をアナタの元に置いてはいただけませんか」
――こうして、冒頭の少女と総司の遣り取りと相成ったのである。
「あの・・・・・」
思考にふけっていた総司はハッとして、再び意識を目の前の少女へと戻す。
「・・・君の名前は?僕は、沖田総司、だよ」
「おき、た、さん?」
沖田の名前を確認するかのように、少女は沖田の名を呟く。
「そう。それで君は?」
「あ・・・・」
「どうかしたの?」
「すいません、思い出せなくて・・・・私が覚えているのは、私が生きてた頃の”最後の願い”を思い出せば成仏できるってことだけなんです。その為には誰かの守護霊にならないんですが・・・・」
その言葉で総司は理解をした。
つまり、何も覚えてはいないが、成仏をするためにもすべてを思い出したい。だから、総司の守護霊にさせてくれ、ということだろう。
ジッと総司を見つめる少女は、まるで捨てられた子猫のようでもある。
そのうえ、愛しいあの子と同じ顔で性格まで似ているとくると、無碍にもできない総司だった。
面倒ごとを背負い込むのは嫌だが、この千鶴似の幽霊に関しては放っておくことができなかった。
「・・・・チヅちゃん」
「え?」
総司がポツリと言葉にしたそれが、何を意味しているのか分からずに幽霊の少女は小首を傾げて総司を見上げる。
そんな姿までもがよく似ている。
「君の名前だよ。名前がないと不便でしょ?」
「チ・・・ヅ・・・・」
「なに、不満?」
放心したように自分が考えた名前を口にするチヅに気に入らなかったのかと、総司は子供のように拗ねて眉を顰めてしまう。
「そんなことないです、嬉しいです!!ありがとうございます、沖田さん」
それに気づいたチヅは慌てたように総司へと振り向く。
チヅの目端には涙が溜っていたが、浮かべる表情は満面の笑みだった。
その涙が嬉しさからくるものだと見る者にすぐ伝わるほどに素直で、総司も思わず柔らかな笑みを浮かべていた。
【つづく】
★★後書き★★
今回は総司&チヅ編でございました。
6話目にしてやっとこ出せました、チヅを!!
ふぉー、”自然体験学習”でチヅを出すことは決めていたのですが。。。
思わず、総司の羅刹化を先にやっちゃったんですよねぇー。(←ヲイ)
っていうか今回も説明の方が長いし(汗)
総司&チヅの活躍は次回か。。。
総司のチヅへの苛めっ子っぷりも書きたいなぁ。
えぇ、多分、第7話も総司&チヅ編になるか、と。
ソウシ&千鶴の出番は少々、お待ちくださいませ!!
”自然体験学習”から帰れば、ご対面♪になりますので。多分。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
*第5話*動き出す闇(番外編)
時間はちょっとだけ遡って、お昼ちょっと前の保健室でございます。
(5話の冒頭よりほんの少し前~冒頭な感じ)
なんか山南さんが出張ってます(笑)
ほぼ、沖田と山南です。
では、ドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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午前中最後の授業が始まったばかりであろう時間に気だるけな様子で廊下を歩いている男子生徒がいた。
――といてっも、ついこの間まで男子校だったこの学園は今も男しか居ない。・・・まぁ、一人だけ例外はいるのだが。
堅苦しいのが嫌いなのか、学校指定のネクタイを緩めておりシャツのボタンも上2つほど留めてはいない。
その男子生徒の向う先は、こんな気分のときには最適の環境を兼ね備えた場所だといえよう。
本来の使用目的からは大きく外れているのだが、そんなことを気にする男子生徒ではないようだ。
男子生徒は口を大きく開いて欠伸をしながら、何の気兼ねもなくガラリとその部屋の扉を開けた。
「山南さーん、眠いんで休ませてください」
サボリを堂々と宣言する、悪びた様子の無い声に山南は苦笑しながらも回転式の椅子をクルリと回して男子生徒の方へと身体を向けると、その長い足を優雅に組み直す。
「沖田君、何度も言っていますがここは仮眠室ではありませんよ。体調が悪いのでなければ教室に戻ってください」
ベットが常備されている最適な空間である場所、保健室にやって来たのは二年に在籍する沖田総司だった。
総司はヘラっとした笑みを浮べながら山南へ言い募る。
「堅いこと言わないでくださいよ、戻ってもどうせ自習なんですし」
もうすでにこの場所でサボる気でいるのか総司は山南へ断りも無く椅子へと腰かけている。
そんな総司に山南は、あぁ、と頷きながら何か納得したような表情をした。
「そういえばそうでしたねぇ」
ゆったりと椅子に座った総司は、机の上に置かれている”保健室利用者名簿”へとペンを走らせている。
保健医を目の前にしながらも理由欄へは”体調不良”と書き込む様子からは、まったくもって罪悪感など皆無のようだ。
「そうですよー。山南さんもこれから職員会議じゃないんですか?来週の”自然体験学習”の・・・」
――”自然体験学習”というのは、誰もがニ年になると参加しなくてはならない恒例行事である。
簡単に言ってしまえば、いわゆるキャンプだ。
基本、不参加は認められていない。――
保健室利用者名簿から顔をあげた総司の表情には、面倒だという思いがありありと刻まれている。
そして、机に肘をつくと溜息を漏らした。
「はぁー、面倒くさい・・・」
溜息とともに思わず漏れた総司の本音に、キラリと眼鏡を光らせ目を細めた山南の姿はある意味不気味だ。
「沖田君、不参加は・・・分かっていますよね?」
その不穏な空気を感じ取った総司は、うっすらと造った笑みを浮べる。
「あははは、嫌だなぁ・・・分かってますよー、ちゃんと参加しますってば。僕も山南さんのあの正体不明な薬なんて飲みたくありませんから」
ジッと視線を外すことなく総司と睨めっこを続けていたが、ふと表情を和らげると、仕方がないですね、というように溜息を軽く吐いた。
「・・・分かっているならいいんです。では今回は見逃してあげましょう。ただし、留守番をお願いできますか?」
お願いしますか?、と聞いていながらもその言葉には可の答えしか求めていないことが、その口調や視線らありありと伝わってくる。
「山南さんにはかなわないなぁ・・・分かりましたよ」
軽い調子で返事をしつつも山南の言いたいことを十分に理解しているのか、そのくらいの条件ならばと受け入れることにする。
なんだかんだ言っても最終的には、幼い頃から知っている山南には敵わないと総司自身も分かっているのだろう。
総司の答えに頷いた山南は、そろそろ時間だと言いながら扉を開けて出かけたところでピタリと歩みを止めた。
「そうだ、忘れてました」
座ったまま山南が去るのを見届けようとしていた総司は、山南のその言葉に怪訝な表情を浮かべた。
山南がわざわざ声にまで出したということは、総司に聞かせようとしてのことだろう。
緩慢な動きで再び総司の方へと振り返り、何でもないことのようにその事実を告げた。
「ベットで雪村君が寝てますから・・・異変があるようなら教えてください」
思ってもいなかった名前に、総司の脳裏には今朝の千鶴の姿が思い浮かぶ。
調子悪そうには見えなかったが、確かにいつもと違う雰囲気を感じていた。
最初はいつもと同じだったのだ。けれど、薫たちとなんやかんやとやっている間に千鶴の雰囲気が変わった。
表面的には何にも変わっているようには見えないだろう。
けれど、ちょっとした言葉の選び方が違うのだ。
その言葉の選び方はまるで――――そこまで考えて頭を振る。
一瞬で自分の考えを消し去って、山南へと千鶴の様子を尋ねた。
その視線はつい先ほどまでの緩いものから真剣なものへと変じている。
「雪村って・・・千鶴ちゃんは大丈夫なんですか!?」
いつもは冗談で自分の本心を隠してしまう傾向のある総司のその変化に山南は苦笑を浮べた。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ただの疲労だと思いますから」
とりあえずは大事には至らないと分かってホッとすると、すぐに先ほど抱いた疑問が再び浮上する。
「・・・疲労?」
えぇ、と頷いた山南は落ち着いた声で今朝のあらましを告げる。
「今朝、教室に着いたとたんに倒れてしまったそうです。藤堂君が顔を真っ青にしながら雪村君を連れてきましたね。・・・軽々と雪村くんを抱きかかえてきてましたよ」
淡々とした言葉の運びだったが、後半の言葉に何かしらの意図があることは山南の様子を見れば分かっただろう。つまり、総司をからかっているのだ。
「・・・・へぇ、そうだったんですか」
総司もそれを分かっているからこそ常と同じ軽い調子の声に緩い笑みを浮べて言葉を返したのだが、無意識にほんの瞬間だけ薄く唇を噛んだ。
「おや。どうかしたんですか、沖田君?」
だが、山南はそんな総司の些細な変化も見逃すこともなく、意地の悪い笑みを向ける。
