二人で紡ぐ幸せの始まり
長い間、放置してしまって申し訳ありません(><)
今後は更新をなるべくしていきます。
というか!!
夏コミ!! 何度目かの正直で受かったので新刊準備を進めつつの更新になるのでペースは遅いです。
しかし少しでも更新できるように頑張ります!!
とくにリクエストSSとか連載ものを進めなくては!!
コメントお礼やキリ番のリクエストSSができなくて申し訳ないです(大汗)
さてさて、久しぶりのSSは激甘・おきちず です。
(個人的には糖度高めで書いたつもりです。)
雪村の地で暮らし始めたばかりの二人をお楽しみいただければ幸いです♪♪
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
夜の闇を優しく照らす月が空の天辺で煌々と輝いている。
とある山奥にヒッソリと佇んでいる一軒家に淡い月光が差し込み、昼近くから愛しい存在を抱きしめながら穏やかな眠りについていた青年を照らす。
陽の光ほど強くない明かりでも青年を眠りから揺り起すには十分だったらしい。
黒々としたまつ毛が揺れる。
「んんーーーー」
眠りから目覚めるときの曖昧で心地良い感覚に暫しの間身を任せることにしたのだろう。
己の腕の中にある柔らかな感触、鼻孔を擽るような甘い香りを思う存分に楽しむ。
この微睡の時間は青年に幸せを実感させる一つだ。
暫くの間、微睡を楽しんでいた青年だったが、物足りなくなってきたのか薄らと深緑の瞳を露わにする。
目を覚ましてすぐに視界に入ったのは、艶やかな黒髪。
小さな背に回していた手を少しだけ上へとずらし、触り心地の良い髪を梳いては、口づけを落とす。
「ぅんッ・・・・」
己の胸元に感じる吐息に自然と口元に笑みを浮かべてしまう。
髪だけでは飽き足らず、未だに眠りの中に居る少女の目蓋に、滑らかな頬へ、ふっくらした耳たぶへ、鼻先へ――至る所に唇を触れさせる。
けれど、一番触れたいはずの桜色の唇へ触れることはない。
唇以外の顔の至る所にちゅ、ちゅっと音を立てては笑みが深くなっていく。
けれど、少女は目蓋を震わせたり、吐息を吐き出すことはあってもなかなか目を覚まさない。
そんなあどけなくも色っぽい少女の寝顔に、青年の悪戯心がムクムクと育っていく。
「早く起きないと、もっと悪戯しちゃうよ?」吐
息交じりの声で少女の耳元で囁きながら着物に覆われたなだらかな背をゆったりと撫でる。
細い首筋には顔を埋めて唇を這わせる。
白い肌を強く吸えば、そこには己の刻印である花弁が散る。
「ぁん・・・」
少女の唇から甘い声が漏れるも少女の瞳は未だに閉じられたままだ。
「クスクス・・・強情だなぁ」
再び、少女の首筋へと顔を埋めて花弁を散らしていく。
「んーーー?」
幾つか目の花弁が刻まれた頃、やっと少女の瞳が薄らと開いた。
少女のぼんやりした瞳には、悪戯っぽい笑みを浮かべる青年が映っている。
「おはよ、千鶴ちゃん」
「おはようございます、沖田さん」
満面の笑みを浮かべながら、ここ一週間ほどのお決まりの態勢でお決まりの挨拶をする沖田に千鶴もお決まりの挨拶を返した。
だが、今夜はいつもと少しだけ――いや、大いに違っていた。
「んぁッ、んッ・・・・」
寝ぼけ眼だった千鶴の瞳が大きく見開かれる。
至近距離には沖田の整った顔があった。
シットリと瞳を閉じた艶やかな表情の沖田の顔が。
そして、唇には柔らかくて温かな感触。
片手の指で数えられるぐらいの回数しか触れ合わせたことのない口びる――。
恥ずかしさは残っているものの沖田の腕の中で眠りにつき目覚めるのが当たり前になりつつあった千鶴ではあったが、まだ口づけには慣れていなかった。。
というか、故郷の家で暮らし始めて一週間ほどが経つが、その間に一度も口づけを交わしてはいない。
ここに向う道中で想いを通じ合わせたとき以来のことだ。
不意打ちに反応できずにただ受け入れるだけだった千鶴の唇から沖田の唇が離れていく。
「ごちそうさまvv」
「うっ? えっ? あ、おそまつ、さま、でした?」
寝起きのせいもあったのだろう。頭が上手く回らないまま反射的に言葉を返す。
沖田の腕に抱かれながら寝ている状態のまま瞬きを繰り返している。
薄く口を開いてポカーンとしている千鶴に、沖田は笑い声を漏らす。
「そんな表情して・・・もう一度して欲しいの?」
揶揄いの口調でありながらその裏に確かな艶を感じ、千鶴の顔が燃えるように赤く染まっていく。
金魚のように口をパクパクさせる千鶴の姿は愛らしいものだった。
我慢出来ずに、千鶴の顔を己の胸元にくっつけるかのように抱き込む。
「え、あの、沖田さんっ!?」
ハッと我に返った千鶴は現状とたった今受けた口づけを思い出す。羞恥で頬を紅に染めたまま沖田の腕の中でジタバタと身体を揺らす。
千鶴の抵抗などものともしない沖田は笑みを深めるばかりだ。
「ねぇ、好きだよ」
トクンと高鳴るような言葉を耳にした千鶴の抵抗がピタリと止み、上目づかいで沖田へと瞳を向ける。
言葉のとおり愛しさと慈しみを宿した深緑の瞳に、千鶴の頬はますます紅の色を濃くする。
その瞳に映っているのが自分であることに心臓の音も先ほどより早くなっていく。
ただ、沖田の顔が段々と近付いてくるのを呆然と見つめていた。
そんな千鶴の桜色の唇に再び沖田の唇が重なった。
「――愛してるよ、千鶴ちゃん」
穏やかで甘やかな空気の中で沖田の真摯な想いが千鶴の鼓膜を震わせる。
キュッと沖田の袂を握り、胸元に顔を埋めた。
トクントクンと音を立てている鼓動が聞こえる。
お互いの胸の音が交じり合う幸せを感じた千鶴は顔を埋めたままポツリと言葉を漏らした。
「私も――愛してます。」
それは小さな小さな声。
けれど、沖田の耳に届くには十分な音量だった。
「うん。ここで、幸せになろうね」
「はい」
もう少しだけ――と言い訳しながら二人は幸せな微睡を楽しむことにした。
=====
暫く瞳を閉じて幸せの余韻に浸っていた二人だったが、名残惜しさを感じながらも緩々と身体を離して起き上がる。
外はまだ月が輝く時間だ。
けれど、月が空に姿を現してから随分な時間が経っていた。
「さて、そろそろ小川への散歩にでも行こうか」
「はい」
千鶴の故郷へやって来てから二人は毎夜のように小川へと通いつめている。
それは清水を口にし、若変水の効力を薄めるためだ。
完全に羅刹でなくなることは出来ないが、”人”としての日常を取り戻すことはできる。
朝起きて、夜には眠りに就く――そんな日常が。
現にまだ一週間ほどではあるが、少しづつ夜の活動時間が短くなっている。
手を繋いで寄り添いながら真夜中の山中を進んでいく。
「今夜も夜空が綺麗ですね」
澄んだ空気のおかげか月や星が煌々と輝き、千鶴の目を楽しませている。
「そうだね、可愛いよね」
「え? 可愛い?」
月や星が輝く夜空を見上げた感想が”可愛い”とは、どういうことかと首を傾げながら沖田へと顔を向ける。
「そうだよ。今すぐにでも口づけしたいぐらいに可愛い」
思わず顔が赤らむほどに甘い表情をした沖田が千鶴を見つめていた。
どうやら沖田の視線が向いていたのは、心浮き立たせながら夜空を見上げる千鶴だったようだ。
「な、なに言ってるんですか! か、揶揄わないでください!」
「揶揄ってなんてないよ。僕は本気だけど」
いつになく真剣な眼差しが千鶴を貫く。
「本当はね、口づけの先をしたい――千鶴ちゃんのすべてが欲しいんだ」
指を絡めて繋いでいた手をそっと持ち上る。
千鶴の白く滑らかな手の甲にそっと口づけを落とす。
手の甲に口づけたまま視線だけを千鶴へと向けた沖田の瞳にドキリと胸が音をたてた。
「あ、えと・・・え?・・・う?」
意味をなさない言葉ばかりが千鶴の口から零れる。
沖田の真摯な瞳に吸いこまれるかのように視線を逸らすこともなく見つめ続ける。
頬を染めながらポカーンと自分を見つめる千鶴の姿が可笑しかったのか、沖田がクツクツと笑い声をあげる。
(さっきといい、本当に可愛い反応するなぁ)
自分がこんなに愛しさを感じるのは、目の前の少女以外には一人としていないだろう。
こんなに欲しいと思うのも。
だからこそ正直な気持ちを口にしてしまったのが、今すぐにどうこうと考えているわけではなかった。
今は、千鶴とこうして手を繋いだり、抱きしめたり、口づけたり、そんな細やかな触れ合いでも心は満たされていた。
口元に持ってきていた手を下ろした沖田はニッコリとした笑みを千鶴へ向ける。
「今すぐに千鶴ちゃんを裸に剥いて、至る所に口づけて、千鶴ちゃんの奥深くに僕を刻みたい――なんて言わないから安心して?」
「なっ!? は、はだっ!?」
爽やかなほどの笑顔で、わざと直接的な言葉を口にする。
顔を真っ赤にして千鶴が慌てふためく千鶴の可愛い姿を見たいのと、遠くない”いつか”の心の準備をして貰うために。
千鶴の耳元に顔を寄せてそっと囁いた。
「朝陽で目を覚まし、月光に誘われて眠りに就く――そんな日常が戻った暁には、千鶴ちゃんのすべてを僕にちょうだい?」
――と。
<了>
★☆後書き☆★
リハビリ兼ねて、久しぶりにSS打ちました。
えぇ、妄想だけはあったんですが文章にできなくなっていました(汗)
うーむ、やはり仕事のストレスのせいか!?
つーわけで、反動で砂吐くような激甘にしてみました。
気が向けば、後日談を書きたいと思います。
では、ここまでお読みいただき有難うございました♪♪
尊き刻の欠片~旦那's編~
長らく留守にしており申し訳ありません(大汗)
もう本当に仕事が大変なことになっており精神的に追い込まれていました(笑)
なんとかヒト山は越えたので、更新も頑張っていこうと思います。
まずはたまっているキリ番の方をやっていきたいな、と考えてます!