「・・・本当に、山南さんにはかなわないですよね」
本当に嫌になるなぁ、なんて困ったような笑みを浮かべて溜息をつく総司に山南もまた微笑む。
まだまだ子供ですね、と。
「なんのことですか?では、留守を頼みましたよ・・・あともう一つ」
廊下へと一歩踏み出そうとした山南は再び足を止めて真剣な眼差しを総司へと向ける。
「山南さん?・・・どうかしたんですか?」
何か逡巡した後、総司の疑問には答えずに言葉を選ぶようにしながら短く簡潔な質問を向ける。
「・・・・沖田君は大丈夫ですか?」
一瞬、総司は答えに詰まってしまった。
その簡潔すぎる質問が何を指しているのか分からないからだ。
保健室に来た理由は、眠いから、と伝えてあるし、現に眠いから来ただけで他意はない。
それは山南も理解している。――では、何が大丈夫なのだろうか。
「・・・・・」
答えに困って沈黙を保っていると、山南は眼鏡のフレームを押し上げながら、大丈夫なようですね、と微かに呟いた。
「では沖田君。雪村くんを頼みましたよ」
それだけ言い残すと、山南は今度こそ保健室を後にした。
山南が去った後、山南の様子に疑問を残しつつも総司は千鶴が寝ているだろうベットの方へと視線を移す。
倒れたという千鶴の様子が気になってしまい、開け放たれた窓から入ってくる心地良い風によってそよそよと揺らめかすカーテンをジッと見つめる。
シーンと静まったこの部屋。
カーテンを隔てて自分と千鶴しか存在していないことを唐突に実感する。
自然に総司の足が柔らかくそよぐカーテンを越えて千鶴が眠るベットへと向かう。
たった一枚のカーテンを捲って、カーテンで遮られた空間へと身体をすり込ませる。
そこには山南の言葉どおりベットの上で眠る千鶴の姿があった。
その寝顔には苦悶の色はなく規則正しく刻まれる寝息にホッと安堵する。
千鶴の穏やかな寝息がだけが総司の鼓膜を刺激して、総司は身じろぎ一つもせずにただ千鶴に魅入る。
今まで総司はその想いを口にしたことなどない。
いつも冗談にのせて本心は隠してしまっていたからだ。
ただ、彼女を不幸にしてしまいそうなことが怖くて。
何故そう思うのか理由は自分でも分からない――。
ふいに千鶴の唇が微かに動く。
『ずっと――さんといっしょに、ずっと・・・』
言葉は音になって総司に届くことはなかったが動いた口の形からなんとなく意味を感じ取り、総司は一瞬だけ息をのみ身体を緊張させる。
音にならなかったその言葉は自分に対してのものではないかもしれない。
けれど――――
息を吐き出して身体の緊張を解すと、ゆっくりと腰を屈める。
総司の唇が千鶴のそれに重なった瞬間、サラリと二人の身体を優しい風が撫でていく。
それと同時に千鶴の閉じられた目端に涙の雫が煌いた。
ほんの一瞬、ただ触れただけの口付け。
けれど、その熱は確かに唇に残っている。
「僕の心は永遠に千鶴ちゃんのものだよ――」
初めて言葉にした本心。
けれど、それは誰の耳にも届くこともない。
ただ、二人だけのこの場所の空気を震わせると、瞬く間に風にのって溶けていったのだった
【了】
★♪後書き♪★
はい、第5話の番外編でございました。
めちゃくゃに山南さんが出張っています・・・。
当初はこんなにたくさんの登場はしないはずだったのだけれど(汗)
いつもと違って沖田さんのちょっと弱い部分も出してみました。
いかがだったでしょう??
では、お読みいただき、ありがとうございました!
*第5話* 動き出す闇(後編)
お待たせいたしました!(待っていなかったらスイマセン)
たいしたことはないと思いますが、多少血の表現があります。
苦手な方はご注意くださいませ。
ふふふ、でもやっとこ一番書きたかったネタが書けた♪♪
これからのお約束にもなりそうかな?
▼読んでみる?▼
**********************
ちょうど平助が保健室へと向かった昼休み時のある二年の教室――
総司は机にペタリと頬をくっつけて昼寝をしていた。
いや、昼寝をしているフリをしているだけである。
話しかけるな、という無言の主張なのだろう。
腕を枕代わりにして机に顔を埋めながら、総司は無意識に己の唇へと指を滑らした。
今もあの温もりが残っているような気がしたのだ。
ある意味、魔が差したとしか言いようのない出来事を思い出しモヤモヤとした気分になった総司はガタリと席を立った。
そして、机の横に掛けられた鞄を手に取る。
「総司、何ゆえに鞄を持つ必要がある?」
その声に隣の席へと顔を向けると、黙々と無表情で弁当を食している斎藤の姿があった。
総司がどうしようとしているのか分かっているうえで投げかけた質問だろう。
「調子悪いから帰ろうと思ってね。ホラ、僕さっきも保健室に行ってたくらいだし」
「ほぅ、それはおかしいな・・・4時間目の自習のときには”眠いから保健室に行ってくる”と聞いたような気がするが」
「あれ、そうっだったけ?そんな昔のこと覚えてないや」
「・・・だいたいアンタはいつもいい加減すぎる。先ほどの自習でも来週の自然学習の班決めがあるというのに”適当に決めておいて~”とは何事だ・・・」
「どうせ、はじめくんと同じ班なんでしょ、僕」
「な、何を言っている」
「だって、土方さんから”総司から目を離すな”とか何とか言われてんでしょ」
「アンタに答える必要はない」
「まぁ、どっちでもいいけどね。でも、今日は”気分”が悪いのは事実だし、帰るから伝えておいてよ。じゃぁね」
「総司!!」
まだ他にも言いたいことがあるであろう斎藤に耳を貸す様子も見せずに、伝えることだけ伝えた総司はスタスタと教室を出て行った。
そうして何の目的もなく街をぶらぶらとしていると、街路樹によって遮られた場所に見慣れた鞄と携帯が落ちているのを見つけた。
それを見つけたのは偶然だったのか、それとも偶然ではなく何かの力に引かれてのことなのか。
落ちていた携帯を手に取りながら嫌な予感が総司の中で駆け巡る。
それは紛れもなく千鶴の物だったからだ。
携帯に付けられたストラップは自分が千鶴にあげたモノなのだから間違えようがなかった。
「きゃぁああああーーーっっ!!」
その時、高いビルに挟まれて暗く細い通路の奥から聞き間違えようもない千鶴の悲鳴が総司の耳に届けられる。
考える間もなく千鶴の携帯を手にしたまま薄暗い通路奥へと駆け出していた。
総司の心臓が嫌になるほどにドクンドクンと脈打っている。
通路奥の小さな空間には思ったとおりの少女の姿があった。
けれど、何人かの男たちに壁へと追い詰められている千鶴の表情は恐怖で青く染まっている。
「千鶴ちゃんっ!!」
「・・・きた、先ぱぃ・・・んで?」
千鶴と自分の間に居る男たち。
男たちは緩慢な動きで総司へと身体を向ける。
「っっ!?」
男たちの着ているのは、不良ばかりが集まるという近隣の偏差値の低い高校の制服だった。
ズボンを腰で履き、靴を踏み潰している。
極めつけは手に鈍い光を放つナイフを握っている。
ナイフを持っていようとそれだけならただの不良にすぎず、身体能力なら剣道で鍛えられた総司の方が断然に上で十分に勝算はあっただろう。
だが、薄暗いこの空間の中に浮かび上がる男たちの容貌は白髪に血のように紅い瞳といった”異様”なものだった。
その瞳には正気の色は微塵もなく狂気しか感じられない。
総司の目の前にいる男たちはまるで―――
「っ・・・吸血鬼ごっこでもやってるわけ?でも、君たちあんまり似合ってないよね」
冗談みたいな言葉とは裏腹に総司の表情には明らかな警戒が浮かんでいる。
総司の携帯を握る手に力がこもる。
「ぃ・・・血、血ぃいいいいいいい!!!ぎゃはははははぁあああああ」
狂ったように男たちは笑い声をあげながら総司へと襲い来る。
すんでのところでナイフを避け、男たちの隙間を掻い潜って千鶴の前へと立つ。
白髪の男たちから千鶴を護るように。
「大丈夫、千鶴ちゃん?」
「・・・・は、ぃ」
「僕が来たからには大丈夫だから安心して?」
千鶴を安心させるようにいつもの悪戯っぽい声で告げる。
けれど白髪の男たちからは一瞬も目を逸らしてはいない。
総司の背中から緊張が漲っているのが千鶴にも分かる。
このままでは二人とも白髪の男たちによって殺されてしまうかもしれない。
そんな状態の中で千鶴は総司が握っている携帯の存在に気づいた。
(あ・・・ソウシさんなら沖田先輩を助けられるかもしれない)
助かるかもしれない、その可能性に気づいた千鶴はキッと目に力をこめて総司の握る携帯へと手を伸ばす。
正確には携帯のストラップへと――。
(ソウシさん、お願いします!沖田先輩を、沖田先輩を助けてくださいっっ!!)
(沖田先輩をって、僕は千鶴ちゃんの守護霊なんだけど・・・助けるなら千鶴ちゃんでしょ?)
(私はいいんです、それより沖田先輩を・・・・)
(まぁ、千鶴ちゃんらしいといえば、らしいんだけどさぁ・・・。千鶴ちゃんを助けるってことなら頑張るんだけどさ、彼をねぇ。気が進まないなぁ・・・)
(ソウシさんっっ!!)
(冗談はさておき、今の僕じゃどうしようもないんだよね・・・・悔しいけど)
冗談っぽいことばかりを並べていたソウシの声が、瞬間だけ苛立ちを含んだ音に変わる。
その変化に千鶴もハッとする。
今のソウシはネコのストラップの中に捕らわれてしまっていて千鶴の身体に乗り移らないと何もできないのだ。
けれど、今日はすでに千鶴の身体を使っており、更には千鶴に負担をかけて倒れさせてしまっている。
(私なら大丈夫ですから、沖田先輩をっっ!!)
(駄目だよ!君の身体を使わずに何とか君を護る方法を見つける―――)
――君を護るためなら、彼を・・・”沖田先輩”を犠牲にさせてもらう――
その言葉だけソウシは千鶴には言わずに飲み込んだ。
本気だと伝わるソウシの強さに千鶴は何も言葉を返すことが出来ずに唇を噛む。
「?・・・こんなときだっていうのにスラップがどうかしたの?」
千鶴が携帯のストラップに触れていることに気づいた総司は携帯を持つ手を自分の胸元に持ってきて、チラリと視線を走らせる。
その間も意識だけは男たちからは離してはいない。
指先だけを動かしてストラップへと総司が触れた瞬間、異変は起こった。
「なっっ!!??」
(なっっ!!??)
それはソウシにとっても予想もしてなかった変化だった。
ストラップに触れた瞬間、総司は体中が熱くなるのを感じた。
体中にマグマが流れ込んでいるかのようで口からは苦悶の声が漏れる。
総司とソウシ意識が重なり、もう一つの何かが生じるかのようだった。
襟元を掻き乱しながらその苦しみに耐える沖田の脳裏に何かの映像が走馬灯のように巡った。
『どうしても戦いたいというのですか?ならば――これを』
そう言ってビンに入った赤い液体を差し出す、千鶴と同じ顔をした男――
それがどんな意味を持つのか考えることなど出来ない。
「っっ、う・・・ぁああああああああ!!!」
千鶴は目の前で何が起きているのか把握できずに混乱を来たす。
そして、総司のその姿を見た千鶴は驚きで目を大きく見開き、手で口元を覆った。
「お、きた、先ぱ・・・い?・・・・ソウシ、さん?」
総司の姿は千鶴たちへ死の恐怖を与えていた男たちと同じものへと変じていた。
茶色の髪は白髪へ、翡翠色の瞳は血のように紅い瞳へと――
「・・・・僕は血に狂ったりしない、役立たずなんかじゃない。僕は、僕は・・・・」
身体の奥底から搾り出されるかのような低い声。
「沖田先輩?ソウシさん?・・・何を言って・・・?」
千鶴の瞳が不安で揺れる。
いつの間にか、沖田の手には携帯の代わりに銀色に輝く刀が握られている。
「・・・ああッ!!」
沖田は地を蹴ると狂った笑い声を上げる・・・羅刹たちへと刃を走らせる。
――まさに”鬼”というに相応しい圧倒的な強さ。
髪の白が、制服のシャツ、ベストの白が瞬く間に血の紅へと染まっていく。
「沖田・・・・さん・・・なんで・・・・」
いつもと違う呼び名が千鶴の口をついて出る。
血飛沫を纏ったまま、いつもどおりの笑みを千鶴へと向ける。
「そんな顔しないで、千鶴ちゃん。これは僕自身が選んだことなんだから」
その言葉の意味が分からないのに千鶴の胸にツキンとした痛みが走り、頬には涙が伝う。
言い終わると同時に沖田は限界が来たとでもいうように意識を手放した。
地に倒れ伏した総司の姿は常の茶髪へと戻っていた――
【つづく】
★♪後書き♪★
はい、シリアス編となった第5話の後半でございました。
次回はここら辺のことも踏まえつつも、またコメディに戻します。
(どうやって戻そう、なんて思ってませんよ?)←困ってるんだな。
余談ですが、この5話には番外編あったりします。
昼休みに入る前、つまり平ちゃんが来る前の保健室の話なんですけどね。
(つまり、今回長くなっちゃうから泣く泣く削った部分です☆)
では、お読みいただき、ありがとうございました!
*第5話*動き出す闇(前)
久しぶりの守護霊シリーズです。
いつもとテイストがちょっとだけ変わっていきます。
少し本題が入ってくるかな??って感じです。
まぁ、お馬鹿なところはそのままな感じですけど(汗)
今回の5話は、前編、後編に分かれます。
前編には、ソウシはちょびっと、沖田はまったく登場していません。
平助祭り(笑)になってます。
(後編はソウシ&沖田祭りになる予定ですが)
そうそう、山南さんが新登場です!
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********************
涼やかで心地良い風が少女の頬をなでていく。
少女たちを覆う木々の隙間から見える夜空には淡い光を放つ満月が浮かんでいる。
『ずっと――さんといっしょに、ずっと・・・』
そう願った少女は自分の想いをこれ以上どう言葉にしていいのか分からず、目の前に立つ愛しい男の胸元へと身体を寄せている。
男はそんな少女の想いをしっかりと受け留めたのか、優しく少女の身体へと腕をまわす。
そして、少女の耳元へと口元を寄せて吐息のような囁きを与えた。
『・・・君は、ずっと僕のそばに』
それ以上の言葉はいらなかった。
二人の想いは確かに重なっていた。
それを証明するかのように二人の距離はどちらともなく縮まり、少女もそうすることが当たり前かのように瞳を閉じてその瞬間を待った。
男の吐息を微かに感じた次の瞬間、唇に温かな感触が触れた。
どれほどの時間、唇を重ね合わせていたのかは分からない。
優しい口付けとは逆に心は身体の奥底から湧き上がる熱で火照るかのようだった。
少女の目端に煌く雫が浮かんだ。
暫くして再び二人の間に距離ができると、少女はゆっくりと目を開く。
けれど、瞳に滲んだ涙のせいか男の姿がぼやけてしまいはっきりとその姿を捉えることは叶わない。
ぼやけたままの男の口元が動きを見せ、音となって少女の鼓膜を優しく響かせた。
「僕の心は永遠に―――ちゃんのものだよ」
============
白い清潔なベットの中で眠っていた少女はガラリと扉を開けられる音によって夢から覚醒を促された。
カーテンをシャッと開ける音とともに聞き覚えのある声がする。
「千鶴大丈夫か?」
幼馴染でクラスメイトである藤堂平助のものだ。
「平助、くん?」
「おう・・・気分はど・・・」
千鶴に視線を向けた平助は急に慌てたような表情をして千鶴の元へと寄った。
「ど、どうしたんだ、千鶴!やっぱすっげー調子悪いのかっ!!?」
「え、調子・・・?」
どこか痛いとかだるさは特にはない。
若干、何か違和感を感じないでもないが、身体はいたって平常だ。
そのため、平助が何を心配しているのか分からずに千鶴は首を傾げる。
「熱でもあるんじゃないのか!?顔真っ赤だし、涙目になってんぞ!」
「熱?・・・涙?」
目元を拭ってみると、指先に水滴がのっている。
ふと、その指先で自分の唇にそっと触れる。
夢とは思えないようなあの温かな感触が残っているような気がして千鶴はますます顔を赤くした。
「千鶴?やっぱ調子悪そうだな。・・・気づいてやれなくてゴメンな」
「え?」
ただ夢でのことを思い出して赤くなっていただけの千鶴は平助の言葉に慌てて顔をあげた。
その先にはシュンと子犬のように落ち込んだ様子を見せる平助の姿がある。
「本当は今朝から調子悪かったんじゃないのか?それなのに遅刻しそうになって走らせて・・・結局薫のせいで遅刻になっちまうし。だから、体力的にも心的っつーのかな、とにかく疲れちまって教室に着いた途端に倒れちまったのかなって」
「平助君が私を保健室まで運んでくれたの?」
「あ、あぁ。・・・っていうか、俺のせいなんだし当たり前だろっ!?」
平助の悔しそうな悲しそうな表情と声に、千鶴までもチクリと痛みを覚えながら平助へと声をかけると、いかにも平助らしい反応が返ってきた。
そんな平助に微笑ましさと安堵を覚えた千鶴は緩やかに純粋な笑みを平助へと向けた。
「ふふ・・・ありがとう」
「へっ?」
「平助くん優しいね」
「そ、そんなこと、ねーよ////」
千鶴が見せる愛らしい笑顔を正面からまともにくらった平助は顔を赤くさせると、それを隠すようにぷいっと顔を逸らした。
「どうしたの平助くん」
「い、やっ、なんでもねーよ!?」
普通にと念じながらも、残念ながら平助の声は裏返っている。