長らくお待たせしてしまっていて申し訳ありません(><)
さて、何もアップできていないので苦し紛れですいませんが、フリー配布させていただいたお話の半分をお届けしたいと思います。
2月の今になって年末ネタですけど(爆)
沖田夫妻と伊吹夫妻設定で、今回アップするのは旦那'Sの方のお話です。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです♪♪
では、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
事始めを迎え、煤払いも済み、あとは新年を迎えるのみとなった大晦日――。
新年を迎えるための買い出し客で賑わっている市場の通りに面しためし屋に不機嫌気味な表情をした沖田の姿があった。
その向かいに座る男もまた眉間に皺を寄せ、憮然とした様子で茶を啜っている。
「はぁー。なんで井吹君なんかと顔を付き合わせて二人でご飯を食べないといけないのかなぁ。」
当てつけるように盛大な溜息を吐く沖田に井吹の渋面は深くなるばかりだ。
「俺だって好き好んでお前と顔を付き合わせてるわけじゃねーよ。」
井吹とてすぐにでも帰りたい気持ちだっだ。
だが、大晦日の夜には欠かせない食材がまだ手に入っていないのだ。
しかも、妻たちはそれを一番楽しみにしているようだった。
特に沖田の妻である千鶴は出掛け際に、期待を籠めた輝くほどの瞳を沖田へ向けながら「総司さん、楽しみにしてますね。」と、微笑んでいたのだ。
そんなわけで、妻の期待を裏切りたくない沖田は不機嫌になりながらも村に留まっているのだ。
だが、八つ当たりされる井吹にはたまったものではないのだろう。
思わず愚痴が吐いて出ても仕方がないだろう。
「ふーん。君がそれを言うんだ?」
だが、そんな井吹の言い分が通じないのが沖田である。
湯のみに手を掛けようとしていた沖田が井吹の反論に、冷たく鋭い視線を向けてくる。
基本的に自分の嫁以外に優しくする気など更々ないのが沖田だ。
沖田という男にとって何よりもかけがえのない存在――それが、千鶴という女性なのだ。
井吹にとっての静であるように。
「ぐッ・・・・・」
だからこそ。沖田のその視線の意味を理解できてしまうだけに井吹はそれ以上の言葉を口にすることが出来ない。それに、総司がいつにも増して不機嫌になる理由も分からなくもない。
つまり、家に残してきた嫁さんが心配で仕方ないのだろう。
「そもそも、千鶴を家に残して君と二人で買い出しにくる羽目に陥ったのは、君たち夫婦がこの町に住みついたせいだよね?」
「し、仕方ねーだろ。 静がこの町に住みたいっつーんだからよ。」
もごもごと口を動かす井吹の目元は羞恥で薄らと朱に染まっていく。
「ちょっと、気持ち悪い表情しないでくれる? そんな表情するなら今すぐに僕の前から消えてくんないかな。」
「ッ! るせーな。」
よりにも寄って意地の悪い沖田の前で犯してしまった自分の失態へのバツの悪さを誤魔化そうと、再び湯のみを手にする。
勢いで飲みほした茶はすでに冷めていた。
「まったく。君も大概、お嫁さんに弱いよねぇ。」
肩を竦め、顔を横に振ってみせる総司の大げさな仕種に井吹のムッと眉を顰める。
「お前に言われたくねぇよ! 嫁さんを目に入れても痛くないっつーほど溺愛してるくせによ。」
手にしていた湯呑を卓上にダンッと音がする程に強く叩き置く。
「だから『君も』って言ってるじゃない。 何を聞いてるわけ?やっぱり井吹君は・・・・・」
片側の口端を上げて皮肉気な笑みを浮かべる総司に、井吹の口元が引くつく。
「『駄犬』とか言うんじゃねーぞ、沖田」
「あれ、言って欲しかった?」
「欲しくねーよ!! んとに、ムカツク奴だな、お前はっ!!」
「井吹君は相変わらず馬鹿だよね。んー井吹君と同じ扱いされる犬が可哀想かな。」
「沖田、お前、本当に相変わらず嫌味なヤツだよな。」
そう口にすると、井吹はムスっとした表情で黙り込んでしまった。
そんな井吹を目にし、沖田は笑い声をあげた。
井吹へ八つ当たりしたことで少しは落ち着きを取り戻したらしい。
「本当に人生何があるか分からないよね・・・・。」
思う存分笑った沖田は笑いをおさめ、今までとは打って変わって真面目な表情をすると、静かに口を開いた。
「あぁ。 そう、だな。」
沖田の言葉に井吹もまた感慨深そうに静かに頷きを返す。
「まさか、井吹君と夫婦ぐるみの付き合いをすることになるなんてね。 あのときは思いもしなかったなぁ。」
苦笑しながらも思い出すのは、京に出て来たばかりの頃の屯所での日々だ。
「俺だって考えてもみなかったさ。 それこそ、お前に再会した昨年のあの時だって・・・」
「あぁ。 そういえば、あの時も井吹君、行き倒れていたんだよね。 それを千鶴が見つけて、仕方なく介抱してあげたんだっけ。」
「お前は介抱してないだろうが! むしろ瀕死の俺の鳩尾に容赦なく拳を叩きこんで気絶させたよな。」
「あれ、そうだったけ? 覚えてないなぁ。」
「お前はぁ・・・・」
ジトリと睨む井吹の視線を、総司は肩を竦めるだけでサラリと流す。
「あの再会の後、二度と井吹君に会うこともないだろうって思ってたんだけどな。 流石の僕も驚いたよ。まさか、君がわざわざ僕の所にお嫁さんと二人して結婚の報告に来るなんて思いもしなかったしねぇ。」
「・・・・お前には知らせておきたかたんだよ。」
「へぇ、わざわざ僕に?」
「あぁ。俺がアイツを嫁に出来たのは、お前たち夫婦に接したからだと思ってる。 お前の幸せそうな姿を見たら、俺も大切な一人をつくる勇気が出た。俺にも大切な一人を幸せにすることが出来るかもしれないって・・・・俺自身を信じてみてもいい気になれたんだ。」
それぞれがその時のことを思い出しているのか、二人の間に穏やかな沈黙が降りる。
沖田家を出た後の夜の山中を下っているときの気持ちが井吹の脳裏に様ざまと思い出される。
沖田の幸せそうな姿を見て、信じられない思いと同時に安堵と嬉しさが湧きあがった。
自分のことのように幸せな気持ちになったのを覚えている。
そして、沖田が言ったあの言葉。
あの言葉があったからこそ、井吹は一歩を踏み出すことができた。
その一言は、まさに井吹の人生を変える切っ掛けの一言だった。
『やせ我慢しないで、いい人、早く見つければいいのに』
(沖田は・・・あの時、どんな気持ちで言ったんだろうな。)
だからこそ、静とともに沖田夫妻の元へ再び訪れたのだ。
勿論、沖田の元を再び訪ねることに、井吹とて迷いが無かったわけではなかった。
沖田たちが人里離れた山中の一軒家でひっそりと暮らしていることに、何かしらの事情があるのだと感じてはいたのだから。
それでも、意を決して再訪したのだ。
あの時の自分のように、沖田にも安心させてやりたいと、井吹は考えたのだ。
自分はもう大丈夫だと。 大切な人と幸せな刻(とき)を過ごしているのだと――。
静をともなって沖田の元を再訪したときのことを思い出すと、いつも笑いが込み上げて来る。
沖田が戸口に姿を現した瞬間、挨拶もままならないまま静を嫁だと、紹介した。
井吹も緊張していたせいで、それまで考えていた段取りがすべて吹っ飛んでしまっていたのだ。
だが、そのときの沖田の驚きの表情といったら。
瞬きするのも忘れたかのように目を見開いて、井吹と静を見やっていた。
その時のことを思い出して、思わず井吹は、ぶっと吹き出していた。
沖田が目の前に居るというのに笑いを止めることが出来ず、井吹は慌てて自分の口を両手で覆った。
だが、時すでに遅しとばかりに、冷淡な翡翠の瞳が井吹を睨みつけている。
「人の顔見て何を笑ってるのかな、井吹君は・・・」
「い、や・・・・ま、待てって、沖田、落ち付けって・・・・」
スッと細められる目に、井吹は身体の体温が急激に下がっていくのを感じていた。
「何言ってるの? 僕は十分落ち着いているけど?」
沖田の口元が綺麗な弧を描く。だが、端正な顔のうえに目は笑っていないせいか、沖田の笑顔は禍々しさを放っていた。
また濁流に突き落とされるんじゃないかと、井吹に思わせるほどだ。
沖田の気迫に押されて、知らず知らずのうちに井吹の背が椅子ごと後ろへと仰け反る。
「ぎゃぁあああっっ!!!」
男の悲鳴と共に、めし屋の店内にバタンッ!という大きな音が鳴りびいた――。
<END>
恋心はカプチーノのように・・・<1> ~Side千鶴~
早いものでもう12月ですね。。。
あぁ、本当にあっという間だったぁ。
さて、やっとこ更新できて、ひとまず一安心。
なかなか更新できずに申し訳ないです><
今回のお話は、以前アップした「君の笑顔とカプチーノ」と繋がっていますので、よかったら「君の~」の方もご一緒にどうぞ!
では、”社会人・沖田x高校生・千鶴の甘い系、だけど今回は沖田の出番なし”でもよろしければ、「読んでみる?」から本文へドウゾ!!
▼読んでみる?▼
*********
帰りのホームルームを終え、私はゆったりと帰り支度をしていた。
鞄に教科書やノート、筆箱を入れてふたを閉じる。
ふぅと軽く息を吐きながら、そっと腕を上げて腕時計へと目を留める。
2時30分――。
(まだ、大分時間があるなぁ)
時間を確認した私は、思わず大きなため息を吐いた。
少なくとも、あと1時間半の間はソワソワする破目に陥るんだろう。
待ち遠しくてドクンドクンと胸の鼓動が高鳴る。
私の淹れたカプチーノをコクリと飲み干して「美味しいね」と微笑んでくれる表情を思い浮かべて頬が緩んでしまう。
そんな自分にハッと気づいて、頬が緩んでいたのを誤魔化すように両の頬をペチペチと叩く。
(いやいや、今日も来てくれるとは限らないじゃない!! お仕事忙しいかもしれないし・・・・・そうだよね、来れないかもしれない、よね)
期待する自分と否定的な自分。
約束しているわけじゃないし、ましてや―――そう考えると段々と落ち込んでいく。
自然と目が潤んでしまう自分に戸惑いを感じる。
私のこの感情はいつからこんなにも強く深くなってしまったのだろう。
「・・・・ちゃん、ち・・・づる、ちゃん・・・千鶴ちゃん」
肩を緩く揺すられる振動と耳に馴染んだ声にハッとここがまだ教室であることを思い出す。
「へ?」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、目の前には親友の千ちゃんの姿があった。
「あぁ、やっと気づいてくれた。寂しそうな顔してどうしたの?」
優しくて美人な千ちゃんは私の自慢の親友。
眉間を寄せて心配そうな表情をさせてしまっていることに申し訳なさを感じる。
「ううん、なんでもないの。ごめんね」
「こーら。無理しないの。千鶴ちゃんにそんな表情させるってことは・・・・沖田さんのことかな?」
「う、うん」
聡明で人の気持ちにも敏感な千ちゃんには、すぐに私の憂いの理由に思い至ったようだった。
あっさりと言い当てられた私は落ち込んでいたのも忘れて思わず頬を赤らめてしまう。
再会できたことが嬉しくて、次の日のお昼にお弁当を食べながら千ちゃんに沖田さんのことを話してしまっていたから。
興奮して話す私にも呆れることなく千ちゃんは話を聞いてくれていた。
といっても、その時はまだ沖田さんの名前は知らなかったのだけど。
それ以来、私と千ちゃんの会話には頻繁に沖田さんの話題がのぼるようになった。
「今さらだけど、なんか焼けるな」
「千ちゃん?」
何のことか分からずに首を傾げる。そんな私に千ちゃんはクスリと笑みを漏らす。
「千鶴ちゃんにそんな表情させられるのって沖田さんだけなんだろうなぁって。ちょっと悔しいかな」
「そ、そんな表情って・・・な、なに?」
「ふふふ・・・・決まってるでしょ。”恋する乙女”よ」
「こ、こい!?お、おとめ!?」
”恋する乙女”って、今の私はどんな表情をしてるんだろう。
変な顔していないか不安になって両手で顔を覆った。
「なんで隠しちゃううの?」
「だ、だって絶対に変な顔してるよ、私」
「なんで?可愛いと思うけど。っていうか、心配になっちゃうぐらいに可愛いのよね。うーん、やっぱり一度ぐらいは沖田さんに挨拶しておくべきよねぇ・・・・・」
「あ、挨拶って?沖田さんに?」
「ん?そうよ。千鶴ちゃんの親友として一度は挨拶しておくべきかなぁって」
目の前の千ちゃんはニッコリと笑っているのに、なんだか異様な威圧感を感じるのはなぜなんだろう?