・・・千鶴の笑顔の威力なのか、平助が純粋ゆえなのか――どっちもかもしれないが。
千鶴から視線を逸らした平助の目に自分が持っているモノが映ったことで本来の目的を思い出したのか、多少落ち着きを取り戻して再び千鶴へと向き直った。
「それより、今日はもう帰った方がいいんじゃねーか。朝からずっと意識なかったんだしさ」
「朝から?って今・・・」
「もうお昼ですよ、雪村くん」
千鶴の疑問に答えたのは、ここ、保健室の主である山南敬助だった。
「山南先生!」
「げっ、山南さんっ!!」
平助の反応に片眉を僅かに上げて一瞥しただけで特に気にすることもなく、平助から千鶴へと視線を移すと、人好きするような柔らかな笑みを向けた。
「体調はいかがですか、雪村くん」
「あ、はい。もう、全然大丈夫です!」
「そうですか。・・・熱もなかったようですし、顔色もいいですね」
「はい、ご心配おかけしてすいませんでした」
「いえ、元気になったら良かったです。ですが、あまり無理をしてもいけませんからね、今日はもう帰った方がいいですよ」
「でも・・・・」
「そうそう無理すんなよ、千鶴!そのつもりでお前の鞄持ってきたんだしさ」
平助の手には確かに千鶴の鞄が握られていた。
そして、ネコのストラップが付けられている携帯も一緒に――
「そういうわけですから、今日は大人しく帰りないさい。・・・それとも私が作った特性の薬を飲みますか?」
「・・・い、いいぇ。遠慮します」
「おや、残念。では、雪村くんは病人ですし諦めて、藤堂君にでもお願いしましょうかねぇ」
「はぁああっ!?」
「教師(特に私)に向かって、”げっ”とは、年上への礼儀がなっていませんからね、これは教育ですよ。何か問題でも?」
「ありまくりだって!!山南さんの薬ってあの赤い液体だろーー!!?」
「おやおや、そんなに喜ばなくてもいいんですよ」
「喜んでねーしっ!!俺は絶対に嫌だからなっっ!!」
眼鏡を光らせながら怪しく嗤う山南に平助の顔は若干青くなっている。
「ち、千鶴、やっぱ早く帰った方がいいって!!俺、校門まで送るしっ!!」
「う、うん」
平助の剣幕に押された形ではあるが、千鶴は手早く身支度を整えた。
その間に山南は先ほどまでの怪しい気配を消し、保健医としての顔で千鶴へと言葉を向けた。
「雪村くん、気をつけて帰るんですよ」
「はい」
山南に見送られる形で平助に手を引っ張られながら、千鶴は保健室を後にした。
そして、帰り道――。
校門で平助と別れた千鶴は青空の下を一人で歩いていた。
桜色の愛らしい携帯を耳に当てながら。
『あー。ごめんね、千鶴ちゃん』
さすがのソウシも若干の責任を感じているのか、その言葉にバツの悪さのようなものが滲んでいる。
「気にしないでください、ソウシさん。私なら大丈夫ですよ」
『ん。相性がいいとはいえ、君にはかなりの負担になっちゃうみたいだね。昨夜もそうだったし』
「・・・そうみたいですね」
確かに否定できない。
実際にソウシが千鶴の身体を使った後に千鶴は気を失っている。
正しくはソウシが千鶴の中に入った瞬間から、ではあるが。
『君に負担がかからないように他の・・・っ!?千鶴ちゃんっ!!』
会話の途中でソウシは何かを感じたのか急に声を荒げた。
千鶴の名を呼ぶソウシに緊迫した様子が漂っている。
――人通りの多い街中とはいえ意外に死角は多い。
道端に等間隔に植えられた木々に視界を遮られたり、一歩路地裏に入ってしまえば人の気配などほとんどないだろう。
ソウシの変化の意味を理解する前に、何が何だか分からないまま千鶴はビルとビルの間の細く暗い路地裏の”人”など皆無の空間へと引っ張り込まれていた。
人通りが多いというのに街路樹によってちょうど死角になっている路地裏へと。
手に持っていた鞄と携帯だけをそこに取り残して。
【つづく】
★♪後書き♪★
久しぶりの守護霊シリーズです。
今回は少しシリアスちっくで終わらせてみました。
しかも続き。。。。
いや、また長くなるかも(汗)と思って切っちゃいました。
・・・はい、スイマセン。
今回、前フリだけだし・・・。
でも、平ちゃんや山南さんが書けて楽しかった♪♪
ふふ、これから山南さんにも活躍いただこうっと♪
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!
*第4話*同類嫌悪?
相変わらずグダグダ感満載です(^_^;
そして、ムダに長いです。
なぜ、こんなになってしまったのか。。。
薫お兄ちゃん再登場!!
沖田vs薫!!
そして、まさかの薫vs千鶴!!??
まさかまさかの沖田vs千鶴!!??
その真相とはっっっ!!!!!!(笑)
▼読んでみる?▼
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爽やかな朝に学園の敷地内から澄んだ鐘の音が鳴り響いている。
だが、爽やかさとは無縁だと主張するかのように、その学園の校門付近だけは暗雲が立ち込めていた。
その暗雲の原因は言うまでもなく、千鶴の兄・薫である。
そんな暗雲の立ち込めている校門へと向かって駆けてくる三人の生徒の姿がある。
三人が校門に到着したところで、鐘の音は鳴り止み一瞬の静寂が包む。
その静寂はすぐに少年の明るい声によって破られた。
「よっしゃー!ギリギリセーフっっ!」
だが、少年の声と同時に目の前の校門は無常にもガッシャンと音をたてて閉められる。
真っ黒なオーラを背負っている薫によって。。。
「残念だな。三人とも遅刻だよ」
「えぇー!!んでだよ、チャイム鳴ってたじゃんか!」
「・・・平助、毎度同じ事を言わせるな」
平助の抗議に冷静な声で告げたのは、機嫌最悪な薫の隣にいるというのにまったく動じていない青髪の生徒だった。
千鶴や平助の先輩にあたり、沖田、薫とは同級の斎藤一である。
腕には、浅黄色の段だら模様が施されている”風紀委員”の腕章が薫と同じように付けられている。
「どういうことだよ、一君っっ!」
「平助、学校では”先輩”と呼べと言っているはずだが」
「平助のバカは何度言っても分からないよね・・・っていうか、いつまで千鶴の手を握ってるわけ?早く、千鶴の手を離しなよ」
到着したというのに、未だにしっかりと繋がれた平助と千鶴の手--
薫の言葉で今さらながらにそれに気づいた平助は顔を赤くすると、千鶴の柔らかな手を名残惜しく感じながらもパッと手を離す。
「わ、悪りぃっっ、千鶴!!」
「ううん。どうしたの、平助くん?」
「なっ、なんでもねーっっ//!!そ、それより一君、遅刻ってどういうことだよ!」
平助がなぜ謝るのかが分からず、千鶴はきょとんと首を傾げる。
そんな様子にますます顔を赤くしながら、平助は誤魔化すように話題を”遅刻”の話に戻す。
だが、答えたのは意外にも沖田だった。
「門の中に入らないと意味がない、ってことじゃない」
「その通りだ」
「っっ!!で、でも、ほとんど間に合ったようなもんだろっ!!薫が門の前でんな風に鬼の形相でいるから入れなかっただけじゃんっ!!」
「・・・いい度胸だね、平助。僕のせいにするわけ?自分の寝坊を棚にあげて?」
「うっっ・・・」
「往生際が悪いぞ、平助」
「はじめくんまで~~」
平助がうな垂れると、千鶴は励ますように優しい声色で平助に声をかけた。
「しょうがないよ、平助くん。遅刻は遅刻だもん・・・」
「雪村・・・」
平助とは逆に潔い千鶴の姿に、千鶴への高感度がアップする斎藤の眼差しは千鶴へと固定される。
”いつものこと”にまたかと、千鶴以外の人間は溜息をつくが当の本人は気づいてはいない。
「あはは。また始まっちゃったねぇ。はじめくーん、戻っておいで~」
「はっ!!」
「あのさー、千鶴ちゃんが遅刻する度に、あつーい視線で千鶴ちゃんを見るのやめてくれるかなぁ」
斎藤恒例の”千鶴への高感度アップ”タイムを強制終了させるように、沖田の苦笑じみた声が斎藤へと向けられる。
だが、その瞳は笑っておらず、仄かに黒いものが背後に見え隠れしている。
そして、この場にはそれ以上に、最初から真っ黒なオーラを背負っている人物がもう一人いた--
その人物が言葉を発すると同時に、この場は極寒地へと来たかのような冷気が漂い始める。
「斎藤よりお前の方がタチ悪いけどな、沖田ぁー」
「どういうことかなぁ。僕は何もしてないと思うけど?平助みたいに千鶴ちゃんの手をねっとりと握ったり、一くんみたいに穴が空くほど千鶴ちゃんを視姦したり、してないけど」
殺気を向けてくる薫に動じることもなく、いつものように笑顔を浮べながら、つい先ほどの平助と斎藤の行動を誇張して言う沖田もイイ性格をしているものである。
・・・意地が悪いともいうが。
「な!ねっとりなんて握ってねーだろっ!!」
「言うにことかいて”視姦”などと・・・俺はそんなつもりはない」
一応、反論を試みた二人だったが、この超絶仲が悪い二人の耳には最早そんな言い訳など耳には入ってはいない。
「今朝のこと忘れたとは言わせないぞ、沖田っっ!!」
「今朝のこと?何のこと言ってるの、君」
「とぼける気か?」
「とぼける?僕、今日は君とは今、ココで会ったばかりだけど。・・・会いたくもなかったけどね」
「まだ誤魔化す気か・・・」
その会話を聞いて慌てたのは千鶴である。
薫の言っている”今朝のこと”とは、当たり前だがソウシのことだからだ。
この件に関しては、沖田は無実といえる。
予想していたこととはいえ、これをどう収めるかはまた別問題だ。
二人の様子を見ながら千鶴がオロオロしていると、ソウシの唐突ともいえる言葉が千鶴の耳にだけに届けられ携帯のネコの縫いぐるみへと視線を移す。
『ね、千鶴ちゃん。僕に”口づけ”してくれるかなぁ』
『くっ!?こ、こんなときに何言ってるんですか!』
『だって、千鶴ちゃんコレ、収めたいんでしょ?』
『そ、そうですけど、何でくちづけが関係あるんですかぁ///』
『ま、僕は別にこのままでもいいんだけどね。面白いし』
『元々はといえば、ソウシさんが沖田先輩のフリなんてするからじゃないですか!』
『うん、だから責任もって収めてあげようと思ったんだけど?』
『だから、何で収めるのにくちづけが関係あるんですか!?』
『うん、すれば分かるよ。・・・っていうか、”口づけ”って言ってもネコの人形にしてってコトなんだけど?』
『えっっ、ね、ネコ?』
『あのねぇ、今僕はネコの人形に入っちゃってるんだよ?』
『あ///』
『何、想像したわけ?千鶴ちゃん?』
『な、なんでもありません!!』
ネコの縫いぐるみとはいえ多少の緊張を感じながらも、顔を真っ赤にした千鶴は、ネコの縫いぐるみへとキスを落とす。
その瞬間、心臓がドクンと大きく鳴り、身体がカッと熱を持ったような感覚が千鶴を襲う。
だが、それも一瞬のことで次には深い水の中へ沈んでいくような、でも安心を与えてくれるような心地良さに誘われる。
トクントクンと、自分のとは違う心音が千鶴を包み込む。
その感覚に千鶴は覚えがあった。
それは昨夜、ソウシが千鶴の胸へ手をかざしたときに感じたものと同じだった--
千鶴がネコの縫いぐるみへと口付けたのと同時頃、薫のイラついた様な声が辺りに響いていた。
「忘れたっていなら、思い出させてやるよ。何で、今朝千鶴の部屋にいたんだっ!?」
人差し指を突きつけながら言われた薫の言葉に沖田は目を瞬かせた。
本気で目の前の男が何を言っているのかが分からない。
そして、斎藤、平助も驚きを隠せずに薫へと視線を向けるが、すぐにその視線は沖田へと注がれる。
その瞳には疑惑の色がありありと映し出されている。
「そ、総司、あ、朝からって・・・お前千鶴に夜這いかけたのかっっ!!??」
「まさか、そのようなことまで・・・」
「ちょっと、ナニを想像してるわけ、二人とも。そんなわけないでしょ」
「はぁ!?お前、俺に向かって『僕と千鶴ちゃんが”一心同体”だからだよ』とか、ふざけたことほざいてただろうがぁああっっ!!」
「「総司・・・」」
「だから、知らないって。信用ないなぁ~」
「総司だもんなぁ」
「総司だからな」
「・・・本当に失礼だよ、二人とも。・・・ねぇ、千鶴ちゃん、これってどういうこと?」
この三人では状況を把握できないと踏んだ沖田は、状況を把握しているだろう千鶴へと声をかけた。
それと同時に三人の視線も一斉に千鶴へと向く。
携帯を手に俯いていた千鶴は顔を沖田へと向けたが、その表情は少し困ったような色を浮べている。
そして、沖田へ謝罪の言葉を告げた。
「すいません、沖田先輩。ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「うん。それより、どういうことか説明してくれるかな?」
「はい・・・」
素直に頷いた千鶴は、なぜか頬をほのかに紅く染め、恥ずかしそうに説明の言葉を口にした。
「あの、実は、薫ったら夢を見たらしくて・・・」
「夢?」
「はい。沖田先輩が朝早くから私の部屋にいた、って」
「僕が千鶴ちゃんの部屋に?」
「はい・・・。朝早くから私の部屋に来たと思ったら、そんなことを口にしてたので・・・。本当にすいません」
「なるほどねぇ。教えてくれてありがとう、千鶴ちゃん」
「い、いえ。だって本当に”沖田先輩”はいませんでしたから」
「ふーん・・・」
「あ、あのどうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ?」
「そうですか」
ほっとしたように笑顔を向ける千鶴に対し沖田も笑顔を向ける。
けれどその瞳は何かを探るような眼差しだった。
「”誰かさん”に似てるんだよねぇ・・・」
「先輩?何か言いました?」
「何も言ってないよ。それより、君の戯言だったみたいだねぇ~、薫?」
「戯言っっ!!?僕は確かに沖田を見たんだけど。千鶴っ、沖田を庇おうとしてもダメだぞっ!」
「庇うって・・・私は本当のことしか言ってないってば!”沖田先輩”は私の部屋にいなかったの!!」
「千鶴っっ、まだコイツを庇うのか!?血の繋がった兄さんよりも赤の他人の沖田をっ!!」
「・・・(沖田先輩”は”ねぇ)」
ますますヒートアップしそうな勢いの薫を宥めたのは斎藤だった。
斎藤の冷静な言葉が薫さえも戸惑わせる。
「薫、いい加減にしたらどうだ。雪村が嘘をついていないのは確かだと思うが。お前もそのことはよく分かっていると思うが」
「そ、それは・・・」
「確かにそーだよなぁ。千鶴、嘘なんてつけねーし」
「うん、千鶴ちゃんは素直だからねぇ」
そう、千鶴は基本的に嘘はつけない質だった。
そのことは兄の薫だけではなく、新選組メンバーも重々に承知している。
千鶴が事実とは異なることを意図的に言おうとすると、目が泳いだり、どもった言い方になったりと非常に分かりやすい態度になる。
自分では気づいてはいないようだが--
だが今の千鶴の様子を見ていると、目を泳がせていることもなく、言葉もしっかりしている。
千鶴に嘘をついているという罪悪感の兆しは見えない。
「けど、僕は・・・」
「おい、てめーらいつまでもなにやってやがるっっ!!!」
「薫がおかしな言いがかりつけるから煩いヒトが来ちゃったじゃん」
なおも薫が言い募ろうとすると、この学園の教師であり新選組をまとめている土方の怒号が響く。
・・・当たり前である。
遅刻云々を言う前にすでに授業が始まろうとしている。
土方が来たことでひとまずの収束がつき、各々が教室へと向かう。
教室へ向かうために沖田たちと別れ、平助と一緒に1年のクラスへと向かう千鶴はそっと振り返り沖田の背中を見送る。
だが、その目は”憧れの先輩”を見つめるというものでなく、あえていうなら”敵かどうかを見極める”というようなものだった。
「あれが”沖田先輩”ねぇ・・・。ほんと、ソックリすぎてイヤになるよねぇ」
「なんか言ったか、千鶴?」
「ううん、何も言ってないよ?ほら、早く教室に行こ?」
「お、おう」
沖田から教室の方向へと視線を戻した千鶴の背を、沖田もまた何かを見極めるかのように見ていた--
【第4話・了】
‡‡後書き‡‡
なんか、無駄に長くてスイマセン(汗)
色々と詰め込み過ぎました(大汗)
さて、薫vs千鶴、沖田vs千鶴はいかがでしたでしょう(笑)
(・・・vsになっていたかはともかく;)
千鶴ではなく、ソウシだったんですけどね♪
1話でもちょっとだけニュアンスだけ書いてましたが、
千鶴inソウシですvv
ソウシは千鶴ちゃんの身体を借りることができるんですねぇ~~。
はい、理空の趣味デス。(キッパリ)
では、お読みいただきありがとうございました!!