「千鶴ちゃんを泣かせるような男じゃないか実際に会って確かめてみないとね」
千ちゃんの形の良い唇から小さく呟かれた言葉を私は聞き取れなかった。
けれど、今の千ちゃんに問うことは何故か阻まれた。
だって、いつもの優しい千ちゃんとは雰囲気が違うんだもん。
声をかけたらいけないんじゃないかという気になってしまう。
「あ、私、バイト行かなくちゃ。じゃ、じゃぁ、また明日ね!!」
顎に手をかけて思案している様子の千ちゃんにそう声をかけた私は、今までにない素早さで教室を後にした。
「ちょっと、千鶴ちゃん!?」
背後から千ちゃんの呼び声が聞こえたけれど、今日ばかりは聞こえないフリをした。
心の中で「ごめんね」と謝りながら。
=====
私が初めて沖田さんに会ったのは今から約半年前。
高校入学を控えた春休みのある日のこと。
その日は朝から雨が降っていた。
中学を卒業し、春休みの予定もない私は特にやることもなく家でのんびりとしていた。
双子の兄である薫は私と違って友達との約束があったのか、少し遅めのご飯を食べて一休みしたあとに出かけて行った。
家に一人になった私はのんびりと寛いでいた。
居間にある座り心地の良い広いソファーを一人占めする。
部屋から持ってきたお気に入りのクッションを抱えながらお気に入りの小説を読んだりして。
雨の音さえもが心地好い空間を演出するBGMになっていた。
手を伸ばせばすぐに届く場所にあるローテーブルの上には大好きなミルクティーを淹れたカップ。
こんな贅沢をしていいのかな、という考えが脳裏に浮かんだ瞬間を狙ったかのように家の電話のベルが鳴った。
電話はお父さんからだった。
急きょ夜勤が続きくことになったから着替えやタオルを持ってきて欲しい、ということだった。
私のお父さんは、隣駅にある大きな病院へ勤めている医師。
隣駅の近隣はビジネス街でビルが立ち並んび、飲食店などのお店も多い。
駅から10分ほど歩いた所に父さんの務める病院がある。
雨の中を歩くなら、それなりの装備が必要となるだろう。
着替えなどの荷物を父さんに届けた後、近辺を探索することにした。
雨の中の散歩も案外悪くはないような気がしたから。
世界が違って見えるようで楽しさを感じていた。
自分でも分からないけれど、その時の私は何かを期待して胸をドキドキと高鳴らせていた。
とはいえ、雨の中の散歩だから、薫からバレンタインのお返しで貰ったばかりの真新しいレインコートをシカッリと身に纏い、濡れないようにフードも深く被る。
ちょっと視界が悪いけれど、雨に濡れて風邪をひかないように対策はしっかりとしておかないと。
辺りの景色を楽しむように雨の中の散歩を楽しむ。
歩道に溜まった水たまりが描く波紋、ビルの窓ガラスを伝い落ちる雫。
ビジネスビルが並ぶ通りを歩き進め、路地裏に入った所で私は歩みを止めた。
「わぁ~~、可愛いカフェ」
ひっそりとした路地裏に佇む私好みの可愛らしいカフェ。
真っ白な壁面に伝う瑞々しい蔦、アンティーク調の扉。
付近にはビジネスビルが立ち並ぶ中、そこだけが違う世界を作り出しているかのようだった。
私を捉えるのは、カフェの外観だけではなかった。
鼻孔を擽る甘い香りにも酔いしれ、うっとりとした心地でカフェを見つめていた。
「こんなカフェでバイトできたら素敵だろうなぁ」
高校に入ったら社会勉強も兼ねつつバイトするつもりだった私は、かなりこのカフェに惹かれていた。
一目惚れだった。
カフェをジッと見つめていた私の耳にみゃぁみゃぁというか細い鳴き声が聞こえてくる。
鳴声のする方へと視線を向けると少し離れた所にある建物の間に雨で濡れたダンボールが置かれていた。
その中には、雨に濡れて寒々とした子猫の姿がある。
段ボールの淵に前足を掛け、必死な様子で鳴き続けている。
自然と私の足は駆け足で子猫へと向かっていた。
私を見上げる円らな瞳。
小さな身体をハンカチで覆い、濡れた身体を拭う。
寒さでフルフルと震えた身体。
背を摩って暖めようとするけど、3月という時期もあって気温が低いせいか子猫の震えは止まらなかった。
身体の芯から冷え切ってしまっているのかもしれない。
鳴声がどんどんと小さくなっていっているような気がして、私は泣きそうになっていた。
そんなときだった。
子猫を抱きしめて、涙目になっていた私の目の前に差し出されたソレ。
「間違えて買っちゃたから、コレあげる」
突然降ってきた声にビックリして、思わず顔を上げる。
そこには、優しい眼差しをしたスーツ姿の男のヒトがいた。
パチパチと目を瞬かせていると、スーツの男のヒトが私の左手をとった。
冷たくなっていた左手が温かみを感じる。
手の中にはあるのは缶のホットミルクティーだった。
スーツのヒトの手にはカプチーノの缶が握られている。
どうやら、カプチーノを買おうとして間違えてミルクティーを買ってしまったということらしい。
「その子と一緒に飲んだら?」
それだけ言うと、スーツのヒトは颯爽と去って行ってしまった。
私はその背を瞬きすることも忘れて見つめ続けていた。
ほんの一分ほどの出来ごとだったというのに、私の心の割合をかなりの大きさで占めてしまった。
綺麗な翡翠色の瞳が脳裏から離れない。
みゃぁ、という鳴き声にハッと我に返った私は子猫とミルクティーを分け合った。
缶のミルクティーはビックリするほどに美味しくて、そして身体を温めてくれた。
子猫もミルクティーで暖まったのか、表情が緩んできている。
私はホッと息を吐き、子猫を胸元に抱えたまま歩き始めた。
後に私は、子猫に”ヒスイ”と名付けて家で飼うことになった。
そして、このときのスーツのヒトが沖田さんだった。
沖田さんと再会できたのは、この日から一ヶ月半ほど後のこと。
一目惚れしたカフェでバイトを始めて何度目かのときだった。
「カプチーノと優しさをアリガト。雪村千鶴ちゃん♪♪」
沖田さんは私のことなんて覚えていないだろう。
ヒスイのお礼にと私が勝手にカプチーノを淹れて持っていたにも関わらず、沖田さんはお礼を言ってくれた。
そして、私の名前を沖田さんが初めて口にしてくれた。
最初は何で私の名前を知っているんだろうってビックリしたけど、私の心は嬉しさでいっぱいになっていく。
妄想じゃなくて現実に、再び会えるなんて、ましてや名前を呼んでもらえるなんて嘘のようだった。
それから沖田さんはよくカフェに来てくれるようになり、会話を交わせるようになっていった。
沖田さんの名を知り、趣味を知り、少しづつ沖田さんのことを知っていく。
会話を重ねるごとに私の恋心は肥大していき、現在に至っている。
この後、私は沖田さんのことをまったく分かっていなかったことを痛感することになる。
私の想像の限界を超えるほどの出来事が待っているなんて想像もしていなかった。
ふわふわで、ちょっとだけ苦くて、とびきり甘いカプチーノみたいな関係が始まろうとしていた――。
<つづく>
★♪☆後書き☆♪★
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「君の笑顔とカプチーノ」から少し後の千鶴サイドのお話となります。
いえ、現在、過去が入り乱れてますね、すいません!!
えー、題名を「恋心はカプチーノのように・・・」と改名し、視点を色々かえて連載していくつもりです。
もちろん甘々でいきますよ~~!!
よろしければお付き合いくださいませ。
陽だまりの約束
や、やっぱりっすか?
アクションかぁ・・・ヤバイ苦手なんですけど。
つか、おきちず要素はあるんですかね!?(そこ重要!!)
でもな、千鶴自身の登場が『進行上であるかも』だからなぁ・・・・。
おきちづが見れるならアクションでもアニメ絵でも(いや、綺麗ですけど)頑張るのですが!!
っていうか、せっかく千鶴の合戦バージョンもあるのにぃいい!!
『IF』がコンセプトなら千鶴にも戦わせてやってくれよーー。
本編ではあんな歯がゆい想いをしていた千鶴に夢見させてやってくれ。
くそーー、どうせならSSLを・・・(ボソリ)←でた、本音(笑)
SSLはともかく、おきちづ要素をプリーーズ!!
・・・と、新作話はこれぐらいにして。
今回は付録に掲載されていたチビキャラSSからの妄想となっています。
それでもOKの方は「読んでみる?」から本編へどうぞ!!
▼読んでみる?▼
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「――ちゃん、千鶴ちゃん、起きなくていいの?」
腕を揺さぶられながら名前を呼ばれた私は、眠りの淵に落ちていた意識を徐々に浮上させていく。
そして、薄らと目を開けばそこには悪戯っぽい笑みを称えながら私を見上げる沖田さんの顔があった。
「やっと起きたね、千鶴ちゃん」
「あ、あれ?沖田さん?なんで・・・」
「それよりいいの?何かやることがあったんじゃなかったけ?」
「やること・・・・あっ!!お夕飯の支度!!」
まったりとした眠りの余韻を楽しむかのようにボンヤリとしていたけれど、沖田さんの言葉にハッとして顔を上げれば、白かった陽射しが橙色に染まり始めていた。
空が茜色に染まるのとは反対に私の顔が青くなるのを感じる。
「本当に千鶴ちゃんは駄目な子だなぁ。仕事サボってこんなところで昼寝するなんてさ」
私自身そう思っていたところではあるけど、沖田さんの言葉に理不尽なものを感じた。
「も、元はといえば沖田さんが・・・」
「僕がなに?」
視線を落として沖田さんへと視線を向ければ、翡翠色の瞳を楽しそうに細め、口角をあげて笑っている。
「いえ、その・・・沖田さんがどいてくださらないから動けなかったんですよ」
「あれ、僕のせいにするの?僕は『だめ?』ってちゃんと聞いたし、最終的に了承したのは千鶴ちゃんだよね」
思い返せば、確かに了承したのは自分自身で、柔らかな日差しと、程良く膝に感じる重みに心地好くなって眠ってしまった自覚があるだけに言い返すことができない。
しかも、そのときに感じた不可解な感情までを思い出し、鼓動が早まっていくのを感じた。
「うっ・・・じゃ、じゃぁ、もういいですよね?どいてください!!」
「嫌だ」
「・・・・はい?沖田さん、今なんて?」
そんな自分を誤魔化す様に沖田さんに告げたのだけど、思いがけない言葉での即答に私の思考がついていかず、パチパチと瞬きを繰り返しながら沖田さんの顔を見下ろす。
「嫌だ、って言ったの」
沖田さんも私の顔を見上げながら、ゆっくりとハッキリと言葉を口にする。
「えと、私、お夕飯の支度があるって言いましたよね?」
今、私は困惑した表情をしていると思う。
自分でも眉間に皺が寄ってしまっているのを感じるから。
「うん。でも、千鶴ちゃんの膝枕って気持ち良すぎて起きたくないんだよね」
「な、なに言ってるんですか!!」
ニッコリと満面の笑顔で、そう告げる沖田さんに私の頬が茜空と同じように赤く染まっていくのを感じる。
「くすくす・・・真っ赤になって可愛いね、千鶴ちゃん」
「か、揶揄わないでくださいっ!!」
笑い声を洩らしながら、沖田さんの手が私の頬を撫でる。
毎日、刀を握っているせいか節ばった手、でも暖かでしなやかな指先が気持ち良く感じる自分が恥ずかしくなる。
それになんだか、どんどん体温が上がっていくのを感じるし、沖田さんのことを直視出来なくなってしまう。
「ね、また膝枕してくれる?」
「え?・・・えぇ!?」
そう言うと、沖田さんは身体を横向けにすると、私の腰へと腕を回して動けないようにしてしまった。
それはまるで抱き締められているみたいで混乱に陥った私は、沖田さんの言葉を理解するのが遅れてしまった。
「『うん』って言うまで離してあげないから♪」
「そ、そんな!沖田さん、離してください!!」
「だから、千鶴ちゃんが『うん』って頷けば済む話だよ」
「それじゃぁ、私に選択権なんてないじゃないですか!!」
「そんなことないでしょ。『うん』て頷けばすぐに解放されるし、頷かないならこのまま、っていう二つの選択肢があるじゃない」
「それって選択肢じゃないですよね!?結局は了承しないと離してもらえないじゃないですか」
「まぁ、細かいことは気にしなくてもいいよ」
「き、気にするに決まってるじゃないですか!」
「そう?――それより良いの?」
「何がですか?」
「夕飯の支度があったんじゃないの?今夜の当番は・・・確か井上さんだったよね。そっか、井上さん一人で全隊士分の夕餉の支度してるんだ。大変だろうな、一人で」
”一人”を強調する沖田さんに、やっとこの後のやるべきことを思い出して私の顔が再び青く染まっていく。
優しい井上さんのことだから遅れた私を怒ることなく穏やかな笑みで迎えてくれることが予想できるけど、それだけに申し訳なさを感じる。
「っっ!!お、沖田さん、早くどいてください!!」
「だから選択肢は千鶴ちゃんにある、って言ってるでしょ」
「わ、分かりました!!いつでも膝枕でもなんでもしますからっ!!」
「本当に?いつでも?約束する?」
「はい、約束します」
「千鶴ちゃんの膝枕は僕専用だよ?他の人にしたら駄目だからね?分かってる?」
「分かりました!沖田さんにしかしません・・・・って、え?」
早く行かなくては、という焦りから沖田さんの言うままに言葉を反芻していたのだけど、言い終わる頃に私の中に違和感が広がり、視線の先の沖田さんはニンマリとした意地の悪い笑みを浮かべている。
「約束、したからね?千鶴ちゃん」
「ず、ずるいです、沖田さん!!」
「何が?僕は聞いただけでしょ?・・・・それともそんなに嫌?僕に膝枕するのは・・・」
沖田さんの声色に哀しげな翳りが差す。
そして、私の腰に回された腕が微かに震えながらキュッと締まり、私の下腹部に沖田さんの顔が埋められる。
怯えた子供のような沖田さんに私の心がツキンと痛みを訴えている。
いつもの沖田さんでいて欲しいと――。
「そんな・・・言い方、ずるいです。嫌なわけないじゃないですか・・・その、恥ずかしいだけで・・・」
「そう、良かった♪じゃ、千鶴ちゃんの太股は僕だけのものだからね。他の人には絶対にしちゃダメだからね」
哀しげな声から一変して常の飄々とした声に戻った沖田さんは、満面の笑顔を浮かべながら身体を起こした。
「だ、騙したんですか!?」
「ん?騙してなんてないよ。人聞き悪いなぁ。千鶴ちゃんの膝枕で眠ったら久しぶりにイイ夢が見れた気がしたんだよね。だからまたして貰いたいな、って思っただけ。それじゃダメなの?」
「いや、その・・・」
私は思わず口籠ってしまった。
過程に納得がいっていないだけで、沖田さんに膝枕すること自体を私自身も心地好く感じてしまっていることに気づいてしまっているだけに何も言えなくなってしまう。
「じゃぁ、また後でね、千鶴ちゃん」
「っっ!!」
沖田さんは素早く立ち上がると、私の頭にポンポンと触れてから、縁側を去っていた。
私といえば、せっかく自由の身になったというのに縁側から離れずにいる。
去り際に見せた沖田さんの表情が本当に幸せそうで、今まで近藤さんの前でしか見たことないような、あどけない笑顔をしていたから。
私の心臓が壊れるんじゃないかってぐらいにバクバクと脈打っていた――。
そして、その後――。
私の膝は”あの日”以来、永遠に総司さん専用となった。
総司さんも『千鶴』と甘やかな声で私を呼び、”あの日”初めて見せてくれた子供のようにあどけない可愛い笑顔を頻繁に見せてくれるようになっている。
(総司さんに『可愛い』なんて言ったら、機嫌そこねて”お仕置き”されちゃうから言えないけど・・・)
今日も私たちは、暖かな日だまりの中で安らぎを感じるのだった。
★♪後書き♪★
はい、ガルスタ付録に掲載されていたSSからの妄想話でした。
もう、なにあれ!!カワイすぎるだろっっ!!