*第3話*日常に溶け込んだ非日常
SSL沖田も登場です。
もちろん、ソウシもいますよ・・・一応。
▼開く?▼
***************************
いつもと少し違う朝を迎えた千鶴は、いつものごとく向いの家に住んでいる幼馴染の家の玄関で幼馴染の少年が準備を終えてやってくるのを待っているところだった。
奥の方でドタバタとしている音が玄関まで響いていた。
毎朝、同い年の幼馴染と登校することになっているためだ。
実は、”新選組”のメンバーである幼馴染は、家が近いこともあり毎朝の千鶴の護衛という役割を兼ねていた。
だが、たまーに、寝坊をしては千鶴を巻き込んでの遅刻をするのである。
その”たまーに”の方が比較的に多いのだが・・・。
そして今日は、その”たまーに”に当たってしまったようだった。
千鶴には”先に行く”という選択肢はない。
そんなことをしようものなら、まもなく”新選組”の皆からのお小言を頂戴することになるのだ。千鶴の安全を考えてのことなのだが。
皆が自分を心配してくれていることも分かっているため、勝手な行動など基本的には出来ない千鶴だった。
そんなわけで、”先に行く”という選択肢も無い千鶴にはソワソワとしながら腕時計に視線を向ける他できないのである。
そして、時間を確認しては深い溜息をつく。
腕時計の時刻は、そろそろ8時を回ろうとしている。
ここから千鶴たちの通う薄桜学園までは、普通なら歩いて30分ほどかかる。
平助一人ならもっと早く着けるかもしれないが、体力の無い千鶴は走ってもあまり時間短縮につながることはない。
頑張って短縮したとしてもせいぜい5分ほどだろう。
千鶴をソワソワさせ、深い溜息をつかせるもう一つの理由があった。
今日は運悪くも風紀委員の活動日である。
校門の前には風紀委員が待ち構えており、8時30分までに校門を通過しなければ失点を食らう破目に陥るのだ。
そのギリギリの時間といえよう--。
しかも、兄の薫が”風紀委員”なのだ。
今朝のこともあって、確実に機嫌は最悪なはずだ。
今朝の様子を思い出すと、殊更と千鶴の表情は蒼白となった。
どんな事態に陥るのか容易に想像がつくからだ。
「ねぇ、待ってないで先に行っちゃえば?僕がいるんだし、大丈夫じゃない?」
と、薫の機嫌を悪くした根源が千鶴へと声をかけた。
だが周囲には誰の姿もない---。
「しーっ。静かにしててください、ソウシさん!それに”一人”で行くなんてできません。」
制服のポケットから携帯を取り出した千鶴は、それに向かって話しているようだった。
その携帯は、少女らしいほんわかとしたイメージの淡いピンク色をしており、手触りの良さそうな茶毛のネコのストラップが揺れていた。
「”一人”じゃないでしょ。僕がいるんだし」
「他の人には”一人”にしか見えません!!」
「あはは、そうかもね~」
「笑い事じゃありません!」
「まぁ、確かに笑い事じゃないよね。・・・色々と。」
「そうですよ、ソウシさんを元・・・」
奥の方にあった騒音が玄関へとやってくることで、千鶴の言葉は途中で遮られた。
トーストを口にくわえ、後ろ髪に寝グセをつけたままの、まさに”寝坊しました”の姿でやってきたのは、千鶴の待ち人である、幼馴染の藤堂平助だった。
「ぁういぃー、いううー!!(悪いっ、千鶴!!)」
「おはよう、平助くん。急がないと!!」
「ふぉぉおお、ふぁぃんおぉー!!(おぉ、走るぞっ!!)」
平助は立ち止まることもせずに通り過ぎながら千鶴の手を握ると、千鶴を引っ張るように、だが、千鶴が転ばないように気遣いながら走り出したのだった。
「へ、平助くん、また、ゲームやってて夜更かししたんでしょう!!?」
「っっ!!いや、だってセーブがなかなか出来なくてよぉー」
「平助くん・・・?」
「わ、悪いっ!!」
二人が走りながら遅刻時恒例の会話を交わしていると、これまた遅刻時には恒例となるほど遭遇率が高くなる先輩の爽やかな声が背後からかかった。
遅刻スレスレの時間だといのに慌てた様子もなく飄々としている。
「おはよ~。千鶴ちゃん、平助」
「っっ!!お、お早うございます、沖田先輩」
沖田は、千鶴の隣へと来ると、千鶴のペースにあわせた。
平助は、首を少し後ろへと向けて視線で沖田の存在を確認すると、とっさに声がでてしまった。
「げっ、総司っっ!!」
「失礼だよね、平助。先輩に向かって”げっ”ってなにさ?」
「総司に会っちまったつーことは遅刻決定じゃん!!」
「本当に失礼だよ、平助。でもまぁ、遅刻なのはそうかもねぇ~。僕、いつもと同じ時間に出てきたし」
「ぅげーー、マジかっっ!!」
「遅刻は免れないんだしさ・・・その手、離したら?」
「ま、まだ分かんねーだろ、ギリギリ間に合うかもしれねーじゃん」
「・・・たまに、思うんだけどさ。平助、わざと遅刻しそうになってるわけ?」
「はぁああ!!?」
ある一点に視線が留まり、沖田の翡翠の瞳が細められる。
そこには、千鶴の白い滑らかな手に絡み付けられている平助の日焼けした手--
「幼馴染の特権とやらで、どさくさに紛れて千鶴ちゃんの手を握るため、とか」
「そ、そんなワケねーだろっっ・・・お、俺はっっ!!!」
「あはは、動揺しまくりだよ、平助。・・・とにかく、手を離しなよ」
「こ、怖えーよ、総司っっ!!」
「酷いなぁー。・・・僕が笑ってるうちに離しなよ?」
「それが怖えーつってんだよ!!」
「お、沖田先輩??」
「ん、なに?千鶴ちゃん」
「平助君はそんなつもりではないと思いますけど。私と平助くんは幼馴染ですし・・・」
まだ手を離さないまま走りながらも千鶴は沖田へと視線をチラリと向けると、平助を擁護するような言葉を告げた。
”幼馴染”--
本当にそれだけだと、千鶴が思っているんだろうことが伺える。
平助の態度でバレバレだというのに、幼馴染の言葉を言葉の意味そのままで受け取っているのだろう。
素直すぎる千鶴に、沖田の纏っていた冷気は消え、苦笑が刻まれるのだった。
「本当に君ってお人よしなんだから」
沖田のその様子に、千鶴は軽い既視感を覚える。
昨夜も同じ顔に同じような台詞を言われたような気がする。
いや、言われた。
しかも、纏う雰囲気まで同じときている。
自然と千鶴の視線がある場所へと注がれる。
平助とつないでる手とは反対側の手に持っている携帯へと。
いや、正確には携帯ではなく、携帯につけられているストラップ・・・ネコの縫いぐるみ部分へだ。
千鶴の隣にいた沖田の視線も千鶴の視線を追ってストラップのネコへと注がれる。
「そのストラップ、付けてくれたんだ?」
「・・・は、はい//」
「あげたのはいいけど、気に入らなかったのかなって思ってたから嬉しいよ」
「き、気にいらないなんて、そんなことありません!!その、可愛いからもったいないなぁ、って思って・・・」
実は、千鶴の携帯につけられているネコのストラップは沖田から贈られたものだった。
そして、今朝までは大事に自分の部屋の机の上に飾られていたのも事実だった。
それが何故、急に携帯につける気になったのか--
何か言いた気にしているネコのエメラルドグリーンの瞳と千鶴の飴茶の瞳が交差する。
『ふぅーん。このネコ”沖田先輩”関連だったんだ?』
『ソウシさん、静かにしててください!!』
『どうりで、このネコに引っ張られたワケだ。・・・このネコから出れなくなるほどね』
『ぅぅ・・・ごめんなさい』
『あのね、千鶴ちゃん。君が謝ることじゃないでしょ?』
『ソウシさん・・・』
『まぁ、なんとかなるんじゃない?』
実は、沖田から貰ったネコのぬいぐるみの中にソウシが憑いているのだ。
薫にもソウシが見えたことで他の人間にも見える可能性がある。
すると、ソウシが”幽霊”という存在であることが明らかになる可能性も増大するわけで。
それによって、ソウシの存在を面白可笑しく扱われたり、最悪の場合お祓いされる可能性もある。
千鶴がそうなることを恐れたのだ。
当の本人よりも千鶴がそうなることを望まなかった。
その策として、千鶴が学校に行く間だけ何か他のモノに入って傍に居ようと考えた。
そして、ソウシが入るモノにも条件があった。
千鶴の波長を感じやすいモノ。
つまりは、思い入れがあるものだ。
それが、このネコのストラップだったのだ。
だが、想定外の事態が勃発した。
確かに、ソウシ自身がネコの中に入ろうとしてはいたが、急に何かの引力に引っ張られてネコの中に入ることとなってしまった。
その上、ソウシはネコのぬいぐるみから出れなくなっていた。
今朝の出来事に思いを馳せていると、平助の大声によって現実へと引き戻された。
「あと、もう少しだぜ、千鶴!!ギリギリ間に合うかもしんねーー!!」
「あ、うん!」
走ることに集中しようとした千鶴に沖田が声をかける。
「千鶴ちゃん、そのストラップがどうかしたの?」
「いえ、なんでも・・」
「・・・そう?それ気に入ってくれたのかな?」
「はい・・・」
千鶴は曖昧な笑みでもって答える。
気に入っているのは事実なのだが、問題を抱えていることもまた事実。
校門の前で待ち構えている人物を視界に入れた千鶴は、更なる波紋を予感して小さく溜息をつくのだった。
【第3話・了】
††後書き††
やっとSSL沖田の登場です。
本当に登場だけです。
これから活躍してくれると思います。
(っていうか、してくれ)
そして、ソウシはネコ化です(笑)
次回は、またまた対決予定ですv
・・・さて誰でしょう??