萌えるなっちゅう方が無理!!て話ですわ。
あれは萌えまくるに決まってる!!
・・・というわけで、直後話を打ってみました。
楽しんでいただければ幸いです。
では、お読み頂き有難うございました!!
オヨメサンと、タンポポと、ダンナサマ
「月刊薄桜鬼vol2」を見て、ニヤニヤが止まらないー!!
いやー、これいいっすね!!おきちづ年表(違っ!)とかもあるんで、今後SS打つときとか重宝しそうです。
おきちづスチルに目が奪われるっっvv
あぁ、事件想起3のスイカパクリとか超イイよーーーーvvvv萌え萌えっす。
それにそれに、ずーーっと気になっていたチビキャラ新婚シリーズのイラストも見れて幸せvv
話には聞いてましたが、すんごい妄想を掻き立てられます!!
てなわけで、イラストを元に脳内でイロイロ練りこねってSSを打っちまいました(笑)
では、グッドEND後、沖田夫妻の日常の1コマでもOK!という方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
太陽の柔らかな日差しが降り注ぎ、心地好い風が優しく木々の葉を凪いでいる。
絶好の洗濯日和といえる午前中の朝。
とある山中の一軒家の庭先には、腕の中に洗濯物かごを抱えた一人の年若い女性が立っていた。
爽やかな空気を目一杯取り込むかのように女性が深い深呼吸をすれば、清涼な空気で体内が満たされていくのにつれて女性の表情にも柔和な笑みが刻まれていく。
肌に感じる暖かな日差し、鼻腔を擽る新緑の爽やかな香り、この穏やかな時間、すべてが女性に【幸せ】を感じさせているからだろう。
「んーー。・・・・さてと、早く干し終えなきゃ」
女性――千鶴には陽が出ているうちにやっておくべき家事仕事が盛りだくさんなのだろう。
千鶴が手際良く洗濯物を物干し竿へと干していけば、周囲に洗濯物を伸ばすパンパンッという気持ち良い音が鳴り響いていく。
「ふぁああ~~。千鶴、おはよー」
襟元の合わせを大きく緩め胸元を肌蹴させた状態で、頭をポリポリと掻きながら欠伸をしているのは、千鶴の夫である沖田総司だ。
「あ、総司さん!お早うございます。今日はお日様が気持ち良いですよ」
「ふふ・・・僕の可愛い奥さんは今日も朝から元気だね」
「はい、久しぶりの良いお天気ですし、やる事が沢山ありますから!!」
縁側に腰を下ろした総司は、己の組んだ足に肘を乗せて頬杖をつきながら洗濯物を干す作業に戻った千鶴の背をジッと見つめる。
身体全体に感じる陽の明かり、そして太陽の日差しの中にある千鶴の姿に、総司はふと笑みを漏らす。
「・・・・そういうことじゃ、なかったんだけどね」
クスリと、口端を持ち上げて悪戯っぽくどこか色を含んだ笑みを浮べると、千鶴の背に向けて言葉を紡ぐ。
「へ?何か言いました?総司さん」
洗濯物をバンパンと伸ばす手だけは止めずに、千鶴が首を傾げながらチラリと総司へと視線を向ける。
「うん、言ったよ。僕の可愛い奥さんは、昨夜あんなに遅くまで僕と睦んでたのに、朝から元気だなぁーって、ね」
ふふふ、と片目を瞑って昨夜を思い出させるような妖しい微笑みを浮べる総司をまともに目に捉えてしまった千鶴の動きがピタリと止まる。
『っ・・・・ちづる・・・・』
『あっ・・・そ、じ・・・さんっ』
総司の首筋に滴る汗や掠れた艶のある声を思い出して、千鶴の顔中どころか耳や首、全身がボボボっと瞬く間に真っ赤に染まっていく。
「むつっ・・・!!!そそそそそ、総司さん、あ、朝から、な、何をっっ!!!!」
顔を俯かせてギュッと己の着物を握ることで恥ずかしさに耐える千鶴との距離をクスクスと笑いながら距離をつめていくと、総司は千鶴の身体を背後から包み込むようにして抱きしめた。
「あれ、そんなに狼狽えるようなこと?本当のことでしょ」
真っ赤に染まった千鶴の耳元へ息を吹きかけるように囁けば、腕の中にある身体は拍車をかけるようにカチコチに固まっていく。
「も、もう、やめてくださいっっ!!」
それが楽しくて、可愛くて、ついつい過剰なほどに苛めてしまうのだ。
「あははは・・・いつまで経っても千鶴は初心(うぶ)だよね。それなに夜は・・・・」
「ひ、酷いですぅ、総司さんのばかぁーー」
涙目で睨むように訴えてくる千鶴に、流石に総司もやり過ぎたと気づいたのだろう、身体を離して千鶴の頭にポンポンと子供をあやすように手を触れさせた。
「ごめん、ごめん。機嫌なおして一緒に散歩に行こうか、千鶴」
「・・・・・・・・・」
「千鶴?」
「・・・せん」
「なに?」
「行きませんっ!!総司さんなんて一人で行って来ればいいんですっっ!!」
それだけ叫ぶと、千鶴は今までに見たこともない機敏さで洗濯籠を抱えて一目散に家の中へと駆け込んで行ってしまったのだった。
それは、珍しいことに総司がポカーンと間抜け面を晒してしまうほどの反応だった。
その後、いくら総司が話しかけても無視を決め込んで家事に精を出す千鶴に、今は仕方がないとばかりに深い溜息を吐いた総司は一人散歩へと出かけて行ったのだった。
===
「もうもうっ!!、総司さんなんて・・・知らないんだからっっ」
昼餉の準備をしながら、千鶴は一人ブツブツと呟いていた。
野菜を切る音や、鍋に食材を放り込む音がいつもより乱暴に聞こえるのは気のせいではないだろう。
「総司さんはいつもいつも私に意地悪するんだから!!私が『嫌です』て言っても聞いてくれないし・・・・総司さんなんて・・・・総司さんなんて・・・・」
そこまで言葉にして、千鶴は気づいてしまった。
食事の準備をしている以外は何の音も無く、家の中がシーンと静まりかえっていることに――、いつもなら食事の準備中でも邪魔・・・もとい傍に居る総司の気配に満たされているというのに。
気づいてしまえば、千鶴の心が寂しさを訴え始める。
「意地悪でも大好き」
鍋に味噌を溶き入れる手を止めて、ポツリと千鶴の本音が零れ落ちる。
「うん、知ってるよ」
「え?」
唐突に聞こえてきた愛しい声に、顔を上げれば千鶴の潤んだ瞳に悪戯っぽくも優しい笑みを浮べる総司の姿が映った。
「ただいま、千鶴」
「あ・・・おかえり、なさい」
「うん・・・はい、千鶴にお土産だよ」
そう言いながら、唐突に総司の手が千鶴の顔へと迫り千鶴は咄嗟に片目を瞑る。
けれど、総司の手はすぐに千鶴から離れていく。
その代わり、千鶴の髪には何かが差し飾られていた。
「これは・・・」
「―――千鶴に似合うと思っったんだ」
それはお日様のように愛らしいタンポポの花だった。
ふと見れば、総司の右手にもタンポポが数本束になって握られている。
「ふふ・・・タンポポ、可愛いですね」
タンポポに、総司の優しさに心が解されて、千鶴の顔に笑みが浮かぶ。
「そうだね・・・タンポポって千鶴みたいだよね」
「え?私ですか?」
「だって、千鶴の笑顔は僕にとってお日様みたいだからね。やっぱり千鶴と一緒じゃないと散歩も味気ないんだ」
「総司さん、ありがとうございます。でも・・・・」
「え、千鶴!?」
総司の手からタンポポを一本だけ抜き取ると、千鶴はそのタンポポを総司の髪にも飾りつけた。
「私にとっても、総司さんの笑顔はお日様なんです。私の心を暖かくしてくれる・・・このタンポポみたいに」
「千鶴・・・・ふふふ、僕たちって似たもの夫婦なんだね」
「ふふふ、そうですね」
総司と千鶴はお互いのタンポポに手を添えながら微笑み合ったのだった。
<了>
★♪後書き♪★
いぇーい、やっと『チビキャラ・新婚シリーズ』の沖田夫妻編イラストが見れたぁ!!
すんごーい、萌えるんですけど!!
このシチュエーションvv、カワユス~~vv
妄想がムラムラきちゃって突発的にSS打っちゃったよ!!
ではでは、ここまでお読みいただき有難うございました。
↓↓あ、良かったらオマケもドウゾ。
<オマケ>
食卓に並べられた食事をジッと見つめると、総司は苦笑いを漏らしながら口を開いた。
「・・・・ねぇ、千鶴。もしかして、まだ怒ってるのかな?」
「いいえ、怒ってなんていないですよ」
「じゃぁさ・・・ナニコレ?」
味噌汁につけ込んだ箸先に摘まれたのは緑色の物体だった。
総司はそれを摘み上げると、千鶴に見せつけた。
「何って、ごく普通の【長ネギ】ですけど?」
「そうだね、ごく普通の、にっがぁーーーい【長ネギ】だね・・・・ねぇ、千鶴。僕が苦いの嫌いなのは知ってるよね」
「えぇ、もちろんです。でも、好き嫌いは駄目ですよ、総司さん。ネギは身体に良いんですから。それに・・・・」
千鶴が何か言おうとしたが、聞いていなかたのか遮るかのように総司の声が重なる。
「分かった!!僕も子供じゃないし、嫌いな葱でも食べるよ、食べるけど・・・・食べやすくしてもらうぐらいはいいよね、千鶴?」
「あの・・・総司さん、その長ネギは・・・・」
わざわざ『食べやすく』と尋ねてくる総司の言葉に何か裏を感じた千鶴が困惑しながらも、先ほどいい損ねた言葉を言い連ねようとしたが、またもや総司のとんでも発言によって遮られてしまったのだった。
「千鶴が口移しで食べさせてくれたら食べるよ。そうすれば、にっがーーい葱でも甘くなると思うんだよね、っていうか、それ以外では絶対に食べないから」
「な、そ、総司さんっっ!?」
「ね、お願い、千鶴」
「っ~~・・・・」
その提案に驚いて総司の顔を凝視してしまった千鶴だったが、懇願するような翡翠の瞳に何も言えなくなってしまう。
総司の性格からして言い出したらどうしようもないことを感じて溜息を吐くと、味噌汁の碗へと口を付けた。
そして、総司曰く、にっがーーい長ネギを口に含むと、膳越しにあーんと口を開けて待ち構えている総司の口に己の口を触れ合わせて口内へと押し込んだ。
「んっ・・・。千鶴が食べさせてくれたお陰で・・・この葱は甘いねv」
「・・・・・」
満足気に満面の笑顔を浮べる総司に対して、千鶴は頬を朱に染めてそっぽを向いている。
(当たり前です。苦くないようにちゃんと煮込んだんですから)
そう思いながらも総司の笑顔を目の当たりにすれば、それでも良いか、と思ってしまうのだから――これも幸せな日常の一時なのだろう。
<オマケ・了>
君の笑顔とカプチーノ
ご無沙汰してます、理空です。
まだまだ不安定な状況ではありますが、こんなときだからこそ皆さん元気出していきましょうね!!