*第2話*僕が護りたいのは君
まだSSL沖田は登場してません。
話題にでるだけです。
その代わり、薫兄さんが登場です☆
▼開く?▼
***********************
ジリリリリリリリ・・・
その音は徐々に大きくなって少女の鼓膜を刺激する。
それは毎朝のように部屋に響き渡り朝を告げる音。
少女はベットサイドへ手を伸ばすと、目覚ましのスイッチを止める。
カーテンの隙間から差す陽光に瞼を瞬かせながら薄く瞳をあけた。
少女の瞳に一番最初に飛び込んでくる風景は、己の部屋の見慣れた天井・・・のはずだった。
「おはよ、千鶴ちゃん♪」
少女・千鶴の目の前にはニッコリと笑みを称えた男の端正な顔があり、千鶴の大きな瞳が更に大きく見開かれる。
そのいつもと違う状況のせいで、静かな朝に千鶴の悲鳴が木霊することとなった。
「き、きゃぁああああーーー!!!!」
自分の部屋の、しかも早朝に、本来居ないはずの人間がいれば誰でも驚くだろう。
「酷いなぁ、僕の顔見て悲鳴だなんて」
「な、なんで!!??お、お、おきたせんぱいが・・・」
「何を言ってるのかな?・・・僕は君のしゅ・・・」
--ドンドンドンっっ!!!!--
男が何事かを告げようとしたが、扉を乱暴にノックする音に遮られた。
「千鶴、朝から煩いっ!!」
「え、あ、か、薫っっ!!?ご、ごめん。ちょ、ちょっと、ゆ、夢見が悪くて・・・」
部屋にいる男の存在を兄・薫に気取られないように必死だったが、言葉の端々に何か隠しているのは明白だった。
「・・・なんで、ドア開けないのかな、千鶴?兄さんは悲鳴を上げるカワイイー妹を心配してわざわざ飛んできてあげたんだけど?」
「うー、本当に何でもないのーーっっ!!」
「”何でもない”なら、ココ開けられるだろ?」
この状況をどうしようかと顔を青くさせていると、そんな千鶴とは逆にお腹を抱え笑いを耐えているような男の姿が目に入った。
「な、何が可笑しいんですか、沖田先輩!!そもそも何で沖田先輩が私の部屋にいるんですか!?」
「あははは。ごめん、ごめん。だって千鶴ちゃんってば昨夜と同じ間違えをするうえに、まだ気づかないから可笑しくて・・・あはははは」
「沖田先輩!!私は真面目に・・・」
「ほら!!だからそれだよ。”沖田先輩”って誰のこと言ってるわけ?僕は”ソウシ”だよ。昨夜、千鶴ちゃんの守護霊になった、ね?」
「ああぁーーっ!!!!」
ソウシの言葉に、昨夜の記憶が蘇った千鶴は再び大声を響かせることとなった。
・・・兄の薫がドアの外にいることも忘れて。
「千ー鶴。今、”沖田”とか聞こえたんだけど・・・。ちゃーんと説明してくれるよねぇ」
「あ、ち、違っっ!!」
ふいに自分の肩に触れる感触に顔上げると、先ほどと違う優しい翡翠色の瞳に意味もなく千鶴は安堵した。
「大丈夫だよ、千鶴ちゃん。昨夜も言ったでしょ、僕が”見える”のも僕の声が”聞こえる”のも君だけのはずだよ」
「はい・・・」
気持ちが落ち着いたとはいえ、少しだけ緊張をにじませながらロックをはずした。
その途端に勢いよくドアが開かれ、自分とよく似た顔をした兄の姿が現われる。
--千鶴と違う点といえば、朝から機嫌悪気にしかめられた表情だろう。
「お、おはよう・・・?」
「・・・ねぇ、千鶴。兄さんに教えてくれるかな?」
「え・・・?」
千鶴の部屋の中を見回し、ある一点に視線がとまると薫の表情が不機嫌を超えて凶悪といってもいいほど歪められる。
そこには、千鶴のベットにゆったりと腰かけるソウシの姿があった。
「何で、朝から、千鶴の部屋に、沖田が、いるのかなぁ?」
「え、えぇえええ!!??み、見えっっ!!?」
勢いよくソウシの方を振り返ると、ソウシ自身も少し驚いたような表情を一瞬だけ浮かべたがすぐにいつもの笑みを浮かべる。
「それはね、僕と千鶴ちゃんが”一心同体”(みたいなもの)だからだよ。お兄さん♪」
「い、一心!!??沖田ぁああああ、お前、千鶴に何をした。それと、お前に“お兄さん”なんて呼ばれる筋合いはないんだけど。虫唾が走るっっ」
「あははは。本当に”沖田総司”が気に食わないんだねぇー。まぁ、僕も君が気に食わないけどね。何か君見てると無性に殺意が芽生えるんだよねぇ、なんでかなぁ~~?」
「あぁ、奇遇だな、沖田ぁ。僕もお前にはいっっつも殺意を感じるよ」
「んーー、そんな生易しい殺意じゃぁないような気がするんだよねぇ、僕のは・・・」
「はぐらかすな!!前にも言ったはずだ、お前に千鶴はやらんっっ!!」
「あははは、どっかの頑固親父みたいな台詞だねぇ。でも、君の言うことを素直に聞く筋合いは”僕”にはないんだけど」
「沖田ぁーーーー」
凶悪なほどの真っ黒なオーラを滾らせている薫と、笑みを浮かべながらも瞳は笑っていないソウシ。
千鶴の部屋が凍るほどのブリザードが吹き荒れている中、二人に挟まれていた千鶴はオロオロと成り行きを見守るほかなかった。
そんな空気を壊したのは、意外にもソウシだった。
「ね、それより。君、風紀委員とやらの当番じゃなかったけ?こんな風にゆっくりしていていいわけ?」
「っっ!!!沖田、この件は学校できっちりとカタをつけるからな」
「はいはい、お好きにどーぞ(どーせ、僕じゃないし)」
ドスドスと、怒りも顕わに薫が部屋から去ると、千鶴はひとまずの平穏にホッと安堵すると同時にソウシへ視線を向ける。
その瞳には、少しの怒りを宿している。
「もう、ソウシさん!!どういうつもりなんですか!!?沖田先輩のフリするなんて・・・」
「ごめん、ごめん。だって、千鶴ちゃんの記憶に薫と”沖田先輩”のやり取りがあってさぁ、面白そうだったから、ついね」
「つい、じゃありませんっ!!あの様子じゃ、薫ってば沖田先輩に・・・って、また私の記憶を覗き見たんですか!?」
「人聞き悪いなぁ、僕の意思じゃないよ?なんか、僕と千鶴ちゃんの波長がピッタリと合っちゃったんだよねぇ。僕の夢でも見てた?」
「えっ!?いや、その・・・」
「ふぅーん。それとも”沖田先輩”かな?」
「・・・・そ、そんなんじゃ//」
「あれ、図星?」
沖田と同じ顔をしたソウシにまさに図星をさされた千鶴は頬を紅色に染めて俯いてしまう。
だが、すぐにその顔を上げる。
重大な事実に気付いた千鶴は、勢いのままにソウシへと詰め寄った。
「そ、それより!!か、薫にもソウシさんが見えてたじゃないですか!!?」
「あー、そういえばそうだったねぇ。」
「ソウシさんっっ!!」
「んー、僕も意外だったんだよねぇ。今までは誰にも見えてなかったんだけどな。千鶴ちゃんに会うまでは、ね」
「でも、薫には見えてるみたいだし・・・。もしかしたら、私の守護霊にならなくても・・・」
薫でもいいんじゃないか--
そう、言いかけた千鶴の言葉をソウシの怒りと悲しみをを孕んだ声が遮った。
「千鶴ちゃんっ!!・・・その続きは言わないでね?僕は、誰の守護霊かな?」
「・・・私、です」
「うん、よくできました。冗談でもそれは言わないでよね」
「はい、ごめんなさい」
「分かってくれればいいよ。僕が護りたいのは君なんだから」
自分の守護霊になるよりか、薫となら、すぐにソウシの”最後の夢が”見つかるのではないかと思って口にしたことだった。
けれど、その自分の言葉がソウシにとってどれだけ残酷なものだったのかと思うと、千鶴は心に痛みを感じた。
それが表情にもでていたのだろう。
ソウシは柔らかく微笑むと、千鶴の頭を軽く撫でた。
「改めてよろしくね、千鶴ちゃん」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
昨夜のように流されてではなく、千鶴は心からの言葉をソウシへとかえす。
視線が交わり優しい気持ちに満たされたのだった。
【第2話・了】
‡‡後書き‡‡
はい、守護霊シリーズ2話目でございます。
いかがでしたでしょうか。。。(ドキドキ)
薫兄さんにも登場していただきました☆
やはり、沖田vs薫は捨てがたいですvv
さぁ、次回こそはSSL沖田を登場させますよっっ!!
そして、ソウシがまさかの○○化っっ!!!(←ヲイ)
次回を待て!!(って、待ってる人いるの?)