そして、ひとまず一安心のことに連絡のつかなかった親戚と連絡がつきまして無事であることが分かりました。
その知らせを聞いたとき、ホッと身体が軽くなるのを感じたほどです。
とはいえ、このような状況ではありますので節電を心がけながら少しづつ更新していきたいと思います!!
(えぇ、会社の昼休みに少しづつ打ったり、計画停電中で仕事にならない時間帯にネタを頭の中で構築しています。。。)
こんな拙いSSでも、読んでくださっている方が少しでも笑顔になっていただけたら嬉しいです。
では、現パロで沖田が社会人ですが、それでもOK!という方は「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
*********
あの娘と出合ったのは一ヶ月ほど前の夕暮れどき。
裏通りということもあってなのか、ちょうど客が僕しかいないカフェだった。
『え、えと・・・良かったらいかがですか?』
控えめな微笑みを浮べながらそう言った愛らしい声のウェイトレスの少女。
今でも僕の目に耳に焼き付いて離れないあの娘の最初の笑顔と声は、仕事や鬼上司のせいで疲れきった僕の心に染み入るようだった―――
「ふぁあああ~~~」
椅子の背もたれに体重をかけながら両腕を思いっきり上げて伸びをする。
ついでに壁の時計に視線を走らせばデジタルの数字は【15:30】を示していた。
(もうすぐ、あの娘が入る時間だ)
時間を確認した僕は、徐にデスクの上のノートパソコンの電源を切って鞄の中へと仕舞って席をたつ。
「おい、総司・・・」
その瞬間、一応僕の上司である土方さんが眉を吊り上げて怖い表情をしながら、これまた恐ろしく低い声で僕の名を呼んだ。
「なんですかぁ~~。土方ぶ・ちょ・うー」
「『なんですか』じゃ、ねーんだよっっ!!週に何度も同じ時間に、テメーは何処に行っていやがるんだっ!!」
机をドンッと土方さんの拳が叩きつけたことで机上の資料やペンが振動で飛び上がるほどの怒りが秘められている。
「えーー、秘密ですvv」
社内では鬼部長で有名な土方さんの怒気にも怯むことなく軽い口調で告げれば、土方さんの眉間がピクピクと引き攣りを増していく。
「お・ま・えはぁぁーーー、俺をおちょくってんのかっっ!!」
「嫌だなぁ、今頃気づいたんですか、土方さん?」
「そーーじぃー」
「そんなに怒ると、血圧あがりますよ?見た目は若くても歳なんですからあんまり怒らない方がいいですよ?」
ニヤリとした笑みを浮べながら心配しているかのような口ぶりで告げれば、土方さんの肩がフルフルと振るえ、額には堪忍袋の緒が浮かび上がっている。
本当に土方さんって、普段は冷静なクセに身内には感情豊かだよねぇ~~。
「誰が、俺を怒らせてるんだぁ、あぁああっっ!!テメーのせいだろうが、総司っっ!!だいたい、俺はまだそんなに歳は食っちゃいねーーっっ!!」
「土方さんの歳なんかどうでもいいんです。それより、僕はちょっと外出してきます」
「そーじぃー。てめーが歳のこと言い出したんだろうがぁっ!!っていうか、何勝手に外出しようとしてやがんだっっ!!俺は許可した覚えは無いんだよっ!!」
バンッっと再び机を叩く大きな音が部屋中に響き渡り、周囲から僕たちの様子を伺っていた同僚たちがここ最近の僕と土方さんのやりとりに溜息なんかを吐いていた。
「はぁ。僕の心はどっかの鬼部長のせいでボロボロなんです。仕事にも集中できないほどに神経が擦り減ってしまってるんですよ・・・このままじゃ僕は鬼部長のせいで鬱になって出社拒否することになっちゃうかも」
「図太いテメーの何処に【鬱】になる要素がある!?」
僕もわざとらしいほどに溜息を吐き、胸を押さえながら傷ついているかのように眉間を寄せてみせるけど、土方さんは忌々し気に呟くだけだった。
まぁ、このやり取りも毎回のお約束だしね。
「・・・・と、いうわけで、このままじゃ僕の繊細な心がズタズタになってしまうので、ちょっと外で仕事してきます~~」
クルリと身体を翻した僕はひらひらと手を振りながら出入り口のドアへと向っていく。
けれど、ドアの前で動きを止めた僕は顔だけを土方さんの方へと向けると、ニッと口端を持ち上げ意地の悪い笑みを浮べる。
「あ、言っておきますけど、誰かを尾行に付けても無駄ですからね?じゃぁ、行って来まーす」
それだけ言い放つと、今度こそ事務所を抜け出したのだった。
廊下にまで聞こえてくるような土方さんの怒声を無視したままね。
最近の僕はノートパソコンを持ち出して外で仕事をする機会がやたら多くなった。
別に会社の居心地が悪い、ってわけじゃない。
ただ、ここ最近で僕にとっての【日課】が出来てしまった、というだけ。
それは絶対に誰にも教えたくないようなこと。
だってさ、絶対に皆もあの娘のこと知ったら気に入っちゃうと思うんだ。
なんとなくそんな確信が僕にはあったから、わざわざ尾行を撒くようにして遠回りして目的地へ向うんだ。
会社から数分の場所にある裏通りに面した隠れ家的なカフェに。
あの日、僕がこのカフェに入ったのは偶々のことだった。
土方さんと仕事のことで意見が合わなくてムシャクシャして外で仕事をしようと飛び出し、苛々した気分で歩いていた僕の鼻にほのかな甘い香が漂ってきた。
それは僕の苛々感さえ解すかのようなものでつい足がそこへと向ってしまった。
平日の昼下がりということもあってか、裏通りにあるそのカフェには客はまったくいなかった。
もしかしたら準備中かもしれない、とも思ったけど扉には【OPEN】のプレートが下げられて開店していることが分かった。
アンティーク調のドアを開くと、落ち着いた雰囲気の店内にチリーンと鈴の音が鳴り響く。
日差しの入り込む窓際の席に座った僕は、マスターらしき男性にミルクティーを注文すると、すぐにノートパソコンを取り出し仕事に集中していた。
静で居心地の良いカフェだったせいか、集中して仕事を進めていた。
最初に注文したミルクティーもすっかり飲み終わって暫く経った頃だった。
コトリ――。
テーブルの上に何かが置かれる音。
音と共に視界の端に映り込んだ陶器と華奢な手に、向かい合っていたパソコンの画面から顔を上げる。
そこには、このカフェの制服らしき服とレースをあしらった純白のエプロンを纏ったウェイトレスの少女が立っていた。
いつの間にか、マスターらしき男性の他にウェイトレスの少女が増えていたようだった。
「え・・・?僕、コレ頼んでないけど?」
頼んでもいない飲み物が運ばれてきたことに訝しげな視線をウェイトレスの少女へと向ける。
普通なら運び間違えかとも思うけど、それは絶対に有り得ないことだった。
だって、この時もカフェの客は僕一人だったから。
「え、えと・・・良かったらいかがですか?」
そう言って、遠慮がちな微笑みとともに差し出されたのは、暖かな湯気が立ち上るカプチーノだった。
そこには可愛らしいネコのイラストと【Fight!】の文字。
「僕に?」
「は、はい・・・」
「どうして僕にこれを?」
黒真珠のように煌く印象的な瞳を見つめながら、そう問えばウェイトレスの娘は頬を僅かに紅く染めながら口を開いた。
「あ、あの、ずっと集中されていたのようなのでお疲れだと思いまして・・・・というか、私の練習用のカプチーノで申し訳ないんですが・・・・」
少しの間、その娘と視線が交じり合わせながら沈黙が続く。
「ご、ごめんなさい・・・ご迷惑、でしたよね」
沈黙にウェイトレスの娘が弱々しい声と共に肩を落とす。
その姿があまりにも健気で可愛らしかった。
「クスクス・・・ありがと。それじゃ遠慮なく貰うね」
「はい!」
ふと笑みを漏らしながら、自分でもビックリするぐらい優しい声をウェイトレスの娘にかけていた。
すると、ウェイトレスの娘の表情はみるみるうちに満面の笑顔へと変ってき、嬉しそうな返事がかえされた。
その笑顔を堪能しながらカプチーノに口をつければ、暖かな液体が身体どころが心まで満たしていくような感覚を感じた。
コクリと喉を鳴らしながらカプチーノを飲んだ後には、不思議な安堵感とともに優しい想いが身体に満たされるかのようだった。
自分の淹れたカプチーノを飲む僕の姿をウェイトレスの娘がジッと真剣な眼差しで見つめている姿に、僕は再び笑い声を漏らす。
「あははは。真剣な目だね、ウェイトレスさん?」
「へ・・・?あ!!す、すいません!!お客様に対して失礼ですよね!!で、では、ごゆっくりどうぞ!!」
慌てた様子で、エプロンのリボンを翻しながら去っていくウェイトレスの娘の背を見つめながら僕は声を掛けた。
「カプチーノと優しさをアリガト。雪村千鶴ちゃん♪♪」
驚いたように目を見開いて僕を見る千鶴ちゃんにニコッリとした微笑みを贈った。
千鶴ちゃんは湯気でも出そうなくらいに顔を真っ赤にして口をパクパクとしている。
「な、なんで私の・・・?」
「なんでって。ココに書いてあるでしょ」
そう言って、僕は自分の胸元をトントンと叩いて、名札の存在を千鶴ちゃんに教えたのだった。
こうしてこの日から僕は、このカフェの常連になっていくんだけど・・・。
それはまた今度の機会にでも語ってあげるね♪♪
<END>
★♪☆後書き☆♪★
久しぶりの沖x千で、リハビリ兼ねております。
現在も色々と心配事はありますが、こんなときだからこそ
元気出していきたいと思います!!
復帰(?)第一弾は現パロでしたー。
いかがだったでしょう・・・なんかまた続きそうな雰囲気がorz
うん、妄想だけはあります。(←え)
ではでは、ここまでお読みいただき有難うございました!!
陰陽和合
ホントニスイマセヌ。(←なぜ、カタコトだ)
二週つづけてアップ出来ない感じでごめんなさい(汗)
本当に忙しくて・・・・・。
えぇ、3/6のオンリー前日まで、いっぱいいっぱいです。
あ、でも新刊の「廻るキセキ」はバッチリだしますので!!
初の印刷所からの直接搬入なのでドキドキですが。
キリバンの方も遅くなっていて本当にごめんなさい。
脳内で萌え萌え、ウズウズはしてるんですが。
すいませんが、もう少々お待ちくださいませ。
コメント、拍手くださる方もありがとうございます!!
めちゃくちゃ嬉しいです♪♪
なのに、お返事もなんもできなくてゴメンナサイ(泣)
・・・では、短くて意味不明ではありますが、時間の合間にSS(本当に短いですよ!多分)を打ちましたので、ED後・沖田夫妻SS、意味不明でも許してやらぁ!・・・という方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
もうすぐ陽も落ちようかと頃。
山奥にある一軒家から暖かな湯気が立ち上っていた。
トントン―――
グツグツ―――
フンフン―――♪♪
包丁が野菜を刻む音、鍋のお湯が煮立つ音、鼻歌の旋律―――軽やかな律動を刻むそれらは幸せを象徴するかのようだ。
いや、その音を奏でている女性の表情を見れば確実に幸せなのだろうことが伺える。
それもそのはずだ。
つい最近、愛する男(ひと)と婚姻を結んだばかりの新婚ホヤホヤの新妻なのだから。
その新妻の背を眺めながら、同じく幸せを感じつつも不思議な感覚に包まれている男の姿がある。
言うまでもなく、愛らしい新妻の夫である男だ。
この男にとって、こんな穏やかな時間が、穏やかな気持ちが自分に訪れること自体が夢のようなことだった。
いや、夢に見ることさえもなく、刹那とてこんな【未来】を考えたことなんてなかった。
男が歩んできた道のりはそれほど険しく、紅く染まっていたのだから。
【陰】と【陽】―――。
人間の性質を大きくこの二つに分けるとしたら、間違いなく男は【陰】だろう。
でも、初めて心の底から慕った人は【陽】で。
そして、初めて心から愛した娘も【陽】で。
それは眩し過ぎて、最初は【陽】を頑なに拒んでいた。
でもやっぱり惹かれずにはいられなくて。
心底から慕った【陽】が消えてしまったとき、崩れそうになる心を支えてくれたもう一つの【陽】。
たくさんの辛い出来事に遭遇しながらに辿りついた安穏の地―――。
けれど、時々これが夢ではないかという不安が男を襲う。
そんなときには、いつも愛する妻に触れて確認したくなってしまうのだ。
この心情は心の奥底に隠したまま―――。
「ちーづーるー」
震えそうになる声を必死に隠して、甘えたような高めの声色で己の妻である千鶴の耳元に囁きかける。
夕餉の支度中だった千鶴の邪魔をするかのように背後から腕を回して抱きつくことで、その温もりを感じていたかったのだろう。
この腕の中にある【幸せ】が確かに現実なのだと。
「そ、総司さん、な、なにしてるんですか!?」
慌てたようにビクリと反応する身体と上擦った愛らしい声に、総司は自分の心がホッとして心が緩んでいくのを感じる。
「んー、千鶴が構ってくれないからつまらなくてさぁ」
そう言いながら、妻の後頭部に頬を擦り付けて目を細めている様は猫がじゃれているようで、このうえなく幸せに満ちている。
先ほどまでの不安が嘘のような表情である。
そうなると今度は、総司の心に悪戯心がムクムクと湧き上がってくるのだからホトホト現金なものである。
そんな総司の心情を知らない千鶴は困惑したように、総司の腕を解こうとしている。
近くに火にかけている鍋もあったため、アッサリと千鶴の身体を開放する。
「夕餉の支度中ですから、あちらで待っててくださ・・・・」
その瞬間にクルリと千鶴の身体が半回転して総司と千鶴は向かい合う形となると、千鶴は細く整った眉を吊り上げ、瞳に力を入れてじゃれ付いて来る夫へと抗議の言葉を告げた。
だが、そんな千鶴に対して総司は唇を突き出して拗ねたような表情で一言を漏らしただけだった。
「いやだ」
頬を紅く染めて眉を吊り上げても怖くないんだけどな、なんて思っていることは、少しも態度には出さずに。
「・・・・総司さん」
最後まで言い終わらないうちに拒否の言葉を告げられた千鶴は、一瞬だけ何て言われたのか理解できずに目を瞬きながら総司をジッと見つめてしまった。
すぐにそれが、ココから離れたくない、という総司の主張だと分かると深い溜息が出てきてしまった。
「僕、言ったよね。千鶴が構ってくれないからツマラナイって」
「私も言いましたよ?夕餉の支度中ですから、待っててください、って」
「うん。だから僕も手伝うよ、一人で居てもツマラナイし」
「はい?」
「・・・・なにかな、その意外そうな表情は?・・・・ね、千鶴?」
「え?あ、い、いえ・・・・」
視線を彷徨わせる千鶴に総司はニッコリと笑みを浮かべながら問いかける。
「・・・・それとも僕がココにいたら邪魔?」
――けして、目は笑ってはおらずに黒いものを宿していたが。
「邪魔、ではないですけど・・・・・」
それを敏感に感じ取ったのか、千鶴の声に若干の怯みが生じる。
「じゃぁ、いいよね。一石二鳥だよね、僕は千鶴と一緒に居られるし、千鶴は手間が減るもんね」
「・・・・・・・・」
「・・・・なんでソコで黙るのかな、千鶴?」
言葉もなく俯いてしまった千鶴に、再び不安が総司の心に去来する。
だが、それも一瞬のことだった。
「・・・・お身体は・・・・大丈夫なんです、よね?」
「へ?」
「具合悪くなったりしませんよね!?」
必死なほどの千鶴の真剣な表情に今度は総司の方が呆気にとられてしまう。
「・・・・ふ、あはははは・・・」
次に訪れたのは身体の奥底から湧き上がる可笑しさだった。
「そ、総司さん!?な、何が可笑しいんですか!?」
「ん?お互い様だったのかな・・・って思ってさ」
「え?何のことですか?」
「現在が幸せすぎて怖い、ってことだよ」
「・・・・あ、あの、総司さん、も?」
「そう、だね・・・・本当はね、千鶴。僕は一秒でも離れているのが嫌で、少しでも長く千鶴を感じていたいって、思ってるんだよ。だからさ、一緒に居てもいいよね?」
「そんな風に言われたら、断れるわけないじゃないですか・・・・私だって総司さんをいつでも感じていたいのは同じなんですから・・・・・」
翡翠色の瞳が細められ、恥ずかしそうに俯く妻の姿を愛しそうに見つめている。
「千鶴」
「総司さん」
その声と視線に気づき、千鶴もまた潤んだような黒真珠の瞳を愛する夫へと向けた。
グツグツ―――――
二人がお互いの想いを乗せて熱い視線で見つめあっていると、湯の煮えた鍋が己の存在を主張するかのように蓋をカタカタと音をたてて今にも泡が吹きこぼれそうになっていた。
「あ、いけない、お鍋!!」
「千鶴!!僕がやるから触らないで」
それに気づいた千鶴は、咄嗟に素手で熱くなっている鍋へと手を伸ばしかけたが、総司の手によって押し留められ、鍋に触れることはなかった。
総司がテキパキとした動きで濡れた布巾を取っ手に巻きつけて火から下ろしたのを確認して、千鶴はホッと溜息を吐く。
一瞬の沈黙が降り、二人の目が自然と交わる。
「ふふふふ・・・・」
「あははは・・・・」
安心感が訪れた途端に、ふと、頬の筋肉が緩んでどちらともなく笑い声が漏れ出る。
「あの、お手伝い、お願いしてもいいですか?」
「もちろん♪♪」
その後、仲睦まじく肩を並べて食事の準備をする若夫婦の姿があったとか。
<了>
★☆後書き☆★
す、すいませぬ。
お話も短めな感じです。・・・いつもよりかは。
意味不明なのはいつものこと、つーことで(汗)
なんかも、いっぱいいっぱいで・・・・orz
つか、二人してイチャイチャとご飯つくる話を書きたかったのに!!
・・・今度の機会にでもリベンジします。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
ソコカラハジマルセカイ
・・・・すいません、意味不明なお話になっちゃいました(大汗)
一応、転生パロ(SSL設定はナッシング!!)おきちづ になります。
では色々と変でも良いよ!って方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
それは通学中のふとした瞬間。
携帯の画面に表示された文字を見た瞬間にザワリと心が粟立つ。
【今日の運勢】を通学中の電車の中でチェックするのが私の日課にもなっていた。
『恋愛運最高!!運命の人に再会できちゃうかもvv』
まるで風が水面を撫でるように静かに波立ちが広がっていく。
唐突なほどに私の心を【孤独】と【虚無】が支配する。
世界から私一人が取り残されたような感覚。
心にポッカリと穴が空いて何かが足りないと訴えてる。
私は【一人】だったんだと、気づいてしまった。
そしてら、私の世界からは急激に色が失われて音が遮断される。
私の目に映る【日常】はモノクロに染まり、私の耳には何の音も届いてこない。
通学途中の電車の中は混雑とざわめきでひしめいているはずなのに、イヤホンからは好きなアーティストの楽曲が流れているはずなのに―――私には何も聞こえない。
私を囲む高い壁の閉塞感に身動きもできずに息苦しくなって。
呼吸の仕方さえも分からなくなってくる。
寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい。
アナタの居ない世界は寂しくて、早くアナタに会い―――――【アナタ】ってダレ?
私は誰に会いたいの?
私が待っているのは、探しているのは―――ダレ?
『―――ちゃんと待ってるんだよ?必ず千鶴を迎えに行くから』
早く、早く、早く、早く、早く。
―――さんに会いたい。
どこ?どこに居るの?
『だから、寂しくて泣いたりしないんだよ?・・・心配しなくても僕の心は永遠に君のモノなんだから、さ』
いつ、私たちは出会えるの?
本当に出会えるの?
『私の心も―――さんのモノです。だから、私だって―――さんを迎えに行きます』
誰を求めているのかも分からなクセに、視線だけは【その誰か】を探してしまう。
だけど私の周りは高い壁で隔たれていて、どんなに見渡しても壁しかない。
色褪せたままの世界で私は一人ぼっち。
「っ・・・!!」
私を囲んでいた壁が一斉に一定の方向へと流れていき、その波に私の身体が呑み込まれて沈んでいく。
身体には圧迫されたような衝撃がとどめなく走り、私の視界はいつもより低いものになっていた。
人の海底で座り込んでしまった私の目には、たくさんの足元が視界に映り込んでくる。
背後ではプシューと電車の扉が閉まる音がしているみたいだった。
立ち上がることもできずに呆然と膝に滲んでいる赤い液体を眺めている。
「・・・ねぇ君、大丈夫?」
音の無くなった私の世界に響く男の人の声。
その低くてどこか心地好い声が私の体内を満たしていくのと同時に【現実】が私の身体に戻ってくる。
世界にはちゃんと色があって、通勤・通学時間帯のいつもの騒がしい音もしている。
ついさっきまで世界を遠くに感じて、孤独感に苛まれていたのが嘘のようだった。
トクン、トクンと微かに胸を鳴らしながらも身体は動いてくれなくて、なんとか顔だけをあげて男の人の姿を確認する。
腰を屈めて私へと手を差し伸べてくれている男子高生。
鮮やかなほどの翡翠色の瞳に吸い込まれそうになってしまう。
「・・・あ」
その男子高生は、私が通う女子校の隣駅にある男子校の制服を身に纏っていた。
ネクタイを緩めていて、ダボっとした大き目のカーディガンを羽織っている。
「ねぇ、早く立ち上がった方がいいんじゃない?こんな所で座り込んでたら危ないよ?」
「え?」
「・・・・他の意味でもキケンだと思うしね」
「他?キケン?」
差し出された手を取ることもなく呆けた様子で見上げ続ける私には、その言葉の意味までは頭の中には入ってこなくて、ただ言葉をなぞるだけで。
「はぁ・・・・ほら、呆けてないでさっさと立つ!スカートが捲れて太ももが見えちゃってるよ」
カレは少しだけ視線を周りに這わせた後、苛々した様子で私の手を掴んで立ち上がらせてくれた。
力強い手に引っ張れて立ち上がることは出来たけど、そのヒトから視線を外すことは出来ないままだ。
「君って危なっかしい子だよね――――」
苦笑気味の笑みを浮かべながらもハッキリとした断定口調でそう言う彼が誰かと重なる。
『千鶴って危なっかしいよね――――』
ドクンドクンと心臓が段々と高鳴っていき、身体が熱を持って震えるのを感じる。
「だからかな?僕が君から目を離せなかったのって・・・・」
『だから、僕は千鶴から目が離せないんだよね』
目の前のカレと誰かの声が、表情が重なって、その言葉に私は大きく目を見開いた。
目の前のカレの姿が突如として歪み始める。
ジワリとした熱さを瞳に感じたかと思うと、頬を暖かな滴が伝った。
【最後】の瞬間に、私の頬に触れながら弱々しい頬笑みを浮かべて囁いた言葉が脳裏を過ぎったから。
「そ・・・・じ、さん」
涙声に混じった微かな音が私の口から漏れ出る。
彼のシャツの裾をギュッと握った私は、涙で潤みつつも力を籠めた瞳を目の前の彼へと向けた。
「見つけた―――我慢できなくて迎えに来ちゃいました」
「は・・・?」
「・・・待ってるだけなんて私は嫌です」
カレは驚いたように私を凝視していて、でも驚いているのは私も同じで。
私の唇からスラスラと漏れ出る言葉に自分自身が一番ビックリしてるんだから。
私はカレを知っているの?
探していたのは、求めていたのは、カレなの?
「ふぅーん。それってナンパ?大人しそうに見えて大胆なんだね、君」
でもすぐにカレは口端を吊り上げてニヤリと笑みを刻むと、悪戯っぽい視線を私へと向けた。
「っっ・・・・」
ビクリと私の身体が反応して、『マズイ、これは何かを企んでる表情だ』と、本能的に悟ってしまう。
カレの『ナンパ』という言葉も否定できないままに、身体も思考も固まってしまった。
「ねぇ、もしかして【コレ】が関係あったりするわけ?」
「ソ、ソレ!!」
カレが私に向けているのは桜色の携帯電話の画面で、見覚えのあるものだった。
思わず声をあげた私に、カレはますますと笑みを深くする。
これは心底楽しんでいる表情だ、とまたもや悟ってしまうのはなぜ?