*第1話*最後の願い
シリーズものを始めたいなぁ・・・と思って始めちゃいました☆
二人の沖田がいますがそれでもOKでしたら、ぜひドウゾv
この話には、
沖田ルートBADの沖田と、SSL沖田が出る予定です。
この1話目には、SSL沖田はちょこっと名前がでるだけですが。。。
基本、コメディ系、たまにしんみり。。を目指してます。
急いで書いたので、後々改定するかも。(そのときはお知らせします)
******************
▼開く?▼
最後に見たのは君の泣き顔だった。
君ひとりを残してしまうことが、ただ心残りだった。
どうか泣かないで。
君の笑顔をもう一度見たいと、
僕が---ちゃんを幸せにしたいと・・・・
願った。
身体が滅んだとしても、僕の心は永遠に君のものだよ--
*****************************
「まさか、断ったりしないよね?」
私の目の前にいる彼はニッコリと笑いながら無言の圧力をかけてくる。
(なんで、こんなことになってるのかなぁ~。
先輩と間違えて助けを求めただけだったのに--)
コトの始まりは、遡ること数時間前--
クラスの用事が長引き、帰りが遅くなってしまった少女は不良たちに捕まってしまっていた。
この薄桜学園はつい最近共学になったため、女生徒は少女一人だった。
そのせいか、狙われることが多い。
そこで、学園の秩序を守るために秘密裏に組織された”新選組”が、学園ただ一人の女生徒である少女を護衛するという役目も負っていた。
つまり、普段は”新選組”の誰かしらが少女の傍にいたのだ。
だが、今日は運が悪く皆が用事があり、少女一人となってしまった。
もちろん、”新選組”のメンバーは自分以外の誰かが少女に着いていると思っていたのだが--。
そんなわけで、絶好のチャンスとばかりに不良たちに捕まる羽目になってしまった。
断っても不良たちは諦ずに少女に近づいていく。
困ってしまった少女は、普段皆から言われていることを実践に移すべく慎重に相手を窺う。
曰く、
其の一、相手の隙をついて逃げろ!!
その言葉に従い、少女は不良たちの隙をついて素早く身体を反転させると一心不乱に走った。
だが、不良たちは諦めが悪く少女を追いかけてきたのだ。
どう走ったか分からないままに必死に逃ているうちに、少女は校舎裏の森林へと迷い込んでしまったようだった。
背後からは未だに不良たちたちの声が聞こえ、少女は隠れる場所を探すために辺りを見回した。
すると、そこに知り合いの姿を見つけ、少女は知り合いの男の元へと駆け寄った。
「先輩っっ!!はぁ、はぁ、助け・・・てください」
だが、息も絶え絶えの少女にその男・・・少女の先輩であり、”新選組”メンバーであるはずの男は少女を不思議そうに見つめてきた。
「君、僕が見えるの?」
「あの、先輩?」
(”見える”ってどういうこと?)
少女は追われている所に見知った先輩の顔を見つけて安堵したために上半身にしか視線がいっていなかった。
だが落ち着いてみると、男が自分の知る先輩と微妙に違うことに気付いたのだった。
木々の隙間から差す月光に照らされて、先輩だと思ったその男の姿がはっきりと少女の目に映る。
その男は、確かに少女の知っている”先輩”に似てはいるけれど、どことなく人離れした雰囲気があった。
そして、まるで教科書で見る開国頃の洋服を身に纏い、腰には刀を差した出で立ちだった。
少女の頭が混乱をきたす。
先輩ではないらしい、でも顔は先輩にソックリで。
すっかり目の前の男に思考を奪われていた少女の耳に不良たちの怒号が入り込んできた。
その音は徐々に大きくなっていき、少女の焦りも比例するように増した。
「ど、どうしよう・・・」
「なに、君追われてるの?ふーん・・・じゃ、僕が”護って”あげるよ」
「え・・・?」
今まで考え込むように黙っていたその男が唐突に言葉を発する。
けれそ、突然のことでその言葉の意味までは少女の脳には届かなかった。
「僕が”見える”ってことは君とは相性いいみたいだしね・・・(やっと”見える”存在を見つけたんだ、逃がさないよ)」
「どーいう意味・・・」
少女は問い返そうとしたしたが、その男の行動に言葉を失ってしまった。
その男は、少女の左胸の上に手を置く。
それに驚愕した少女は声を悲鳴を上げそうになったが、実際には音になってでることはなかった。
ただ、その男の声だけが空気を震わせる。
そして、少女の心臓の音がどんどんと大きくなっていく。
「うん、やっぱり相性いいみたいだね♪それじゃぁ、借りるよ?」
男の悪戯っぽい笑顔と悪戯っぽい言葉を最後に、少女は意識を失った--。
「さぁて。君たちの相手は僕だよ、覚悟してね?」
その言葉を口にした少女の口元には笑みが描かれる。
そして、それを合図とするように少女の小柄な身体は闇夜を舞ったのだった。
************
「ねぇ、”千鶴ちゃん”いい加減に目をさましてくれないかなぁ。」
見知った声に私の意識は覚醒を促される。
瞼を瞬かせ目を開けると、そこには見知った顔の、でも違う人が私を覗き込んでいた。
「やっと、起きてくれたね。」
「え、あ、ここはっっ!!??」
「やだなぁ、君の部屋でしょ。」
「な、なんで、私の家を知って??・・それに何で私の部屋にいるんですか??さっきの不良の人たちは!!??それに、あなたは誰なんですか!?」
「いっぺんに質問されても答えられないんだけど。何から答えればいい?」
次々と浮かぶ疑問のままに質問をぶつけると、はぁ、と業とらしい溜息をつきながらも説明はしてくれるようだった。
「まず1つ目。君のことは君の記憶をちょっとだけ見させてもらったから。」
「み、見る!?」
「そっ。あ、安心して。今は家のことしかみてないから。・・・今は、ね」
「なんか、ぜんぜん安心できないんですが・・・」
「ん、なにか言った?」
「イエ、ナニモ・・・」
なんだか、本当に似ているのですが。
私のよーーく知っている先輩に。
「2つ目は、君の”守護霊”になってあげよう~かなぁって思ってるから千鶴ちゃんの傍にいるのは当たり前でしょ。」
「はいっっ!!??」
なんだか、聞きなれない言葉が。。。
というか、もしかしてこの人って・・・
「もちろん、幽霊だよv」
私の視線で何を言いたいのか察したのか、幽霊さんは常より称えた笑みを崩さないまま問題発言をアッサリと告げてくれた。
呆然としてしまう私の気持ちも察して頂きたいです。。。
「ゆ、ゆーれーい・・・っていうか、”守護霊”ってなん・・・」
「それで3つ目ー。君を追いかけてた男たちは僕が倒したよ。あ、大丈夫、殺してはないから」
「こ、ころ!?”そんな軽々しく”殺す”とかは・・・」
「最後の質問だけど、僕は”ソウシ”。・・・多分ね」
「多分ってどういう・・・」
”ソウシ”さんはことごとく私の言葉を邪魔するかのように自分の言葉を紡いでいく。
けれど、先ほどまでが嘘のように”ソウシ”さんの顔からは笑みが消え、寂しげな声が私に向けられる。
「覚えてないんだ、自分のコト。僕が分かることっていったら僕が生きてた頃の”最後の願い”を思い出せば成仏できるってこと。その為には誰かの守護霊にならないといけないってことだけなんだよね。」
そのことに私の胸がツキンと痛んだ。
なぜか、”ソウシ”さんのそんな表情は見たくなくて--
私も切なくて俯いてしまうと、突然明るい調子に戻った”ソウシ”さんの声が私に向けられる。
「というわけで、これからよろしくねv」
「はい・・・?よ、よろしくとは・・・」
「やだなぁ、言ったじゃない。僕、君の守護霊になるからって」
「だ、断定なんですか!?私、まだ何も言ってませんよ!!」
恐る恐ると、視線だけ”ソウシ”さんに向けて伝えると、今まで以上の笑みを浮かべたソウシさんの姿があった。
そして、冒頭の言葉となる・・・。
「君は、困ってる人を見放すような娘じゃないよね?」
「でも・・・、ソウシさんは”人”ではな・・・」
「何が不満なわけ?僕が君の守護霊になるのが嫌なの。それとも君は僕のこと”要らない”のかな・・・」
「そんなこと絶対ありません!!」
私は思わず強く否定していた。
冗談でもそんな言葉は聞きたくなった。
ついさっき会ったばかりの幽霊さんなのに、まだ”ソウシ”さんのことを知ってる訳でもないのに、私の”心”が否定していた。
先輩に似てるから・・・ってだけじゃなくて、なんだかよく分からない感情に私は戸惑いを覚えた。
「えと、で、でも・・・実は”ソウシ”さんって私の知り合いに似ておりまして・・・。なんか、落ち着かない、といいますか」
「駄目、かな?君の守護霊になって僕は”最後の願い”を思い出さないといけないんだ。・・・絶対に」
再び悲しげな瞳を向けられた私は、自分が酷いことをしているような気になった。
そして、気付いたら了承の言葉を告げていた。
「わ、分かりました(>△<)協力しますっっ!!」
「そ?じゃぁ、”契約”成立ね♪ よろしくね、”千鶴”ちゃん」
はっと、自分の言葉に我に返ったときには遅く、ソウシさんは、さっきまでの悲しげな表情から一変してニンマリと笑みを浮べていたのだった。
あぁ、こんなこと”先輩”に知られたら、きっとまた苦笑を浮かべながらこー言うんだろうなぁ。
「本当に君ってお人よしだよね。」
「っっ!!!」
「まぁ、僕は楽しめそうで嬉しい・・・じゃなくて、助かったけどね♪」
うぅーー、本当に心臓に悪いです。。。
お願いだから、
本当にお願いしますから、
沖田先輩と同じ顔、同じ声で、同じようなこと言わないでーーーーっっっ!!!!
【第一話・了】
後書き
な、何だコレ★
沖田と沖田。。。。
意味不明でスイマセン(汗)
シリーズものにするにあたってまだ出してない設定とかもあるので、徐々に出していけたらなぁーと思います。
こんな設定でも良ければお付き合いくださいませー♪♪