「・・・・『恋愛運最高!!運命の人に再会できちゃうかもvv』、ねぇ~~。女の子って占い好きだよね」
「わ、私のケイタイ・・・・」
「うん、さっき転んだ時に落としたよ」
「か、返してくださいっ!!」
「酷いなぁ。僕は親切に拾ってあげただけだよ?」
「そ、そうだ!!・・・・あ、ありがとうございました!!」
カレがケイタイを拾ってくれて、私を助け起こしてくれたのも事実に今さらながらに気づく。
慌てて勢いよく頭を下げてお礼を言ってから顔をあげると、カレはキョトンとした表情をしていた。
「あ、あの?」
何も言わないカレに首を傾げて恐る恐ると見上げてしまう。
しばらくの間、お互いの視線が交差し、沈黙が漂う。
その沈黙を破ったのは沖田さんの笑い声だった。
「ぷっ・・・あははははは。君って【変わってる】って言われない?」
「え?私が、ですか?」
「うん。君、面白いよ」
「お、面白い?」
【面白い】なんて言われたことがなかった私は、パチリと瞬きを繰り返してしまう。
私への評価は大抵が【真面目でツマラナイ】だったから。
「うん、面白いよ。素直かと思ったら強情だし・・・それに大人しい娘かと思ったら僕をナンパするし、ね」
目を細めて意味ありげな笑みを浮かべるカレにドクンと胸が早鐘のように脈打つ。
「ち、違いますっっ!!な、ナンパなんて・・・・し、してないです!!」
心臓の上のシャツをギュッと握ることで何とか高鳴る鼓動を誤魔化しながら、否定の言葉を口にした。
「あれ、違うの?この【運命の人】って僕じゃないの?」
「ちが・・・・・」
からかうように告げるその言葉を否定しようと口を開きかけたけれど、『違わない』ことに気づいて私は言葉を止めてしまう。
「―――僕の【運命の人】は君な気がする」
「え?」
ふいに告げられた言葉に私の瞳が大きく見開き、飄々とした笑みを浮かべていたはずのカレの真面目な視線が私を貫く。
「でも・・・・僕が迎えに行きたかったのになぁ」
ポツリと呟いたカレは子供のように捻くれた表情をしていて、それが何だか可愛く感じてしまう。
「ふふふ・・・・」
「・・・・なに笑ってるわけ?」
「なんか可愛いなぁって・・・・・あっ!!」
「へぇ。僕が『可愛い』ねぇ・・・・これからタップリとまた教えてあげないとね?」
「な、なにを・・・?」
もしかして、また怪しい方向に行っちゃてる?
な、なんか目が据わってるんですけど!!??
「分かってるクセに。ねぇ―――千鶴?」
「っっ!!?」
耳元で囁かれた私の名前と吐息の熱に、頬が急激に熱を持っていく。
『どうして、私の名前を!?』って言いたいのに、言葉にはならずに空気になるのみで。
「あ、ちなみに僕は―――沖田総司だよ。これからよろしくね、千鶴ちゃんv」
「ーーーっっ??」
「ほら、さっきみたく『総司さん』って呼んでよ。―――僕たち【恋人】になるんだから♪♪」
「こ??!!」
「なに、【恋人】じゃ不満?じゃぁ【夫婦】にでもなる?・・って、ソレいいかも。【高校生結婚】も結構ソソルよねv」
「ちょ、ちょっと待ってください!!さっきから何言ってるんですか!?」
「え・・・そういえば?」
なんか勝手に話を進めてる沖田さんに私の心臓があらゆる意味でバクバクいっているのに対して、なんでもないことのようにアッサリと告げた沖田さんはすっごくイイ笑顔を浮かべ続けている。
「んーー僕もよく分かんないけど、君のこと気に入っちゃったんだよねぇ。世間で言うところの【一目惚れ】なのかな?・・・ってわけで、今この時から僕たちは【恋人】だからね♪」
呆然と沖田さんを見つめていたらフワリとした暖かさに包まれていた―――。
「え、えぇえええええ???」
―――ココカラ再び二人の世界は始まっていく。
<END>
★☆後書き☆★
はぇ?・・・・なんだコレ?
何が書きたかったんだ、私は?
いや、記憶があるようなないような二人の巡り合いを書きたかったんすケドね☆
・・・・ホント、すんません(大汗)
でもでも【高校生夫婦】・・・マジで萌えるvv(またいつもの思いつきだったんだけどね)
このシチュエーションで書いちゃおうかなぁ。。。。
戯言はさておき、
ここまでお読みいただき有難うございました!!
変わらぬ鐘の音と、――
多分、甘いはず。うん、多分。
元々は、お正月ミニSSとしてアップしようかと思って、正月に最初だけ打っておいてウッカリ忘れてました。(←アホ)
あははは、正月に実家の妹のPCで打っててHDに保存していたもんだから、忘れちゃったんだよね(汗)
だがしかし、また実家に来る用事があったんで、妹のPCで打ってアップしちゃえ!的にしちゃいます!!(←言葉がおかしいよ?今さらだけどな)
だから本当に今更感タップリな年越しSSとなります。
うん、ミニSSの予定だったけど、打ってたらいつもとあんま変わんないテキスト量になっちた★
では、残念な感じでもOKな方は「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
**********
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・
月明かりだけの薄暗い部屋はシーンと静まり返っていた。
遠くから聞こえてくる鐘の音と広間の方から微かに聞こえてくる騒ぎ声が、その部屋の静かさを際立たせているのだろう。
空気が冷えているせいか夜空に浮かぶ月がくっきりとした輪郭を魅せている。
そんな月がよく見える窓際の壁に背を預けてゆったりと座り込んでいる青年の膝のうえには、顔を赤く染めたまだ幼そうな少年の頭が乗せられている。
青年は片手には猪口があり、時折口元に運んでは傾け、コクリと喉を鳴らす。
もう片方の手は顔を赤くして眠っている少年の柔らかな前髪を飽くこともなく梳いている。
少年の桜色の唇からは小さな呻きが漏れたかと思うと、眉根が寄せられ辛そうに表情だ。
「ぅんッ・・・・」
髪を梳いていた手が離れたかと思うと、少年の火照っている額がひんやりとしたもので覆われる。
少年は頭がひどく重たくてグラグラしていたが、額に感じるひんやりとした感触が気持ち良くて少しだけ頭痛が和らいでいく気がしていた。
だが、さっきまでの優しく髪を梳く指先の感触が無いことがなんだか寂しく感じて自然と閉じている目端に水滴が溜まっていく。
「父・・さま・・・」
幼い頃、熱を出して寝込んで寂しい心持になったときに少年の父が頭を撫でてくれながら傍にいてくれたことを思い出したのだろう。
「・・・は、君の父さまじゃない・・・・」
つい漏れた少年の言葉に、青年は複雑そうな表情をすると、苦笑じみた響きを滲ませながら持っていた猪口をコトリと置いて顔を少年へと近付ける。
少年の頬を柔らかで冷たい毛先が擽り、目元には柔らかで暖かい何かが触れ、そこに溢れていた水滴を吸い取るような音が小さく響く。
眠りの朦朧とした意識の中でも、目元に触れた柔らかな何かに少なからず【愛情】のようなものを感じた少年はトクンと胸を鳴らし、再び深い眠りへと落ちていった。
小窓の襖を開け放ち、壁に寄りかかりながら青年は緩慢な動きで手に持った猪口へと口をつけている。
もう片方の手は、青年の膝を枕にして眠る女性の頭へと置かれており、それが自然のことのようにゆっくりと優しく手つきで女性の髪を梳き続けている。
冷えた夜空に浮かぶ月を肴に呑むのも風情があって、それはそれで良いのだがそろそろ飽きてきたらしい青年はふと視線を落とした。
膝の上で顔を赤くして眠る愛らしい女性を暫しの間、眺めていた青年は徐に口角をあげて悪戯っぽい笑みを刻む。
手近な場所へと猪口を置き、腰を屈めて女性へと顔を近づけていく。
青年の毛先が女性の頬を擽り、青年の暖かく柔らかな唇が女性の顔のいたる場所へと触れていく。
柔らかな輪郭を描く頬、黒真珠のような綺麗な瞳を今は隠している瞼、赤くなっている額、桜色に色づく唇―――
「んん・・・・そ・・じ、さん?」
その感触に女性の目元が微かに震え、気持よさそうな声とともに呟かれたのは青年の名だ。
自分の名がその唇から紡がれたことに深い笑みが浮かぶ。
「そうだよ・・・ねぇ・・・そろそろ起きない?・・・・千鶴」
それでもまだ目を覚まさない女性・千鶴に、青年・総司は殊更に甘い響きで囁きながらも口づけを止めることはない。
「ぅんん・・・・」
「くすくす・・・・千鶴も強情だなぁ・・・まぁいいけどね・・・・早く起きないと――どうなっても知らないよ?」
耳たぶをあま噛みしながら吐息混じりに告げられた言葉に、千鶴の瞼が大きく震えてパチリと開く。
「あ、残念。起きちゃったんだ?」
「そ、総司さん!?な、な、なにを!!??・・・・痛っ!!」
甘くも不穏な空気を感じた千鶴は、総司の膝からバッと頭を離して飛び起きたが、ズキンと痛む頭に顔を僅かに歪めた。
「そんな急に起き上がるからだよ、千鶴」
「あの・・・私・・・?」
額を抑えながら記憶を辿る千鶴に、総司は苦笑を漏らすが、その声には心配そうな色が滲んでいる。
「うん?あぁ・・・水と間違えて僕のお酒を飲んじゃったんだよ。それより頭痛は大丈夫?」
「はい、一瞬痛みが走っただけでもう大丈夫です。それよりも、すいません私ったら・・・・」
「・・・千鶴らしいなぁ。自分のことよりも僕の方を気にするなんて」
申し訳なそうに目を伏せる千鶴だったが、総司はいつもどおりの千鶴にホッとしていた。
体調は大丈夫そうだと判断した総司の口から漏れたの苦笑だった。
「だって、せっかく二人だけで迎える初めての年越しだったから・・・」
ますます落ち込んだ表情をする千鶴に、総司は安心させるような笑みを浮かべて千鶴の頬を撫でる。
「大丈夫だよ、まだ明けてないから」
「本当ですか!?」
「うん。その証拠にほら・・・・」
「あ・・・・除夜の鐘」
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・
「一緒に年明けを迎えたかったのは僕も同じことだしね。だからこうやって千鶴を起こしたわけだし・・・。千鶴は随分な時間を眠ってたように感じたのかな?でも実際はそんなでもなかったんだよ」
「総司さん・・・・」
震えた声で名を呼ぶ千鶴の瞳には涙が滲んでいる。
総司は頬に触れていた手を目元に持っていき、その水滴を拭う。
「今年もよろしくね、千鶴」
「・・・・はい。私こそ、今年もよろしくお願いします。総司さんと一緒に新しい年を迎えられて嬉しいです」
「うん、僕も千鶴と迎えられて嬉しいよ・・・・これからも一緒に・・・・・・」
「はい、一緒に・・・・・」
暫くの間、見つめあった二人はどちらともなく顔を寄せると、今年初めての口づけを交わしたのだった―――。
<終わり>
★☆あとがき☆★
新年一発目の沖x千SSとなります。
いかがだったでしょ。。。
年明けから、もう何日たってんだよ、というツッコミは無しの方向でvv
なんか、おまけと合わせたらいつもと変わらないテキスト量になってしまった(苦笑)
ミニSSの予定だったのに・・・。
というわけで、↓におまけがあるのでよかったらドウゾ。
では、ここまでお読みいただき有難うございました!!
【おまけ】
町から離れた山奥にひっそりと佇む一軒家があり、若い夫婦が二人寄り添う仲睦まじい姿があった。
妻の千鶴は、夫の総司の左肩に凭れかかっている。
新年の月を見上げながら鳴り響く鐘の音に耳を傾る二人の手はしっかりと握られている。
千鶴に酌をしてもらって並々と注がれていた猪口につけて、クイっと呑みほした総司は徐に口を開いた。
「そういえば、千鶴」
「なんですか、総司さん?」
「一つだけ訂正しといていいかな」
「・・・?何をですか?」
言葉の意味が分からず目を瞬いて首を傾げる千鶴に、総司はクスリと笑みを浮かべる。
それを話したときに千鶴がどんな表情をするのか想像するだけでも、千鶴への愛しさは募るばかりだ。
「千鶴と二人だけで迎える年越しは今回が初めてじゃないよ?」
「え?」
「――本当、千鶴は変わらないよね。今も、昔も」
「そ、総司さん!?それどういうことですか!?」
「ん?そのままの意味だけど?」
「で、でも今までは新選組の皆さんと・・・・・」
「まぁね。でもあれは一応【二人っきり】って括りになると思うんだよね~」
「もう総司さんっ!!意地悪しないで教えてください!」
「さっきから言ってるよ?千鶴は今も昔も変わらない、って」
「分からないから聞いてるんです!!」
「そっか・・・千鶴は忘れちゃったんだね」
「あ・・・ごめんなさい」
瞳を伏せてわざとらしく悲しそうな表情をする総司にも気付かずに千鶴は申し訳なさそうに俯いてしまう。
長い付き合いで総司が基本的にいじめっ子体質であることなど分かっているはずなのに、それでも簡単に騙されてしまうのは千鶴が純粋ゆえのことだろう。
「いいんだ、そうだよね・・・・・僕は剛道さんじゃないのに『父さま』なんて呼ぶくらいだしね」
「え?私が総司さんのことを?」
伏せていた瞳を千鶴へと向けると、ニっとした笑みを浮かべる。
「そうだよ。今日みたいに水と間違えて僕のお酒を飲んじゃった”千鶴ちゃん”が、ね」
その言葉に当てはまる記憶を物凄い勢いで頭の中から発掘した千鶴は、みるみるうちに顔を赤くしていく。
「あ、あれは夢・・・・」
「じゃないよ?」
総司の翡翠の瞳に映る千鶴は、目を見開いて口をパクパクと蠢かしている。
「あのときと変わらずに千鶴は可愛いよ――」
千鶴の目元に唇を寄せて今はない涙を啜るマネをする。
「――!!・・・・今、言うなんて・・・ズルイです、総司さん」
言いたいことはたくさんあるというのに、心を落ち着けるような声と穏やかな口づけにそんなことはどうでもよくなってしまう。
でもなんだか悔しくて、せめての抗議としてキッと睨みつけるような視線だけは向けてみた。
「うん、僕はずるいんだよ。そんなの千鶴だって知ってるよね?それと、もう一つ教えてあげるけど・・・・」
「な、なんですか?」
「そんな上目づかいで睨んでも、僕を煽ってるようにしか見えないよ?」
「っっ・・・!?」
総司はずっと握っていた千鶴の手を己の口元へと引き寄せると、チュッという音を立てさせながら口付けを落とした。
同時に除夜の鐘の音も止んだのだった―――。
<おまけ/終わり>
紅月の再会・後半~紅闇の残像1~
遅くなって申し訳ありません!!
お待ち頂いていた方、お待たせいたしました。
相変わらずまともに名前は出てきていませんが沖田登場です!
このシリーズをはたして沖千SSと言っていいのだろうか。
なかなか甘くならん予感が。。。
いや、雰囲気は匂わせてるんですがね。
では、心の準備ができた方は、「読んでみる?」からドウゾ!!
▼読んでみる?▼
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ビルの合間から見える夜空には、血を吸ったかのように紅い月が妖しく輝いている。
先ほどまでは優しく夜を照らしていた白い月さえもが狂ってしまったのだろうか。
それはまるで世界が紅き闇に犯されていく未来を描いているようにも見える――――。
それを証明するかのように、手始めと言わんばかりに少女へ向かって狂気に満ちた紅い瞳をした男がナイフを手にしながらユラリユラリと迫っていた。
狂気の男を挟んだ向こう側には、男を狂わせた原因であろう【紅い水】を与えた黒いフード男が微動だもせずに少女たちを眺めている姿がある。
この暗闇とフードを目深に被っているせいで表情を確かめることは出来ないが、きっと冷めた瞳をしているのだろう。
いや、もしかしたら冷める云々の前に何も感じてなどいないのかもしれない。
たまたま、この場に出くわしてしまった少女がどうなろうと、フードの男には関係ないのだろう。
ただ運が悪かっただけ、と。
少女は、自分へと迫ってくる男以上にフードの男の方に恐怖を感じていた。
同時に悲しみを感じ、わけも分からずに涙が溢れてくるのを止められない。
その間にも狂った笑い声をあげながら【死】は少女へと一歩一歩と近づいてくる。
「あ・・・・い、嫌ぁ、た、すけて、タ・・・ソウちゃぁああああんっっ!!!」
恐怖で足が竦んで動けない少女が力を振り絞って叫んだ瞬間、今まで微動だもしなかった男の身体が僅かに震えた。
だが、少女の瞳に映っているのは狂気に満ちた表情でナイフを振り上げようとしている男の姿だけで、フードの男の姿を視界に捉えることのできない少女がそれを知る由もない。
「ギャァアアアッッーー!!」
終わりを予感してギュッと目を瞑った少女だったが、予感していたはずのナイフが突き立てられる痛みを身体に感じることはなかった。
その代わり、自分へと迫って来ていた男の絶叫が夜の闇に響き渡る。
「な・・・に?」
恐る恐ると目を開けば、背を仰け反らしながら口から血を吐く狂った男と――――地にしっかりと足をつけて日本刀を振り下ろした格好をした漆黒の姿があった。
日本刀を握っている漆黒の正体は、あのフードの男だった。
「っっ・・・!!」
少女はフードの男の姿に、目を見開いた。
一瞬にして狂気の男の背後に迫ってその背を斬りつけたせいか、フードがスルリと脱げ落ち、隠れていた表情が露わとなっていたのだ。
白い糸のような髪が風に靡き、夜の闇に浮かび上がる三つの紅月が少女を見下ろしている。――――フードの男の背後で輝く月と、フードの男の二つの紅い瞳が。
いや、空に浮かぶ紅月よりも禍々しくも美しい瞳が少女を魅了し、少女が視線を逸らすことを許さない。
それはまるで、小説やドラマの中でしか存在しないはずの生き物――――――
「・・・・ヴァン、パイア・・・・?」
少女のピンク色の唇が震えながら紡いだのはその一言だった。
「ヴァンパイア、ねぇ・・・・」
口元に酷薄な笑みを刻むフードの男に、恐怖とともに戸惑いをも感じていた。
だが、少女の戸惑いも疑問も無視して、この状況だけは待ってはくれない。
「っっ!!」
再びあの狂った男が狂笑をあげてムクリと起き上り、その血走った狂った瞳を少女へと向けてきたのだ。
その姿に、身を竦ませて少女が息を呑んだ次の瞬間、生温かな雫がポタリポタリと少女の滑らかな白い頬へと滴り落ちた。
少女の目の前には、赤い液体を滴らせる切っ先。
それを辿って行けば、狂った男の胸部から突き出ている。
つまり、それは―――心臓を貫いているということ。
その事実をすぐに理解するには少女には【非現実】すぎるはずだった。
突き出た刃が引かれ、息絶えた男の身体が支えを失って固い地面へと崩れ落ちていく。
すると、自然とそこには再びこの場に存在するもう一人の姿が顕わになる。
「ら・・・・せつ」
白い髪に、紅い瞳、そして血を纏った姿は、【ヴァンパイア】というよりは―――つい先日、少女が暇つぶしで読んだ伝奇小説に出てきた鬼―――【羅刹】のようだった。
少女の目からは留めなく涙が溢れ、血に混じりながら頬を濡らしていく。
「・・・んで、ですか、沖田さん・・・・」
少女の許容量を遥かに超えたのだろう。
視界が揺れて遠のく中で何かの記憶と混濁させた少女はその名を呟きながら、完全に意識を手放した。
「・・・・馬鹿だなぁ、別に君のためじゃないんだから。そんな顔しないでよ・・・」
力の抜けた少女の身体をフードの男の腕が支える。
そして、黒の革手袋を嵌めた指先が優しく少女の頬から目元を拭っていく。
フードの男の瞳は先ほどまでのような冷たいものではなく、見る者を癒すような新緑色へと変じていた。
「―――る!?―――!!」
近くから誰かを探しているのであろう男の声と、駆けてくる足音が聞こえる。
その音でフードの男はハッとした。
自分は何をやっているのだろうか、と。
こんな想いは初めてで・・・・いや、本当に初めてなんだろうか?
頭の中がグルグル回って、イラツキを覚え始める。
「千鶴っっ!!」
フードの男が混乱しているうちに、気を失っている少女を探してたのであろう男がここまでやってきたようだ。
フードの男の背には隠すこともない殺気がぶつけられている。
首だけを軽く背後へと向ければ、目つきの鋭い―――まるで獲物を狙うヘビのような目を男がこちらを睨んでいる。
「千鶴に何をした?」
警戒と怒りを含ませた低い声がこのビルの合間の空間に反響する。
だが、フードの男の気を捉えたのは、少女の身内らしい男の殺気よりも何よりも、その名だった。
「ち・・・づる?」
頭に締め付けられるような痛みが走り、僅かに顔を顰めた男の風貌が再び【羅刹】のものへと変わっていく。
茶髪は白髪、新緑色の瞳は紅色の瞳へと。
だが、眠っている少女を映す紅い瞳には狂気などなく、戸惑いと愛しみだけが溢れている。
「っ!?・・・おまえ・・・・」
少女の身内の男は、その存在に確かに見覚えがあった。
幼い頃にたった一度だけであったけれど。
その時は、相手も子供で――――でも、少女・・・千鶴への愛しみを込めたような瞳も同じもので。
「・・・総司?」
覚えのある人物の名を確信とともに口にしたのだった。
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黒で統一されたシックな部屋に、カーテンが開け放たれた大きな窓を通して朝陽が降り注いでいる。
そんな清々しい朝だというのに、部屋の中には非常に気まずい雰囲気を漂わせた二人の人物がいた。
一人は眉を顰めながら長い足を組んでソファーに座っている、紫がかった黒髪に赤いメッシュを入れている若い青年だ。
その男はアメジスト色の瞳を細めて視線を少し下へと向けている。
そこにいるのは、この部屋に居るもう一人の人物で、床に正座にしながら顔を俯かせている黒髪の少女だ。
つい先ほど目を覚ましたばかりのせいでボサボサになってしまっているが、それでも艶やかさを失ってはいない。
身体を縮こませるようにして小さくなっている姿を見れば、少女が心から反省している様子が見て取れる。
「・・・千鶴、どうしてアソコに居た?」
暫くの沈黙の後、口を開いたのは青年の方だった。
いつもは人を煙に巻くかのように語尾をのばしたりと、チャラチャラした若者が使うような抑揚の激しい独特の喋り方をしているというのに、少女へとかけた言葉は静かなものだった。
だからこそ、そこに【怒り】が含まれているのが伺える。
もちろん、それは少女・・・妹である千鶴を心配したからこその【怒り】なのだが。
千鶴に似た人物がウロウロしていると聞いたタクミは”まさか”と思いながらも、千鶴に何かあったらと、探している間は生きている心地がしなかったのだ。
【アイツ】の代わりに千鶴を護ると、約束もしたし、自分にとっても千鶴は大切な妹なのだから。
「ごめんなさい・・・タクミちゃん」
タクミが本当に自分を心配してくれたのだろうことを痛いほどに分かっているから、千鶴も申し訳なさを感じて落ち込んでしまう。それに、途中からの事はよく覚えてはいないが、涙を拭ってくれた優しい指先のことは覚えている。
きっと涙を拭ってれたのはタクミだったのだろうと思う。
学園では基本的に怖がられているタクミだったが、その実、面倒見が良くて優しいことを千鶴は知っている。
タクミは施設に入ったときから千鶴にとっては、頼れる【兄】なのだ。
―――それなのに、何故なのだろう。
あの時、タクミの名を呼ぼうとしたのに実際に口にしたのはまったく違うものだった。
覚えのない名、【ソウちゃん】と――――。
(まさか【ソウちゃん】って、あの黒いフードのヒト・・・?)
この紅月夜の再会が、再び【運命】の歯車を回し始めたのだった。
<つづく>
★♪後書き♪★
遅くなって申し訳ありません!!
やっとこ、再会編の後半をお届けしました。
あぁ、文章力ない自分が(以下、略)
つか、なかなか沖x千の甘い部分が出せなくて申し訳ないですーー。
本当に沖x千SSなのか、っていう。。。。
今回、頑張って少しは入れてみたんですけどね。
では、相変わらず拙いものをお読みいただき有難うございました!!